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足女の居る宿

灯が消えた宿

闇の帳のその向こう。
湿った石畳と酒気と汚濁の匂い。

狂おしい時間が過ぎて夜も眠りに入ったその時間。
灯が消えた宿の鍵が開いている。
扉をくぐれば水の様に張り付く闇の向こうの薄明かり。
その先で、少女のような形をした人形があなたを待ち受けていた。

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(笑みを形作る唇が引き攣った。)

過ぎ去ったこと。過去のことだよ。

(異端審問官にとって、礼拝の言葉、そして態度は酷く癇に障るものだった。
彼は恐怖と嫌悪を欲している。かつて審問にかけた女共のように、礼拝が恐怖で青ざめ、嫌悪で顔を引き攣らせる様を期待している。

いや正しくは、そうあるべきと思っている。
己の中の昂ぶりを奮い起こし、礼拝の首に手を掛けたのは何の為か。礼拝に縋り付き、甘え、泣きじゃくりたい。そんな己の欲求を掻き消す為だ。
彼は礼拝に母を求めてしまった。認め難い事だ。晒し難いことだ。耐え難いことだ。)

……いいか。ひとつ言っておく。
よく聞け。君に哀れまれる筋合など、何処にも、無い。
私は成熟した人間だ。強い男だ。哀れみも、慈しみも、不要なものだ。
私は子供では無いのだよ。

(語りつつ、異端審問官は包み込むように礼拝の首に両手を添えた。
髪の毛の下に指をくぐらせ、柔肌に直に触れる。この柔肌の下は人と同じだろうか。指先を滑らせ、這わせ、慎重に探り、確かめる。
彼は礼拝の『肉』を強く意識しようとしている。かつて痛め付け、辱めた、有象無象の女供と同格に落とそうとしているのだ。
礼拝の言葉、そして仕草は致命的な毒だ。薄めるのだ。和らげるのだ。恥ずべき欲求に呑まれぬように。)

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