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梔色特別編纂室

【1:1】ちいさな姫と、恋の試練の話

海洋貴族。
「宝島卿」ホーキンス家からの招きを受けた私を待っていたのは
確かに「宝」、ではあった。

海洋らしい日に焼けた肌。はちきれんばかりのまんまる坊やが頬を真っ赤にして、
その後ろには「がんばれ坊ちゃま」「勇気を出して」なんて応援団、もとい侍従たちが勢揃い。
震える手で手紙が差し出されれば割れんばかりの拍手、喝采。

……ははぁん。
なるほど。

膝を折り、頭を垂れて
「畏まりました、王子様。
この命、必ずや私めが」


――――酷い笑い顔を隠すのに、心底苦労した。

====================
はじめまして。
いとしのはぐるま姫様へ、この手紙をささげます。

ぼくはユースチス・アーサー・ホーキンスといいます。今年で10になりました。
ゆうかんなあなたの冒険はぜんぶ読んで、きれいにとじて、何度でも読み返しています。
はぐるま姫様がいらっしゃると聞いたので、お父さまにおねがいして、はじめて幻想のダンスパーティーに連れていってもらったとき、
あなたの姿をこの目で見て、その美しさが心に焼きついたような気持ちになりました。
その時のぼくは勇気がなくて、言うことも会うこともできませんでしたが
パーティーのときに見たあなたのダンスや美しい声が、海へ帰ってからもずっと、心からはなれないのです。

ぼくがもっともっと大きくなって、船をあやつれるようになったら、
いつかあなたを、海をこえて、きらきら光る宝石でかざった、しんじゅ貝の船で迎えに行きます。
そうしたら、どうか、ぼくのお姫さまになってください。
あなたのことが大好きです。

どうかこのお手紙が、いとしいあなたにとどきますように。

       ユースチス・アーサー・ホーキンス

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(あまり聞き慣れない音が彼女の胸から聞こえて、ぴくりと耳が動く)
楽しいっていうかこれは……そうね、お酒みたいなものよ。しかもあまり質の良くないやつ。

あー……一応写真撮って来てるけれど、見ておく?
(どこだったかしら、と写真の封筒を開いてバラバラ捲りながら)そうねぇ……私が頼まれたのは「確実に渡して欲しい」だから、私の仕事はここでオシマイ、でもいいのだけれど……
(あ、あった。手紙の横にぽん、と写真を沿える。手紙を頼まれたその場で撮ったものだから、肖像というよりは記念写真。貴族の御前で着飾った私と王子応援団に囲まれて、ガチガチに緊張している紅顔の少年貴族がカメラを見つめていた)

(ちゃんとした肖像画を用意していないのは、少し、意地悪だったかもしれない)

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