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梔色特別編纂室

【1:1】ちいさな姫と、女ごころの話

大劇場の前は人や馬車でごった返していた。
凝った彫刻が厳めしい陰影をつくる扉に、華やかに着飾った男女が吸い込まれていく。
掲げられたポスターの中、豪奢なドレスを纏い貴族に扮した女優が
夕闇忍びよる大通りに、挑発的な視線を投げかけていた。

――『パルマティア伯爵令嬢の猪口才な慕情』。
息吐くように男心を弄ぶ、小狡い女が囚われたるは恋の迷路――

蜜色の猫もまた、黒い夜会服に身を包み
劇場通りに足を踏み入れた。

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まあ、お芝居。
ごめんなさい。わたし、きちんと区別がついていなかったわ。
(カタリヤの余興に乗れなかった自分に少しばかり恥じ入るものがあったのでしょうか)
(きしりと軋むような音と共に、お姫様が小さく頭を下げました。)

ええと。劇というのは、役者さんが、登場人物になりきるのよね。
つまり、舞台の上で、役者さんは、アンナヴァニアに「なって」いたのでしょう。
それは、アンナヴァニアが本物だった、ということではないの。
(受け取りようにとっては、あるいは真理かもしれませんが)
(どうもお姫様は「なりきる」と「なる」を、まだ混同してしまっているようです。)

好きかどうかは、わからないわ。
でも普通の人形のようにしていると、おじいさんとの思い出が、頭の中をゆっくり流れているの。
そうしていると、なんだか胸の奥の方が、温かくて。
けれど少しだけ、きゅうってなるのよ。

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