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梔色特別編纂室

【1:1】ちいさな姫と、女ごころの話

大劇場の前は人や馬車でごった返していた。
凝った彫刻が厳めしい陰影をつくる扉に、華やかに着飾った男女が吸い込まれていく。
掲げられたポスターの中、豪奢なドレスを纏い貴族に扮した女優が
夕闇忍びよる大通りに、挑発的な視線を投げかけていた。

――『パルマティア伯爵令嬢の猪口才な慕情』。
息吐くように男心を弄ぶ、小狡い女が囚われたるは恋の迷路――

蜜色の猫もまた、黒い夜会服に身を包み
劇場通りに足を踏み入れた。

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(すれ違う女性には見覚えがあった――――それこそ、あの国王の舞踏会で。)
(きょろきょろと忙しなかった小さな頭がぴたりと彼女と、その傍に侍る男に向けられるのを興味深く見守って、)
ふふふ、大っ正解!ちゃあんと覚えていてくれて嬉しいわ。
(彼女をぎゅうと抱きしめる。……場所が場所なので、こっそり。)
そうねぇ、お芝居で隠しているものは服の下ではなくて……顔の下、心の下、かしら。

(案内人が音もなく扉を開く。)
(淡黄色の光に満たされた、黄金と深紅のホールが目の前いっぱいに広がった。壁面や柱、バルコニーの手摺に至るまで壁画と彫刻で美麗に飾られ、客席を華やかな観客たちが埋め尽くす。勧められた舞台正面、少し後方の席には、小さな種族向けらしき座面の高いソファが据え付けられていた。)
(案内人に礼を述べて、並んで席に着く。)
なかなかいい席じゃない。
さぁて……もうすぐかしらね?

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