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とある空き家の物語

【4周年SS】自分の生きる決意

 ROOにいる可能性を考えてなかった。私が参加しているんだし、何より私がいるとしたら死んでいる可能性の方が高いと思ってた。だから、「私」がいると聞いて驚いたし、何よりまさか、あそこまで誇り高いと思っていなかった。たとえ願いが歪んていたとしても、それでも、私にとっては眩しかった。

 あれから少しして、私は例のクエストの報告書と先ほど来た調査書を読んでいる。ROOの私、「レイリー=パーヴロヴナ=カーリナ」は大規模なバグにより歪んでしまった願いも元に戻り、ゼシュテリオン軍閥と合流し誇り高い騎士となっている。そうして、いずれカーリナ家、そして、家族の名誉と誇りを奪った者たちが誰かにたどり着き、冤罪を晴らすことができるはずだ。
 まさか、『戦場のプリンス』『前線皇太子』とか呼ばれて、あまつさえ、カワイイを追求するようになるとは思ってなかったけど。後者はボク、いや、私の責任が重いんだけど。
「何もなければ、アイドルとしてこの世界で活動することもあったのかもね」
誰かを応援することは、誰かを護る事と等しく素晴らしいと思う。更に言えば、カワイイ姿をみて幸せになるのは自然の摂理だろう。私も恋人やその恋人たちの姿を思い浮かべて、少しニヤけてしまうのだ。あぁ、彼女たちはとても可愛いい、それ以上に一緒にいると楽しい。

 そう空中庭園に召喚され、イレギュラーズとなってから約2年程たった。あれから沢山の人と出会い、多くの人と共に戦い、色々な人と語り、遊び、仲が良い者達が増え、そして、少ないが大切な人が出来た。旅に出た時はまさかこんな仲間が出来るとは思わなかったんだ。ずっと独りで色々な所をめぐる旅人、ただ、放浪するだけの存在になると思っていた。
 周りを見る。以前と違い、瓶や包装など転がっていない。床にはトレーニング道具や日用品しか見当たらない。私がこの街に来た当初は毎夜、自分の部屋に酒瓶が何本も転がっていた。更に昔、独りで旅をしている最中なんかは宿で酒を呑みつつ、お金を払い一夜限りの慰めを欲することなど日常茶飯事だった。そうしないと眠れなかった。自分の中の欲望を発散させてその場限りでも満たされないと、寝ても悪夢を見て覚ましてしまう、そんな生活だった。
 だからこそ、自分は騎士として生きようと思った。騎士として規律を持っていないと何をするか分からなかった。自分の中には何もないことを隠すために、騎士という殻を用意して虚無を包んで、夢も目標もないまま、私はレイリー=シュタインを演じていた。
 更に、騎士となっても助けられない人がいた。あの海で護れない人がいた。だから、英雄願望を持った。自分に夢はなかったとしても、誰かの夢を護ることは出来るそんな存在になろうと思った。
 それが今は……大分楽になった。困ったときは誰かに頼ることが出来た。特に最近は、大好きな人の所で暮らすようになって、夜は寂しくなくなった。それでも寂しくて甘えたいときは甘えられるようになった。心は色々なもので満たされるようになって、少しずつ、悪夢を見る頻度は減っていた。やっと、心の中で、忘れようとしているのかなと思った。

 違ってたんだね、やっと、やっと私はスタートラインに立てるようになったんだね。ROOの世界の自分を知って、会えて、助けて、見つめて、分かった。ROOの世界が一つの可能性に過ぎないけど、それでも、あんな高潔な「私」がいるなら、今の私も同じように目指せるはずで、それに、今は恐怖よりも前へ進む気持ちが強いのよ。もう逃げなくても、目を背けなくても私は生きていけるんだ。私の家族が、私に死ねと言ってくる夢は、無理に忘れようとしていたからだ。もう忘れようとしない、家族と一緒に過ごした楽しい日々を、そして、あの家にいた人々は、兄も、両親ももうあの家にいないんだってことを。
 もう一度、いえ、初めてよ。初めて、私はカーリナ家で起きた出来事を調べ直そう。ROOの自分を助ければ分かるかもしれないけど、現実とは違うかもしれない。だから、私、レイリー=シュタインが 
ちゃんと調べよう、事実をちゃんと知ろう。
 今でも誰かを、誰かの夢や未来を護るために戦うという希望は変わってない。それは自分にとって戦う理由なんだから。けど、自分が生きる理由を見つけるために歩み始めようと思ったんだ。その道のりの最中には辛い時もあると思う、もしくは、困難にもぶつかるかもあると思う。その時は誰かを頼ろう。私はもう独りじゃないんだから。頼れる仲間達がいるんだからね。
 
 報告書と調査書を閉じる。まずは、今の鉄帝に伝手を作る必要があるだろう。イレギュラーズとして活動の延長でそういう機会があるか、もしくは、昔の私、カーリナ家の親交が残っていたりするのか、もしくは、他の切り口があるのか分からない。それでも、まずは動かなければ何もわからないだろう。
 けれど、まずは、4周年のお祭りを楽しもうとそう思い、紙束をしまい、寝室へと向かうことにした

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