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ギルドスレッド

噴水前の歌広場

【エクスマリア=カリブルヌス】あまたの飛沫、宝冠のごとく

 古きを尊べば因習に囚われる。
 新しきを招けば伝統は廃れる。
 であれば何がただしいのだろう?


「これもニセモンではないか!!」
 手に取った書を、怒りのあまり床にばしーんと叩きつけようとして、ぐっと堪えた。
 モスカの祭司長は出来る女なので、怒りのあまりにとはいえ売り物を汚して変に訴えられたりするリスクは避けたいのだ。
 とは言え吐いた唾は飲み込めないし、娘――クレマァダ=コン=モスカにとっても見過ごす気は毛頭ない。

 件の海戦……海竜を封じた戦において、モスカの信仰が持つ価値は、歴史や神秘性のみではなく"実用性"においても大きく増した。
 つまり、本当かどうかはともかく、それは竜種をも退けるものなのだとしらっとした顔で喧伝するものがいてもおかしくない。
 またモスカの信徒自身においても、そのあまりに古くて、良く言えば地域に根差した、悪く言えばろくに編纂もされていない信仰というのは、その真偽を見分ける目を養う機会を失うということでもある。
 そういうわけで、昨今急激に出所の怪しい書物や宝物が市場に出回り始めたが、それが真っ赤な偽物なのか、今まで死蔵されていたのを売り手市場を幸いと放出してきたものなのか、一般の商人では実に判別しづらい。

 そこで、彼女の出番だ。
 最高鋒の知識を持ち、それでいて今は司祭長の座を開店休業し、身軽に動き回れる者。
 彼女としても、これからのモスカにおいて自分が知らない知識も必要であろうとイレギュラーズにおいて神話、伝承というものに詳しそうな者を供にし、玉石混淆、まあ玉が1か2でもあれば上等と思っていたのだが。

「…………見事に、ぜんぜん、ニセモノばかりではないかぁーーーーーーーっ!!!」

 世の中そう上手くは回らないということであった。

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【参加者ハンドアウト】
ここは海洋国首都リッツパークのひとかどにある、商館の一室です。
どっさりと並べられた鑑定待ちの品は数え切れません。
例えばねじれた王冠。
例えば古ぼけた写本。
例えば開けたら歌う箱。
いろいろありますが、そのどれもが偽物です。
彼女は信仰とは何かについて随分迷い始めています。
貴女は、頭を抱えて叫んだ彼女を見て、何かを思いました。
どんな声をかけるかは(あるいはかけないかは)あなたの自由です。

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まあ、そんなもの、だろう。真正の、モスカに縁ある品、ともなれば……まあ、モノ自体は、無価値とは、言わない、が。
(捻じくれた、奇妙な形の冠を手に取り眺める。持ち込むに当たって手入れをし直したであろうが、それでも落としきれないほど古いくすみを指で撫でる)
そういうのはまだ良い……資料価値がある。
なんじゃっ、この茶で染めたのが丸わかりの教典は!!
第一これは文法が新しすぎるわ!せいぜい100年程度前のもので我が知らぬと思うたか!!
神を何じゃと……
(言いかけて、その残りは口の中にもごもごと消えていった)
贋作としても、粗末に過ぎる、な。
(冠を帽子の上から被ってみる。意外と合うかも知れない、と持ち込み品の古い姿見を見つつ)
神というものは、実際に恵みや罰を、知らぬものには、実感し難いもの、だろう。
神の教えとやらも、古いほど、捻じ曲がりやすいもの、だ。
……それは我がいちばん痛感しておる。
リヴァイアサンじゃと? ……聞いたこともないわ。
いや……どうなのじゃろう。逆か。

それはそうとお主、いかな由縁のある骨董品かしらぬのによくそうしょいひょいと触れるのう
リヴァイアサンからしても、己を祀る存在、など。
知る由も、なかったろう、な。
モスカというのは、余程歴史ある一族だった、か。

(無表情のまま、軽く首を傾げる)
冠は被るもの、だ。その様にある、ならば、その様に扱う、だろう?
価値や、由縁が、如何なものでも、誤った扱いということも、ない。
例えば。
あの絶海竜が往時の全力を持ち海をほしいままにしておった頃ならば。
神とは何か?
それをことこまかに記しはせんかったじゃろうな。何せそこにおるものじゃ。

……主は、モノはモノと思うのじゃな。
いや、間違っておると言うわけではない。
先の例えと同じじゃ。
主のものの見方は、やはり他の者とは少し違うようじゃな。
そうなっていたら、絶望の青だの、新天地だのと、希望を見る暇もなかったろう、な。
おとなしく眠ってくれたのは、全く僥倖、だ。

そうだろう、か。あるがまま、見たまま、だとおもう、が。
クレマァダは、違うのか?
我は違う。
違うじゃろう。“それ”は、我にはわからぬが(と歪んだ冠を指差し)、高貴なものか、俗なものなのか、持ち主は安落に死んだのか運命を恨んだのか、わからぬ。
すべてがわからぬ以上、我は触れたくない。人の情念とは恐しいものではあるし……わからぬものに触れるには勇気がいる。
ただのモノと思うのは、少し難しいの。
……ふむ。確かに、そういった”情念”の、ようなもの、は、あるかも、しれない、な。とは、いえ。
(冠を外し、まじまじ眺めて)
見えない。聞こえない。それに、感じない。そして、知らない。
想像は、できても、所詮は、外様の、想像でしか、ない。
マリアは、わからないからこそ、触れられる、な。そして、触れてこそ、わかることも、ある。
……信仰とは所詮、空想と想念が生み出せし虚構なのかのう?
それは、そう、だろう?
(きょとん、と。そんな様子で小首を傾げる)
……それは、信仰する相手が実在すると証されても、か?
信仰そのものは、対象の、存在の有無でなく、己の裡にあるもの、だ。
居るから、信じるわけでは、ない。
我が父ならそう言うじゃろうな。
……諾諾と従うと申すのではない。
しかし、我は、あれほどの存在を見せつけられて信仰を形而上の哲学と云うにはあまりに若い。
……お主の世界に、実存の神は居らなんだか?
ふむ。若いうちに見られた分、学びも多かった、だろう。
マリアの、故郷にも、神は居る、ぞ? 信仰されるものもいれば、そうでないものも、いる、が……多くは、先のリヴァイアサンのような在り方が、近い、か。
ちょいと待て。待て。
……神であれど、信仰されるか、されぬか、いや、信仰されぬ者が神と呼ばれるのか?
マリアの故郷では、な。恵みを齎すならば、信仰され、祀られることも、ある。
が、多くは、傲慢、暴虐、災害そのもの、だ。
往々にして、排除した方が、得られるものは、多い、な。
排除した方が……とは。
いや、わかる。現に我らはそうした。
したが、神の行いを計ると言うのは。
……それは不遜ではないのか?
無論、そうだろう。だが、少なくとも。マリアの故郷に於いて、神とは、人の道を塞ぐもの、だ。
時には、先を照らしも、しよう。或いは、手を引くこととて、あるだろう。
だが、神は、神の望む道しか、人に許さない。それを、マリアの一族は、否と、した。
故に、マリア達は、神を降すものに、「神話殺し」に、なった。
神話殺し……成程、武勇伝の類かと思っていたが、観念的でもあるのじゃな。
のう、もう少し聞かせておくれ。
お主にとって神話とは、是か? 非か?
……是、だ。
(帽子を被り直し、続く言葉を練って、ゆっくりと言葉を紡ぐ)
歴史があり、想念があり、神話が、ある。
それを、是としたからこそ、否と、応えた。故に、否であっても、非では、ない。
……いっそ無神論にでも逃げられれば救いもあろうに……

ん、これは。
(話しながらまだ見落としがないかと突き崩した、雑多に積み上がったがらくたの山のから引っ張り出したのは、一編のスコア。
書かれた曲は判然とせず、どんな楽器を用いて演奏するのかも書かれていない)
実在する以上、そうもいかないのが、面倒なところ、だ。

ふむ。譜面、か?
(音楽には明るくない。当然読めるはずもないが、興味は唆られてクレマァダの手元を見上げる)
うむ。
……先程は偽物と断じたものじゃが、今のやり取りの後じゃとどうも気になっての。

古くはない。新しい……どころかつい最近に描かれたものじゃろう。
潮焼けしておるので見た目は良くないし、走り書きであるし。
……じゃが、これは。
(それは、まるで出来の良くないものだった。
書かれた曲は判然とせず、どんな楽器を用いて演奏するのかも書かれていない。
然れど、真摯な筆致であった。
何としてもそれを書き留めねばなるまいとした筆跡であった。
例えばそれは。
荒れ狂う船上/戦場で、己を押し流そうとする波濤が一瞬凪いだその隙に、必死にペンを走らせたような)

……これは。
今の時勢で、最近描かれた、ということ、は……それ、は。
(まさか、とは思わない。もし「そう」ならば、むしろ頷ける。それほどの奇跡だったのだから)
のう。エクスマリア。

………………信仰とは所詮、空想と想念が生み出せし虚構なのかのう?
それは、そう、だ。が……それだけでも、ないのだろう、な。
残されたものは、あるのだから。
……もう一度じゃ。
もう一度、このガラクタの山を洗い直すぞ。
もしかしたら、何か見落としたものがあるやもしれぬ。

そうと決まれば、先ずはリフレッシュじゃ。
来いマリア! 何か食いに行くぞっ!
ああ、見逃すわけには、いかない、な。しっかり食べて、気合を入れ直さねば。
店選びは、任せる、ぞ?
無論じゃっ。
我を誰だと思っている……
我こそ、モスカの祭司長ぞ!!
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 この後二人は、庶民的な食事処にはまったく踈いクレマァダの店選びによって散々な目に遭うのだが、それはまた別の話。

 そしてその散々な経験と引き換えに、モスカの祭司長は、信頼できる相談相手を1人手に入れたのだった。

--fin

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