ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 泪雨 【SS】*藍色の蛇の目傘*【ボイスドラマ用】 【暁月夜】 十夜 蜻蛉 (p3p002599) [2022-05-26 09:35:43] - - - - - - - - - - - - - - - - - ◇登場人物・ 雨宿りの男・ 蜻蛉・ 十夜 縁・ 猫(鳴き声)◇他 タイトルは仮題です。- - - - - - - - - - - - - - - - - 第壱幕◇◇◇ 重たい曇天が涙をこぼす前に、と岐路を急いだが間に合わず。 泥を跳ねながらたどり着いたのは、小さな雑貨屋の軒先。 降り始めた雨はカーテンを揺らすように、早々に止む気配はない。 男 「……参ったなぁ」 蜻蛉「お兄さん、どうかしはりました?」 仕方なく雨宿りしていると、声を掛けられる男。 鈴の鳴るような声。 顔を向ければそこには蜻蛉が立っていた。 差していたであろう傘を畳み、上目遣いに男の表情を窺っている。 雑貨屋の主人だろうか。 商いの邪魔になるからどいてくれ、と文句を言われるのかもしれない。 男はそんな不安が過ったが杞憂に終わった。 男 「あ……えっと……その、雨宿りです」 蜻蛉「雨宿り?そら災難でしたなぁ」 男 「慌てて出てきたら、家を出る時に傘を忘れてしまって……御覧の通り、このありさまで」 蜻蛉は、男の慌てて説明した状況も素直に受け入れ、さらにはハンカチで濡れた肩を撫でている。 雨の匂いの中に、ふわりと漂う香りは蜻蛉の香水。 少し早まる鼓動が男の思考の邪魔をする。 蜻蛉「……ああ、ええこと思いつきました。うちの傘、使いはったら?」 男 「えっ?傘を?」 蜻蛉「はい、この傘」 パッと笑って手にしていた傘を持ち上げる蜻蛉。 男 「そんな、そこまで迷惑をかけるわけには!お気持ちだけ、ありがたく」 当然遠慮すると、ニコニコと笑ったまま問答無用で男の手を取って、傘を掴ませる。 蜻蛉「ええからええから♪ここで逢うたのも何かのご縁、神さんのお導きとでも思って。ささ」 押しの強い蜻蛉。 男はぐいっと柄を握り込まされる。 つるりと、しかし木の温もりが伝わってくる柄が指に馴染む。美しい藍色の蛇の目傘だ。 それに一瞬、目を奪われている間に蜻蛉の姿がなくなる。 男 「やっぱりだめで──、え?……き、消えた?」 ハッとして顔をあげるとそこには誰もいなかった。 行き場を失った手が虚しく風を切る。慌てて周囲を見渡すも、蜻蛉の姿はなかった。 雨音のなかでチリン、と……鈴の音を溶かした猫が一匹去っていく。 (黒猫)「にゃぁ」(リアルな猫の声) 男 「……参ったなぁ。名前、聞いておけば良かった」 後ろ手に頭をかきながら、先ほどと同じ言葉が違う意味で口からこぼれ落ちた。 今度は、どこか少しだけ嬉しそうな声で。 雨の中、傘をさして歩いていく。第弐幕◇◇◇ (カランコロン、下駄の鳴る音) 雨足をしのげる軒先にて。 待ち合わせ場所に数刻遅れて来た相手に、縁は訝しげに訊ねた。 蜻蛉「お待たせしてしもて、ごめんなさい」 縁 「いや、構わねぇが……お前さん、なんだってそんなに濡れてるんだい?」 蜻蛉「……さぁ、なんでやろか?………っくしゅん!」 縁は懐から手巾を取り出し、濡れた黒髪を撫でる事も忘れない。 布はすぐに役目を終えて重くなった。 縁 「っと、おいおい……(手布で蜻蛉の肩や髪を拭いながら)」 蜻蛉「あら。雨で濡れたとこ、拭いてくれはるん?嬉しいわ」 縁 「傘はどうした? この雨の中、傘も持たずに歩いて来たわけじゃねぇだろ?」 縁の問いに、蜻蛉はふわりと笑顔を浮かべる。 蜻蛉「困ってはったから」 縁 「あー…貸してやったのか」 蜻蛉「はい、もーーちょっとうまいこと歩けると思てたんやけど」 そう言って、蜻蛉は首を傾げる。 縁はため息まじりに頭をかいた。 縁 「仕方ねぇなぁ……俺の羽織でよけりゃぁ着ておいてくれや。風邪ひかれちゃ困る」 羽織っていた上着を取ると、蜻蛉の肩へ。 一方の蜻蛉はきょとん、と瞬きしたあとで小さく笑った。 蜻蛉「ふふっ……おおきに」 蜻蛉の感謝の言葉に、縁は視線を逸らしながら 縁 「(和傘を開いて)……ほらよ、入りな。そのままだとまた濡れちまうだろ」 蜻蛉「ほんなら、お言葉に甘えて」 蜻蛉はその傘の中へするりと入り、身を寄せた。(音が近づく?) 俗に言う"相合い傘"と呼ばれるそれ。 満足げに笑う蜻蛉の──先ほどよりずっと近づいた──横顔に、縁は眉を寄せる。 (相合傘、歩きながらの二人の会話) 縁 「……なぁ。お前さん、まさかこれを狙ってたわけじゃねぇよな?」 蜻蛉「さぁ?……うちにはなんのことか、さっぱり分かりませんけど」 縁 「ったく……わざわざ濡れてこねぇでも、言ってくれりゃぁ──」 蜻蛉「言うたら──またこやって、相合傘、してくれはるん?」 縁 「……っ。(傘の中、思いの外近く聞こえた声に戸惑い)……まぁ、な」 蜻蛉「……旦那が素直に返事するやなんて、珍し。どおりで、雨がよおけ降るわけや」 縁 「あのなぁ。……どこかの素直じゃねぇ嬢ちゃんが、後で寝込みでもしたらことだろ」 蜻蛉「素直やないのは、誰かさんも同じやないの。それに、縁さんが看病してくれるんやったら、うちは願ったり叶ったりです」 縁 「……はぁ」 蜻蛉「それとも、心配してくれとるんやろか?……んふふっ(衣擦れの音。不意に引き寄せられて)……あっ」 縁 「もう少しこっちに寄らねぇと、肩が濡れちまうぞ。……相合傘のひとつやふたつ、いくらでもしてやるさね。お前さんが、困っているやつに傘を貸していなくてもな」 蜻蛉「……。ほんまに……ずるい人」 縁 「……お互い様だろ」 雨音に混じってカラコロと下駄の音が鳴った。 →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
◇登場人物
・ 雨宿りの男
・ 蜻蛉
・ 十夜 縁
・ 猫(鳴き声)
◇他
タイトルは仮題です。
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第壱幕◇◇◇
重たい曇天が涙をこぼす前に、と岐路を急いだが間に合わず。
泥を跳ねながらたどり着いたのは、小さな雑貨屋の軒先。
降り始めた雨はカーテンを揺らすように、早々に止む気配はない。
男 「……参ったなぁ」
蜻蛉「お兄さん、どうかしはりました?」
仕方なく雨宿りしていると、声を掛けられる男。
鈴の鳴るような声。
顔を向ければそこには蜻蛉が立っていた。
差していたであろう傘を畳み、上目遣いに男の表情を窺っている。
雑貨屋の主人だろうか。
商いの邪魔になるからどいてくれ、と文句を言われるのかもしれない。
男はそんな不安が過ったが杞憂に終わった。
男 「あ……えっと……その、雨宿りです」
蜻蛉「雨宿り?そら災難でしたなぁ」
男 「慌てて出てきたら、家を出る時に傘を忘れてしまって……御覧の通り、このありさまで」
蜻蛉は、男の慌てて説明した状況も素直に受け入れ、さらにはハンカチで濡れた肩を撫でている。
雨の匂いの中に、ふわりと漂う香りは蜻蛉の香水。
少し早まる鼓動が男の思考の邪魔をする。
蜻蛉「……ああ、ええこと思いつきました。うちの傘、使いはったら?」
男 「えっ?傘を?」
蜻蛉「はい、この傘」
パッと笑って手にしていた傘を持ち上げる蜻蛉。
男 「そんな、そこまで迷惑をかけるわけには!お気持ちだけ、ありがたく」
当然遠慮すると、ニコニコと笑ったまま問答無用で男の手を取って、傘を掴ませる。
蜻蛉「ええからええから♪ここで逢うたのも何かのご縁、神さんのお導きとでも思って。ささ」
押しの強い蜻蛉。
男はぐいっと柄を握り込まされる。
つるりと、しかし木の温もりが伝わってくる柄が指に馴染む。美しい藍色の蛇の目傘だ。
それに一瞬、目を奪われている間に蜻蛉の姿がなくなる。
男 「やっぱりだめで──、え?……き、消えた?」
ハッとして顔をあげるとそこには誰もいなかった。
行き場を失った手が虚しく風を切る。慌てて周囲を見渡すも、蜻蛉の姿はなかった。
雨音のなかでチリン、と……鈴の音を溶かした猫が一匹去っていく。
(黒猫)「にゃぁ」(リアルな猫の声)
男 「……参ったなぁ。名前、聞いておけば良かった」
後ろ手に頭をかきながら、先ほどと同じ言葉が違う意味で口からこぼれ落ちた。
今度は、どこか少しだけ嬉しそうな声で。
雨の中、傘をさして歩いていく。
第弐幕◇◇◇
(カランコロン、下駄の鳴る音)
雨足をしのげる軒先にて。
待ち合わせ場所に数刻遅れて来た相手に、縁は訝しげに訊ねた。
蜻蛉「お待たせしてしもて、ごめんなさい」
縁 「いや、構わねぇが……お前さん、なんだってそんなに濡れてるんだい?」
蜻蛉「……さぁ、なんでやろか?………っくしゅん!」
縁は懐から手巾を取り出し、濡れた黒髪を撫でる事も忘れない。
布はすぐに役目を終えて重くなった。
縁 「っと、おいおい……(手布で蜻蛉の肩や髪を拭いながら)」
蜻蛉「あら。雨で濡れたとこ、拭いてくれはるん?嬉しいわ」
縁 「傘はどうした? この雨の中、傘も持たずに歩いて来たわけじゃねぇだろ?」
縁の問いに、蜻蛉はふわりと笑顔を浮かべる。
蜻蛉「困ってはったから」
縁 「あー…貸してやったのか」
蜻蛉「はい、もーーちょっとうまいこと歩けると思てたんやけど」
そう言って、蜻蛉は首を傾げる。
縁はため息まじりに頭をかいた。
縁 「仕方ねぇなぁ……俺の羽織でよけりゃぁ着ておいてくれや。風邪ひかれちゃ困る」
羽織っていた上着を取ると、蜻蛉の肩へ。
一方の蜻蛉はきょとん、と瞬きしたあとで小さく笑った。
蜻蛉「ふふっ……おおきに」
蜻蛉の感謝の言葉に、縁は視線を逸らしながら
縁 「(和傘を開いて)……ほらよ、入りな。そのままだとまた濡れちまうだろ」
蜻蛉「ほんなら、お言葉に甘えて」
蜻蛉はその傘の中へするりと入り、身を寄せた。(音が近づく?)
俗に言う"相合い傘"と呼ばれるそれ。
満足げに笑う蜻蛉の──先ほどよりずっと近づいた──横顔に、縁は眉を寄せる。
(相合傘、歩きながらの二人の会話)
縁 「……なぁ。お前さん、まさかこれを狙ってたわけじゃねぇよな?」
蜻蛉「さぁ?……うちにはなんのことか、さっぱり分かりませんけど」
縁 「ったく……わざわざ濡れてこねぇでも、言ってくれりゃぁ──」
蜻蛉「言うたら──またこやって、相合傘、してくれはるん?」
縁 「……っ。(傘の中、思いの外近く聞こえた声に戸惑い)……まぁ、な」
蜻蛉「……旦那が素直に返事するやなんて、珍し。どおりで、雨がよおけ降るわけや」
縁 「あのなぁ。……どこかの素直じゃねぇ嬢ちゃんが、後で寝込みでもしたらことだろ」
蜻蛉「素直やないのは、誰かさんも同じやないの。それに、縁さんが看病してくれるんやったら、うちは願ったり叶ったりです」
縁 「……はぁ」
蜻蛉「それとも、心配してくれとるんやろか?……んふふっ(衣擦れの音。不意に引き寄せられて)……あっ」
縁 「もう少しこっちに寄らねぇと、肩が濡れちまうぞ。……相合傘のひとつやふたつ、いくらでもしてやるさね。お前さんが、困っているやつに傘を貸していなくてもな」
蜻蛉「……。ほんまに……ずるい人」
縁 「……お互い様だろ」
雨音に混じってカラコロと下駄の音が鳴った。