ギルドスレッド 文化保存ギルド 【SS依頼】レイリー=シュタイン(p3p007270)より 【流星の少女】 イーリン・ジョーンズ (p3p000854) [2022-07-17 20:15:48] ●ある冬の日 レイリー=シュタイン(p3p007270)は言った。「わたしはもう、貴方と友達のつもりでいたのだけど」 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は言った。「それは嬉しいわね」 その時は、また気難し屋が始まったと、わたしは思っていた。 ほどなくしてだった、冬の王と友だちになりたい。あれを人として玉座から引きずり下ろしたい。そのために身命を賭し挑みたい。 柄にもなく、衝動のままに、ほとんど喚くように彼女は言った。 何日も頭を抱え、弟子達に頼る姿は普段の威厳も何もない子供のようで。――私は、もう二度と友達の手を話したくない。 嗚呼。 私は、その言葉に、どうしようもなく助けたいと願って。 どうしようもなく、心にしこりを抱えたのだった。 飲んで忘れよう。そして、イーリンが突き進む道を切り開く一番槍であろう。 飲んで、飲んで、覚悟を決めよう。 私は、誉れ高き一番槍だ。●空に手を伸ばしていたから かくして冬の王――オリオンは月女神に撃ち落とされ、人の身に落ちた。 祝宴の中、イーリンは笑い、怒り、食事を振る舞い、心配し、普通の人のように楽しんでいた。 だから、だからレイリーは、いつものように笑って彼女の肩を叩き。囁いた。「ねぇ、わたしも誕生日がもうすぐなの。プレゼントがほしいわ」「ああ、いいわよ。今度相談していい。貴方の欲しい物」「ええ、じゃあお茶会を用意して待ってるわ」「ありがと」「ううん、こちらこそ。おめでとう、イーリン。本当に――」 良かった。その言葉が出ないのは、感無量だからだと、イーリンは捉えてくれたのだろう。ウィンクしてくれるその仕草は愛らしく。守ってあげなければいけない存在だと。何度でも認識させてくれた。●わたしも手を伸ばした 夏、文化保存ギルド。元貴族の豪華な書斎のローテーブルを挟んで二人はソファに座っていた。「それで、プレゼントは何がほしいのかしら」 祝宴での事を覚えていたイーリンが、紅茶に口をつけた。「質問が一つ、貴方に答えられるはずのものよ」「あら、ずいぶんと慎ましいじゃない。そんなものでいいの」「自分が持っていない知識って、そういうものでしょう。イーリンなら知ってると思うわ」「確かに。まぁわからなくても他のプレゼントを用意するから、安心して」 イーリンがそう笑うと、レイリーもうなずき返した。金髪が少し揺れる。「わたしが聞きたいのは――どうやったら、貴方の友達になれるか」「友達」 その声は、素直な驚きの色だった。「そうよ、貴方は友達を。いえ、もっと明確に言うわ。親密な間柄を作るのを忌避している。その中でも友達は極端に少ない。明確に友達だと貴方が言って憚らないのは5人にも満たない、違う」 酒は入っていない。その言葉と姿勢から明らかだった。「否定はしないわ」「ありがとう。話の腰を折られたら、わたしも困るところだった。貴方と違って、腹のさぐりあいは得意じゃないから。だから聞くわ」 胸元に手を当てる。「貴方はオリオンに、カタラァナの影を見た。友達の影を見たからなんとしてもその手をつかもうとした。貴方にとって、友達とは理性も何もかもかなぐり捨てて助けたいと願うもの。そして、この世界に来てからも『友達』は増えている。なのに」 イーリンがカップを置くのを待ってから、レイリーは続ける。「どうして、わたしは貴方の友達になれないの?」 沈黙。レイリーは視線をそらさない。もう一方はそらし、レースのカーテンから街角の喧騒を伺った。「何度も死線を共に潜った。貴方の命を守ったのも、一度や二度ではないわ。一緒に海で遊んだり、酒を酌み交わしたりもした。勇者総選挙では貴方のために東奔西走した。何も知らなかったわたしを助けた貴方への恩義は十分に返し、ローレットでも報奨を貰うまで至った。貴方の弟子と比べても、貴方が友と呼んでいる人たちと比べても、武功、交流、何ら遜色ない。違う」「違わない」 彼女は、話は聞くわよと顔をそらし、向けた方の耳の髪をかきあげながら言う。「友達を失いたくないという衝動でオリオンを救ったのは正しいでしょう。あれが貴方にとっての例外というのもそう。けど、それ以前よ問題は。それ以前の友達たちは、わたしよりもずっと低い基準で友達になっている。自然成立した物だけじゃない、その中には友達になりましょうと言ってなったものもある、でしょう」 論理立てて、囲い込む。彼女が得意とする戦法を、話術に変えて向けることになるなんてと頭をよぎるが、レイリーは続ける。「教えて、どうして友達になれないの」「そんな気分じゃないから」 今の関係に傷をつける事になっても、知りたい。そんなレイリーの覚悟の上から切るように、彼女は言った。「気分」「友達って、理屈じゃないでしょ。私にとって、理屈を超えなきゃ友達になれない」 顔どころか、視線を外に向けたまま、彼女は続けた。明確な拒否とも取れた。しかし、諦めない。「嘘」「どうしてそう思うの」「だって」 レイリーが胸元で拳を握る。金属の軋む音がする。「貴方はいつだって、自分を納得させる理屈をつけて、友達を増やしているじゃない」 彼女の丸くなった目が、やっとレイリーに向いた。「貴方は友達をつくるのが、大切な人を作るのが怖い。だから理屈をつけてそれを避け、その理屈を超える衝動が来たら、自分を奮い立たせるために理屈をつける。貴方の言う気分って、自分の納得する理屈を組み上げられないから。その時は相手に諦めてもらう、違う」 レイリーの方を向いたまま、彼女はカップをそっと、脇にどけた。「だとしても、私が貴方のために理屈を作るまでに至っていない、違う」 彼女の白い指が、テーブルの上に置かれた。 本腰を入れたのだ。「わたしは違うと思う。貴方は今、理屈を組み立てている。わたしが貴方のハードルを超えるのを待っている。そう信じている」「自信過剰ね」「だとしても、貴方は約束を守ろうとしていると信じてる」「約束」「忘れたの」 レイリーは身を乗り出し、握っていた拳を開き、テーブルに置く。友人ならば、手の内をお互い見せるのが対等だと言わんばかりに。「わたしは、友達になれる方法を教えて、と最初に言ったのよ」 彼女が眉をひそめた。 事実だ、どれもこれも。数年来、戦場を共に駆け巡り、時にはイーリンの教えを請い。時にはイーリンの知らぬ場所で武功を立て、寄り添いながらも一角の人物として立ったレイリーを、少なくとも戦友。もっと親密な、イーリンにとって大事な「友達」になるには、十分がすぎる。 だから、その一線が恐ろしく。「――」 それを言葉にせず、時には人を無碍に扱い、感情の風化さえ待つ。恐るべき忍耐力と怠惰を併せ持つ彼女に、真正面からぶつかってくる様を見て、珍しく彼女は苦笑いを浮かべた。「じゃあ、2つ条件を出しても」「いいわよ、わたしにできることなら」 食い気味に、レイリーは言った。「貴方は、何になりたい」「何って」「友達になるために、私は貴方に聞きたい。貴方は、どうなりたい、ありたい。パーヴロヴナ=カーリナ。過去は関係ない、それは私もそう。けれど未来は、どう。私は元の世界に戻って、仲間を今際の際から救い出し、ハッピーエンドを掴む。そんな荒唐無稽な願いと、現実の、そう。貴方の言うように友達一人作るのに怯える日々を同時に過ごしているわ」「わたしは」 視線を外すのは、今度はレイリーの番だった。その視線は、自分の胸元に向けられている。「貴方は恋人と添い遂げる、よろしい。ヒーローとして多くの人々を救う、よろしい。でもそれは今よ。今の先、明日の明日、そのずっと先。貴方は何になりたい。私は、全部終わったら冒険を日々しながら、パパとママンのように子供を作って、それに馬鹿みたいに愛情を注いで、足腰が立たなくなったらロッキングチェアに座って、編み物なんかしながら、昔の武勇伝を孫に語り聞かせて。最期は家族や友人知人に囲まれてベッドの上で死にたい。嘘じゃないわ、きっとそれより早く、戦火か迷宮で野垂れ死ぬ公算が高いだけで」 苦笑いしたまま、本当に矛盾だらけだわ、と彼女は笑う。「今じゃなくてもいい、だけど今度聞かせて。貴方が未来に生きていると、未来に託すものがあると私が納得したら。その時は貴方と、友達になりましょう」「それは、約束」 顔を上げて、と彼女に促されたレイリーは、紅い瞳に覗き込まれながら問うた。「ええ、約束」 彼女の言葉に、レイリーはとんでもなく大きなため息を付いて。ソファに倒れ込んだ。 あっけにとられた彼女を見もせずに、腕で顔を隠してレイリーはまたため息を付いた。「ねぇ、貴方って友達に毎回こんな試験を用意してるの」 吹き込んだ夏の風にくすぐられたように、顔を隠したままレイリーが笑った。「友達に執着する人間が今まで居なかったからよ」 脇にどけていたカップを手にして彼女は言う。あと、貴方は論客もできるでしょう、保証するわと肩をすくめた。「論客になれるなら、最後に宿題を出されずに友だちになってた、違う」「そういう手合は私の友達に向いていないわ」 紅茶を飲み干した彼女が、お返しとばかりに大きなため息をつきながらカーテンを開ける。どうせならもっとくすぐってやろうと。窓の縁に腰をかける。「じゃ、もう一つの約束も忘れないでね」「もう好きにして」 攻城戦で矢玉を受けるよりも疲弊したレイリーは、そう答えるしかなかった。 だから、普段のレイリーなら彼女の悪戯っぽい声色も、何を企んでいるかも察せられただろうに「そんなこと」より大事な一歩を踏み出せた感慨でいっぱいだったから。 後日、彼女は仕立て屋で白いシスター服を作られることになるのだが、それはまた別の話。<了> →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
レイリー=シュタイン(p3p007270)は言った。
「わたしはもう、貴方と友達のつもりでいたのだけど」
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は言った。
「それは嬉しいわね」
その時は、また気難し屋が始まったと、わたしは思っていた。
ほどなくしてだった、冬の王と友だちになりたい。あれを人として玉座から引きずり下ろしたい。そのために身命を賭し挑みたい。
柄にもなく、衝動のままに、ほとんど喚くように彼女は言った。
何日も頭を抱え、弟子達に頼る姿は普段の威厳も何もない子供のようで。
――私は、もう二度と友達の手を話したくない。
嗚呼。
私は、その言葉に、どうしようもなく助けたいと願って。
どうしようもなく、心にしこりを抱えたのだった。
飲んで忘れよう。そして、イーリンが突き進む道を切り開く一番槍であろう。
飲んで、飲んで、覚悟を決めよう。
私は、誉れ高き一番槍だ。
●空に手を伸ばしていたから
かくして冬の王――オリオンは月女神に撃ち落とされ、人の身に落ちた。
祝宴の中、イーリンは笑い、怒り、食事を振る舞い、心配し、普通の人のように楽しんでいた。
だから、だからレイリーは、いつものように笑って彼女の肩を叩き。囁いた。
「ねぇ、わたしも誕生日がもうすぐなの。プレゼントがほしいわ」
「ああ、いいわよ。今度相談していい。貴方の欲しい物」
「ええ、じゃあお茶会を用意して待ってるわ」
「ありがと」
「ううん、こちらこそ。おめでとう、イーリン。本当に――」
良かった。その言葉が出ないのは、感無量だからだと、イーリンは捉えてくれたのだろう。ウィンクしてくれるその仕草は愛らしく。守ってあげなければいけない存在だと。何度でも認識させてくれた。
●わたしも手を伸ばした
夏、文化保存ギルド。元貴族の豪華な書斎のローテーブルを挟んで二人はソファに座っていた。
「それで、プレゼントは何がほしいのかしら」
祝宴での事を覚えていたイーリンが、紅茶に口をつけた。
「質問が一つ、貴方に答えられるはずのものよ」
「あら、ずいぶんと慎ましいじゃない。そんなものでいいの」
「自分が持っていない知識って、そういうものでしょう。イーリンなら知ってると思うわ」
「確かに。まぁわからなくても他のプレゼントを用意するから、安心して」
イーリンがそう笑うと、レイリーもうなずき返した。金髪が少し揺れる。
「わたしが聞きたいのは――どうやったら、貴方の友達になれるか」
「友達」
その声は、素直な驚きの色だった。
「そうよ、貴方は友達を。いえ、もっと明確に言うわ。親密な間柄を作るのを忌避している。その中でも友達は極端に少ない。明確に友達だと貴方が言って憚らないのは5人にも満たない、違う」
酒は入っていない。その言葉と姿勢から明らかだった。
「否定はしないわ」
「ありがとう。話の腰を折られたら、わたしも困るところだった。貴方と違って、腹のさぐりあいは得意じゃないから。だから聞くわ」
胸元に手を当てる。
「貴方はオリオンに、カタラァナの影を見た。友達の影を見たからなんとしてもその手をつかもうとした。貴方にとって、友達とは理性も何もかもかなぐり捨てて助けたいと願うもの。そして、この世界に来てからも『友達』は増えている。なのに」
イーリンがカップを置くのを待ってから、レイリーは続ける。
「どうして、わたしは貴方の友達になれないの?」
沈黙。レイリーは視線をそらさない。もう一方はそらし、レースのカーテンから街角の喧騒を伺った。
「何度も死線を共に潜った。貴方の命を守ったのも、一度や二度ではないわ。一緒に海で遊んだり、酒を酌み交わしたりもした。勇者総選挙では貴方のために東奔西走した。何も知らなかったわたしを助けた貴方への恩義は十分に返し、ローレットでも報奨を貰うまで至った。貴方の弟子と比べても、貴方が友と呼んでいる人たちと比べても、武功、交流、何ら遜色ない。違う」
「違わない」
彼女は、話は聞くわよと顔をそらし、向けた方の耳の髪をかきあげながら言う。
「友達を失いたくないという衝動でオリオンを救ったのは正しいでしょう。あれが貴方にとっての例外というのもそう。けど、それ以前よ問題は。それ以前の友達たちは、わたしよりもずっと低い基準で友達になっている。自然成立した物だけじゃない、その中には友達になりましょうと言ってなったものもある、でしょう」
論理立てて、囲い込む。彼女が得意とする戦法を、話術に変えて向けることになるなんてと頭をよぎるが、レイリーは続ける。
「教えて、どうして友達になれないの」
「そんな気分じゃないから」
今の関係に傷をつける事になっても、知りたい。そんなレイリーの覚悟の上から切るように、彼女は言った。
「気分」
「友達って、理屈じゃないでしょ。私にとって、理屈を超えなきゃ友達になれない」
顔どころか、視線を外に向けたまま、彼女は続けた。明確な拒否とも取れた。しかし、諦めない。
「嘘」
「どうしてそう思うの」
「だって」
レイリーが胸元で拳を握る。金属の軋む音がする。
「貴方はいつだって、自分を納得させる理屈をつけて、友達を増やしているじゃない」
彼女の丸くなった目が、やっとレイリーに向いた。
「貴方は友達をつくるのが、大切な人を作るのが怖い。だから理屈をつけてそれを避け、その理屈を超える衝動が来たら、自分を奮い立たせるために理屈をつける。貴方の言う気分って、自分の納得する理屈を組み上げられないから。その時は相手に諦めてもらう、違う」
レイリーの方を向いたまま、彼女はカップをそっと、脇にどけた。
「だとしても、私が貴方のために理屈を作るまでに至っていない、違う」
彼女の白い指が、テーブルの上に置かれた。
本腰を入れたのだ。
「わたしは違うと思う。貴方は今、理屈を組み立てている。わたしが貴方のハードルを超えるのを待っている。そう信じている」
「自信過剰ね」
「だとしても、貴方は約束を守ろうとしていると信じてる」
「約束」
「忘れたの」
レイリーは身を乗り出し、握っていた拳を開き、テーブルに置く。友人ならば、手の内をお互い見せるのが対等だと言わんばかりに。
「わたしは、友達になれる方法を教えて、と最初に言ったのよ」
彼女が眉をひそめた。
事実だ、どれもこれも。数年来、戦場を共に駆け巡り、時にはイーリンの教えを請い。時にはイーリンの知らぬ場所で武功を立て、寄り添いながらも一角の人物として立ったレイリーを、少なくとも戦友。もっと親密な、イーリンにとって大事な「友達」になるには、十分がすぎる。
だから、その一線が恐ろしく。
「――」
それを言葉にせず、時には人を無碍に扱い、感情の風化さえ待つ。恐るべき忍耐力と怠惰を併せ持つ彼女に、真正面からぶつかってくる様を見て、珍しく彼女は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、2つ条件を出しても」
「いいわよ、わたしにできることなら」
食い気味に、レイリーは言った。
「貴方は、何になりたい」
「何って」
「友達になるために、私は貴方に聞きたい。貴方は、どうなりたい、ありたい。パーヴロヴナ=カーリナ。過去は関係ない、それは私もそう。けれど未来は、どう。私は元の世界に戻って、仲間を今際の際から救い出し、ハッピーエンドを掴む。そんな荒唐無稽な願いと、現実の、そう。貴方の言うように友達一人作るのに怯える日々を同時に過ごしているわ」
「わたしは」
視線を外すのは、今度はレイリーの番だった。その視線は、自分の胸元に向けられている。
「貴方は恋人と添い遂げる、よろしい。ヒーローとして多くの人々を救う、よろしい。でもそれは今よ。今の先、明日の明日、そのずっと先。貴方は何になりたい。私は、全部終わったら冒険を日々しながら、パパとママンのように子供を作って、それに馬鹿みたいに愛情を注いで、足腰が立たなくなったらロッキングチェアに座って、編み物なんかしながら、昔の武勇伝を孫に語り聞かせて。最期は家族や友人知人に囲まれてベッドの上で死にたい。嘘じゃないわ、きっとそれより早く、戦火か迷宮で野垂れ死ぬ公算が高いだけで」
苦笑いしたまま、本当に矛盾だらけだわ、と彼女は笑う。
「今じゃなくてもいい、だけど今度聞かせて。貴方が未来に生きていると、未来に託すものがあると私が納得したら。その時は貴方と、友達になりましょう」
「それは、約束」
顔を上げて、と彼女に促されたレイリーは、紅い瞳に覗き込まれながら問うた。
「ええ、約束」
彼女の言葉に、レイリーはとんでもなく大きなため息を付いて。ソファに倒れ込んだ。
あっけにとられた彼女を見もせずに、腕で顔を隠してレイリーはまたため息を付いた。
「ねぇ、貴方って友達に毎回こんな試験を用意してるの」
吹き込んだ夏の風にくすぐられたように、顔を隠したままレイリーが笑った。
「友達に執着する人間が今まで居なかったからよ」
脇にどけていたカップを手にして彼女は言う。あと、貴方は論客もできるでしょう、保証するわと肩をすくめた。
「論客になれるなら、最後に宿題を出されずに友だちになってた、違う」
「そういう手合は私の友達に向いていないわ」
紅茶を飲み干した彼女が、お返しとばかりに大きなため息をつきながらカーテンを開ける。どうせならもっとくすぐってやろうと。窓の縁に腰をかける。
「じゃ、もう一つの約束も忘れないでね」
「もう好きにして」
攻城戦で矢玉を受けるよりも疲弊したレイリーは、そう答えるしかなかった。
だから、普段のレイリーなら彼女の悪戯っぽい声色も、何を企んでいるかも察せられただろうに「そんなこと」より大事な一歩を踏み出せた感慨でいっぱいだったから。
後日、彼女は仕立て屋で白いシスター服を作られることになるのだが、それはまた別の話。
<了>