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ギルドスレッド

文化保存ギルド

【SS依頼】フラーゴラ・トラモント(p3p008825)より1.5

● Monday
「ほらどうしたのフラーゴラ、足元がお留守よ」
 退屈そうな声色、利き目は左だと言ったイーリン・ジョーンズ(p3p000854)――お師匠先生は眼帯をわざとらしく巻いたまま。ワタシの脚を払った。
 まただ、見えていたのに避けられなかった。ワタシのほうが早く動いて。先生に何回も攻撃を当てているのに、軽々といなされて、良いのが入ってもわずかにたじろぐ程度で。
 悔しいと思うより早く、ワタシの体は動いていた。転がって、転がって、跳ねる。とっさに自分の半身を先生に向け、その半身をかばうように払暁を構えたら。予想通り、鈍痛。
 先生の一撃はワタシの背骨をえぐるような衝撃と共に、一瞬意識を飛ばされる。このまま気絶してしまおう、そうすれば止めてくれる。否――ワタシの耳が、先生のヒールの音を捉えた
(まだ踏み込んでくる――!)
 目を見開く、限界まで集中する。もっと速く、もっと速く。あのクロークの背中に追いつくために、ワタシは――

「おはよう、3発当てたけど直撃は1発。私の攻撃はどれも直撃。受け切れてないわよ。」
 気絶していたワタシに治癒魔法を施しながら、お師匠先生はそう言った。瞳は相変わらず、宝石のようにキラキラしているのに、呆れたような色をしているとワタシは思った。

●Tyuukaday
 お師匠先生とワタシ――フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の訓練は、ワタシの都合のいい時に先生にお願いするという形で行っている。それは先生曰く「漫然と教えては意味がないし、貴方が勝つための最善の手段を講じたと思ったらおいでなさい。ただし、最低でも週に一回」とのことだ。
 もし同じように負ければ、それは一歩も進んでいないということ。もし別の手段を講じて負ければ、それが至らなかったということ。どうすれば勝てるようになるか。実戦同様、勝つための細い糸を手繰り寄せるために、ワタシは今日も街角を歩いた。
 今日は朝一番に挑んだけれど、結果は散々。姉弟子達に話を聞いても、帆立の姉弟子は「大丈夫ですよ、フラーゴラちゃんは頑張っていますから!」と励ましてくれるだけで、狐の姉弟子は「わからん、師匠から一本取れるときは取れるがそうでないときは全くうまくいかん。私は感覚で弟子をやっている」と一蹴されてしまった。
 安易に人にアドバイスを受けるのが良くないのだろうか、とうんうん唸って歩いて、気がつけばお昼の時間を大きく過ぎていた。しかも繁華街からは離れてしまっていた。
「お腹すいたな……」
 ぼやいて辺りを見回せど、小綺麗な店は見当たらず。鼻をくすぐるのは古い油の、美味しそうな匂い。油でギトギトになったのれんを仕方なく、えいっと思って触らないようにくぐることにした。
 カラカラと回る換気扇の音と、ベトベトの床。ぬらぬらの赤い机と、つるつるの背もたれのない椅子。ワタシが座ると、太ったおばさんが眠そうに「ご注文は」と聞いてきた。
 メニューも真っ黄色だ。
「ええっと、青椒肉絲と天津飯、あと餃子スープ」
「スープに漬物つくけど、何にするの」
「お新香で」
 おばさんは呪文のように厨房に注文を復唱すると、そのまま安いグラスに水を注いで置いていった。
 失敗したかもしれない。店選びも、今日の稽古も。
 ため息を付いてグラスを眺めていると、誰かが店に入ってきた。
「おばさん、リャンガーコーテルヨクヤキカイカイ、バイハン大で」
「あんたまた安いのばっかり選んで、そこの子みたいに色々頼んでいきなよ」
「文無しなんだ、先払いできるだけ褒めて欲しいね。おや、誰かと思えば」
 聞き慣れた声にワタシが反応が遅れたのと、その人がワタシの前に座るのは同時だった。
「アトさん」
「がっかりした顔をしてるね。何か失敗したのかい」
 そんなことはない、ワタシは今アト・サイン(p3p001394)――アトさんに出会えて幸せだ。目の下に少しクマがある、どうやら徹夜明けか何かのようだ。服から血の匂いはしないということは調べ物だろうか。席につく時にため息を付いていたけど、口の中で噛み殺してワタシにぶつけないようにしている。優しい、嬉しい、大好き。
「ううん、ちょっと。今日も先生に稽古をつけてもらっただけ」
 好きが言えない。
「司書は弟子のことと仕事、あと食べることとダンジョンアタックと、あと敵やら何やらには容赦がないからね。ご愁傷さま。こっちは仕事あがりでね、飼い猫を探してくれと言われて夜通し歩き詰めさ。危うく四つん這いで店に入るところだったよ」
「ふふ」
 ユーモアが好きだ、落ち込んでいるように見えたワタシを気遣って、いっぱい話しかけてくれているのだろうか、嬉しい。
「この店は僕の行きつけでね、餃子が安いし米が安いから、とりあえず食うにはいい店だよ。食べなきゃ仕事にならないし、君も訓練に身が入らないだろうからいい選択だ。よく見つけたね」
「え、へへ」
 肩をぎゅっと丸くして、変な顔にならないように両手をぎゅっと握る。そうだ、笑ってる場合じゃない。何かお話しなくちゃ。けど口の中がカラカラだ、水を飲むのも、見られるのが恥ずかしい。
 けど、けど二人っきりのチャンスだ。ワタシは思いっきり水を一口飲み込んで。喉を開いた。
「はいおまち、青椒肉絲と天津飯、餃子スープとお新香ね。アンタのバイハン先持ってきたよ」
 ドン、おばさんが置いていった熱々の料理の立ち上る湯気は、ワタシとアトさんの間に巨大な壁を作った。
 アトさんは真っ白な大盛りのご飯に、テーブルの上の酢醤油とコショウを回しがけして先に食べ始めた。時間を無駄にしないところ、素敵。
「冷めないうちに食べなよ、ここの油は冷めるとキツいよ」
 アトさんはおばさんに側頭部をお盆で殴られた、可愛い。
 結局アトさんと黙々とご飯を食べて、ワタシは店を後にした。アトさんは帰り際に「気長にやりなよ、デートに準備がかかるのは普通だからね」と言ってくれた。
 私はこの店が大好きになった。おばさんが面食らっていた理由はわからない。

●Twoday
「一日に二度来るって、何か入れ知恵でもあったのかしら」
 夕方、ソファで寝ていた先生が起きるのを待って、ワタシは文化保存ギルドの屋上の訓練場へと登った。
 夕暮れの光の中で紫の髪がなびき、先生が魔書から戦旗を取り出す。
 ワタシも合わせて払暁を抜く。黒い刀身は、先生の戦旗と同じ色だ。
「本気で来なさい」
「お願いします」
 頭を下げると同時に、私は踏み込んだ。あのクロークの背中を追うように、速く、速く。
 一足、20メートル。右掌で柄を押し込むように、片手での全速の突きは先生に当たる、しかし当然芯には遠く当たらない。けだるげな先生の視線が、ワタシを覗き込もうとする。魔眼だ。
「っ!」
 ワタシは左手に隠していたマッチを擦り上げ「手のひらサイズの幻影を先生の目の前に生み出した」狙い通り、先生の焦点はずれ、ワタシに直撃はしない。即座に距離を取るために大きく後ろに宙返り。脚を狙っていた戦旗が空を切る。
 まだだ、まだ先手を取れる。もう一度、右掌に払暁を構え、突きこむ。左手は隠す。
「同じ手を――!」
 先生が戦旗の帆を広げる、それは守りの型だ。先生の急所が見えない、今朝はこれで無駄打ちをしてしまった。しかし今は違う「マッチの匂いが先生の顔についている」から。
「アトさん、ワタシに」
 あの背を思えば、心臓が燃える。その炎をすれ違いざまに先生にぶつければ、当然視界は奪われる。
 そうだ、先生は目が良い。だからわざわざ片目を隠して普段相手をしてくれている。ならそれを、利用しない手は無い。
 先生相手に、打てる手を全て打たないほうがおかしい。
 燃え上がる炎の中、先生が大きく戦旗を振るう。初撃は薙ぎ、これはクセ。直撃を避けるために、払暁の上を滑らせる。わずかに先生の足が、半歩。体幹が崩れた。
「――届かせて!」
 この距離なら、突きは躱せない。全力の加速を、いま一歩。
 喉元めがけ、払暁を突き込もうとしたワタシは目を丸くした。刀が、上がらない。先生のヒールが、払暁のシノギを踏んでいた。
「嘘――」
「言ったでしょう」
 先生の手が炎の中から伸び、私の襟を掴んだ。
「『同じ手』は通じないって」
 突きを完全に、見切られていた。そうワタシが理解するのと。ワタシの後頭部がレンガに叩きつけられるのは同時だった。

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●Gooday
「もう! お師匠様もフラーゴラちゃんに手荒くしすぎです!」
 二階で掃除していた姉弟子がワタシの手当をしながら、ぷりぷりと先生に怒っていた。
「私だって部屋着が燃えたのだから、かなり手荒くされたのだけれど」
 そう言うお師匠先生は、普段着のローブの燃えたところを裁ちばさみで切っていた。
「あ、そんなに雑に切っちゃダメですよお師匠様! 私が後で直します!」
 ワタシはソファに寝かされていて、頭には布がぐるぐるに巻かれていた。血はでていないみたいだけれど、痛い。諦めたように姉弟子にローブを渡しながら、先生は私に近づいてきた。
「突きしか切り札がないのはわかっていた、だったらどのタイミングで狙うかだけ見切れば、あとは対処するのは容易よ。それとあのギフトは――何の戦術的優位性も無いわ」
 お叱りを受ける、耳が垂れるのを自分でも感じてしまう。
「ただ、今持つ手札を全部切ったのは見事だったわ。幻の炎を見せて、その後本物の炎をぶつける。そしてトドメの突きを狙う。いいセンスよ」
 いいセンス。
(司書は理屈が好きだからね。もし挑むなら、自分のもつどんな小さな理屈でも積み重ねるといい。それが案外、あいつの皮を一枚ずつ剥いでいくよ)
 さり際にアトさんが言った言葉を思い出す。正しかったんだ、と胸が高鳴る。
 しかも先生に褒めてもらえた。
「ありがとう、お師匠先生」
 耳がピンと立ってしまった、恥ずかしい。
「あ、お師匠様、もっとわたしを褒めてくださってもいいんですよ!」
「はいはい、いつもありがと。というか貴方はもう免許皆伝みたいなものでしょ」
「いいえ、お師匠様にはもっと色々教えてもらいますから! 褒めるのもご教授もご遠慮なさらず!」
「ワタシも、もっとお師匠先生に色々教えてほしいな」
 ワタシがそう言うと、姉弟子も、先生も嬉しそうに。先生はちょっとだけど、笑った。
「粥屋が休みだったからピザを買ってきたぞ」
 狐のほうの姉弟子がそう言ってドアを開けるのと、帆立の方の姉弟子がまたぷんぷんと怒り出すのは同時だった。
 今日はお腹いっぱいになっちゃうな、と考えていると、先生はそそくさとキッチンに移動していった。どうやらお茶を用意するらしい。
「ううん、ピザ、食べたかったから。大丈夫」
 いつものローテーブルの上を、ワタシも片付ける。
 手にとったお師匠先生のローブからはあのクロークと同じ、少し焦げた匂いがした。
 ワタシもいつか。
 ワタシがローブを握ったのを見て、不思議そうに見る姉弟子達に気付いて、ワタシはすぐにハンガーに片した。姉弟子二人はとても楽しそうで。今夜は帰りが遅くなりそうだな、と思った。

<了>

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