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文化保存ギルド

【三周年記念SS】TRIbeca

「3」を意味するTRI(トライ)だけ大文字だったりします

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●己
 夕暮れの西日が調理場の窓を照らしはじめた。
 ココロは水の入った樽と薪の束を運び込んでいた。
 またお客が一人増えたようだ。遠くに聞こえる声は聞き覚えがある。では夜通し英雄論で盛り上がるのだろう。昼間での見込みからどれだけ不足するかを算出し、少々余分にいれておけばいい。
 
 洗い物の残りを片付ける。一つ一つ拭きとり、食器棚に並べていく。
 この特別になってしまったカップもそうだ。もう使われることはないだろう。
 だが、丁寧に拭き、棚の一番奥に入れる。
 イレギュラーズとして召喚されてもう三年。社会生活を過ごすうちに学んだのだ。人にとって意味は無くても、無駄ではない行為があるということを。

 以後の調理はココロを妹のようにかわいがってくれている世話好きの女性に任せておけばよい。
 メモを残し、よそ行きの水着に着替えてギルドを後にする。

 定刻通りの馬車に乗り、参考書を広げる。
 ローレットのコネで入った医学校は試験が厳しい。アクエリア、そしてフェデリアにおける戦傷者を救護し続けたので実技は自信があったが、このままでは筆記で落第しかねない。
 混沌に住む人種には、種族ごとに身体構造が大きく異なる。同様の部位、症状であっても対処が変わるケースは多く、一通りの理解では引っかけ問題で容易に減点されてしまう。
 とはいえ、なにかを言い訳にできはしない。ココロは達観とも諦観とも縁がないのだから。

 馬車がギルド・ローレットの前で止まる頃には日は完全に落ちていた。
「こーんばーんは!」
 つとめて大きい声、明るい声を出して扉を開ける。

 いつもの看板娘が彼女を認め、笑顔を見せる。今夜は依頼の話で此処に寄ったのだ。
 声で気が付いたのか、ココロと同年代の少女が義手の左腕を挙げて挨拶してくれる。
 その向かいの席に座るたれ目の女性も軽く手を振ってくれた。

 普通サイズの椅子でも余るくらいに小柄な体に大きなうさみみりぼんを付けた子の後ろを抜けて、狼のような鋭利な目をした男性が手招きをする席に向かうと、また入り口の扉が開いた。
 やや緊張した面持ち。だがココロには見覚えがなかった。周りを見渡せばだれもが心当たりのないように見えた。
 だったら答えは一つしかありえない。ここのところ、毎日らしい。そう、新しい出会い。
 ココロは扉の方へ向き直り、ローレットの看板娘と声を合わせて歓迎した。

「はじめまして!ようこそ、ローレットへ!!」

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