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喫茶店『Edelstein』

SS置き場

筆慣らしと暇つぶしに書きなぐった。
日々の色々を書いた短編たち。

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「白い世界」(2/2)

 彼女にとって見慣れた人間。
 銀髪の男性がひょっこりと工房の入口から顔を見せた途端、ルーキスの手が止まった。
 魔術に関してはまだ新米の彼、ルナール・グルナディエから見ても。この惨状は暴発させたとしか思えない状況である。
 つまり言い訳もクソもあったもんじゃない。

 混沌に来たばかりならまだしも。
 それ相応に実践もこなし、経験も積み上げた魔術師である。
 調整ミスによる暴発などという些細なミスをやらかすこと自体が珍しいのだ。

 さてどう言い訳しようかとルーキスが視線を逸らした直後。

「・・・・・・よし、今日は此処までな」
「しっかり目は覚めました! 出来ればもうちょっと研究したいなー!」
「却下、これで変に事故って傷が出来たら俺が心配する」

 二の句を告げる前にルナールにお姫様抱っこに持ち込まれた。
 やらかした人間に拒否権などある訳も無く。あれよあれよのうちに自室に放り込まれる。

「きゃー! 記憶してた魔術式忘れちゃーう!」
「はいはい、そのくせ身体に力が入ってないのは何処の誰だ」

 ルーキスの必死の抗議は綺麗にいなされ。
 あっという間にルナールの手でベッドの中に放り込まれる。

「まだ眠くないんだけどなぁ」
「そういって連日ギフトで夜更かしして、おまけに暴発させてるな?」

 一度こうなってはルナールは梃子でも動かない。
 大人しく休むしかルーキスに選択肢はないようだ。
 子供を寝かし付けるかのように、彼に離れる気配は無く。寝ろとばかりに頭を撫でられる。

「――あ」

 ふいに目の前に、あの物寂しい夢の光景がフラッシュバックした。
 一通り頭を撫で付けて離れようとするルナールの手を開いてる手で掴む。

「ごめん、もう少しこのままで――居て欲しい」

 あれは・・・・・・夢だ。
 内面の不安や恐れが表面化しただけに過ぎない。

 そうと理解している、理解している筈なのに。何故か感情が追いつかない。
 今のこの落ち着く光景が夢なのか。それとも先刻垣間見た白い世界が正しいのか。
 確かめる術はお互いの体温以外に無い。

 ゆっくりと再び頭が撫でられる。
 触れた箇所から伝わる体温に、すとんと驚く程に思考回路が落ち着いた。
 自分でもらしくない、とは思う。
 だが僅かでも人間である以上は仕方のないことだ。

「おやすみ」

 小さく零れた言葉は果たして聞こえただろうか。
 それを確認することは最後まで出来ず、意識は眠りに落ちていった

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