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ギルドスレッド

喫茶店『Edelstein』

SS置き場

筆慣らしと暇つぶしに書きなぐった。
日々の色々を書いた短編たち。

※知り合いの名前は使わせてもらうやもしれません。
もし掲載却下希望があればお手紙を戴けると幸いです。

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「白い世界」(2/1)

 耳が痛くなる程の静寂。
 徐に上を見上げれば分厚い灰色の雲。

 地面は白銀の雪に多い尽くされて他の色彩は目に入らない。

 何処までも続く、白銀と灰の庭。
 自然の息吹すら途絶えてしまったような淡白な世界。

 ――そこに一際鮮やかな青が映える。

 白銀の中にちらほらと落ちる青は大きな鳥の羽根。
 自然に抜け落ちたそれらが突然舞い上がった一条の風に攫われた。
 その青を目で追えば、風で開けた白銀の中に複数の影が見て取れる。

 乱立する石が何であるか。
 正体を庭の主は既に知っている。

 これは墓石だ。
 今まで奪ってきた無数の命の残骸。
 かつて刻まれていたであろう文字は風化によって削り取られ、既に読み取れるものではない。

 一際真新しいそれに刻まれている名前は。

「また、一人になっちゃったね」

 酷く穏やかな声が零れ落ちる。
 慣れとも諦念とも取れるその声は、抑揚も無く嫌に静かで。

 その直後に世界は暗転した。



「――っ」

 突然目が覚めた。
 ゆっくりと硬い床の上から上体を起こせば否応なしに身体が軋む。
 さて何をしていたのかと、止まっていた思考回路を動かして。
 ルーキス・グリムゲルデは改めて周囲を確認する。

「うわぁい、研究途中のヤツがぐっちゃぐちゃ」

 羊皮紙の山やら使っていたペンやら。机に置いてあった研究資料の類は、哀れ床に飛び散っている。
 所々が魔力のせいか焦げており、何かが破裂したかのような惨状だ。

 どうやら自身の工房であることに間違いは無く。
 状況から推理をするに魔術の研究中に意識が吹っ飛んだようだ。
 試作と称して色々と魔術を並列起動しすぎたらしい。

 魔力の使い過ぎに、日中の疲労その他色々。
 まさしく塵が積もるように積み重なったものが圧し掛かった結果だった。

(変な夢も見たような気がするけど)

 一先ず誰かさんにバレる前にさっさと片付けようと思った矢先。

「ルーキス? すごい音がしたけど・・・・・・」
「・・・・・・ナンデモナイヨー」
「白い世界」(2/2)

 彼女にとって見慣れた人間。
 銀髪の男性がひょっこりと工房の入口から顔を見せた途端、ルーキスの手が止まった。
 魔術に関してはまだ新米の彼、ルナール・グルナディエから見ても。この惨状は暴発させたとしか思えない状況である。
 つまり言い訳もクソもあったもんじゃない。

 混沌に来たばかりならまだしも。
 それ相応に実践もこなし、経験も積み上げた魔術師である。
 調整ミスによる暴発などという些細なミスをやらかすこと自体が珍しいのだ。

 さてどう言い訳しようかとルーキスが視線を逸らした直後。

「・・・・・・よし、今日は此処までな」
「しっかり目は覚めました! 出来ればもうちょっと研究したいなー!」
「却下、これで変に事故って傷が出来たら俺が心配する」

 二の句を告げる前にルナールにお姫様抱っこに持ち込まれた。
 やらかした人間に拒否権などある訳も無く。あれよあれよのうちに自室に放り込まれる。

「きゃー! 記憶してた魔術式忘れちゃーう!」
「はいはい、そのくせ身体に力が入ってないのは何処の誰だ」

 ルーキスの必死の抗議は綺麗にいなされ。
 あっという間にルナールの手でベッドの中に放り込まれる。

「まだ眠くないんだけどなぁ」
「そういって連日ギフトで夜更かしして、おまけに暴発させてるな?」

 一度こうなってはルナールは梃子でも動かない。
 大人しく休むしかルーキスに選択肢はないようだ。
 子供を寝かし付けるかのように、彼に離れる気配は無く。寝ろとばかりに頭を撫でられる。

「――あ」

 ふいに目の前に、あの物寂しい夢の光景がフラッシュバックした。
 一通り頭を撫で付けて離れようとするルナールの手を開いてる手で掴む。

「ごめん、もう少しこのままで――居て欲しい」

 あれは・・・・・・夢だ。
 内面の不安や恐れが表面化しただけに過ぎない。

 そうと理解している、理解している筈なのに。何故か感情が追いつかない。
 今のこの落ち着く光景が夢なのか。それとも先刻垣間見た白い世界が正しいのか。
 確かめる術はお互いの体温以外に無い。

 ゆっくりと再び頭が撫でられる。
 触れた箇所から伝わる体温に、すとんと驚く程に思考回路が落ち着いた。
 自分でもらしくない、とは思う。
 だが僅かでも人間である以上は仕方のないことだ。

「おやすみ」

 小さく零れた言葉は果たして聞こえただろうか。
 それを確認することは最後まで出来ず、意識は眠りに落ちていった

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