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Blood's castle
●手には品を替え
目には目を、歯には歯を。
そんな”コトワザ”というものがニホンにはあるらしい。
意味は、、。
「……忘れた」
うん、すっぱり忘れてしまった。
何だろう。喉元まで出てきてる、などではなく。
例えるなら、いちにのぽかん、だ。
ちょうど直前までしようとしていたことを綺麗さっぱり忘れてしまったような、そんな感覚である。
確か、あれだ。
やられたら同じことをやり返せ、とかそういう意味だったような気が――
「……?」
頭の片隅にはふわとろの幸せ。しかしふと屋根の下に目を向ければ、巨大な人の波。
人の波というのは自然と形ができるのだということを。私は屋根上ライフのおかげで理解していた。
上から見下ろすという行為は、褒められたものでは無いけれど。私はこれが結構好きだ。
俯瞰して分かることがたくさんある。その場にいては、気づけないモノも。
例えば、そう。あの道の脇にできた人だかり、とか。
「……?」
たくさんの人の視線の集まる先は、一人の橙色の髪の人間(カオスシード)。
手慣れているのが一目でわかる、滑らかな手つきですらりと道具を手に持つと、
ふわり。
一度瞬くような間も無く、手の中の道具は綺麗に消え去っている。
「おぉ、消えたぞ!」
「すげぇな! 全然見えなかったぜ!」
「魔法使いなのかい?」
口々に彼女……いや、彼の手際を絶賛する人々。
パッと見、女性にしか見えない彼だけれど。よく骨格と力の入れ方を見ていれば、男性であることが分かるのだ。
――普通は分かるものじゃないと思う。
彼の使った技術は”パーム”。
手に持ったものを自在に様々な場所へ移動させる、手先の器用な技術だ。
吸血鬼の目には、それがはっきりと映っていたけれど。それでも速い。
イレギュラーズでも無い彼らには、本当に彼が魔法使いのように見えていることだろう。
「…………見事なものね」
私はそっとポケットに手を突っ込むと、硬貨を弾く。
落ちるはずの硬貨が乗るのは、何気ないそよ風。向かう先は彼の、地面に置いた帽子の中へと。
見事な技術への称賛を込めて。
また時間がある時は、ゆっくりと見に来たいものだ。
目には目を、歯には歯を。
そんな”コトワザ”というものがニホンにはあるらしい。
意味は、、。
「……忘れた」
うん、すっぱり忘れてしまった。
何だろう。喉元まで出てきてる、などではなく。
例えるなら、いちにのぽかん、だ。
ちょうど直前までしようとしていたことを綺麗さっぱり忘れてしまったような、そんな感覚である。
確か、あれだ。
やられたら同じことをやり返せ、とかそういう意味だったような気が――
「……?」
頭の片隅にはふわとろの幸せ。しかしふと屋根の下に目を向ければ、巨大な人の波。
人の波というのは自然と形ができるのだということを。私は屋根上ライフのおかげで理解していた。
上から見下ろすという行為は、褒められたものでは無いけれど。私はこれが結構好きだ。
俯瞰して分かることがたくさんある。その場にいては、気づけないモノも。
例えば、そう。あの道の脇にできた人だかり、とか。
「……?」
たくさんの人の視線の集まる先は、一人の橙色の髪の人間(カオスシード)。
手慣れているのが一目でわかる、滑らかな手つきですらりと道具を手に持つと、
ふわり。
一度瞬くような間も無く、手の中の道具は綺麗に消え去っている。
「おぉ、消えたぞ!」
「すげぇな! 全然見えなかったぜ!」
「魔法使いなのかい?」
口々に彼女……いや、彼の手際を絶賛する人々。
パッと見、女性にしか見えない彼だけれど。よく骨格と力の入れ方を見ていれば、男性であることが分かるのだ。
――普通は分かるものじゃないと思う。
彼の使った技術は”パーム”。
手に持ったものを自在に様々な場所へ移動させる、手先の器用な技術だ。
吸血鬼の目には、それがはっきりと映っていたけれど。それでも速い。
イレギュラーズでも無い彼らには、本当に彼が魔法使いのように見えていることだろう。
「…………見事なものね」
私はそっとポケットに手を突っ込むと、硬貨を弾く。
落ちるはずの硬貨が乗るのは、何気ないそよ風。向かう先は彼の、地面に置いた帽子の中へと。
見事な技術への称賛を込めて。
また時間がある時は、ゆっくりと見に来たいものだ。
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吸血鬼という種は太陽が苦手なのだという。そんなことを初めて知ったのは、この混沌に来てからだろうか。
「…………眩しい」
屋根の上でそっと、手を顔に翳した。
眩い光。暖かな、ヒカリ。
これは世界に無くてはならないもの。でも、あり過ぎると困るもの。
誰が作ったか、この世界では。太陽は昇るとまた、地の彼方へと沈んでいく。
浮いては沈み、昇って堕ちる。
ただ一生を呆気なく、そして幾度となく繰り返す。泡のような、ユメ。
「なぁ~ん」「にゃぁぁあん」
「……どうしたの、あなたたち」
交互に頭を擦り付けてくる二匹のふわふわがいる。
シロとクロ。もとい、白猫と黒猫。
私の何が気に入ったのだろう。にゃんにゃんすりすりと懐く彼らをよそに、ぼんやりと色を見据えた。
形が褪せ、輪郭が曖昧になる。ただそこにある存在を色として認識する。
もぞもぞと動くシロと、クロ。
――嗚呼、まるで昼と夜のよう。
色、というのは。不思議なものだ。
赤い風船は危険と恐怖の象徴で、
青い風船は森と暖かさを覚える、と。
誰かがそう言っていた。
ニホンとかいうところから来た旅人だったかな。
「……時間ね」
ふぁ、と小さく欠伸をすると、そっと屋根から身体を起こす。
ぽかぽかと眠気を誘う太陽の光が、私の耳元で悪意を囁く。
はぁいソフィー? 寝ていかない? カフェイン摂ってる?
…………寝ません、眠たいけれど。私には約束があるの。
今から歩いてちょうどいい時間だ。この眠気に誘われてしまえば、ちょっと……いや、かなり面倒なことに――。
頬をぺちぺち、ぐぐぐ、と伸び。
目覚めろ私。プリンはすぐそこなのだ。
とろとろふわふわ。ちょっぴり甘く、ちょっぴり苦い。
一口で口の中に甘さが広がり、二口で幸せが広がる。
何かを食べるという行為は最大の娯楽なのだと嫌でも理解させられる、そんな料理。
さあ、幸せを食べに行こう。
私はそっと、幸せに向けて一歩を踏み出すのだ。