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陽陰家

フォークロア(混沌の民間伝承)

この世界の、皆が知ってる、お伽噺。

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 退屈屋の魔女が尋ねた。
「貴方はだあれ?」
 仏頂面の男は応えた。
「僕は僕だ」
 魔女は笑った。
「そう。貴方は――貴方なのね」
 仏頂面の彼はもっと怒ったように言う。
「そうだ。僕は僕でしかない――非常に不本意な事にね!」
 彼女の求むるは『楽しい一時』で、彼の願いは『自身が何処までも自分ではない事』だった。
 ならば、話は簡単で――彼女は幻のベールに笑い、彼は仮初の衣装に快哉を上げた。
「楽しいでしょう?」
「楽しいね」
「姿が変わるだけなのに?」
「姿が変わるだけでもね。僕は僕でいなくていい」
「ところで、貴方はどちら様?」
「ただの、何も持ってない王様だ」

――――『笑う魔女』二百九十七ページより

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