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手記
(頬の弄る風に、故郷を思う。父も母も土へと還り、あのひともまたあるべき場所へ帰っていったけれど、友はおれども家族と呼べるひとはもういないけれど。それでも、私は必ず、帰るから。還るから。そうしたら、墓前に、空に、風に、友との酒の肴に、この不可思議な世界のことを、私の冒険物語を(さて、私はこの先冒険などするのかしら。わからないけれど)、語ろうと思う)
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国の外れに、その森はあった。
名はなんといったろう。森の入り口にあたる小さな村のだれもが、名前など知りはしない。
――森は、森。
どうやらよくない謂れを持つらしいその森を、村人たちはあまり好ましく思ってはいないようだった。
森のかぼそい小路を、途中でさらに脇道へ逸れると、やがて小さな泉に行き当たる。
あたりには小剣のような葉を持つ植物が群生し、季節になると素朴な、けれど美しい花を咲かせるのだが――今はまだ、その盛りには遠い。
泉のほとりには、小さな家が一軒建っている。
木材で作られた家はこの辺りではありふれた造りで、こじんまりとして、どこか忘れ去られた風情を持ちながらも、廃屋というふうではなかった。
日が昇って、しばらく。
朝もやが薄れ始めたその家の扉が、不意に開かれた。
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