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手記
(今受けているものは、母が子へ語り継ぐような民話たちの翻訳だった。ロエメ語の中でもこうした性質の物語は地方色が強く、辞書や論文などを駆使して調べながら進めてはいるものの、もう随分と苦戦している。〆切はあってないようなものではあるが、それにしても、)……振るにしても、もうちょっと適切なひとはいたんじゃないの。廃れた分野とはいえ、ちゃんとした研究者だっていないわけじゃないでしょうに。ああ、だめ、この言葉もわからない。食べ物っぽいけど……形的にはたぶん末期の……、(仕事のおおよそ大部分は、こうした細々とした調べもので終始する)
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国の外れに、その森はあった。
名はなんといったろう。森の入り口にあたる小さな村のだれもが、名前など知りはしない。
――森は、森。
どうやらよくない謂れを持つらしいその森を、村人たちはあまり好ましく思ってはいないようだった。
森のかぼそい小路を、途中でさらに脇道へ逸れると、やがて小さな泉に行き当たる。
あたりには小剣のような葉を持つ植物が群生し、季節になると素朴な、けれど美しい花を咲かせるのだが――今はまだ、その盛りには遠い。
泉のほとりには、小さな家が一軒建っている。
木材で作られた家はこの辺りではありふれた造りで、こじんまりとして、どこか忘れ去られた風情を持ちながらも、廃屋というふうではなかった。
日が昇って、しばらく。
朝もやが薄れ始めたその家の扉が、不意に開かれた。
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