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手記
(ヴァイノ。王都に居を構える商人で、私にとっては古馴染みの友人でもある。最近は雇人も増えて自分で行商に出ることはなくなったというが、それでも遠方に住まう私を心配して、半年に一度は顔を見せてくれるのだ。彼はきっと、五つも年下の私の兄貴分のようなつもりなのだろう)(村のひとたちは恐らく、そうは思っていないのだろうけれど。それも仕方がない。独り身の女の家に定期的に男が泊まっていくとなれば、邪推するのも当然なこと)
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国の外れに、その森はあった。
名はなんといったろう。森の入り口にあたる小さな村のだれもが、名前など知りはしない。
――森は、森。
どうやらよくない謂れを持つらしいその森を、村人たちはあまり好ましく思ってはいないようだった。
森のかぼそい小路を、途中でさらに脇道へ逸れると、やがて小さな泉に行き当たる。
あたりには小剣のような葉を持つ植物が群生し、季節になると素朴な、けれど美しい花を咲かせるのだが――今はまだ、その盛りには遠い。
泉のほとりには、小さな家が一軒建っている。
木材で作られた家はこの辺りではありふれた造りで、こじんまりとして、どこか忘れ去られた風情を持ちながらも、廃屋というふうではなかった。
日が昇って、しばらく。
朝もやが薄れ始めたその家の扉が、不意に開かれた。
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