PandoraPartyProject

ギルドスレッド

宿屋【金色流れ星】

一周年記念特設スレッド

PPP一周年記念ということで作ってみました!各自が自分について語るのもよし、イベントを催すのも良しな比較的自由度が高いスレッドです!
簡単なSS(ショートストーリ)等や設定について語って頂いても問題ありませんのでどうぞお気軽にご利用くださいです。

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【リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)】
『深緑でお世話になった人たちへ伝えたいこと』

 「何でどこも人工の物ばかりなんでしょう」
 「何でこんなに緑が少ないのでしょう」

 リディアは幻想の街の中をうろうろと歩き回っていた。
活動の拠点とするための場所(住処とか塒とか人によって言い方は違うと思うが)を探していたのだ。
少しばかりの自分の荷物が置けて、寝る場所があって、なるべく静かで緑が多いところかその近く。条件なんてそんなもんだ。
まぁ、部屋があれば最初の二つはクリアしたも同然なので実質条件は一つだ。

 結局、宿代の兼ね合いもあり王都メフ・メフィートの都心部から少し外れた路地にひっそりと佇む宿の一室を借りることに決めた。
自然が多いところ、とは言い難いが静かだしお値段が安かったのだ。イレギュラーズとして駆け出しの身ではあまり贅沢も言えない。

それでも、その宿に同じように部屋を借りるイレギュラーズがいて、話をしたり一緒にひと時を過ごすようになったり。

「何とかうまくやれてるでしょうか?」

 幻想種の店主が営む花屋さんから少しばかり花を買ってきては部屋に置いてみたり。

「この前ハーブティーを頂いたんですよね。美味しかったなぁ……」

 ローレットの依頼で知り合った方が住む別の宿に顔を出すようになったり。

「声をかけてくださった方以外にも仲良くしてくれる方達がいて。一緒にお仕事をすることもあったりして。最近、引越しも考えています」

 街角でイレギュラーズたちのたむろする酒場に行ってみたり。

「賑やかなところは苦手ですけど、情報収集のためですからね?おかげで最近賑やかなのにも慣れてきましたけど」


 いつかまた、深緑に戻って私のことを送り出してくれた人たちに出会えたらお礼を言わないといけませんね。

「自然を守ってくれてありがとう」と。

 まだまだ駆け出しイレギュラーズだけど、私は元気に過ごしていますよ。

-完-
「アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)」
『ある夏の日の決意』

「……日焼け止めがもう無いわ」
 まだ陽が出たばかりの早朝。宿屋【金色流れ星】の一室でそんな声が聞こえた。
 キュイー、とすよすよ眠っているカピブタの呑気な寝言が続いて響く。
 爽やかな夏のある日。今日もこの宿屋は平和であった。

***

「夏ってこんなに暑かったかしら……」
 外出の準備を終えたアンナは照りつける夏の太陽を少し恨めしそうに見上げる。
 去年はどうだったかしら、と思い出そうとして、あまり記憶がない事に気が付きすぐに諦めた。
 一年前の自分の誕生日、死んだ家族から受け継いだ指輪。空中庭園への召喚、それから一度天義に戻って婚約破棄やその他にも家を出るための手続きや準備諸々。
 それから初めての一人旅に出て……幻想に着いたのはちょうど去年の今頃だったか。目まぐるしく過ぎていく日々の記憶に暑いだとかそういうものは残っていなかった。
 あの頃はそんな事を深く気にする心の余裕がなかったことも理由の一つかもしれない。

 宿を出たアンナは歩いて街へ向かう。森の中だけあって暑さは比較的穏やかだ。ひなたを避けながら進めば、時折吹く風が熱を和らげてくれる。
 夏空のような色の日傘を差し、歩く上下動に合わせて髪に結んだ黒色のリボンが揺れる。
 どちらも去年のアンナは持っていなかった物で、そしてとても大切な物だ。特別な力は何もないけれど、何となく足取りが軽くなる。

 しばらく歩けば森を抜けて一番近くの街に着く。そのまま乗り合いの馬車に乗って王都へ。
 単に日焼け止めならば街でも手に入るのだが、ついでに他の化粧品類も調達したかった。アンナが愛用している物は王都でしか買えないのだ。
 馬車に揺られること半日。何事もなく王都に着いた馬車を降りて、王都の大きな門を抜けると大通りをまっすぐ進んでいく。

 もう日はかなり傾いているが、王都の人通りは多く賑やかだ。サーカス騒ぎで沈んでいた頃がまるで嘘だったかのように活気付いている。
 感慨深くその様子を眺めながら歩いていると、ローレットの建物が見えてきた。しかし今日は用がない。そのまま通りすぎようとして……ふと、中が騒がしい事に気が付いた。
「何かあったのかしら?」
 基本的に何でも屋のギルドだけあって緊急の依頼が舞い込むことも珍しくない。一応顔を出してみようと予定を変えたアンナはギルドの扉を開けた。
 中に入るとやはりいつもよりざわついているように感じる。人が集まっている方を見れば、どうやら一枚の依頼書が原因になっているらしい。
 掲示板に近付いて貼り出されているそれを人だかりの後ろから読もうとする。
「う……」
 前にいる人が邪魔でなかなか見えない。しかし見えないからどいて欲しいと頼むのも何だか癪だ。
 背伸びしながら四苦八苦していると、どうにか依頼の場所らしい部分だけ見えてーー

ーー聖教国ネメシス

 その国の名を認識した瞬間。頭がくらっとして視界が歪んだ。
 自身の心臓の音がやけに大きく聞こえる。周囲の喧騒が遠くなっていき、脳裏に過去の光景がーー

「ねえ、大丈夫?背伸びが辛いなら私が見てこよっか?」
「……っ!……大丈夫。少し目眩がしただけよ。ありがとう」
 後ろからかけられた声で我に返る。周囲の喧騒が戻ってきて、アンナは頭を軽く振った。視界はまだ揺れていて気持ち悪い感覚が残っているが、一度深呼吸してどうにか持ち直す。
 同業者であろう少女の心配そうな視線を背中で受けながら、足元がふらつきそうになるのを我慢してローレットを後にする。

「そう。ついになのね」
 夕陽に照らされる大通りを歩きながら、アンナがぽつりと呟く。
 天義が動いた。今後も継続的に依頼が出るようになるだろう。
 ついに彼の国と再び交わる時が来たのだ。未だに夢で見るあの日の光景を思い出す。飛び散る鮮血。祖父の冷たい眼差し。ただ泣き叫ぶだけの自分。
(あれだけは、絶対に繰り返すわけにいかない)
 ぎゅっと手を握りしめて決意する。
 不安はある。あの日あの場所に今の自分が立っていたとして、何か運命を変えられるのだろうか?今まで何度もしてきた自問だ。
一年前の答えは「変えられるわけがない」だった。でも今は。

 髪のリボンにそっと手で触れる。その贈り主の事を想えば不安は和らぎ、決意はより強くなる。
 できるできないじゃない。今変えられないのなら、変えられるまで強くなるしかない。
 帰るべき家となった宿屋で一人誓った事だ。
「もう二度と、私の大切なものを奪わせはしない」
 金色の瞳で挑むように天を睨みつける。
 奇しくもその場所は「始まりの日」、彼女が己の運命を嘆いた時と同じ場所だったが、アンナはその事に気が付いていない。
 嘆くだけの少女はもういない。決意の刃を胸に秘め、運命を変える力を持つ彼女の歩みが止める事はないだろう。
 二年目が、始まる。

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