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ギルドスレッド

アルトバ文具店

PPP二周年【日記帳】

机の上に一冊の本がある。
或る旅人の日記帳のようだ。

公式掲示板「捜索立候補スレッド」にてお名前を拝見した方、依頼でお世話になった方をお借りしております。
ご厚意に甘える形となりますので、削除して欲しいなど御座いましたら遠慮なくお申し付け下さい。

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『蜜柑の文香』 フェスタ・カーニバル様(p3p000545)

「……ふぅ」
 深呼吸の音がひとつ。それと、少しばかり冷えた汗が額から一筋。
 それが終わりの合図だった。
 吹き上げた炎翼にひらひらと氷の結晶が混じる。
 相対する熱量は双手の盾に収束し、元の巨大な盾へと形を戻した。
「大丈夫だった?」
 両手で掲げるほどの巨大な盾。だと言うのに扱う少女に疲労は見えない。
 ただ、背後を案ずる心配の色が瞳に浮かんでいた。

「浴衣もいいけど、水着も着たいなぁ。どっちがいいかなぁ。うーん、迷っちゃう!」
 湿った草土の匂い。山裾から伸びる白い雲。
 夏の始まりが近づいている。
 依頼が終わった開放感からか、彼女は青い空に向かって大きく伸びをした。
 先ほどまでの勇姿は鳴りを潜め、道を歩く姿は年頃の少女そのものだ。
「どうしたの?」
 無遠慮に向けられた視線に気づいたのか、微笑みが上を向いた。
 君はどうしてそんなに強いのか。
 守るという気迫は、護るという信念は、一体どこからやってくるのか。
 閉じた口の中で疑問を消す。
 聞くまでもない。これは彼女が重ねた努力の可視化だ。
「いや。きっと、どっちも似合うだろうなぁと思って」
 水着も、浴衣も。

 蜜を集める蜂の羽音が聞こえる。
 道脇に咲いた柑橘類から、白い花の香がした。
『弁柄のメダイユ』
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ様( p3p001837)

 雪の中、揺れる髪は炎を含んだ鉄朱に似ていた。
 
 異世界の歴史を研究する事務所。
 名前だけは立派な看板だと、珈琲の香りを纏わせた家主は控えめに笑む。
 名前だけでは無いと分かっていないのは本人だけなのだろう。誰もが、家主の人徳に惹かれている。
 そこの窓に突如としてヴァリューシャちゃんが現れるのは、一種不思議な安堵感を人に齎している。気がする。恐らく。

 屈託のない笑顔。少女の愛らしい悪戯心。
 信念という火花の煌めきを宿した翡翠の瞳。
 経験が鍛えた錬鉄の如き敬虔なる鋼の子。
 祈る姿に冬の香を感じるのは、彼女が室内に雪を投げこむ光景が印象的だったからだろうか?
 それとも二つ名の暴走特急の名に恥じぬ活躍が、数多の報告書に記載されていたから?

 とにもかくにも、遠くに見える白い外套の背を見て願う。
 どうか健やかに、と。
『蒼白の杯』 グレイル・テンペスタ様(p3p001964)

 クリスマスという祭りがシャイネン・ナハトと名を変えた年。幻想の街でそりを引いていたのは、流氷を思わせる毛並みを持つ、美しい狼だった。
 雪のちらつく夜空の下、雑談交じりに知ったのは獣人の名と暖かな蒼白さ。そして子供の喜ぶ声を聞きながら、目を細めて聖夜を楽しむ優しさだった。

 それから、静けさと人懐っこさを同居させた不思議な青年の名を報告書で見るたびに微笑ましく思った。
 時には行先が重なることもあった。
 幻想のスラムで流行した病。戦場のような教会。
 病人の心を癒す、あの幻想的な光景を忘れることはできないだろう。
 神聖とは視覚からも感じ取れるものである。
 聖杯の名を抱いた蒼を思い出す度に、そう感じる。
『楢材の紅入れ』 ゴリョウ・クートン様(p3p002081)

「あの人の事を粋って言わず、何を言うんだい?」
 誰の声かは分からない。
 けれども通りすがった声が鮮明に耳に残った。
 滲んだ憧憬、自然な感嘆。
 愛するマスコットへ向ける感情にも似て、非なるもの。
 そこには確かに尊敬の念がある。
 崩れないバベルがどのような仕事をしたのかは分からない。
 だが良い仕事をしたのは間違いなかった。
『粋』
 彼を表現するに、これほど相応しい言葉はない。

 既視感を覚える水着姿で(土俵入りしそうだなぁという感想は堪える)海洋の浜辺に立っていたかと思いきや、いつの間にやら堂々の、流しの浴衣へと早替えていた。
 彼は、変わり者ばかりが集った混沌の中でもよく目立つ。
 眼光炯々とした力強い金の瞳を持つからでも、巨体だからという理由でも無い。
 ゴリョウ君を見つけたければ、笑いの絶えない人だかりを探せば良いからだ。
 中心から豪快な笑い声が聞こえれば正解。
「おいおい、よしてくれよ」
 照れたような、はにかんだ声が聞こえれば大正解。
 屈強で頑強な勇者が、その実、気の好い青年であることは周知の事実である。

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