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アルトバ文具店
●チック・シュテル様(p3p000932)
銀の鈴ならせ。銀の鈴ならせ
昼には甘い雨の唄
金の鈴ならせ。金の鈴ならせ
夜には冷たい水の底
「きれいな、歌、だね……」
階段に腰をかけていた洗濯屋の老女は顔をあげた。
目の前には琥珀の宝石が一つ。己を見つめる透き通った眼差しはじっくりと煮込んだスープのようで、じんわりと心を温める。
「ありがとうよ。この歌を知らないってことは、坊やはこの辺りの出じゃないね?」
「うん……」
おっとりとした時間が流れる。
眠りに落ちる直前の、微睡みに似た声が耳に心地よい。灰色の髪に真っ白な羽根。薄曇りの空にも似た色彩が老女の傍らにちょこんと腰を下ろす。
「それ、なんていう、歌……?」
「水こいの歌さ」
「みずこい?」
「そう。昔、この辺りには井戸がなくてねぇ。こうやって洗濯をするどころか、雨が降らなきゃ水も飲めないような枯れた土地だったのさ。だから歌をうたったり、生贄を捧げたり。そうやって雨雲を呼ぼうとしていたんだよ」
「いけにえ……」
ふらりとやってきた灰色の小鳥がしょんぼりとした哀しそうな声を出したので、女は思わず洗い物の手を止めた。
老女の幼い孫が、時折そのような声で夜を怖がっていたものだから、つい重ねてしまったのだ。
「安心をし、昔の話さ。今じゃあ歌しか残っちゃいない。けれど、そんな時代があったことを忘れないように。この辺りの村には水こいの歌が伝わっているんだよ」
そう言って、老女は安心させるように手についた泡を吹き飛ばした。
太陽の光で虹色に輝いたシャボン玉は妖精のように気まぐれにチックの目の前を横切り、吸い込まれるように青空へと昇っていく。
シャボン玉を見送ってからチックは老女に問いかけた。
「いまは、雨……降る?」
「今でも雨は少ないよ。だけど井戸から水が汲めるようになったから、前のように苦しむ者は減ったねぇ」
「……良かった。でも、水が少ないの、大変……」
「そうだね。大変だけど慣れちまったからねぇ」
「おれも、一緒に、歌っていいかな……」
抱えた膝に片頬をつけ、チックは自分ごとのように微笑んだ。
「勿論だよ」
銀の鈴ならせ。銀の鈴ならせ
昼には甘い雨の唄
金の鈴ならせ。金の鈴ならせ
夜には冷たい水の底
幽かな歌声が響き渡る。
外で遊んでいた子供たちも、物売りたちも足を止め、その不思議な歌声がどこから聞こえてくるのだろうかと目をこらした。
そして日の射した階段に座って歌う、一人のスカイウェザーを見つけた。
見えない誰かと寄り添うようにして歌う其の姿は美しく、乾燥した砂漠の街を潤すように朗々とした歌声を響かせていた。
Thank you!
銀の鈴ならせ。銀の鈴ならせ
昼には甘い雨の唄
金の鈴ならせ。金の鈴ならせ
夜には冷たい水の底
「きれいな、歌、だね……」
階段に腰をかけていた洗濯屋の老女は顔をあげた。
目の前には琥珀の宝石が一つ。己を見つめる透き通った眼差しはじっくりと煮込んだスープのようで、じんわりと心を温める。
「ありがとうよ。この歌を知らないってことは、坊やはこの辺りの出じゃないね?」
「うん……」
おっとりとした時間が流れる。
眠りに落ちる直前の、微睡みに似た声が耳に心地よい。灰色の髪に真っ白な羽根。薄曇りの空にも似た色彩が老女の傍らにちょこんと腰を下ろす。
「それ、なんていう、歌……?」
「水こいの歌さ」
「みずこい?」
「そう。昔、この辺りには井戸がなくてねぇ。こうやって洗濯をするどころか、雨が降らなきゃ水も飲めないような枯れた土地だったのさ。だから歌をうたったり、生贄を捧げたり。そうやって雨雲を呼ぼうとしていたんだよ」
「いけにえ……」
ふらりとやってきた灰色の小鳥がしょんぼりとした哀しそうな声を出したので、女は思わず洗い物の手を止めた。
老女の幼い孫が、時折そのような声で夜を怖がっていたものだから、つい重ねてしまったのだ。
「安心をし、昔の話さ。今じゃあ歌しか残っちゃいない。けれど、そんな時代があったことを忘れないように。この辺りの村には水こいの歌が伝わっているんだよ」
そう言って、老女は安心させるように手についた泡を吹き飛ばした。
太陽の光で虹色に輝いたシャボン玉は妖精のように気まぐれにチックの目の前を横切り、吸い込まれるように青空へと昇っていく。
シャボン玉を見送ってからチックは老女に問いかけた。
「いまは、雨……降る?」
「今でも雨は少ないよ。だけど井戸から水が汲めるようになったから、前のように苦しむ者は減ったねぇ」
「……良かった。でも、水が少ないの、大変……」
「そうだね。大変だけど慣れちまったからねぇ」
「おれも、一緒に、歌っていいかな……」
抱えた膝に片頬をつけ、チックは自分ごとのように微笑んだ。
「勿論だよ」
銀の鈴ならせ。銀の鈴ならせ
昼には甘い雨の唄
金の鈴ならせ。金の鈴ならせ
夜には冷たい水の底
幽かな歌声が響き渡る。
外で遊んでいた子供たちも、物売りたちも足を止め、その不思議な歌声がどこから聞こえてくるのだろうかと目をこらした。
そして日の射した階段に座って歌う、一人のスカイウェザーを見つけた。
見えない誰かと寄り添うようにして歌う其の姿は美しく、乾燥した砂漠の街を潤すように朗々とした歌声を響かせていた。
Thank you!
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途中まで書かれた礼状だ