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異世界歴史学研究調査事務所

応接室の日常

 外面を整えまくっている異世界歴史学研究調査事務所だが、その実その取り繕った立派さを発揮する事は滅多にない。何故ならそれを利用する立場にある男が非常に面倒臭がりであり投げ遣りだからだ。
 例えば、己の伝記を書かせるのに大枚をはたきそうな金持ちの上客であれば、男は部屋を改めて整え、不精髭を剃り、髪の毛をキッチリ撫でつけて出迎えるだろう。
 だがそう言った上物の依頼客は事前の予約が必須としている。『忙しい≒凄い繁盛してますよ』アピールをする為にもそこは徹底しているし、そもそもそう言う類の客は普通事前に連絡か人を寄越すのでどの道飛び込みはほぼあり得ない。

 よって、平時の応接室はつまり、男にとってはのんべんだらりだらけるための休憩スペースに他ならないのである。

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しかし手垢のついた物語はいけない。手を変え品を変えても、大元の味は同じだ。
大量生産された物語はいわばジャンクな味がするのだ……と、ジャンクと名乗っている汝を誹るつもりはないぞ?
(何事もなかったかのように椅子に座り直して、コップに残った水を口にする)
だからそう、そうだな、この場合の言葉は……そう、読者。
わたしは汝の書く伝記の読者になろう。
そして新しく書きあがった伝記の最初の読者となり、その味わいを汝に伝えよう。
悪くはない契約だと思うが、どうか。

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