誰も通らない、通るはずのない、戦うのに不便しない路地裏。

(のんびりと男を見上げるその目に、未だ敵意は無い)

(確かな衝撃と、肉を千切る感触。ソレがよろけてたたらを踏む……が、倒れる様子はない)

……熱烈だねぇ。あ、血や肉はうっかりでも飲まない方がいいよ。カタチを喪いたくはなかろう？

(本能的な嫌悪感をその血や肉から感じるかもしれない。それと同時に頬と首元に痛みが走るだろう。ソレに付けた傷が、いくつか返ったのだ)

っ、いってぇ…!!反持ちか…。(鋭い痛みに首を押さえながら距離をとる。野生の勘なのかなんなのか、口を焼きそうな魔力の塊を口からペっと吐き出し。)バケモノ…と言うにはちと魔力が莫大すぎるな…。

(首元を血でしとどに濡らしながら、痛みなど感じていないように笑って) ヒヒ……！ ほら、怯んでる場合じゃ無いよ？(指先で小さく不可視の魔弾を放ち、足元を狙う)

っ……!!!?(首の痛みに視界がグラリと揺れたと同時に跳躍失敗し、魔弾が全弾Ringの身体に被弾する)

そりゃあ、仮にも魔術師だしね？ 近寄らせない戦いは基本だよ。(流れ出る血は明らかに致命傷で、かつ、人間のそれよりはるかに多く流れ続けている。流血で“死に続けて”いるのだろう)

(足や頭から血を流しながらフラフラとなんとか立ち上がって。口からペっと血を吐き出して)ケッ…魔術師なんて名前だけじゃねーか…バケモノヤロー。

我(アタシ)の方が重傷なのに、ずいぶんな言われようだなァ……その言葉、我(アタシ)の可愛い小鳥(ヨタカ)にもそれなりに適用されちゃうから気をつけた方がいいぜ？

…テメェ、ヨタカをどこ迄改造した…?(切れた唇を拭きながら片目で凄んで睨みつけて)

どこ迄改造……ンー……(口元に指を当てて考えて) ……魂ごと混ざっちゃってるからねぇ。そういう観点なら全部、って言えるんじゃない？ 少なくとも、もう普通の飛行種と同じ時間は過ごせないね。

(近距離攻撃しか知らない俺に魔術師の相手はフリだ。だがこのイカレポンチはマジイケすかねぇ。絶ッ対ぶっ潰す。血が溢れるのも気にせず低い姿勢から筋肉だけで飛び出し、肉薄戦へ持ち込もうと)

(打撃の瞬間、大きく後ろに跳躍して威力を殺し、壁へ着地する。男の力が抜けた一瞬を狙ってソレが飛びかかった)

…っ……!?(フラリと地面に倒れ込みそうになった瞬間迫ってくるソレに反応が遅れ。)

(男のすぐ目の前へ着地すると、その勢いを利用して胸倉を掴みながら顎下を狙って掌底を繰り出す) ーー舌を噛むなよ？

っがっ…!!!?(何とか舌を噛むのは免れたが顎下からのクリンヒットで視界が揺れる。こいつ、接近戦もできるのか…!)

魔術師には2種類居てね。懐まで潜り込まれて死ぬ魔術師と、

(その痩身の何処から力を出しているのか、自分より大柄な男を片手で掴み上げて宙へ浮かせ)

ーー接近戦もこなせて死なない魔術師さ。

(近くの壁に男を叩きつける)

カハッ…!!!(叩きつけられ息が出来なくなる。頭が霞むが何とかつなぎ止めて。ソレの腕を掴んで抵抗しようと。)

(別に多少自分の腕が折れても裂けても気にする程ではない。とりあえず、男を気絶させておいて、それから回収を小鳥に頼んで、それからーー。嗚呼、小鳥。小鳥。キミの所のーーぼんやり考え事をしながら男の首を絞めていて)

……おっと。

(押し返されて、意識を男へ向ける)

ハッ、違う事考えて余裕だなぁ商人さんよォ。(腕の力が緩んだ瞬間を見計らって手から逃れると、商人をそのままその場へ引き倒して。４の字固めの状態で商人の腕の間接を外して動けなくしようと。)

あ痛。(ごきん、と鈍く悍ましい音が響いてソレが小さく声を漏らす)

……嗚呼。小鳥の感情を奪うのだったら、今度はそれ用の"改造"をする必要があるかと思ってね。

(言葉で注意を自分の顔の方へ誘導しながら、服に仕込んである魔術を起動させて男が抱え込んでいる自分の腕を起点に爆炎を発生させる。常人であれば全身火傷で死ぬ所だが、特異点であればまあ、深手は負っても死にはしないだろう)

ヨタカには触らせねぇって言っ…がぁあああああぁああ……!!!?(爆発により触れていた場所に発火。熱さと痛みと、喉が焼ける感覚にその場をのたうち回って。必死に炎を消そうと。)

(ゆっくり立ち上がったソレの、だらりと下がった片腕は爆発の起点となって当然、焼け爛れ、壊れて業炎に包まれている。指の先などは炭化してしまっていて、美しかった手がかなり酷い有様であったがソレは気にかける様子すらなく男を見下ろす)

キミの敵意そのものは心地がいいのだけれど……キミは小鳥が大事にしているものだから、なるべく壊さないようにするのが難しいね。今はあまり丈夫ではないのだし、そろそろ気絶してくれると嬉しいのだけど。

(顔の殴られた痕は既に腫れは引いている。噛みちぎられた首元は、流血が止まり傷が僅かながら塞がりつつあった。まだ傷らしい様相にはなっているが暫く放っておけば治るだろう)

………。(火は消えたが火傷で赤く爛れた顔で、焼かれた喉から漏れる息を吐き出して楽しそうに笑って。すぐにくたばってやっかよバーカと舌を出して中指を立てて煽る。)

……。(にこ、と嬉しそうに無邪気に笑って、その頭に手を伸ばす。洗脳は通じずとも、人間としてまともな構造をしているのであれば、脳に魔力を流されて直接揺らされるなら話は別だろう)

(抵抗を試みようも腕はもう使い物にならない。首だけは辛うじて動くために首を動かして抵抗する。ワンチャン噛み付こうと牙を剥いて。声にならない狼の唸り声が裏道に響く。)

さて、これで詰み、だと楽なんだが。(しゃがんでその頭を掴み、魔力を流して脳を揺らすことで気絶させようと)

……………!!!(声にならない声を上げて身体がガクガクと痺れる。あぁ、でもあの遠くに聞こえる音は…魔力を流されながらもニタリと笑って。)

っ………商人…!!アベル…!!!!(翼が翻る音と共に2人の名を呼んで。滑空して降りて来るとそのまま商人の腕をつかんで。Ringから引き離そうと。)

ーー。(腕を掴まれながら、少しだけ不満げに小鳥へ振り向く)

(商人へ向かってべぇと舌を出して。ざまぁみろとでも言いたげな顔で。)

なんで、こんな事になってる…どうして…!!!?(溢れる涙はそのままに、震える声を零しながら商人の腕を抱き込んで。)

(自分に向かって舌を出す男にやれやれ、と子供を見るような視線を向けてから) 迎えが来たなら無理に気絶させる必要もなかろう。速く手当しておやり。(我(アタシ)の腕を抱え込んでる場合じゃないんじゃない？と小鳥に抱えられている無事な方の腕を抜こうと)

(どうせ坊ちゃんはどっちも大事だから引かないんだろうなぁと思いながら、面倒になってきたのでそのまま意識でも手放す。決して眠るわけじゃねえ。)

(フルフル首を横に振って)答えて…どうしてこんな事になった…。(ぎゅうと腕を更に力を込めて掴んで、離さないと言わんばかりに。)

(腕から力を抜いて) …、どうしてと言われてもね。我(アタシ)は襲われたから、なるべく穏当に応戦しただけだよ。

アベルが…商人を…?(込めていた腕から力が抜ける。また涙が溢れて。)……俺の…せい…?

ン？ キミが命じたの？あるいはそう願ったとか？

願ってない……!!(必死に首を横に振って)アベルが…誰かに…命じられたのか…自分でやったのかは…分からない…けど……俺が…心配かけた…せいだ…。(その場に崩れ落ちて、頭を抱えて。数日前に会った頃よりもやつれて見える。)

それならキミの所為って事は無いと思うんだけどなァ、…、(いつものように抱き締めようと手を伸ばしかけて、直前で引っ込め、小鳥の周りをうろうろし)

……、……、

……触って、いい？

……俺の記憶…消さない……?(手の甲で涙を拭いて、商人を見上げて。)

……“それをキミが望むなら”。(濃い紫水晶のような目に少し憂いを宿しながら)

………。(少し沈黙が続いた後コクリと頷いて)

嗚呼、よかった。キミの感情を喰えないなら、我(アタシ)がいる意味が無いもの。(男へ背を向けると、無事な方の片手を小鳥の背へ回してぞろり、ぞろりと這入り、悲しみや苦しみ、罪悪感などを喰い始め)