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ギルドスレッド

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商人ギルド・サヨナキドリ

【PPP First Anniversary企画】大根・バイオ・ハザード

サヨナキドリーー其処は何処にでも在って何処にも無い不可思議な店である。商人ギルドを謳うだけあって構成員が何人かいるものの、彼ら彼女らでさえ店内の全貌は把握しきれていない。
上り下りの階段は探そうと思うといくらでも出てくるし、空き部屋はたくさんある。そこの主人の”改装”で外装も変わるし、なんだったら入口の扉から出る先は一定ではない。
その奇妙な店にはその存在と同じく、奇妙な品物が揃っている。

「元々はね、荒れ果てた土地にも負けない作物を作ろうという目的を以ってして生まれたモノだった」

ゆったりとした語調でギルドの長ーー武器商人(p3p001107)と周りから呼ばれるモノはある部屋の一室で、傍に居た青年に語りかけた。
話しかけられた青年の年は20に至らぬくらいだろうか。緩い癖毛の黒髪に相反した鋭い金色の目、褐色の肌を簡素な衣服で覆った人間種風の青年は窓際の壁に寄りかかり外を眺めていたが、声を聴くと己の主人へと視線を投げた。

「……だった?」
「そう……いや、実際にその目的は果たされている。アレらはいかに不毛な土地でも根付き、育ち、そして病や虫にも負けずにその数を増やしていく能力を持っている。だが、」
「ーー結果として、作られた作物が食べられることはほとんどございませんでした」

部屋の入り口から柔らかい男性の声が武器商人の言葉を引き継いだ。黒髪の青年より年上だろう。絹糸の様な長い白髪に夕焼け色の瞳、獣種の様に髪と同じ色の狐耳と尻尾を生やした男が肩を落として立っている。いつもは涼やかな響きを含んだ声も、今はどことなく疲労を滲ませている様だった。

「……食う物に困っていたんじゃなかったのか」

黒髪の青年は訝しげにそう尋ねる。その疑問も最もだろう。痩せた土地で育つ植物を作るということは、すなわち食料の困窮を意味するからだ。どれほど荒れた土地を目にしたのかは知らないがこの奇ッ怪な魔法のような存在が動くのならば相当深刻な問題であったことは想像に難くない。

「その通りです。正確には……食べることができなかった。ええ、そうでしょうとも。なにせ……」

すぽーん!

窓の外で、細長い影が地面から空へ伸び上がる様に放物線を描いた。黒髪の青年がその軌跡を目で追うと、その先には大根があった。

\あっは〜ん/

「食べようと思った大根が逃げるのですからね……!」

大根であった。

大根である。

大根……だろうか?

豊かな女優の髪を彷彿とさせる緑の葉は瑞々しく、白い肌地はきめ細か。ひげ根を恥じらう様な仕草で身を捩らせる二股の実は艶めかしい曲線を描いている。

\うっふ〜ん/

その大根は優雅に地面へ着地すると二股の実……否、脚と表現するべきだろうか。脚を器用に交互に動かして走る、走る、走る。……疾い。小動物の様にちょこまかとした動きは、たとえ獣種でも捕まえるのは苦労するに違いなかった。

「……なぜ、走るんだ?」
「ヒヒ……何故だっけねえ。あァ、そう、そう。天変地異が起こったら自分で逃げられるようにしよう、と確かクロウリーの旦那が」
「それで、大根1本に無駄に集められた無駄に豪華な魔術師錬金術師の皆々様はどなたもツッコミを入れやがらなかった……と」

白髪の男は深くため息を吐く。この気まぐれな主人は、無辜なる混沌に喚び出される前はそれはもう好き勝手に振舞っていた。……否、今もだいぶ好き勝手しているのだったと首を振る。いつもいつも、その思い付きは多くのものを巻き込んでとんでもない騒ぎを引き起こすのだ。

「ーー真砂、あの大根は外に出てもいいものなのか?」
「良いわけがありません。繁殖力が高い外来種を、無闇にこの店の外に出すわけにはいきませんからね」

ふと、黒髪の青年が白髪の男ーー真砂にふと問いかけた。真砂は主人と悪人を斬ること以外に興味を示した青年を珍しいと思いながらもそう答える。

「……何か、仕掛けがあるのか。売る時とか、畑に」
「一応、この店で売る時はちゃんと雁字搦めにしたり魔術で動けなくしてから売っています。畑の四方には大根たちが此処から外へ逃げ出さない為の結界も張ってありますから、誰かが壊したりしなければ何も問題は……」
「それは」
黒髪の青年は窓の外へゆっくりと視線を走らせる。その先には、畑の隅に転がったーー

「俺が躓いて壊したアレのことか?」
「うん、そう」
「サイード……!貴方という人は……!」

黒髪の青年ーーサイードは悪びれなくぼっきり折れた杭のようなものを指差す。白髪の男は頭を抱えたが武器商人はさも愉快そうに「おや、大変」などと白々しく笑った。彼の「うっかり」は生前の呪い(ギフト)に依るものである以上、真砂もなかなか怒るに怒ることができない。なにせ彼自身は間違いなく、最大限に警戒をしているのだから。それでもドジをしてしまうのが彼の呪いなのだ。……とはいえ、それと悪びれない態度は全く別物であることには違いないのだが。

「まァ、我(アタシ)の畑にいる大根は逃げるだけで無害だがーー無辜なる混沌(このセカイ)のナニかと交雑でもしようものならどうなるだろうねぇ?」
「俺は主人と悪人以外興味ない」

真砂は思わず卒倒しそうになった。むしろいっそ卒倒したかった。逃げるだけにとどまらず、噛み付く大根や空飛ぶ大根、神秘を操る大根がひしめく地獄絵図を想像してしまったからだ。大根で世界が滅ぶなんて事は流石に起こる事はないと思うが、国中の作物に奇怪極まりない逃げ足なんてついてしまえば飢饉問題くらいは起こるかもしれない。そうなれば体力の無い老人や病人や子供が死んでいくのだ。そう、子供が……。

「さ、お行き真砂。キミが想像しうる最悪の状況を回避する為に。事態を収拾する為に。1人で走り回るもよし、誰かの手を借りるも良しーー何、運命がそう望むのならば我(アタシ)もその内駆り出されるだろうさ」

そう笑う主人は”名も無き悪魔”と罵られるに相応しい地獄めいた笑みを浮かべていた。実際、この後起こる小さな大騒ぎが楽しみで仕方ないのだろう。そして自身もノリノリで参加するのは目に見えている。そういうやつだ、コレは。

「こ……の、すっとこどっこいがあああああああああああっ!!!」

いつものことながら。そう、いつものことながら、真砂は心の底から主人を罵倒しながら部屋を飛び出す。そうして頭痛と胃痛に耐えながら事態の対処の為にギルド・ローレットへ向かうのだった。

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