「手を変えるからには此方も品を変えなきゃね」

ソレは笑う。

……ボスが言ってたのはここか。（手元に幾つかの手紙を握って現れる。緊張した面持ちだ）
アルがこの時期に手紙をよこして来たのも、関係があるのか？

大いにあるね。(くすくす、くすくす……と笑いながら、黒い不定形のナニかをソファー代わりに寛いでいる)

お疲れ様ですボス。んじゃあ本題に入んのは役者が揃ってからにするかい？
それともその前に話したい事があって呼んだのか……。

いや、これで揃っているとも。単なる提案さ、朝長の旦那。

提案ときたか。
……オーケー、何でも言ってくれ。
アルにはそれから連絡を寄越すとしよう。（腕を組み、聴く構えを示す）

キミ、番が居ただろぅ。そのコをしばし、此処へ招けないかと思ってね。出来れば子らも。

……。……ご好意は凄くありがたいんだが、それは難しいと思ってる。

『リチャードファミリー』なんて言ってるが、皆で集まる事もないからな。

リチャードについては……俺に後ろ暗い過去があると知っていながら、それに興味がある様子もない。
だからなんにも話してねぇんだ。

好意ではなく、打算なのだけどね。というのもそれなりに理由があるからさ。なにぶん、わだつみのコが方針を変えたからね。

なるほどね。
わだつみの子ってのはランベールの事かい。
熟練の傭兵もボスの前では子供扱いか（やっぱり大者だなぁと染み染み感じて呟く）
『方針』を変えた、ねぇ？そりゃどういう事だ？

え？だって、可愛いじゃない、あのコ。(親戚の子供を愛でる様なとろりとした笑みで笑う)

一時的に「キミを知る」事を、直接的ではなく間接的にする方向に舵を切ったのさ。だから早々に手を打とうと思ったわけだ。わかるだろう？

その『可愛い奴』に散々痛めつけられてた俺は……まぁ、中身は違うみてぇだけどな。

なるほど。それでアルから呼び出しの手紙か。諸々合点がいきましたぜ。
しかしまぁ……実は……アルク・ロードに脅しをかけられていて。
ランベールを殺したら、リチャードを殺すって言われたんです。
手合わせした感じ、奴は強い。

だからランベールを殺す以外の選択肢で、俺の目的を果たさなきゃいけねぇと思ってます。

ああ、流石に手が早いね。我(アタシ)としてはどちらでも「面白そう」だけど、具体的な方法は見当がついてるのかナ？(くすくす、と愉快そうにソレは笑い)

俺のいた組織『白珠の海龍』は海種主義のカルト教団だ。
信仰の対象である海龍……ランベールに憑いてる龍が滅べば、一番てっとり早く奴らを壊滅に追い込めると思ったんだが。

それがダメなら組織の主導者を倒すことになる。
……トカムとも、こちらに引き入れなけりゃ対立する事になんだろうな。

いや、神像仏像は最悪壊れてもね、造り直せばなんとかなるから。信仰は人に依るものさ。海龍(あのコ)を殺すとしたら、海龍(あのコ)自身のコトで殺されるべきだろう。だから、潰すならその方向がいいだろうねぇ。

うン？レプンカムイの旦那？ああ、そういえば。朝長の旦那、余談なのだけどねーー人質の楽な運用方法って知ってるかぃ

なるほどね。俺ァ組織のデカい『礼拝』も祈ってるフリして中指立ててるような奴だったから、ボスのアドバイスは役にたつぜ。

あいつの探してる《ご神体》ってのはランベールの中身の事で違いねぇ。万が一ランベールの居場所を知っちまったら、組織に連れて行こうとするだろう。
そうなると一番最悪のパターンだ。組織にはランベールが渡っちまうし、一応うちの商会の所属だからな。俺の事情を知らないうちは、共犯と間違えられる可能性もある。

……楽な運用方法？なにかいい策があるんですかい？

なに、言ったろ？本当に余談さ。

ひとつは、殺すこと。人質に刃向かわれる心配も無し、その上ではぐらかし続ければ事を有利に運べる。相手にとって1番迷惑なのは生きてるのか死んでるのかわからない状態、ってことさ。

もうひとつ、洗脳という方法もあるね。駒が増えるから技術があればこちらも有効だ。

商人ってなぁ色々な事を多角的に見えた方が売り方も工夫が出来ていい。ボスは本当に商才豊かだ。

なぁるほどねぇ。なかなかにえげつねぇが真理だ。
現にトカムはランベールについて、はぐらかされて地味な手を強いられている。
最初に聞かれた時はマジでランベールの居場所なんざ、知りませんでしたがね。

洗脳は確かに恐ろしい。自分自身の苦い経験で体感済みだ。
（あとは洗脳の手段が見つかればいい。顎に手をあて考えた後）
……、バルドゥインさんを頼ってみるか。呪いの中に、似たようなものがあるかもしれねぇ。

ま、魔術だのクスリだの頼らなくてもーーちょっとした事なら普通の人間でも出来るけどね。(べ、と舌を少しだけ出しそれを指差しながら口の端を釣り上げる)

本当に多芸っスねボス！

後は洗脳の対象をどうするか。アルと話してみて、互いいい関係を作れそうならトカムを。
駄目そうならアルから懐柔するとてっ取り早いか。

……必要んなったら頼めますか？ボス。

長旅してるといろんなことを教えてもらえるからねぇ。ヒヒヒヒ……。

おや、洗脳する方向に行くの？ダーティーだねえ。別に構わないけどさ。(くすくす)

恐ろしい人だ。仲間でいて、これ程頼もしい事はねぇ。

……他人が信じ切れないだけです。商会の仲間とリチャードファミリー。あとはバルドゥインの旦那ってとこか。信頼できんのはそれくらいですよ。

いやァ、あまり我(アタシ)を信じすぎるのは止めといたほうが良いよ？気まぐれだし。信じるならわだつみのコを信じる方がずっとマシだろーね。(けら、けらと楽しそうに笑い)

(立ち上がって窓際に寄り、ぶちりと髪を1本引き抜くと窓の外に落とす。髪の毛は何処かへ風に乗って溶け消え)

なに言ってんですかボス。
俺ァあんたにもう何度も救って貰ってる。裏切られたってついて行きますよ。
何処へでも。たとえ元の世界に戻っちまおうとも。

……？（窓際での行動は、何をやってるんだと目をぱちくりさせて見ている）

(何事もなかった様に戻ってきて)そう、義理堅いコだね。眷属にしてしまおうかと思うくらいには嬉しいなァ。ヒヒッ……。