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惑いの花酒亭

【酒場/常花】

「ねぇ、花を見に行かない?」

黒豹からそんな誘いがあった。
なんでも街はずれに薄紅の花を咲かせる見事な大樹があるらしい。
きちんと片付けさえすれば酒盛りをしていいと地主に話をつけてきたのだと婀娜に女は笑った。
どういう手管を使ったのかは、まぁお察しだろうが。

「マスターは来られないけど軽食と飲み物は提供してくれるそうよ。あとは各々好きなものを持ち寄ってオハナミなんてどうかしら」

異世界の行事を真似てみたいの、と。
薄紅の花弁を零すその木は『桜』という花らしい。

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そーよ、マスターに叱られちゃうわ。
まぁでも、辛子抜きくらいのオーダーだったら受けてくれるわよ。
なにせ常連だもの。
(笑いつつ、横合いから手を伸ばして自分にも茶のおかわりを強請った)

あぁ、なるほど。そういう嗜好品関係で巻き上げてる訳ね。
前にも話した気はするけど、ほんと偉い人たちが悪人らしい胴元してるのねぇ。
そりゃいい儲けになるわよ、嗜好品なんて簡単にはやめられないし。
(口の端から笑う呼気に合わせて煙が零れた)
ジルの意見が理想だけど……お金が絡んだり、あとはそういうのの口出しが大好きな人が出てきたりするとどうしてもね。

だってもし火薬庫の周りで悪戯なんてされたら困るでしょう?
痛みの記憶って残りやすい、し。
もちろんうちが特殊なだけよ、多分。
(わざとらしく悪辣そうな顔をしてみせ、肩を竦めた)
ラダのところのすあまは私たちも初めて会うのよ。
今年のバカンスはまた楽しくなりそうねェ。

(そんな、春先のひと時の話であった)

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