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廃墟
――鉤爪が地に触れる感触。
最後に一度、大きな羽ばたきの音を静かな夜の中に響かせて、翼はその背に収められた。
地上へ着いた合図の代わりにゆっくりと息を吐く。
その呼吸の早さに合わせて抱えていた青年の身体を降ろしてゆく。
難しい、と答えた彼の表情は元通りの凪いだものに。無意識の内に己が求めていたものに勘付いてしまったのだろうか。やはり、敏いのだな、と。
それ以上は何も言わずに良き頃合で掴んでいた腕を離していく。
続かれた言葉には、少し間を空けてしまった。
相手の何かを変える大きなものなど、何も持っていない。けれど、放っておけないのも本音。この身に染み付いた性だ。
であれば少しの間、別の世界から来たこの旅人が求めるままに。
「…ああ、次」
確認するかのように繰り返す相手に意識の外で自身の手が動き、青年の頭へと伸びていく。
撫でようとしているかのように。
「怪我がないようにな」
"次"を明確にしていく言葉を、繋いでいく。
最後に一度、大きな羽ばたきの音を静かな夜の中に響かせて、翼はその背に収められた。
地上へ着いた合図の代わりにゆっくりと息を吐く。
その呼吸の早さに合わせて抱えていた青年の身体を降ろしてゆく。
難しい、と答えた彼の表情は元通りの凪いだものに。無意識の内に己が求めていたものに勘付いてしまったのだろうか。やはり、敏いのだな、と。
それ以上は何も言わずに良き頃合で掴んでいた腕を離していく。
続かれた言葉には、少し間を空けてしまった。
相手の何かを変える大きなものなど、何も持っていない。けれど、放っておけないのも本音。この身に染み付いた性だ。
であれば少しの間、別の世界から来たこの旅人が求めるままに。
「…ああ、次」
確認するかのように繰り返す相手に意識の外で自身の手が動き、青年の頭へと伸びていく。
撫でようとしているかのように。
「怪我がないようにな」
"次"を明確にしていく言葉を、繋いでいく。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎