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廃墟
同じ言い分が返ってきたことに、内心で苦笑を零す。
―確かにな
仏頂面が標準で十数年生きてきている様な男に言えるような事では無かった。
記憶がちらつく度に鉛玉が身体中を撃ち抜くような痛み、顔の筋肉が引き攣り笑う事を拒絶する。いつしかどうやって笑っていたのかさえ思い出せなくなる程の時が流れてしまった。
「…言える様な奴じゃないから、言うんだよ」
表情に変化が無い奴よりは変化がある奴の方が、負の感情ばかりの顔よりは正の感情を映した顔が多い方が、そのほうがいいに決まっている。
己が出来ないからこそ、周囲にいるものが表情を変化させてくれればこの痛みも少しはマシになってくれるのではないかと、そんな筋違いな思考に陥ってしまう。
口角が上がる感覚。男の表情が変わる。
しかし笑顔とは程遠い、――その笑みは自嘲の色で塗り潰されている。
物覚えが悪いから時間がかかる、だから長生きをしろと間接的に言っているのだろうか。
―確かにな
仏頂面が標準で十数年生きてきている様な男に言えるような事では無かった。
記憶がちらつく度に鉛玉が身体中を撃ち抜くような痛み、顔の筋肉が引き攣り笑う事を拒絶する。いつしかどうやって笑っていたのかさえ思い出せなくなる程の時が流れてしまった。
「…言える様な奴じゃないから、言うんだよ」
表情に変化が無い奴よりは変化がある奴の方が、負の感情ばかりの顔よりは正の感情を映した顔が多い方が、そのほうがいいに決まっている。
己が出来ないからこそ、周囲にいるものが表情を変化させてくれればこの痛みも少しはマシになってくれるのではないかと、そんな筋違いな思考に陥ってしまう。
口角が上がる感覚。男の表情が変わる。
しかし笑顔とは程遠い、――その笑みは自嘲の色で塗り潰されている。
物覚えが悪いから時間がかかる、だから長生きをしろと間接的に言っているのだろうか。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎