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廃墟
相手が自分に「子」を想像しただなんて気づきもせず、ただ、その掌のわずかにこもった力と低い体温だけを相手に伝えていた。
今日初めて会った相手だ。自分は、相手の人生に、決断に、何かを言う術を持たない。その権利もなければ、自分なんかの存在が相手に影響を与えるとも思っていない。自分は、消費されるべき物だ。
でも。
優しいから。
自分にとっては、とてもお人好しだから。
死なないといいなと、思う。
「……多分。物覚え、よくない、から」
なんだか相手はこんなにしっかりしていて力強いのに、ふとした瞬間に自らを省みずに死にそうでちょっと怖い気がする。自分とは違った意味で。
中途半端に放り投げることをしないと、今はっきり言ったのだから。
有言実行、してもらおう。
常識レベルから物知らずで、おまけに物覚えがよくない生徒を持ったのが運の尽き。覚えるまで頑張ってもらおうと勝手に決め、風の音に紛れそうな声で、呟いた。
今日初めて会った相手だ。自分は、相手の人生に、決断に、何かを言う術を持たない。その権利もなければ、自分なんかの存在が相手に影響を与えるとも思っていない。自分は、消費されるべき物だ。
でも。
優しいから。
自分にとっては、とてもお人好しだから。
死なないといいなと、思う。
「……多分。物覚え、よくない、から」
なんだか相手はこんなにしっかりしていて力強いのに、ふとした瞬間に自らを省みずに死にそうでちょっと怖い気がする。自分とは違った意味で。
中途半端に放り投げることをしないと、今はっきり言ったのだから。
有言実行、してもらおう。
常識レベルから物知らずで、おまけに物覚えがよくない生徒を持ったのが運の尽き。覚えるまで頑張ってもらおうと勝手に決め、風の音に紛れそうな声で、呟いた。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎