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廃墟
固く握り返された手に、ちょっとだけ驚いた。その手が自分のものよりもずっとしっかりして感じるのは、やはり体格のせいだろうか。
触っていい、手を取れ、そう言われる前に他人に触れたのは、記憶を思い返してもほとんどない。握り返されたということは、多分、間違ったことはしていない。
相手が自分に対してなにを考えているかなど知りもせず、極度の緊張後の安堵で抜けた気はふわふわとして戻って来ないままでこくりと頷いた。
「わかった。……また、ここに来るか」
それとも、教わるのなら自分が行った方がいいのだろうかと、静かに問う。ただ、この男はこの辺りの地理にはまだまだ疎い。
手が緩むと、そろりと自分から手を引いて相手との接触を終える。ひとの手はあたたかいんだな、なんて当たり前のはずのことを少しだけ思った。
翼は散々触った訳だが、なんと言うか、そちらは普通にひとと手を重ねることとは別ものに感じていた。
触っていい、手を取れ、そう言われる前に他人に触れたのは、記憶を思い返してもほとんどない。握り返されたということは、多分、間違ったことはしていない。
相手が自分に対してなにを考えているかなど知りもせず、極度の緊張後の安堵で抜けた気はふわふわとして戻って来ないままでこくりと頷いた。
「わかった。……また、ここに来るか」
それとも、教わるのなら自分が行った方がいいのだろうかと、静かに問う。ただ、この男はこの辺りの地理にはまだまだ疎い。
手が緩むと、そろりと自分から手を引いて相手との接触を終える。ひとの手はあたたかいんだな、なんて当たり前のはずのことを少しだけ思った。
翼は散々触った訳だが、なんと言うか、そちらは普通にひとと手を重ねることとは別ものに感じていた。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎