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廃墟
急かしはしない。
判りやすく不安を宿しながら揺れる瞳。何も言わず只々こちらを定める様に見つめる表情。
たっぷりの間を置いてようやく返ってきた言葉に、男は満足気にひとつ息を吐いた。
「ああ、頼まれた」
男の表情には最初から大して変化がない。相変わらず野仏頂面だ。
けれど声音から満足だという感情がありありと表れている。
どんな目論見であろうと妥協であろうと、目の前の青年から返ってきたのは了承という紛れもない意志。戸惑いから抜け出そうとした一歩目だ。
妙な達成感を感じながら、今の今まで忘れていた肝心な事を実行に移そうと徐に右手を差し出した。
「サイード、オレの名だ。」
握手を求めているのであろう伸ばされた手。
単なる暇つぶしにと足を向けたはずの奇妙な出会いからの思いもよらぬ展開。
我ながら自分のお人好し加減には呆れている。けれど、これで良い。
捨てきれぬ性分は過去への贖罪でもあるのだから。
判りやすく不安を宿しながら揺れる瞳。何も言わず只々こちらを定める様に見つめる表情。
たっぷりの間を置いてようやく返ってきた言葉に、男は満足気にひとつ息を吐いた。
「ああ、頼まれた」
男の表情には最初から大して変化がない。相変わらず野仏頂面だ。
けれど声音から満足だという感情がありありと表れている。
どんな目論見であろうと妥協であろうと、目の前の青年から返ってきたのは了承という紛れもない意志。戸惑いから抜け出そうとした一歩目だ。
妙な達成感を感じながら、今の今まで忘れていた肝心な事を実行に移そうと徐に右手を差し出した。
「サイード、オレの名だ。」
握手を求めているのであろう伸ばされた手。
単なる暇つぶしにと足を向けたはずの奇妙な出会いからの思いもよらぬ展開。
我ながら自分のお人好し加減には呆れている。けれど、これで良い。
捨てきれぬ性分は過去への贖罪でもあるのだから。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎