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廃墟
翼があれば、この窓から飛んで行けるのだろうかと。ここから逃げられるのだろうかと。遠い昔に人々を見限って天空の島へ旅立ったと伝わる同族のもとに行けるのだろうかと。
窓から見える鳥を見ては、ずっと、そんな叶わぬ夢を見ていた。幽閉場所が地下になって窓の外も見られなくなってからは、そんな夢すら忘れたけれど。
相手の微かな声は聞き取ることができなかった。もともと、耳も目も、あまりよくはない。
もふ、もふ、と相変わらず熱心に相手の翼を堪能する手。生き物の翼と呼ばれる部位に触れたのは、生まれて初めてだった。つい、手を離しがたい。
「そう、ウォーカー」
こくん、と外見年齢の割には頑是ない素振りでひとつ頷く。まだ、自分を示すその単語は少し慣れない。
窓から見える鳥を見ては、ずっと、そんな叶わぬ夢を見ていた。幽閉場所が地下になって窓の外も見られなくなってからは、そんな夢すら忘れたけれど。
相手の微かな声は聞き取ることができなかった。もともと、耳も目も、あまりよくはない。
もふ、もふ、と相変わらず熱心に相手の翼を堪能する手。生き物の翼と呼ばれる部位に触れたのは、生まれて初めてだった。つい、手を離しがたい。
「そう、ウォーカー」
こくん、と外見年齢の割には頑是ない素振りでひとつ頷く。まだ、自分を示すその単語は少し慣れない。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎