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廃墟
「……そういうものか」
相手の軽口を素直に受け取って、納得したように呟いた。
雄々しい翼に、鋭い鉤爪。自分にはない部位が珍しくて、ついつい無遠慮に観察してしまう。ほとんど動かない無表情ながらに、まじまじと見つめる視線は子供のような純粋な好奇心に溢れていた。
建物ひとつ飲み込むような、生命力に満ち溢れた木だ。廃墟暮らしになってから少し経ったが、今となっては、この大樹こそが廃墟で暮らして行ける大きな要因だった。
「……何度か落ちるかと思った」
ぽつりと呟く。また足を揺らせば、鎖が小さな音を立てる。
思い立って自分が動けば、やりたいことがいくらでも出来る。そう思ったら、多少無茶なことでもやってみたくなる。ものすごく疲れたし、不運のせいで落ちかけたりあちらこちら擦りむいたりぶつけたりもしたが、それは仕方ない。
相手の軽口を素直に受け取って、納得したように呟いた。
雄々しい翼に、鋭い鉤爪。自分にはない部位が珍しくて、ついつい無遠慮に観察してしまう。ほとんど動かない無表情ながらに、まじまじと見つめる視線は子供のような純粋な好奇心に溢れていた。
建物ひとつ飲み込むような、生命力に満ち溢れた木だ。廃墟暮らしになってから少し経ったが、今となっては、この大樹こそが廃墟で暮らして行ける大きな要因だった。
「……何度か落ちるかと思った」
ぽつりと呟く。また足を揺らせば、鎖が小さな音を立てる。
思い立って自分が動けば、やりたいことがいくらでも出来る。そう思ったら、多少無茶なことでもやってみたくなる。ものすごく疲れたし、不運のせいで落ちかけたりあちらこちら擦りむいたりぶつけたりもしたが、それは仕方ない。
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思い立って、廃墟を貫いて立つ樹木の枝に足をかけて、両手で身体を引き上げるように木の上へ。無造作なそれにがさがさと枝葉が顔や手を打つが、痛み慣れしている分、あまり気にはならなかった。
格闘することしばらく。やっと屋根の上の高さに顔を出すことが出来て、小さく一息を吐く。
もとから長い幽閉と暴行で随分弱っていた上、それなりにあったレベルまで1に戻っているこの身体は、結構どんくさい。
太い枝に腰を下ろすと、片足首に嵌ったままの枷が千切れた鎖と擦れて鈍い音を立てた。
「……星。月。……空、広い」
人と会話をしないとすぐに端的どころか単語になりがちな呟きを零して、まだ夏の気配がしっとりと残る生温い夜風に左右異色の瞳を細める。
広くて高い、どこまでも続くような夜空が、とても心地よかった。
・異世界からやって来て、ほんの数日。廃墟の屋根の上の、ある日のこと。
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎