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シキアの樹

Oct.夜

陽の沈み切った秋の夜。
お空にはまぁるいお月様。
ちらほらと千切れた雲の間から差し込む光は明るく。
灯り要らずの今宵は、異界の行事に曰く「お月見日和」


シキアの下では、小さな合唱団がちろりろと鳴いていて。
涼やかな秋の夜を彩っていた。

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(小さく振られた手。自分に向けられたものだと、少ししてから気付いた。慌てて頭を下げる。
 そうして何時の間にか、沢山の人に認識されていた事にも気が付いた。
 そのままで居るのはあまりにも失礼だろう。意を決して、歩くのに慣れずに震える足で、少しずつ近付く。
 そうして、彼の人達の輪から、一歩だけ間を空けた場所で足を止めた)

あ……ええと、その……。

(初対面という緊張と、何を喋って良いのやらという戸惑いが入り混じった様子で、恐る恐る口を開き。そして――)

今日は、月も出て、とても良い夜、ですね……。

(漸く出た言葉は挨拶ではなく、そんな言葉だった)

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