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宿屋「蒼の道」
●とある依頼の後日談
穏やかな風が吹き抜け、さらさらと葉が擦れる音が聞こえる。小鳥が唄い、リスが枝と枝とを駆け回る。夢に包まれたかのような、ゆったりとした時が流れていた。
ルブラットは澄み切った空気を満喫しながら、自身の木馬に餌をやっていた。余っていたマシュマロの、最後の一粒を口に放り込んでやる。
困ったことに、我儘な木馬はまだまだ満足していないようだった。
「まったく……」
ため息を吐いたところ、ふと背後に人の気配を感じた。
そこに居たのは、闘牛のような双角と、石炭の如き灰肌が特徴的な少年。名をリュカシスといったか。出会ってまもないが、この少年も一つの国を、あるいは見知った顔を守るために身を張った者の一人なのだろうと察しがついていた。
いや、少年よりも青年と称した方がよいのだろうか?
戦闘時に見せた鋭い眼光と反射神経は、明らかに実戦経験に裏打ちされたものだ。だが、華やかなドールとオレンジ色の物体を両手に抱えている今の彼は、十代半ばの溌溂とした少年に見える。
ルブラットが思考を巡らせる一方。リュカシスはペコリとお辞儀をしようとしたところで、胸の前が手荷物で塞がっていることに気付き、代わりに礼儀正しく背筋を伸ばした。
「ルブラットサン! 今日はありがとうございマシタ!」
「いいや、私の方こそ。ありがとう、リュカシス君。いい経験になったよ」
感謝を交わす傍らで、木馬が鼻を鳴らす仕草をした。リュカシスは不思議そうに首を傾げる。
「何かあったんですか?」
実はね、とルブラットは事情を説明する。話を聞いたリュカシスは、お任せあれと言わんばかりに力強くうなずいた。
「ボクが持ってきたお菓子、少し余ってますよ。その子にあげましょう!」
「そうしてもらえると助かるよ。ありがとう」
リュカシスが腕の中のロボットに呼びかけると、彼(?)は軽快な返答と共に跳び下りる。そしてぽてぽてという擬音が聞こえそうな走り方で、お菓子を持ってくるべくアトリエの中へと駆けていった。
困り事が消えたルブラットはアトリエの外壁へ背を預ける。リュカシスも、ドールを抱いたまま隣に来て、赤煉瓦の壁にもたれかかった。
「あのロボットは……フラッシュドスコイ、で合っているかな? どうにも見覚えがある気がしてね」
「はい、あの子はFLASH-DOSUKOI02、お手伝いロボットなんです! ボクはROOではあの子の姿で活動してマシタから、それで見たことがあったのかもしれませんっ」
「成程。ROOか」
ルブラットは微かに抱いていた既視感の正体に納得する。あの電子世界には、個性的な見た目の者が数多く存在していた。直接関わった経験はないにしても、独特の容姿故に印象深く思っていたアバターは幾つか存在する。四足歩行のこんがり食パンがのんびりのっそり歩いていたときは、さしものルブラットも二度見を堪えきれなかったものだが、それはさておき。
あの小鳥の如く元気に跳ね回っていたオレンジ色と、目の前の彼の中身が同じだと知ると、しっくりくる感覚があった。
「――ということは、君は鉄帝の出身かな?」
「その通りデス! よく分かりましたね?」
「鋼鉄で何度か見かけた気がしたからね。しかし、話題に出しておいて何だが、私は鉄帝のことをあまり知らないな」
さりげなく隣を見てみると、リュカシスはきらりと目を輝かせた。
「鉄帝について知りたいですか? それもボクにお任せあれ、デス!」
熱気溢るる戦いと、決して戦いのみではない闘技場の話。謎に満ちた遺跡に、空中大陸の話。
故郷を語る彼は生き生きとしていて、とりわけ遺跡の話に関してはルブラットも興味を惹かれた。
「それで、長い名前のケーキがあったのですケド……あっ、帰ってきたみたいですよ!」
フラッシュドスコイが袋を抱えて戻ってくる。一生懸命に両手で抱える姿は、どことなく持ち主に似ていた。
ぱたぱたと駆け寄るリュカシスの後ろ姿に、ルブラットは言葉を投げかけた。
「今日は君に世話になってばかりだな。この恩はいつか返そう。菓子には菓子で、ね。……鉄帝にも、今度観光に行ってみようと考えている」
振り返った彼の顔は無邪気な笑顔で――、ああ、今のところは少年と形容した方が適切だろうかと、ルブラットは仮面の下でふっと笑んだ。
穏やかな風が吹き抜け、さらさらと葉が擦れる音が聞こえる。小鳥が唄い、リスが枝と枝とを駆け回る。夢に包まれたかのような、ゆったりとした時が流れていた。
ルブラットは澄み切った空気を満喫しながら、自身の木馬に餌をやっていた。余っていたマシュマロの、最後の一粒を口に放り込んでやる。
困ったことに、我儘な木馬はまだまだ満足していないようだった。
「まったく……」
ため息を吐いたところ、ふと背後に人の気配を感じた。
そこに居たのは、闘牛のような双角と、石炭の如き灰肌が特徴的な少年。名をリュカシスといったか。出会ってまもないが、この少年も一つの国を、あるいは見知った顔を守るために身を張った者の一人なのだろうと察しがついていた。
いや、少年よりも青年と称した方がよいのだろうか?
戦闘時に見せた鋭い眼光と反射神経は、明らかに実戦経験に裏打ちされたものだ。だが、華やかなドールとオレンジ色の物体を両手に抱えている今の彼は、十代半ばの溌溂とした少年に見える。
ルブラットが思考を巡らせる一方。リュカシスはペコリとお辞儀をしようとしたところで、胸の前が手荷物で塞がっていることに気付き、代わりに礼儀正しく背筋を伸ばした。
「ルブラットサン! 今日はありがとうございマシタ!」
「いいや、私の方こそ。ありがとう、リュカシス君。いい経験になったよ」
感謝を交わす傍らで、木馬が鼻を鳴らす仕草をした。リュカシスは不思議そうに首を傾げる。
「何かあったんですか?」
実はね、とルブラットは事情を説明する。話を聞いたリュカシスは、お任せあれと言わんばかりに力強くうなずいた。
「ボクが持ってきたお菓子、少し余ってますよ。その子にあげましょう!」
「そうしてもらえると助かるよ。ありがとう」
リュカシスが腕の中のロボットに呼びかけると、彼(?)は軽快な返答と共に跳び下りる。そしてぽてぽてという擬音が聞こえそうな走り方で、お菓子を持ってくるべくアトリエの中へと駆けていった。
困り事が消えたルブラットはアトリエの外壁へ背を預ける。リュカシスも、ドールを抱いたまま隣に来て、赤煉瓦の壁にもたれかかった。
「あのロボットは……フラッシュドスコイ、で合っているかな? どうにも見覚えがある気がしてね」
「はい、あの子はFLASH-DOSUKOI02、お手伝いロボットなんです! ボクはROOではあの子の姿で活動してマシタから、それで見たことがあったのかもしれませんっ」
「成程。ROOか」
ルブラットは微かに抱いていた既視感の正体に納得する。あの電子世界には、個性的な見た目の者が数多く存在していた。直接関わった経験はないにしても、独特の容姿故に印象深く思っていたアバターは幾つか存在する。四足歩行のこんがり食パンがのんびりのっそり歩いていたときは、さしものルブラットも二度見を堪えきれなかったものだが、それはさておき。
あの小鳥の如く元気に跳ね回っていたオレンジ色と、目の前の彼の中身が同じだと知ると、しっくりくる感覚があった。
「――ということは、君は鉄帝の出身かな?」
「その通りデス! よく分かりましたね?」
「鋼鉄で何度か見かけた気がしたからね。しかし、話題に出しておいて何だが、私は鉄帝のことをあまり知らないな」
さりげなく隣を見てみると、リュカシスはきらりと目を輝かせた。
「鉄帝について知りたいですか? それもボクにお任せあれ、デス!」
熱気溢るる戦いと、決して戦いのみではない闘技場の話。謎に満ちた遺跡に、空中大陸の話。
故郷を語る彼は生き生きとしていて、とりわけ遺跡の話に関してはルブラットも興味を惹かれた。
「それで、長い名前のケーキがあったのですケド……あっ、帰ってきたみたいですよ!」
フラッシュドスコイが袋を抱えて戻ってくる。一生懸命に両手で抱える姿は、どことなく持ち主に似ていた。
ぱたぱたと駆け寄るリュカシスの後ろ姿に、ルブラットは言葉を投げかけた。
「今日は君に世話になってばかりだな。この恩はいつか返そう。菓子には菓子で、ね。……鉄帝にも、今度観光に行ってみようと考えている」
振り返った彼の顔は無邪気な笑顔で――、ああ、今のところは少年と形容した方が適切だろうかと、ルブラットは仮面の下でふっと笑んだ。
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