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ギルドスレッド

某所

【RP】Ciel Sans Lune【低速】

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ジェック・アーロンとの1:1RPスレッド



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 幻想の街は人で溢れていた。

 ここ最近目立った事件もないこともあってか出歩く者が多い。それが大通りならば殊更に。
 喧噪の音はとりどりの色を鳴らして見せる。どこかへ向かう者、誰かを待つ馬車、客を呼ぶ屋台。
 それらを嫌う者、あるいはそれらが似つかわしくない者は自然と横へ道を逸れる。叩きのめされ息も絶え絶えな老人、鈍い音を内から鳴らしジャクソン・ポロックが赤で彩る家屋。
 日影を作る道は空気を冷まし、喧噪の熱を冷ややかに見つめていた。
「えいえい」
 男のケツを蹴り上げてやるとフワリと浮いて、何が入っているのかわからない汚水の中に吸い込まれていった。
 今日も街の清掃活動に従事する喜びに打ち震えながら、横道の、さら狭い小路からエスケープ。
 しかし確認した男の財布には、1Gも入っちゃいない。舌打ちを高く鳴らす。
「アーア、汚い」

たまたま通りがかったのか、はたまた同じ獲物を狙っていたのか。
チリが逆さに降るのを小路から眺めている少女がひとり。
奇妙な硬い仮面はしかし、薄暗い路地に嫌に溶け込んでいる。
 声のする方にガスマスクがいた。いる。それを私は見たことがある。

「ヒューっ! ガスマスクちゃん!
 こんなところで何してるのさ。生け花? おっ洒落ー」
「ヤァ、久々だね。前ウチの前をトオった子デショ。
 ……生け花にはハナが足りないカナぁ」

くぐもった声には苦笑の響き。浮世離れしたひとに、呆れのようななにか。
「そんな遠い所からわざわざありがとうございます。お? うん」
 持っていた財布を捨てて近寄っていく。二人並ぶには十分な道幅だが、手を広げてしまってはきっと、誰も通れないだろう。

 後ろで手を組んで、くるりくるり回り、横に並んで同じ方向を向いて見せる。
「中々の名推理ですが『前ウチの前をトオった子』ではありません。ラグラです。天上天下唯一人だわさ」
「やあ、マァ、偶然ってヤツさ……ああ、ウン。
 ラグラね、ラグラ。オボえたよ。ちなみにアタシも『ガスマスクちゃん』じゃナクてジェックって言うンダ」

 横に並んだピンクを横目に、知ってた?と肩を竦めた。
セーラー服の裾の端を指で弾くとピロピロ動いて楽しい。
新しい発見に心が踊る。

「え?

 あ、はい。成程ね。ガスマスクちゃん……ピロピロ飽きるね……やめよ。

 ガスマスクちゃん!
 ねねねねねね、ところでガスマスクちゃんなんでガスマスクなの?
 中々にバッドでクールだけども」
秋の空より飽き性な隣人に、溜息吐息で疑問に応じる。
今まで接した誰よりもマイペースが過ぎる。

「まぁ、スキなように呼んでクレればいいけどサ……。
 ガスマスクつけてンノは、元いたバショの名残りミタイなもんだよ。
 キになるかい?」
「まあなんてこと。お母さんのお腹の中からガスマスクだったんだね。

 つまりガスマスクちゃんにとってガスマスクはもうガスマスクちゃんの一部ってことかい!?

 怖いね。取ってあげようか?」
「カイシャクが斬新スギるし発想がブッソウすぎる……。
 残念ながらオナカの中ではツケてなかったみたいダヨ?
 チナミに、キミに取られるまでもナク取れる。ミたい?」
「えじゃあ後天的に生えたんですかそんなスプラッターここで展開していいと思ってんです?」

 例え猫が死ぬとしても、心臓が止まってしまうのだとしても「怖いもの見たさ」という気持ちは誰だって心にあるものだ。
 息継ぐ間もない呟きの合間にも両の手は凹凸の激しい仮面へ伸びていた。
「ラグラはガスマスクをナンだと思ってるのカナ?」

 伸ばされた手に抗うことなく、外しやすいよう頭を下げる。なんの抵抗もなくそれは顔から離れていく。

「残念ながらアタシのガスマスクは今は外付けタイプだよ」
 ひょいと取り上げてマスクを高い高い。
「心外だな」と告げる口元は言葉とは裏腹に些かの不満も称えていない。

 ……2つのガラス板越しの空は自分の目で見るよりもぼんやりとして映った。こりこりと装飾した爪の先で内側を擦る。
「一子相伝のガスマスクとかそういうノリかなと。
 マスク付けるのがルールのお家とは変わってますね」
「残念、外れ」

 持ち上げられた黒を目が追いかける。これが一年前なら……詮ない考えに区切りをつけて。

「家のルールじゃなくて、世界のルールだったのさ」
「ガスマスクワールド?」
 吐いて彼女と私の視線の間に物騒な面を置く。
 ガラスの向こうにある、路地の影に浮かぶそこそこ"不細工"ではない顔。隠す意味を掴みかねるので諦めた。何ならすでに興味はそこから離れていた。

「あ分かった。

 ジェックちゃんウォーカーだね。そうだろう。つまりパピもマイもブラもシスもボーイもガールも、みーんなガスマスクだったってことだね。何の宗教ですか」
 鼻を鳴らして得意げに、疑問符を飛ばして首をかしげる。表情は、些かも変わらない。
「まぁ、ウォーカーだけどさ。パピ、マイ……なんの呪文だい、それは」

 聞き慣れない言葉に首を傾げる。段々雑になってるなあ、等と思いを宙に馳せながら。

「宗教っていうか、生命維持のためっていうか。必要だったからつけてただけだよ」
「つまりトレンドだった、ということですね。家族共通どころか世界共通だなんて世界平和が実現された世界だったんでしょうかヒューッ!

 にしてもこっちに来てからも付けてるなんて思い入れでもあるんでしょうか。でもそれにしてはすんなり貸してくれてますね」
 くるくる くるくる。直立のまま人差し指の先でボールみたいに回されるマスク。
「生きるのにこんなものが必要な世界が、平和なわけないんだよ、残念ながら」

 指の上で踊るそれを見遣る。この子は随分と、これが気になるみたいだ。説明しながら肩をすくめた。

「こっちに来てから2年くらい、外れなくなってね。つい数ヶ月前に外れるようになったばかりなんだ」
「まあまあまあ」
 なんて大きな鳥だろう。遠く遠く遥か上空を飛ぶあれは食べても良いのだろうか。なんて見上げながら考える。コレをぶつけたら落ちてくるだろうか。
 周りから重さが消えていく。

「ねえジェックちゃん。嬉しかったですか? コレが外れた時は」
「………さあ。もう忘れちゃった」

 投げないでよ、と視線の先に注釈をつけて。
 上空から視線を戻す。踊る仮面は確り止まって彼女を見る。

「ねえジェックちゃん。コレは忌々しい記憶の象徴ですか?
 それとも、コレは忘れたくない日々が収まったアルバムですか?

 ねえ気になるな。
 気になってるんです。どうしてまだ付けていたんですか?」

 ふわりふわり。私を照らす十二の輝きが、ひとりでに、意志を持つように宙へ浮く。透き通る光が青い空を映して冷然な色を放ち、地上の輝きを見下ろしている。
 残念に、平和でなかった世界の名残を――「こんなもの」と吐き捨てるコレを――今も付けているのはどうして?
 捨てられなかった? 手放せなかった?

 穿ちの星か浮かぶ。矢継早の音が満ちる、薄暗い昼の路地に。
「ねえジェックちゃん、コレは今も必要なんでしょうか。
 無くしていいでしょう?
 もう要らないでしょう? 『こんなもの』」

 逆光で一層影を強くした顔も喉を震わせる息も、一切変わらない。
 ただ凝と影の中動かぬ双眸が答えを待つ。
「……変なことを聞くね、キミは。」

 随分と旺盛な好奇心だ、と。
 つと目を伏せて、はぁと吐息を洩らした。
 溜息のように。そんなんじゃないよ、と。

「どちらかと言うと、嫌な記憶は外れた瞬間の方さ。
 それ自体に思うところはないよ。元いたとこがここと比べて酷いとこだったのは確かだけど。
 脱着した方が、外してる時に目立たなくて過ごしやすいんだ。……ただ、それだけだよ」
 僅かな合間の沈黙を聞いてから一拍。

「なんだ。てっきり、その子からの呪い付きの贈り物だとばかり」
 呪いも落ちてしまったという訳ですね、と付け加えて納得を見た。
「………………その子?」

 ああ、と頷きかけて、微かに引っ掛かる。
 あれ、アタシは彼女に、その話をしただろうかと。

「強ち間違いではないけども……こっちに来てすぐに、呪いをかけられたみたいでね」
 隠しているわけでもない。ローレットの報告書でも読んだのだろうと当たりをつけた。
「それで12時の鐘が鳴って魔法が解けたってわけじゃねーんでしょうね」
 呟きつつ、僅かな紡ぎの合間に仮面を掲げて光で照らす。
 この世界で文字通りともに在ったコレに記憶はないと、彼女は言う。黒々とした仮面は色彩に彩られても不気味さを増すばかり。
 透かして見えるものなど何もない。
 見ているだけでは、見えない。それなら――
「やっぱり殺しちゃいました?」
「ラグラにかかれば南瓜の馬車も呪いかい」

 茶化すような戯言。鈍く光る鉄には目も向けず、続く言葉は一度飲み込んで。

「──さあ。誰が呪いをかけたかなんて、アタシは知らないんだから」
「そうでしたか」

 天から齎されたと言うにはあまりにも執着的な呪い。それを掛けた魔法使いを彼女が知らないなら誰が知るというのだろう。
「それを災いの呪いと採るか、幸運の呪いと採るかは本人次第ですしね」
 南瓜は南瓜として食べたいし、南瓜には南瓜なりの言い分がある。この真っ黒な南瓜に発声器官は見当たらないが、在れば不満を漏らすだろうか。

「でもこれは舞踏会への招待状でも、案内役になってくれたわけでもないんでしょう?
 それが消えたってんならむしろ喜ばしい記憶じゃなかったんかい」
 白い髪の灰かぶりを華やかな城へ送るでもなく、華美なドレスで着飾ることもない仮面。「もっと嫌な事があった?」と、沈みかけた言葉を投げかける。
「なるほど、確かに南瓜は馬車になりたくないのかも。面白い視点だ」

 思いもよらぬ物言いに瞬きひとつ。さて自分にとってはどちらだったのだろうかと。

「そうだね……嫌なことはあったさ。とってもね」
 沈む言葉を掬い上げる。しげしげと眺めて考えて、喉の奥に飲み込んだ。嫌なことはあったけれど、それは仮面に帰する記憶ではない。ただね、と言葉を繋ぐ。
「ソレを付けるのは元いたとこでは当たり前だったんだ。なんせ外せば死んじゃうんだから」
 今まで必死に掴んできた命綱は易々と手放せるものではない。さあ地面に着きましたと言われたって、地面の感触を足が知らなきゃ幻覚と同じなのだから。
「だから、まあ。呪いにかかってなかったとしても。多分アタシは外さなかっただろうね」
「ああ」と先んじて声を漏らす。納得。
 灰かぶりの姫も、その後は慣れない生活に苦労したのかもしれない。それでもいつかは家事も南瓜も似合わなくなる日が来るだろう。

 呪いの消えたそれを下手から山なりに彼女へ投げる。
「まだ似合っていますね」
 お世辞じゃないですよと、余計な一言。路地裏の明滅はゆっくりと消え、元の暗い影の帳に包まれていく。宙を舞う仮面に「それに」と添えて返す。
「それが自分の為であるなら、外さなかったことは正解でしょうね。私だってそうします」
 分かったような口から舌に乗せてブルージルコンを取り出す。
 ふふ、笑いが漏れる。
「まさかコレ着けたとこを褒められるとは思わなかったな」
 面映さを表したような声で短く感謝を紡ぐ。手元へと文字通り舞い戻ってきたそれを捉えて。

「外さないと外せないは違うからね。選択肢が欲しかったのは、確かだけど」
 煌めく平和の石に、ちかちかと瞳のルビーが瞬いた。
「付けてる間は色々自由に出来なかったでしょうしね。飲食とか」
 笑み零す彼女のこれまではどんなもので、それからはどうだったのか。興味の外ではあるがどうでも良いと切り捨ててしまう程関心がないわけでもない。

「じゃあマカロン食べに行きましょうか」
 どこから出たのか、考えるより先に言葉にしたようなふとした思い付きが提案なされる。マカロンと言って両手で示すシルエットの大きさは一般常識の10倍ほどに見える。
「まあ、ね。外れてから色んなご飯食べたけど、全然違うや。もう元の食事には戻れないかも」
 着けてる間は別に不自由とも思ってなかったのにね、と付け足して。

「また急な……マカロンって、デザートだっけ?いいよ、食べに行こうか」
 話の急な転換に連想ゲームのようなと言葉がよぎり、聞き慣れない単語に興味が惹かれた。そんなに大きいの、と驚く口元に知らず小さな笑み。
「今度人と食べに行くクソデカパンケーキ屋の近くにそんなんがありましてね。トゥンカロン! トゥンカローン!」

 異国風の単語。
 しかしそれがマカロンらしきものであることは世界が証明してくれる。彼女の口元には目もくれず、「支払いは任せてください」と一言置いて横を通り抜ける。

「砂糖はおおよそ人の心を豊かにすると偉い人も言っていましたから。
 食べながら、今のジェックちゃんの話でもしましょうか」
「おや、太っ腹。さっきの財布、空っぽっぽかったのに」
 気前の良い言葉に含み笑い。聞き慣れぬ言葉ながらも、崩れないバベルは先のデザートと同じものを指し示した。

「ふふ、いいよ、話してあげる。その代わりラグラの話も聞かせてね」
 一人分の隙間と共に後ろを歩く。楽しげに揺れるスカートが最後に路地を抜けていった。
「面白い話はないですよ」
 自分としては彼女の話を聞ければよかったが――それにしてもどこまで聞けたか分からないけど――それならば吝かでもない。話すことは、楽しい。
 それなら今はこれでいい。いつかまた、話をしよう。

 昼の影を割いて出る。有象無象の喧噪を纏って歩く。濃厚な日常の匂いを浴びて、彼らに溶け込む。
 財布の中は寒いけど、明るい光に釣られてか話題は自然とそちらを向いた。
 このまま流されるまま、太陽の下で言葉を交わそう。

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