PandoraPartyProject

冒険

闘技場設定は『練習場』から!


ランプのお姫様に、おやすみを

●姫
 ♪なにもしらないわたし、ちいさなお城にひとりきり
 ♪両手でだきしめる いとしい大きなあなた
 ♪ゆめのなか みていたのは、おともだち
 ♪ねがいはなぁに? かなえましょう
 ♪太陽の下 わらっている――

「いいえ、本当は知っているのです」
 姫君は俯いて――、


 そよそよと吹く風が人の声を運んでくる。
 ――このあたりには、危険な遺跡もあるらしい。
 ――近づいちゃ、いけないよ。
 ――冒険者や盗賊が何人も足を踏み入れて、遺跡の怪物に返り討ちに遭ったんだって。

●キャラバンが砂漠を往く
 混沌世界を移動し、日々を営む少数移動民族『パサジール・ルメス』。
 パカダクラや動物たちと共にキャラバン隊を率いて、常に風のように世界を巡る民。そんな中の一人が冒険パーティ『ルチア・アフラニアのチーム』に依頼をした。

「……冒険パーティ『ルチア・アフラニアのチーム 』、ルチア・アフラニア・水月さん?」
 肌は褐色色で、瞳は琥珀色。しっとりとした瑠璃色の髪。そうと言われなければ少年と間違えそうな発達途上の体つきと男装めいた旅装の少女。
 名は、『ルテシィア』。
 冒険の舞台は南の砂漠地帯、さらさらと熱砂が流れる炎天下。見渡す限りの砂景色は瞳に沁みる明るさで、絶景ながら酷暑と乾燥、方向感覚を狂わせる。   
 人にとって過酷な環境。
 しかし、何故か冒険心をくすぐる浪漫の地――蜃気楼の果てに視線を送り、少女は語る。
「映像で、見たことがあるの」
 ギルド・ローレットの報告書(リプレイ)が『Tower of Shupell』攻略後、映像で閲覧できるようになっている。世界を巡る民は、旅の途中でイレギュラーズの映像勇姿を見たことがあるのだと頬を紅潮させて語った。
「目の前にルチア・アフラニア・水月さんがいるなんて」
 ルテシィアはそう言って胸の前で両手を合わせ、感激するようだった。そんな少女に釣られてか、傍にいたパカダクラがつぶらな瞳でルチアを見つめている。興味津々といった様子でぬぅっと鼻を寄せてきて――ルチア がそっとふわふわの首元を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めた。

「あのね、遺跡があるんだ」
 とてもひんやりしていて、静かな地下遺跡。
 少女は遺跡に入ったことがある。封じられた扉の向こう、下り道を進んで、分岐する道を選んで――最奥に。
「遺跡に『ランプのお姫様と王子様』がいるんだよ」
 とても優しい二人組。
 そう言って少女は束の間目を閉じる。

「わたし、また会いに行くってやくそくしたんだ。お姫様は、待ってるわっていったの」
 世界を巡り、また近くにやってきた。
 だから、会いに行きたい。――道中を護衛してほしい。今回は、そんな依頼内容なのだった。


 シナリオ:透明空気

参加者一覧
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)
アーリオ・オーリオ
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾

探索記録


 そよそよと吹く風が人の声を運んでくる。
 ――このあたりには、危険な遺跡もあるらしい。
 ――近づいちゃ、いけないよ。
 ――冒険者や盗賊が何人も足を踏み入れて、遺跡の怪物に返り討ちに遭ったんだって。

●キャラバンが砂漠を往く
 混沌世界を移動し、日々を営む少数移動民族『パサジール・ルメス』。
 パカダクラや動物たちと共にキャラバン隊を率いて、常に風のように世界を巡る民。そんな中の一人が冒険パーティ『ルチア・アフラニアのチーム』に依頼をした。

「……冒険パーティ『ルチア・アフラニアのチーム 』、ルチア・アフラニア・水月さん?」
 肌は褐色色で、瞳は琥珀色。しっとりとした瑠璃色の髪。そうと言われなければ少年と間違えそうな発達途上の体つきと男装めいた旅装の少女。
 名は、『ルテシィア』。
 冒険の舞台は南の砂漠地帯、さらさらと熱砂が流れる炎天下。見渡す限りの砂景色は瞳に沁みる明るさで、絶景ながら酷暑と乾燥、方向感覚を狂わせる。   
 人にとって過酷な環境。
 しかし、何故か冒険心をくすぐる浪漫の地――蜃気楼の果てに視線を送り、少女は語る。
「映像で、見たことがあるの」
 ギルド・ローレットの報告書(リプレイ)が『Tower of Shupell』攻略後、映像で閲覧できるようになっている。世界を巡る民は、旅の途中でイレギュラーズの映像勇姿を見たことがあるのだと頬を紅潮させて語った。
「目の前にルチア・アフラニア・水月さんがいるなんて」
 ルテシィアはそう言って胸の前で両手を合わせ、感激するようだった。そんな少女に釣られてか、傍にいたパカダクラがつぶらな瞳でルチアを見つめている。興味津々といった様子でぬぅっと鼻を寄せてきて――ルチア がそっとふわふわの首元を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めた。

「あのね、遺跡があるんだ」
 とてもひんやりしていて、静かな地下遺跡。
 少女は遺跡に入ったことがある。封じられた扉の向こう、下り道を進んで、分岐する道を選んで――最奥に。
「遺跡に『ランプのお姫様と王子様』がいるんだよ」
 とても優しい二人組。
 そう言って少女は束の間目を閉じる。

「わたし、また会いに行くってやくそくしたんだ。お姫様は、待ってるわっていったの」
 世界を巡り、また近くにやってきた。
 だから、会いに行きたい。――道中を護衛してほしい。今回は、そんな依頼内容なのだった。
 砂を含んだ風がサアアッと吹き抜けて、ルチアの肌を撫でていく。少女からもらったデーツをつまみ、自然の恵みを感じさせる甘味に舌鼓を打っていると、声がかけられた。
「ルチアさん、あのね」
 ルテシィアがこそこそっと傍でささやく。瞳はちょっぴり困っているようすで。
「このあたりだったのだけど。遺跡、みあたらないみたい」
「!?」
 琥珀色の瞳が焦燥を浮かべ、「困った」と訴えている。どうやら、遺跡の入り口を探さないといけないようだ。『ルチア・アフラニアのチーム』のメンバーは顔を見合わせ、互いのスキルを確認した。捜索の役に立つスキルは――?


「すごいっ、すぐに見つけちゃった!」
 ルテシィアがパカダクラの胴に抱き着き、「すごいねーっ」とはしゃいでいる。
 パーティ『ルチア・アフラニアのチーム』はメンバーのスキルを発揮し、すぐに遺跡の入り口を見つける事に成功したのだった。


●遺跡
 途中、食事休憩を挟んで頂くのは、クミンを振ったエスニックな芳香が食欲を刺激する柔らかな焼き肉。トマトやニンニクのアクセントが効いたコシャリ。ふっくらしたエイシバルディ。
「おいしい。いっしょにごはん食べるの、うれしい」
 ルテシィアは嬉しそうにルチア を見て、「ルチア さんの気に入る味だったらいいな」と呟いた。そして、いそいそと『道具』を取り出した。
「!?」
 四角い無機質な箱。レンズがついていて、ボタンがついている。
「これ、旅の途中で買ったの。カメラ」
 写真を撮りたいの。ルテシィアは照れたように言って、おねだりをした。
「だめかな……?」
 ルチア は少し考えてから、頷いた。
「やったぁ! 並んで~!」
 『ルチア・アフラニアのチーム』のメンバーがそれぞれが並んでポーズを取る。ぱしゃり。瞬間を記録する音が砂塵に紛れて耳朶を擽る。
「撮れたぁ。やった!」

 砂丘をぐるりと廻り、細くへこんだ道を進む。進むうち、左右の砂がインパラブルー、黒御影石の石壁に変わっていることに気づく。地質の贈り物を人の手でひとつひとつ丁寧に組み上げた人工の壁。光を細かく反射する青い結晶が入っている壁はしっとりと落ち着いた煌めきを見せている。
「ここだぁ! こんな場所だった」
 ルテシィアが目をきらきらさせる。螺旋を描くような道のりをそのまま進むと、遺跡の入り口が見えてきた。入口の左右を固め立つのは、スフィンクスめいた像だ。
「ルチア、ありがとう!」
 ルテシィアは咲き始めの花のように初々しい笑みを見せ。
「ここでもういちまい!」
 再び、記念撮影。
「えへへ」
 大切そうにカメラを撫でて、笑顔で差し出す。
「あのね、このカメラ、ルチアさんに持っててほしいの」
 ルチアは差し出されたカメラを受け取った。

 それでは中に、とルチアが入口を調べ、最初の一歩を踏み出した。

 頼りにしてるね。そう言って少女はにっこりとし、道案内をしてくれる。
「罠があったとおもうんだよ。前のとき。あのときは死ぬかとおもった! でも、今回は『ルチア・アフラニアのチーム 』のみんながいるから平気かな?」
 なんとこの遺跡、罠があるらしい。ルチア は遺跡の壁や床を確認して注意深く歩を進めた。
 遺跡の内部は、光る苔が生えているのに加え、人の気配を感知してところどころに置かれた古びたトルコモザイクランプの明かりが燈っていく。壁は古びた長方形の石を積み、組み込んだような造り。進むにつれて道は入り組み、迷路の様相を呈している。


「きゃああ!」
 ルチア・アフラニアのチームに罠が次々と襲い掛かってくる。とはいえ、そこは経験豊富なイレギュラーズ。それでも先には進んでいく――かちり。
 作動音と共に。
「こんどは、モンスター!?」
 ……モンスターが現れた!

 ルテシィアは不安そうな目で『ルチア・アフラニアのチーム』を見ている。
「だ、だいじょうぶ?」
 ルチアはそんな少女の前に立ち、安心させるように頷いた。


●とつぜんの戦闘
「あのね、あぶなくなったら……にげようね」
 ルテシィアが心配そうに壁際に寄り、ルチアの勇姿を見つめている。

『ルチア・アフラニアのチーム 』はそんな少女を守るように陣形を組み、敵との戦闘を開始した。

●モンスターを退治した!
 ルチア・アフラニアのチームが無事モンスターを退治してみせると、ルテシィアは心配そうにメンバーの傷を見つめてうるうると目を潤ませた。
「け、けが、だいじょうぶ?」
 ちいさな手であたふたと傷薬を出し、果実で風味付けした水を差しだし、心配している。
「ね、このまま進んでだいじょうぶ? むりは、しないでね? ……前きたときは、もんすたーは住んでなかったかなあ?」
 この遺跡、前よりも危険みたい。ルテシィアはそう呟き、頭を下げた。
「ごめんね」


●遺跡の奥
 やがて、遺跡の奥から歌が聞こえてきた。
 高く澄んだ透明な音がのびやかで、冷えやかな遺跡の壁に反響する。
「この歌は……」
 ルテシィアが目を見開き、立ち竦む。

 ♪なにもしらないわたし、ちいさなお城にひとりきり
 ♪両手でだきしめる いとしい大きなあなた
 ♪ゆめのなか みていたのは、おともだち
 ♪ねがいはなぁに? かなえましょう
 ♪太陽の下 わらっている――

 歌が変調する。不安定な音階を乱れたリズムで、どろどろした感情を吐き出すように怒りに満ちた声で、悲しみと狂気に揺れる音幅で、寂しさを訴えるような高さに上り詰め、かと思えばガクリと低まり、のろりくたり、ゆっくりゆったり――声がちいさくなっていく。
 ♪両手でだきしめる いとしい大きなあなた
 ♪さいごのねがいは まだかしら?
 ♪さあ、ともに眠りましょう

「『お姫様』……」
 ルテシィアがその名を呼んだ。
「あの歌は、『お姫様』の声」
 そして、語りだす。彼女らと会った時の思い出を。

●思い出語りと現実のあなた
 ルテシィアのキャラバンは数年前にも、この地方を訪れた。近くにあったオアシスで偶然、オアシスに定住する民が華燭の典を挙げていて、キャラバンの一行は祝いの言葉を捧げ、珍しい品々を商った。
 緑のナツメヤシの樹は過酷な砂漠環境に涼やかな影を落とし、砂の絶景の中で風にそよぐ緑と湖の清冽で神秘的な煌めきを眺めていると、自然と皆の肩のちからが抜けて表情が明るくなるのが不思議だった。

 ――そんなオアシスの町目指してモンスターの群れがやってくる、という報せが届いたのは、翌日の昼下がりだった。

「町は、おおさわぎになったの……」
 ルテシィアが哀し気に語る。人々は恐れおののき、オアシスを捨てて逃げようと訴える者、故郷を離れるなんてできないと拒絶する者、果てにはキャラバンがモンスターを誘い込んだと悪意を向ける者まで出てきたのだ、と。
「そして、おおさわぎの中――『お姫様』があらわれたわ」
 『お姫様』はランプの精。呼び出したのは、町に住んでいた偏屈な変わり者で知られる年老いた魔法使い。けれど艶めく射干玉の長い髪を靡かせて、美しいかんばせで果敢に敵の群れを見て、誰かのために腕を振り。
 しなやかな腕が風を捌き、砂が竜巻めいて渦巻いて、やがて砂岩のゴーレムが生成された。腕が短くて、すこし歪な人型のゴーレムは恭しく『お姫様』に膝をついて礼をして。
「我が姫、私を呼んでくれてありがとう」
 低く、凛々しい声だった。
「わたくしの王子様。あなたにまた会えて、わたくしは幸せですわ」
 『お姫様』は幸せそうに微笑んで。二人が砂を操り砂岩の堅牢な体を駆使して戦って、やがてモンスターの群れは数を減らして逃げて行った。

 オアシスの人々は安堵して、特に町を離れたくなかったひとたちは老魔法使いさんと『お姫様』と『王子様』にたいそう感謝した。
「でも町のひとの中に、そんな彼らを老呪術師が召喚した魔物だ、モンスターをわざと呼び寄せて、退治して恩を売ろうとしているんだ、と叫んだひとがいた」
 もともと、魔法使いを嫌っていたひとたち。
 そして、積極的にひとびとを町から離したがっていたひとたち。
 そんなひとたちが声をどんどんと大きくしていき、町中の意見を染めていった。そして。
「石が投げられたの」
 最初は、誰だったかもわからない。ぽつりとひとつだけ、けれど確かな存在感を放って飛んで、その小さな石は地面に固い音を立てて落ちた。
 続いて、一石。また一石。
 徐々に暴力的な空気が連鎖して、衝動が背を押し手を促して、気付けばどんどん石の数が増えた。
 『お姫様』と『王子様』は老魔法使いを守り、砂漠へと逃げていき――途中で老魔法使いは死んでしまった。

「偶然、この遺跡をみつけたの」
 ルテシィアはその数日後、この遺跡を見つけたのだという。

 少女の声と近づく歌を聞きながら、ルチアは慎重に先に進む。扉を開き、部屋を調べて、階段を下り――、



「遺跡の中に、かれらがいたわ」
 ルテシィアがぽつり、ぽつりと語り続ける。

 ゴーレムの『王子様』と『お姫様』が寄り添い、老魔法使いの墓をつくり、その死を悼んでいた。
 今よりもっと幼くちいさなルテシィアは遺跡の入り口で罠にかかり、危ないところだったけれど、ゴーレムの『王子様』が助けてくれて、『お姫様』がやさしく傷を手当てしてくれた。
 彼らは困ったように微笑んで、眠りにつけないのだと教えてくれた。
「魔法使いと契約をしたの。三つの願いを叶える代償に命を懸けた最期の魔力にて、わたくしたちに永久の眠りを与えてくださると」
 けれど、願いをすべて叶える前に魔法使いは死んでしまい、眠りは与えられなかった。だから、困っていたのだと。

「願いを叶える前に契約者が死んでしまったら、三年は次の契約ができず、ランプに戻ることもできず、自然に充填回復せぬ魔力と不自由な体で時を過ごすしかないのです」
 でも、愛しいひとと一緒ならだいじょうぶ。ふたりは砂岩とひとの体を寄せ合って、あたたかに笑った。
「かわいいお嬢さん、もし可能ならば三年の時が過ぎた後、再び此処にいらしてください。きっと、三つの願いを叶えますから」
 代わりに永久の眠りを。
 『王子様』が紳士的に請い、『お姫様』はすこし迷いながら。
「おねがいしてもよろしいかしら。わたくしたちは、他に頼れる方がいないのです」
 ルテシィアはこくりと頷いた。そして誓ったのだった。

「はい、わたしは必ず――」


 さいごの扉を開ける。

「――もどってきました」
 少女が声を響かせた部屋は、透明な石英が黒雲母を覆い、透明感がある青光を放つ壁に囲まれた広い空間。折れてひしゃげた朽木のテーブルセット、声明を育もうとして失敗した形跡の硬い土だけが残る花壇、涙滴めいて天井からしたたる透明な水、神聖な気配を漂わせる綺麗な墓と、動かなくなってどれほど経つのか分からない砂岩ゴーレムの残骸。そして、『彼』に寄りそうように力なく座り込み虚ろな目をして囀る『お姫様』。

「名前もしらない『お姫様』」
 呼びかけに答える声はなく。ほっそりとした嫋やかな姫の手が物と化した冷たい『彼』を撫でている。
 ――ああ。
「わたし、来ました。来ました。……来たんです」
 少女が懸命に言葉を紡いで、一歩一歩近づいて。

「――だぁれ」
 『お姫様』がのそりと顔を傾けて、虚ろな視線を向けた。
「『また』わたくしたちを苛めにきたの」
 悲しげで、敵意に満ちた声だった。
「ああ、人間たち――オアシスを狙う恐ろしき強欲の魔物使いの盗賊たち。心優しき魔法使いを冤罪で殺め。遺跡にもやってきて、わたくしの彼を壊し――これ以上、何をするというのです」

 ルチア が少女を庇い、呼びかけた。
 自分たちは敵ではない。
 少女はあなたとの約束を果たしにきたのだ。
 そう、呼びかけた。

「人間はなんて恐ろしいの。人間はなんておぞましいの。人間はなんて姑息なの。人間はなんて残酷なの」
 声が歌となり、狂気が魔力を練る。人知れず戦いを重ね、枯渇寸前の残滓めいたそれが黒い影のように渦巻いて――ルチア・アフラニアのチームに襲い掛かる!

「♪許せないの、アナタを」
     「助けにきたんです!」
 「♪ゆるさないの、全てを」

      「敵ではありません……」
「ドウシテ? ――」
      靴音鳴らして攻撃を避け、
 剣戟音が聴覚を塗り潰し
    歌の代わりに紡がれたのは、
    「――もウ ワカラ  ナい」

 道に迷った自分を初めて自覚した瞬間めいた、
 悲しそうな――。



 ルチア・アフラニアのチーム が戦ってる。
 大好きなルチアが、戦っている。

(わたしも、悲しんでばかりじゃだめ……)
 少女は涙を拭い、前に出た。
「お願いをする」
 毅然とした聲でそう言って。
「あなたがわたしを覚えていなくても、わたしはあなたと契約をする。あなたがおしえてくれた契約のことば――おぼえているから」

 少女はそう言って、姫君に古い発音を伴う言葉を捧げた。忘れないように繰り返し、この日のために何度も練習した発音。
「アル、デ、ィュ、ウルカ、デグランシェーーフェ・ララ・ァウラ。わたしは願う」
 影が静まり、消えて、『お姫様』が狂気を湛えた瞳のまま、少女を視た。

 ルテシィアは悲しい瞳で『二人』を見つめて、願いを唱える。

「ひとつ。魔法使いさんが使おうとしていた『命を籠めて最期の力であなたたちを眠りに導く魔法』をわたしにも使えるようにして」
 ルテシィアの全身に魔力が宿り、少女は手応えを感じた様子で片手を握る。

「ふたつ。『ルチア・アフラニアのチーム 』のみなさんの怪我を治して」
 不思議なちからが仲間たちを癒していく。

「みっつ。わたしの大好きな『ルチア・アフラニアのチーム 』のみなさんを、遺跡の外に出して」
 琥珀色の瞳が一瞬、ルチアを振り返る。
 桜色のくちびるが動いて、音を伴わない言の葉を綴った。

 ――ありがとう。

「一緒にぼうけんできて、しあわせだったよ」


 視界が激しく歪み、意識が一瞬途絶え――気付けば、外にいる。手には、少女が思い出の写真を撮ったカメラを持って。

挑戦結果


 少女がひとり、姫にむかって両手をひろげる。
 頬に伝うのは、一筋の涙。

「お姫様、……おひめさま」
 だれにもいえなかったことがあるの。聞いても、もうわからないとおもうけど。

 あの日、わたしは。
 キャラバンのおじさんに売られそうになった。
 オアシスを狙って、盗賊がわたしたちに仕事をたのんだの。
 エサをばらまいて、町までモンスターの群れを誘い込んで。

 けれどそれが失敗して。売られそうになった。
 ――かわりに。
 ――この遺跡にすむ『ふたり』の情報を売った。

「わたし、ほんとは――わたしが、わたしが」
 わたしがあなたたちをこんな風にした。

 最期の魔力を籠めて、その魔法を放とうとした時。
「いいのよ」
 姫がそう言った。はっきりと理性を感じさせる明哲な目で。優しい声色で。
「あなたは、来てくださった」
 待っていたのです。
 姫はふわりと笑み、そっと少女に手を伸ばし、ひんやりと冷えた手で頬を撫でた。
「おおきくなりましたね。ひとは、そう――」
 そのような生き物でした。姫は愛しそうに少女のあたたかな体温に目を細めた。
「あの方々は、戦い慣れていらっしゃるのですね。仲間と協力し合って、ひとを守るために戦う彼ら――そんな彼らを見て、わたくしは少しずつひとを愛するこころを思い出し、自分を取り戻したのかもしれません」
 魔力も、もう尽きてしまう。
 姫はおっとりと微笑み、王子の隣に身を寄せた。
「眠りに誘う必要も、もうありません。眠ることができそうです」
 願いで少女が得た魔法は、対象が『姫と王子』に限られている。だから、叶えた願いのひとつは無駄になってしまったけれど。姫は申しわけなさそうに言い、希望と未来を見つめるような目で少女を視た。

「あのね、ギルド・ローレットの英雄たちはね」
 静かな空間で少女が語る。

 ――もう、ねむっているかな。
「とても……」
 わたし、憧れたんだ。
「とても」
 ――あんな風に、なりたかったな。
「また、会えるかな。会いたいな……」
 まだ、間に合うかな?
 少女は祈るように呟いて、過去に別れを告げ駆けだした。


 ――日の光溢れる、遺跡の外の世界へ。

戦績

攻略状況:攻略成功!

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