PandoraPartyProject

特設イベント

竜の胃袋亭でお食事を

●朝の喧騒
「おはようございますっすー!」
 店内に響く元気なリモーのご挨拶。
「へ、ワンドリンクで一品無料っすか? ……ここの店主さんは良いリモコンっす!」
 良い指示をする人は良いリモコン。
 実は正義の妖怪の彼は独特の価値観を持っている。
「店主さんお誕生日おめでとう」
 シーヴァの前には店主特製のペパーミントティとふかふかのパン。
「大規模召喚があってからまた一段と賑やかになったんじゃないかしら? アタシも観てて厭きないわ」
 店主は頷き、新しいお得意様の胃袋もガッチリつかまなきゃあねぇ、と笑った。
「それにしても大召喚以降いろんな人がいますね」
 葵はモーニングセットを口に運びながら周りを見渡す。
「むむ、これはなかなか」
 隅っこのテーブルでサラダをつつくメルト。
「……このお肉何の肉だろう……?」
 店名通り竜だったりするのかな? と肉とにらめっこ。
「あ、美味しい」
 一口ぱくり、と運べば笑顔もこぼれる。しかし、お豆腐も食べたいなぁ、なんて呟く兔玲乃。
「お勧めのジュースはあるかい? それに、デザートも」
 メニューを片手に店員に、首を傾ぐスギ。
「うーん、面白い服を着た方とかいないですかねー、……あ」
 そして何よりも葵の目を引きつけた者は。
「ウマイ、ウマイです! 生きててよかった……!」
「な、泣いてる……?」
 ぼろぼろと涙を零しながら草喰ってる場合じゃない、とステーキ山盛りを噛みしめるルネだ。
「この歳にもなると、早くに目が覚めてしまうもんでねぇ」
 てふは店員にからからと笑い、茶を啜って瞳を細める。
「今日はお祝いだってねぇ、折角だもの。お勧めだって言うステーキにしてみようかねぇ」
 そう、今日の賑わいは店主の祝い事を他者と共有したいという素敵な心意気だ。
「おはよう店主殿、誕生日おめでとう」
 セルウスは店主に紺の瞳を向け会釈を一つ。
「ドリンクは野菜ジュースでモーニングセットを」
 ――まだ稼ぎの無い身だ。タダと聞いては黙ってはいられないだろう。
 一日の活力は朝ごはんから。
「故に朝にはステーキを食べるのが一番なのである! どっかの偉い人が言ってた!」
 お肉を口に運ぶロードはご機嫌。溢れる肉汁、素晴らしきかな味覚に嗅覚。
「ねぇ、店員さん~もっとお酒が欲しいのよぉ、それに合うおつまみも。お手伝いしちゃうから~」
 猫なで声で、店員に明らかに悪い絡み酒をする琴音。
 酒の横に置かれた芋の煮物も明らかにうまそうだ。
「アレも美味しそうではないか!」
 店主の策士ぶりには、ロードも脱帽だ。
「うぇぇ、それ見てるだけでハムステーキむり、あげる」
 肉汁が滴るステーキに首を振り、ハムを聯吾の皿にシュアンは載せる。
「れんれんくん、ハムはその黄色いのたっぷりにすると美味しいよ」
「余は竜なのじゃから……、何? 黄色いの?」
 マスタードを片手に首を傾ぐ聯吾。
「余的にヤバい気しか……ん? 本当に嘘ではないのか? 本当か、本当なのか?」
「ぼくをしんじて、はーもにあ嘘つかない」
 そしてマスタードたっぷりのハムを口に運ぶ聯吾に、シュアンは笑って見せた。
「こ、このホラ吹き!」
「わー☆ 口の中でジュワ~って……面白ーい!」
 クルリはすっかり開いてしまった皿に前で舌なめずり。
「さーって、全品制覇するぞー!」
 ワンドリンクは分からないけれど。
 沢山食べられると言う事を、クルリは知っている。
「……食える、今日はまともなメシが!」
 財布を掏られ、報酬をすっぽかされ。
 忌々しいギフトの不幸から守り抜いた、なけなしの金。
 この金で、今日こそ。今日こそは!
「マスター、ミルクを! それに――」
 そこで、ミセリアは気づいた、気づいてしまった。
 そう、自らの財布が無くなっている事を。
 一方、厨房。
「出来たぜ。刃物の仕上げにはちったぁ自信があると言っただろう?」
 丁寧に研ぎ直された包丁からは、料理人に大切にされているという気配を強く感じる。
「良い腕じゃねぇか」
 ユウヒは笑みに口角を持ち上げた。

●ランチタイムのさざめき
「知らない人が多くてドキドキするなぁ……」
 そんな千秋の心配も、一口ステーキを頬張れば吹っ飛んでしまった。
「うん、美味しい」
 幸せそうな表情で、更に追加注文だってしちゃおうか。
「さて、何を食べようかな」
 日課のランニング後。店へ立ち寄った瑞希は少し悩んだ様子。
 まだお酒には早い時間だろう。
「……よし、すみません注文いいですかー?」
 さあ、今日こそはチキンステーキの焼き方のコツとソースの味を覚えて帰ろう。
 喧騒を増した店先でぴょーんと両手を上げて跳ねる少女。
「わー! ひとがいっぱい! にぎやか!」
 食事をする人々にQUUAの瞳はきらきら。
 店員の服裾を引く。
「きゅーあちゃんもてつだいたい! おしょくじ、くばるよ!」
「俺も良ければ手伝わせて欲しい」
 手持ちが無く悩んでいたロクも、QUUAの言葉に合わせて店員に尋ねた。
 そう、運が良ければ賄いだって頂けるかもしれない。
 見習いバイト達の誕生だ。
「んま~い♪」
 一心不乱。
 幸せそうにカレーを頬張る小梢。
 美味しいから色々どうでも良くなってしまう。
「んま~い♪」
「ふむふむ、どれもこれも美味しいですね」
 オリヴィアの細身のどこに収まっているのだろうか。
 休むこと無く口に運ばれる大盛りランチ。
「特にこのステーキは気に入りました。折りを見てまた来たいです」
 こくん、と喉を鳴らし彼女は頷いた。
「んー、さすが有名店の食事は違うねー」
 お野菜と肉の串焼きを一口。甘みとコク。苦味のバランスが絶妙なタレ。
「喫茶店のうちでも取り入れるものがないかなと思ったけど、畑違いかな?」
 首を傾ぎ、リンネはリインにはい、と串を差し出す。
「リンネ、私幸せだよう……♪」
 一口。
 両頬を抑え、幸せそうに呟くリイン。
「私もお店でこんな美味しいの出せる様になりたいなぁ」
 偵察も忘れて、デザートもお肉も全部いただきます。
「竜の胃袋もふんふんなごはんを大盛りで。おさかなさんごはんと追加でとりさんのかりふわおにく!」
 よろずのオーダーで届いたランチは、山のようだ。
「おおおー、すごい!」
「ふふ、そんなに喜んで貰えると僕も誘ったかいがあるよ」
 政宗は彼の喜び様にへらと笑う。大きめに切った肉を差し出し。
「よろずくん、一口食べるかい?」
「もちろんです!」
「ん。美味しい」
 見た目に反して健啖家なよろずも、政宗も。量にも味にも大満足だ。
 彼の名前は半藤カイ。三度の飯よりデュエルスピナーが大好きな小学生だ!
「それにしても太っ腹な店主だぜ! 折角だから、あのうまそーなステーキを食べるぜ!」
 そう、三度の飯も大切だ! 健康じゃなきゃ遊べないし!
「ここに来てからいろんな子を見かけるから創作意欲沸くわねー……次はどんなお洋服にしようかしら」
 恭介は呟き、店内を見渡す。
「まあ、店主さんの誕生日ですの。でしたら売り上げに貢献しないといけませんわね」
 マフレナは柔和に笑み。ランチセットを5人前注文し、店員の笑顔が一瞬凍りつく。
「あら、ちゃんとお金なら持ってますのよ」
 その後ぺろりと料理を平らげ始める彼女。
「よく食べるわね。それに面白い身体をしているわ」
 彼女の身体に合った衣装を作るとしたら、どのようなものが良いだろう。
 創作意欲がむくむく湧き出し、恭介は笑った。
 尻尾が床をぺちぺち叩く。
「これ何の卵だろう? これも美味しいなあ、……まったりとしてる。ここっていろんな卵が食べられるんだなぁ……」
 ダナンディールは卵料理に幸せそうにうっとり。
「ふふっ、素晴らしい催し物ですね」
 あまり酷使しないでいただきたいのだが、とストマクスの呪具は言う。
「ドリンクを適当に、その豪華なステーキセットをいただけますか」
 全く聞いていないな、呆れた様子で呪具は諦める。言ってもこの闊達な少女は耳を傾けもしないだろう。
「……す、好きな食べ物……?」
 アルファードは困っていた。
 このような所に来る事は慣れてはいない。何を選べば良いのか分からないのだ。
「とっても美味しいのですー! こんな柔らかいお肉初めてなのです!」
「俺もそのシチュー好きだな、こっちのも良いんだけどさ」
 ルアミィと談笑している亮に気が付き、アルファードはぱっと顔をあげる。
「好きな食べ物? そうだなー、俺の今日の気分はこのオムライスだぜ」
「まぁ、それでは、私もオムライスに」
「何度でも来たくなるお味なのです!」
「次はこっちのチキンステーキもお勧めするよ」
 ルアミィがにぱっと笑い、相席していたキョウがジュースを一口啜って笑う。
「――亮のいた世界でも、こうして皆で食卓を囲んで笑いあってたのかな?」
「うん、皆で食べる食事は楽しいからなぁ」
 そうか、と瞳を細めたキョウの横に、料理を片手に榛斗が腰掛け。
 そもそも日本人ってまだ生きてる? と彼は尋ねる。
 自らの世界では、既に減ってしまった人々。
 亮に自らの居たニホンと違うであろう日本の話を、聞きたいと榛斗は亮を見つめる。
「いろんな世界があるんだね」
「俺の住んでた場所じゃ――」
 オムライスを口に運びながら、亮は話し出す。
「料理というものは良い文明ね、しかし……亮くんも美味しそうねえ」
 それを頬杖を付いて周り観察していたロザリエルは、シチューを食べていると言うのにぼんやりと言葉を零した。
「え、亮さんっすか?」
 彼女の横に腰掛けた冴弓は余り聞こえなかったのか首を傾ぎ、ステーキを口に運ぶ。
「でもやっぱり肉は最高っすね、旨いしスタミナつくし良い事ずくめっす!」
「そうね、お肉は最高よねぇ」
 実は彼女達の会話は噛み合っているようで噛み合っていない。
「お、俺と同じ赤い目だ、おーい、はじめまして」
 亮に手を振ってから席についた史之は、イリアとメニューを覗き込む。
「当然ステーキよ」
「当然ステーキだね」
 満場一致。
「言っとくけど私は結構食べるからね、遠慮してると秋宮さんの分まで頂いてしまうわよ?」
「それは気をつけないと」
 肩を竦めて笑った史之は店員に手を振り声をかける。
「あ、サラダとデザートも食べたいわ。オススメのものはある?」
 首を傾げるイリア。……少しがっつき過ぎかしら、なんて。
 良い匂いは人を食事に惹きつける。
「ユウ何にする?」
「セシリア、私別に食べなくても……」
「もう、ちゃんと美味しく感じるようになったんでしょう? なら選びなさいよ」
 むう、とユウは眉根を顰め。
「……そうだけど。はぁ、まあ折角来たんだし付き合うわよ」
「うんうん、素直にそうしてなさい。おすすめは……へぇ!ステーキなのね」
「……あなたそれ食べきれるんでしょうね?」
「え? 食べきれなかったらユウに手伝って貰うからいいのよ!」
 ユウは、良くないわよ顔だ。
「んー、濃厚でたっぷりのお野菜とお肉がよく煮込まれてて……、とってもおいしいな!」
 へにゃっと笑ったモモカはシチューをどんどん口に運ぶ。
「でも、やっぱり幻想のほうが鉄帝より食べ物がおいしいかも……、ちょっとうらやましいぞ」
「なら、もっと食え食えー、こっちのガレットも美味しいよ」
 店主の誕生日に店に入る金が少ないというのも寂しいだろうと、沢山注文をしていた京は切り分けたガレットを皿に取り分け。
「お、いいのか?」
「食べ盛りはしっかり食べなきゃね。ほら、アンタも」
「えっ、ホントにいいの? 朝から剣の修行してたからおなかぺっこぺこ!」
 猫舌でほふほふいいながら肉を食べていたシャルレィスにもお裾分けだ。
「美味しい! これなら午後の修行もいっぱい頑張れそう♪」
「わ、いっぱい食べるの!」
 腹ペコ少女は増える。アイリスも両手で皿を掴み――、そのまま掌の口で食べてしまう。
「本当に美味しいです!」
「珍しい身体だな?」
「この世界での紅茶はどんな味なのかな?」
 紅茶が好きだという概念から出来ているラァトの選ぶ物は勿論紅茶だ。
 横の席に運ばれて来たのは果物たっぷりのタルトと、フルーツジュース。
「甘いの、タルト?」
 横の席――ラズライトはキョトキョトと周りを見渡す。
 知らない人間、はじめての人間。見ることはとても楽しい。
 ぱくりと一口。おいしくて、ふわふわ幸せ。
 そうだ、お隣さんにお裾分けしたら喜ぶだろうか?
「ねえ、ララのタルトはんぶんこしない?」
「おお、いいのか!? 焼いたニクもうまいぞ、食べるか?」
 逆側に掛け、大きなままフォークに刺さった肉を口いっぱいの頬張っていたテリアは、にぱーっと笑う。
「ニク、おいしい?」
「おう!」
 ラァトも一品無料という縛りで、お茶菓子は断念したが……。
「ねえ、よかったら私とも交換しない?」
 相席から生まれる会話。わいわい、がやがや。
 オレンジジュースにステーキにタルト、リンゴジュースにシチューにパンにサラダ。
 立ち並ぶ料理を、次々と腹に収めてゆく三日月。
「相変わらず良く食べるな」
「新月は相変わらず食が細いなぁ」
 三日月は自分の料理をまるまる食べ、新月の料理も半分貰いながらも平気な顔をしている。
 新月は新月で、半分でもうお腹いっぱいの様子だ。
 この相棒達のランチは、2人合わせてある意味丁度良いのかもしれない。
 静かに肉を切るナイフ。尖った歯が肉を噛み切る。
「うめぇ、うめぇ!」
 橙色の球体生物がガブガブとリンゴを齧る横で、静かに食事をする蜻蛉。
「わー! おおきなオニク! ステキだな!」
 早速かぶり付くお肉はジューシー。
「はぁぁぁ、うめえっす。マジで幸せ噛みしめてるっす!」
 宝石の瞳がキラキラと輝き、どんどん口に運ばれる肉、ジュース。
 ジルはこの世の喜びを口の中で一身に受け止める。
「懐具合がもう少し良くなれば全メニュー制覇したいっすよ!」
 ナーガの巨躯にもふさわしさすら感じるその圧倒的な塊。
「やっほー、ナーガさんっ、何食べてるのー?」
「ん、む、やっほ! リリーちゃん!」
 その彼女の肩にぴょっこり登って来たのはリリーだ。
「わ、大きー、美味しい?」
「おいしいよ! たべる?」
 リリーはお肉を一口ぱくり。
「おいしーっ」
 身体の大きさは違う2人でも、2人集まれば始まるのはガールズトークだ。
 二度目の転生、今回は召喚だったか?……どっちでもいいが、もうこういう食事は珍しくも何ともねぇんだよなぁ。
 メニューを見ながらツカサは考える。
「日本の飯が食いてぇなぁ……」
 夢想するは、熱々の白飯に味噌汁。焼き魚に漬物。
「さて、タルトを食べに来たのだけど……」
 だけど。
 半身の蛇身に視線を落とし、ため息を一つ。
「そうね、あの肉汁滴るステーキ、そそられるわね。……すっごいそそるわね」
 そしてヴィナは注文する。
「柑橘系のジュースに――ステーキお願い」

●夕刻の灯火
「サイダーないの、サイダー、あるの? ならそれと……」
 侑は回りを見渡す。
 何処からともなく漂うカレーの香り。うん、と侑は頷いた。
「じゃあ、カレー食べたい。具沢山で頼むわ」
アカツキは多くを語らない。情報を受け渡すという事は、それだけ不利な状況を作りやすいという経験に基いてだ。
彼の信念は揺るがない。
それ故、彼が言葉を発する時、その言葉は彼の最適解という事だ。
「ミルク、そしてステーキ丼。大盛りでだ」
 店主オススメの炭酸水にミントを付け込んだミント水。
 これがまた甘すぎず、チキンステーキにさっぱりと合うのだ。
「食への興味は尽きませんねぇ、是非また此処で食事をしたいものです」
 ハイドはパリパリの皮を口に運びながら呟いた。
「それじゃあまずはボク達の出会いを祝ってカンパーイ!」
「乾杯ー!」
 異世界掲示板のぷちオフ会。
「……む、なんだそれは?」
「仲間が集まった時のご飯の前の号令みたいなもの、でしょうか。こんなふうに楽しい時間を過ごせる仲間ができたことに、深く感謝を」
 乾杯を知らぬ董夜が首を傾ぎ、夜風が教えるように彼の杯と杯をこつりと鳴らした。
 シードルで乾杯後は、公はメニューをわくわくと覗き込む。
「せっかくファンタジーな世界に来たんだし、ここでしか食べれないようなもの食べてみたいよね!」
「衝撃的な素材の揚げ物とかあればお持ち帰りしたいですね」
「ドラゴンステーキとか? ドラゴン唐揚げとか? ……無いか」
 同じく景も頷き、皆でああだこうだとメニューは決定。
「わあ……、初めて食べるのですが……とても美味しいです!」
「たしかに、旨い」
 瞳をキラキラと輝かせながら肉にかぶり付く董夜。
 人間の食べ物に感動する夜風。
「こっちの魚も見た事がないけれど、身に旨味がぎゅっと詰まっていて美味しいですよ」
 皆の料理を少しづつシェアしていた景が魚を差し出し。
「奥歯にぎゅっとくる時だね……!」
 公が一口。大きく頷く。
 素敵な仲間たちと、素敵なひととき。
 此方に来てからは歌を歌っていなかったけれど。
「ねえ、店主さん。ステージをお借りしても良いかしら?」
 歌姫であったルティアニスは、歌う。
 皆が楽しい時を過ごせる様に、気持ちを籠めて。
「俺の分、あるよな!? 腕のメンテナンスをしてたら遅れちまった……!」
 慌てて駆け込んできたボルツに向かい、ニクセとクリスは笑ってみせた。
「大丈夫、今から乾杯する所だよ」
「待ってない」
 ニクセは随分と早くに来ていたようだが、そこを指摘するクリスでもない。
「さあ、料理も来ている事だ、乾杯しよう」
「おお、ありがとな!」
 乾杯と祈りを終えれば、クリスが食事を取り分ける。
「うん、旨いな!」
「美味しいご飯は元気の源になるからね。沢山お食べ」
 2人の食べる所を眺めながら、ニクセは杯を傾ける。
 目に映る食べ物が殆ど知らない物ばかり。……でも2人が食べているなら、大丈夫だろう。
「それじゃあ、林檎の果実酒に。そうだな、お勧めのステーキといってみようか」
 普段は手を出さない食事も、一品無料とあらば。
 メニューを畳みながら、ブラストの視線は横の椅子を引いた鷹の青年に止まった。
「お、アンタも特異運命座標(ドウギョウシャ)か?」
「うん、同業者! 一緒になったら、その時はよろしくね」
 相席となったアクセルは、翼を畳んで椅子に掛けながらにっこりと頷いた。
「オイラはエールに、シチュー。果物のタルトをお願い!」
「太っ腹だ、すごいな! いただきまーす!」
 もふもふのサモエドめいた姿。目の前に届いたステーキにクオンはテンションアップだ。
 一気に飲み干したミルクを置くと、目の前に犬がいた。
「……ムシャッムシャッ」
 黒井――、そう、見た目は犬だ。
 犬と犬が相席をして食事をしている。
 尾を振りながら肉を貪る黒井の姿を見て、クオンもフォークを諦めて手掴みで肉を食べだす。
 なんだかどこか心が和む空間が生まれていた。
 貰ったお小遣いは全て食事に変えてしまったのであろう、皿の塔。
 おいしいと書かれたスケッチブックが傍らに置かれている。
 きっと、料理が気に入ったのであろう。カミーリアは表情を変える事も無く、ひたすら食事を口に運ぶ。
 骨の眼孔、鼻孔、隙間から漏れくゆる紫煙。
「なんだ、この世界は賑やかなもんじゃねぇか。俺にゃ騒がしすぎるかな」
 煙草を置き、グラスを傾ける骸十郎。
 びたびたと床に酒が零れ落ちる。
「お誕生日おめでとう、店主さん」
 小さなガーベラのブーケを手渡し、エリカはぺこりと頭を下げた。
 主役がもてなす側でいいなんて、見習うべき心がけだわ、なんて。
「思ったより食っちまったな」
 酒一杯の値段で飯が食えるなんてついている、と思っていたが。
 思いの外旨い飯に、追加注文してしまったグレゴドールは腹を撫でる。
「美味しい……! 食欲も知識欲も満たされる気分だわ!」
 へにゃっと笑ったエリカと目が合い、エリカは食事に喜んでいる様を見られた事に少し照れて目を逸らす。
 あんな嬢ちゃんでも喜ぶ飯だ、俺が食い過ぎるのも仕方の無い事だろう。
 飲む。飲む。飲む。
 ミルクはココナツミルクを飲んでいる。
「うまい!今度はヨーグルト!」
 ぷよぷよの身体が心なしか、どんどん大きくなっているのは気の所為だろうか。
 食べる、食べる、食べる。
 アラクの横に掛けるユウは、ひたすら食べ続けていた。
「今までの癖でさ。燃費悪いんだよなぁ……」
 目が合い、肩を竦めてユウは言う。
「良く食べるんだね、びっくりしたよ」
 一人前のステーキを切りながら、アラクは頷く。
「食べられる時に食べておかなきゃな、それはそうと、アンタはどこから来たんだ? ここらじゃ見ない感じだが……」
「自分の故郷かい?」
 アラクは目をぱちくりとさせる。ユウは頷き、水で喉を潤した。
「……ああ、ぁ、いや、俺は……」
 違うのだ、こんな筈では無かったのだ。こんなパーティが仲良く突いて食べるような山盛り焼肉Gでは無かった筈なのだ。
 明らかに頼みすぎた凱は、途方に暮れる。
「おっと、お兄サン好き嫌いは行けないねぇ。俺も食べてあげるよ」
 そこに現れたのは、安酒を煽り肉を食べ続けるネグロだ!
「……なあに、祝いの席で野暮な事は言わないさ、そうだろう? 旅人サン」
 ただタカられているだけの凱だが、その時ばかりはネグロに後光が見えただろうか。
「一人で飲む酒はもいいんだがね。今日は誰かと飲みたい気分なんだ」
「おお、では一緒に飲もうぜ!」
「そうだな、では。この出会いに乾杯」
「今日の佳き日に!」
 肉の皿とエールのグラスを片手にテーブルからテーブルを渡り歩いていたリオンと、リックはこつりと杯を交わし合う。
 一緒に飲んで、話をして、騒げばきっと明日には友情だって芽生えている、のかもしれない。
 アイドルだって、お肉をたっぷり食べたい時もある。
「はぁー、美味しいです。マスター、お酒も一杯!」
 幸せの味には、幸せの飲み物を合わせるのが一番だろう。
「え、17歳? も、元の世界では17歳が成人……」
 悪戯げに笑った店主に、らむねは慌て言葉を紡ぐ。
「せ、詮索しない! 空気読んで下さいよ!」
 はいはい、と肩を竦めた店主はカウンター奥へと引っ込んで行った。
「かんぱーい!」
 次にエールを持って現れた店主とらむねに杯を掲げたのは藤だ。
 一口ぱくり。
 肉汁をエールで流し込み――。
「もう、最ッ高!」
 美味しい料理に美味しいお酒、幸せを噛み締める藤なのであった。
「おー! 僕のお酒を飲めないのかぁ?」
 一番高い料理と、超大盛りの肉の山の目で尾を揺らすラズワルド。
 強いとは言え、あれほど飲めば酔うのは仕方の無い事であろう。
「そうだな、では次はエールを頂こう! 一樽でな!」
 ぺったりと彼に抱きつかれたガーグムドは陽気に両手で酒を煽る。
 既に酒の回っている2人は何故か半裸だ。
「えへへぇ……あったかくてきもちぃ……」
「おっと、そんなに頭を揺すると飲みにくいではないか!」
 頬ずりしながら突然ぐう、と眠るラズワルド。酔っぱらいとは如何ともしがたいものである。
「……参ったな」
 ステーキを頼んでみたが、酷く味が薄く感じる。
 サイズは肩を竦め、自らの鎌にステーキを押し付けてみた。
「あー」
 突然広がる鮮明な肉の旨味。本体たる鎌に味覚が持って行かれている様だ。
 仕方無しにサイズは鎌に肉を押し付けつつ食事を再開する。
「んグッ! はッむ!! もっぐもっぐもっぐもっぐ!!」
 咀嚼、飲み込む、喰らいつく、咀嚼。
「スイマセーン! ローレットにツケでおかわり!!」
 勢い良く吠える蜘蛛女、サーニャ。
 一秒後に彼女は店員に他者にツケはしていないと断られる事となる。
「しっかし、こうしてみると本当に色んな奴がいるな……」
 目の前に広がる様相。アランは改めて回りを見渡した。
「異世界と聞いて、言語や強さが均一化されてるのは驚いたが……飯は普通なんだな」
 妙な化物の肉でない様子の肉は、とても美味しい。
 テラ盛りであったミートプレート。タルトに、焼き魚、パスタに煮物。
 全て今となっては空だ。
 綺麗に一人で平らげたミーチェは、ぱんぱんに膨らんだお腹をさすって幸せそうに瞳を細めた。
「ふぅ……御馳走様ですぅ」

●竜の胃袋
「さぁさぁ誰か、私と勝負する者は居ないか!?」
「ガハハ、ならば一つ飲み比べといこうか!」
 ラズの声掛けに豪快な笑みで応えたのはガドルだ。
 一度酒を酌み交わせば友も同然。
「俺は旨い酒とメシには目がなくてな。できるだけキツイ酒を呑めるだけ呑んでやろうじゃないか!」
「おお、臨む所だ! まぁ、たっぷり飲み食いした分の代金は負けた方に払って貰うがなぁ!?」
 斯くして。男の戦いの火蓋が切られたのであった。
 祝ムードに騒ぐテーブル周辺とは裏腹、静かに燻る紫煙。
 カウンターで静かに酒を傾けるニムド。その横でエールを傍らに肉を口に運ぶオヴィス。
 ふ、と2人の目が合い、ニムドが杯を掲げた。
「その辺を飛んでるトンボにでも」
「ああ、乾杯」
 こつん、と交わされる杯の音。
 なるほど、色んな奴がいるものだ。
「めでてぇなぁ~めでてぇ時ぁ飲んでぇ食ぉぅ」
「こんなに美味しいものを呑んで食べて良い夜を過ごせるなんて、感謝するのはこちらですねー」
 ジャッカルの獣人――ゼグルドは陽気に肉を口に運ぶ。
 声を掛けられたハンナは、蜂蜜酒にふわふわした笑顔で頷いた。
「良い席だぁ、宴はぁ良いなぁ」
「皆楽しそうで、わたしもしあわせですー」
 のんびりふわふわ。ハンナとゼグルドの会話はもう少し続く。
「お前何すんだよ!」「あぁ!? やんのか!?」
 火花が散り、荒くれ者達が口論を始める。
「うんうん、この隙に食べちゃうっすよー」
 彼等をぶつからせた張本人、狛は彼等のテーブルから皿を拝借してしまう。
「コマさん悪っすからねー」
 丁度腹ペコ、良い所に良いお祭りに巡り会えたものだ。
「お茶と、さてメニューはどれにしようかなあ」
 椅子に腰掛けた津々流は回りをぐるりと見渡す。
「いざ」
 この食事の為に日中を白湯のみで耐えてきた下呂左衛門の前には大きなステーキ。
 箸を構えた彼は、ココまでの苦労を思い返す。突然召喚されて無職。いや、以前から無職ではあったが。
 しかし今日は満腹で眠る事ができるだろう!
「尋常に勝負!」
「あれが一押しメニューのステーキかあ……、うーん、美味しそう!」
 店員に手をあげた津々流は、早速同じものを注文する事とする。
「ドリンク一杯分で肉が食えるなんて、とても良い!」
 ご機嫌なルーティエはごくんと肉を飲み込む。
「通常の値段でも悪くないな、近くに用事がある時は寄って……、いや! いっそこの辺りで大道芸を?」
 は、と気がついた様子で立ち上がる少女。
「今か、稼ぎ時!」
 目指すは歌姫の立つステージ、彼女の歌声に合わせてさあ舞おうか。
「ああっ! 一日の最後の、この一杯の為に毎日の鍛錬はありますわ!!」
 熱々の蒲焼きを一口。エールを煽る。
「炭火の香ばしい香り! 皮が見事な焼き加減で全く硬くなくサクフワと口の中で崩れる様! 溢れる肉汁の脂の甘さ! 何ということでしょう! 一人で楽しむにはあまりにも贅沢すぎますわ!」
 リミードの食レポじみた言葉にごくりと喉を鳴らすリチャード・チェン。
「俺もあれを食わせろ! 肉だ肉、ステーキ大盛りも頼むぜ、それに美味い酒だ!」
 胃袋一杯に豪華な肉料理と、酒を詰め込もう。
 戦いの前はいつだって肉なのだから!
「しっかしこんな良いサービス黙っていられねーな!」
「……一段と騒がしいな、今日は」
 二つ並んだチキンステーキとエール。
 骨ごと噛み砕きそうな勢いで食べる兄シュルヴェストに、弟のジギスヴァルトは肩を竦める。
「そんなに勢いよく掻っ込んで。後で腹を壊しても知らないぞ、兄さ」
「……ん? おいジギィ、なんでそんなゆっくりなんだよ。食欲でもねぇのか?」
「――あ」
 骨付き肉を削ぐのにまごついていた弟の肉に手を伸ばす兄は、制止する間も無く肉を奪ってゆく。
「……ああ」
 奔放な兄に振り回される弟は頭を抱える。
「ではでは、乾杯っ!」
「かんぱーい!」
 ロウの声に合わせて、4つの杯が重なる音。
 シチューに、チーズ入りフライ。砂肝串に、フルーツタルト。
「ねぇねぇ、僕もそれちょっと食べてもいいかな? あ、その分、僕のタルトも分けるね!」
「それではこちらのシチューを、はい、どうぞ」
 ニーニアと料理をシェアし合う日和。
 立ち並ぶ料理達は多めだが、皆で分け合えばいろいろな味が楽しめるだろう。
「俺この世界好きかも。料理がマジ美味ぇもん。……俺も、ちょっとは料理できるようにするかな」
「世界は好きになった方がきっと楽しいですものね、一緒に料理してみますか?」
 トートの言葉に頷くロウ。
 少しずつ、料理からでも。この世界について知ってゆくのも良いだろう。
「マスター、いつもの」
 目を丸くした店員に、Amonetは頭を振った。
「……冗談だよ、来たのは初めてだしね。ああ、次のチキンステーキは凄く辛くしてくれないかな? 味が濃いのしか分からないんだ」
 トラブルブレイカーズの面々の前に積み上げられた皿はうず高く。
「次はこっちの串盛りもいいな」
「……よく、食べるね……?」
 自らの料理まで食べられてしまい、若干引き気味に呟くナハト。
 ギフトの加護を遺憾なく発揮して暴食の限りを尽くし続けている幸奈は次の注文を選んでいる。
「食べられる時に食べておかないとな……」
 彼女と張りあい、暴食ギフトには勝てる訳も無く椅子の上で丸まって寝ているのはマキリだ。
 なぜかその尾の先には未だにフォークが握られている。マナーについて正された結果のようだ。
 そうじゃないと思う。
「忙しそうだなぁ……、ちょっと手伝ってくるか」
 ふら、と立ち上がる和生。何たって妹の注文で厨房はてんてこ舞いなのだろうから。
「今日はありがとうね、宝探しに付き合ってくれて」
「ううん、仕事だし、マヘルさんといるの楽しいから」
 テーブルにはモニカの注文した1ポンドステーキが二人分。
「……でも、モニカさん、この量は絶対多すぎよ、もう私お腹一杯だもの」
「あ、そしたら残りは私が食べてあげる」
「……もう、始めっからそのつもりだったのね」
 肩を竦めるマヘルは言葉とは裏腹笑顔を浮かべ。彼女が食べる様を眺めるのだ。
「ポーターハウス・ステーキってのはあるかい。そうだ、牛の骨付きのデカいやつだ。グレービーソースとマッシュポテトも添えて頼む」
 どっかとカウンターに腰を降ろしたビリーは店員と視線を交わす。
「肉ってのは女と同じなんだ。焦るな、騒ぐな、じっくりモノにしろ」
 ふわもこの羊さんの横で、果物をふんだんに使ったタルトを一口。
 ゲオルグは一日の終わりのささやかな贅沢の幸せに痺れる。
「この果物とクリームの甘み、なんと幸せな事だろう……」
 そして、羊のジークの期待に輝く瞳に気がついた彼は、急いで一口取り分けてやった。
「い~~香りのするお店ね! スイーツもあるみたいだし、色々頼んじゃおうかしら」
 タルトの小さな体躯がぴょんと跳ねた。
「スイーツに合うカクテルに、……えっ、本当? 一口ずつスイーツを盛り合わせてくれるの?」
 彼女の小さな体躯に合わせて盛り合わせてくれると言う店員にタルトはニコニコだ。
「異世界に飛ばされたストレスを発散するわよ~★」
 一番食べごたえのあるステーキと、勧められたのはリブ肉を絶妙に焼き上げたリブステーキだ。
 巨大なステーキを何枚も追加し、喰らうエクスマリア。
 黒い帽子が咀嚼に合わせてゆらゆら揺れ、金髪がグラスをしっかりと掴んでいる。
「美味いぞ、呑むか?」
「じゃあ……少しだけいただくッス」
 見た目に反して健啖家な少女に驚いていたイルミナも、勧められてグラスを啜りじっとエクスマリアを見る。
 こうして、一緒に時間を過ごす事はとても大事な気がして。
 イルミナは、ふにゃ、と笑顔を零した。
「それじゃあ早速♪ 炭酸水をくださいな。あと特大ステーキに太麺の鳥ガラスープに……サラダ大盛り、あとご飯を大盛りで!」
 ルトラカルテは楽しそうにメニューを読み上げる。
 彼女は重大なミスリードをしていた。
「え、もちろん全部食べるよ、これくらい軽い軽い! 美味しいご飯をお腹いっぱい、しかもワンドリンクで食べ放題なんて素敵な日だねー!」
 そう、今日はワンドリンクで一皿サービス。
 一皿サービスなのだ!
 ルル家はじっと柱に潜み、彼女の言葉を聞いていた。
「ほわぁぁああああ!!?!?? なんじゃーーこれー!! 噛んだら中からこうなんかこれ汁! 汁が! めっちゃ出てきよる!!」
「おお、土岐は中々良い食べっぷりじゃねえか!」
 めちゃめちゃ叫ぶ蛇紋天。
 侠は楽しそうに笑い、肉にかぶりついた。
「それに比べて、大人になるんなら、甘いもんばっかじゃなくてバランス良く色んなもん食べないとダメだぜセレン。塁もそれで足りんのか?」
 赤身肉を切り分け、差し出す侠。
「蛇ちゃん恥ずかしいからあまり叫ばないで……、私は燃費はいいんです。ハーツクライさんにあげて下さい」
 塁が首を振ると、当のセレンはタルトとプリンをモリモリ口に運ぶ。
「私はもう大人なので、大丈夫ふぇふ。……店員さん、プリンおかわり」
「おや、皆様いらっしゃいませ」
「って、夢見さん!?」
「いやー、無料食べ放題と勘違いして大量に飲み食いをしてしまいまして……、忍法体で返すをですね。しかし折角なので拙者もご相伴」
「何をサボっているんだい?」
「あっ、すみません店長! 耳引っ張……!」
 奥へと連行されるルル家。
「ルル家の奴は何やってんだか……」
 切り分けられたお肉は蛇紋天が美味しく頂きました。
 フィッシュ&チップスに、パンケーキ。そして海洋の幸たっぷりキングフィッシュのムニエル。
「りっち~、こやつ、サッパリ減らんぞ~……」
「これ、ていくあうととか……できない、かな……?」
 弱音を吐くナナルカに、見た目通りの少食のクランベル。
「食べきれないなら、手伝お」
 リチャード・F・ロウが言葉を紡ぎ終える前にテーブルの上に現れる大ボス、フルーツの財宝盛りだ。
「……こんな物まで頼んでいたのか……」
「……すまぬ」
「や、やっぱり量が……」
 ナナルカは素直に謝った。食の遭難確定の瞬間であった。
「あぁ、……嘆かわしい」
 ざわめく店内。
 この突然増えた旅人達によって、今後国にどのような影響がでるのだろうか。
 人口増加に食料問題雇用問題、思想の相違など考えればキリがない。
「あー、もう、食べて飲まずにはいられない! アルコールを!」
 子供には駄目、と窘められたハイデマリー。彼女の前には泡ジュースが一つ。
 今時分ぐらい好きにさせてもらおう、酒と、肉だ!
 仕事中も普段からこんな状態だなんて、そんな事ありえる訳無いだろう。
「おっと、もう酒がなくなったか」
 エイヴァンは空になったグラスを傾け、手を振った。
「おおい、そこの可愛いウェイトレスの姉ちゃん、一緒に飲まねぇか?」
 素気無く断られるエイヴァン。
 竜の胃袋亭のお祭りの夜は、こうして更けてゆく。

writing:絲上ゆいこ

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