PandoraPartyProject

特設イベント

光り輝く過ぎゆく夏の海で

●真昼の太陽Ⅰ
 バルツァーレク領、その南に海種でも『うっとり』してしまうのだという綺麗なビーチがあった。
 夏の海は特別製だ。その一瞬一瞬が光り輝き、違ったものに見えるのだから。
 真昼の太陽の日差しはダイヤの輝きの如く。落ちる夕日はルビーの様に全てを吸い込み、夜の海は月を映してサファイアに輝く。財宝の詰まった夏だけの贈り物。
「はっはっは! 夏がオレを呼んでいる! 今こそ、燃えよと! 炎の如く!」
 第一声は勇者としての勤め。岩の上に陣取ったバラードはポーズを決めて登場した。
「そして、とーおっ! 大海原の一番槍は、このオレが貰ったーッ!」
 しかるのちにセリフの通りの行動をとったバラード。その勇気こそが、彼の一族に伝わる勇気の証なのだ。
 オリヴィアの案内を受けて海へと訪れた舞衣は「海だーーーー!」と両手を上げて海へと飛び込んでゆく。茶色のショートヘアでビキニ姿である彼女はなんとも健康的だ。
 波打ち際にビーチパラソルを立て、カクテル片手に豊満ボディを見せつける様に座ったベルタ。
「オリヴィアさんにもドリンクわけてあげるっすよ」
「おや、悪いねぇ。ありがたく頂くよ」
 褐色肌に女性の色香を見せるオリヴィアに惜し気もなくその肢体を披露するベルタは「べ、別に一人で寂しい訳じゃごにょごにょ」と呟いている。
 きょとんとしたオリヴィアに「何もないっす!」と返したベルタは満潮になった時その場所が海の中である事を今は知らない――……。
「海! 泳がずにいられねえ!」
 オリヴィアを誘ったヴァレリアは海の似合うイイ女だから、わくわくしちまうのよと笑みを深める。
 緑と青のダイクロイックアイが特徴的な彼は眼鏡をくい、と上げ「それじゃいこうか?」と彼女を海へと誘った。
「そうだな……。ただ泳ぐだけじゃあ、つまらねえだろ。海の宝探しと洒落込もうぜ?」
「面白いことを言うねえ。乗った! 宝は山分けだ!」
 真珠でも見つけられたらばっちりなんだがと笑ったヴァレリアにオリヴィアは大きく頷いた。
「え、っと……本当には言っちゃっても大丈夫なの、よね?」
 海と言えば別の種族のテリトリー。そんな常識を持つセドリアにとっては慣れない場所だ。
 白いスク水姿の彼女は「こうして海に入れるなんて……」と期待に胸を膨らませた。ゆっくり、ゆっくりと足先からぽちゃん。
「モンスターと戦う以外の目的で海に入るなんて初めてだから、わくわくしちゃいます! きゃー!」
 楽し気に騒ぐセドリアよりも尚騒がしい奏は「ひゃっはー!」と両手を上げた。
「海だーー! スイカ? Non! 海水浴? Non! 食い倒れ? Non!
 お宝探しだー! 野郎共ォ! 錨を降ろせェ! あれ? ぼっち?」
 きょろきょろと見回しても周りには誰もいない。つまりはぼっち。そんな奏に付きつけられる驚愕の真実とは……。
「え? 素潜り? え? 足に着けるやつとかボンベとかないの……? な、ない……や、やるしかねぇ……」
 ごくりと生唾を飲み込む。女にはやらねばならないときがあるのだ。
 いざ、太陽輝くダイヤの如き水面へ。
「にゃー! なーがーさーれーるー!」
 ……ですよね。

「海だ! 女だ! バインなネーチャンだ!」
 ハイテンションに宿主を急かす熊のフレンズ、その名もフロワ。つぎはぎのクマぬいぐるみを抱えた幼女は海に似合わぬフリルたっぷりのワンピースに日傘と意地でも日に焼けまいと対策をしてきていた。
「俺様の可愛さをフルに使ってねーちゃんに近づくんだ! 良いな!」
 幼女の腕の中で、前のめりになり浜辺を目指す熊のフレンズに幼女はこてりと首を傾いだ。
「よし、あのねーちゃんにいくぞ!」
「うーーみーー! やっぱ夏はこれでしょ♪ モモちゃんも全力で満喫しちゃうぞっ☆」
 桃色と呼ぶに相応しい風詩美はピンクのビキニ姿でビーチバレーをしようとボールを抱えていた。彼女の許へと歩み寄り見上げたフロワに風詩美は楽し気に笑った。
「このピンクのビキニ超ーぅかわいいでしょっ☆ モモちゃんのナイスバディに見惚れちゃってもいいんだぞ☆ あ、おさわりはNGだかんね!」
 楽し気な風詩美に誘われていざ行かん、ビーチバレーと夏の海。
 気持ちの良い波飛沫に蒼過ぎる空。水着の女性――ありがたい、何処を見ても最高だと夏子は口元を緩ませた。
「田舎から出てきた絵画あったよなあ。コレが世界平和ってことだよお……」
 呟き、飲み物片手の夏子の目の前にはオリヴィアの姿がある。きらりと瞳を光らせて「ちょいとソコ行くお姫様」と夏子は声をかけた。
「この私目と今宵宝石の様な思い出を……あれ?」
「お姫様はどこにいるんだい?」
「いや、違……オリヴィアさんの事ですよ。間違いじゃないですよ」
 可笑しそうに笑ったオリヴィアに夏子は「お姫様ぁ」と困った様に声を漏らした。
「わーっ! 綺麗な海……」
 ふわふわとした髪を揺らし、丸っこい瞳で海を見遣ったステファンは「凄い」と瞳を煌めかせた。
 泳いだことはないから砂遊びでもしてみようかな、と初めての海に緊張するステファンは砂で作るのも初めてだと周囲を見回した。
「あ、オリヴィアさん、よければ一緒に作って欲しいんだ。今回作るのは……イルカとか楽しそう……リアルなイルカを作りたいな……」
「アタシで良ければ手伝うさ! 何、伊達に海賊やってないよ! 任せな!」
 リアルなイルカ作りに手先の器用なステファンは頑張ろうねと微笑みを浮かべた。
 海と言えばお宝探し。浜辺で貝殻を見つけて「綺麗」と瞳を輝かせた星玲奈の次の目的地は――海だ。
 海の中にキラリと光る『何か』がないかを探すために彼女はゆっくりと深い所へと泳いでいく。
(ネックレスやアクセサリー系のものを作ってみたいなー……何かないかしら?)
 美しい海に目を輝かせ、素潜りでお宝探し中のエリックは珊瑚礁や磯巾着に見惚れながらのダイビング。
(海ってこんなにすげぇところなんだなぁ……)
 綺麗な石や貝殻に触れて、宝物はないかときょろきょろと周囲を見回した。
「幻想の海というのも興味深いですね」
 フロウは宝には興味はないが海種らしく人魚の姿で散策しようと海の中。海洋の海とは違った様子が何所か真新しく楽しい気持ちになってくる。
 海の景色を楽しむだけでもいいが、今後の情報収集を兼ねて様々な生物の観察をしてみよう。
 海洋には居ない海の生物たちがフロウを迎えてくれることだろう。

「夏の海だー♪」
 ラブリー&セクシーなフリル付き黒ビキニを着用したギギエッタは「オシャレでテンションアゲアゲ↑↑よ!」と海へと飛び込んだ。
 海は自分からは行かないけれど、こうしてみんなとならば楽しいものだとギイは浜辺で綺麗な貝を探そうと探索中。
 水の中で楽し気なギギエッタの隣では、白いシャツとハーフパンツで海辺の紳士となったジェームズが水没しないように浅瀬で涼んでいた。
「皆、若いね」
「そう?」
 首を傾げた要の手には水鉄砲。折角だからと用意した水鉄砲の標的は――楽し気な様子を眺めてご満悦のリゲル。
「えいっ」
「うっひゃあ!?」
 突然の冷たさに立ち上がったリゲルは何事かと周囲を見回す。くすくすと笑った要は「隙ありー」と彼へと笑って見せた。
 一方で、塩水を浴びたら錆びそうだからと可愛い悪戯から逃げる様にギイは懸命に避けている。
「あはは。僕海初めてなんだよー。波打ち際って擽ったいねー」
 楽し気なポテトはギギエッタがぱしゃりとかけた見ずに「やったなー」と仕返しをしながら、水飛沫を避けるギイを眺めて笑った。
「よーし、ジェームズ君にもかけちゃ……かけて良いのか悩むねえ」
「頭以外なら大丈夫だ」
 頭はNGなジェームズにポテトは成程と頷いた。水がNGな人間が多いなら、折角だからスイカ割りも楽しもうとポテトは海から出て、持ち込んだスイカ割りセットを指さした。
 楽しそうと最初にチャレンジしたのはギギエッタ。暗がりでは感覚は鋭くなるからと――妨害も何のその。
「わわっ」
 背を触った要を追いかけまわす様子は愉快そのもの。楽しげに笑ったギギエッタに要も小さく笑った。
 次のチャレンジャーはリゲルだ。精神を集中させながら持ち前の方向感覚を生かして割ろうと目指す。
「あ、リゲルもっと右だよーがんばれー」
「七歩半後退して右に九十度転換!」
 ポテトの声援とジェームズの指示を受けて、リゲルはふらつきながらも懸命にスイカを目指した。
「スイカ食べたいしきっちり割ってもらわないと!」
 冗談半分で笑ったギイの声にこくりと頷き、「そっちそっちー」という声を受けながら見つけたのは西瓜。
 一刀両断。壊さないようにと垂直に下した先で真っ二つになったスイカに周囲から歓声が上がる。
 その様子を見ていたビキニ姿のアメリアは「ジェラートにするよ」とジェラートマスターとしての技量を生かして、夏の海でジェラートを振る舞った。
 チャレンジ精神旺盛な味とまでは行かないだろうが、珍しいスイカのジェラートにポテト一行は「おおー」と感性を上げる。
「冷たいもんでも食っていきなよ、まだまだ暑いからね」
 その少し離れた位置で水着姿でパラソルとビーチチェアーに腰かけたデイジーがトロピカルなジュースを手に「あれは、スイカ割りじゃと」と瞳を光らせる。
 サングラスをくい、と上げて眺めればジェラートまでも振る舞われていた。
(なんか、楽しそうじゃのう……)
 一人でこうして夏の海を楽しむのも良いが、スイカ割りに参加するのだって――きっと、楽しい。
「……ふう、しょうがない。特別に妾も参加してやっても良いぞ」
 楽しいスイカ割りはまだまだ続くのだ。

●真昼の太陽Ⅱ
「じゃあまあ、親睦会ってことで。適当に食べながらお話しようじゃないか」
 アイスキャンディーを舐めながらピスクレアは「綺麗なものだね、このビーチ」と小さく背伸びをする。
「……確かに綺麗な海なんだけどさ、あっちぃね」
 親睦会と言いながらいつも通りにゴロゴロだらだら。そんな様子のクィニーに視線を送り「海洋とはまた違った感じだね」とピスクレアは小さく笑った。
「いきなりマリンスポーツとか」
「それはご勘弁願いたいねぇ」
 クィニーが呟いた声にピスクレアは楽し気にからからと笑った。
「ここから……おいしそうなにおいがする……」
 ふらふらとシューが向かったのは海の家。メニューを端から端まで頼み、シューは「おいしい……」と瞬いた。
 机の上にずらりと並んだ料理。その量は尋常じゃないが今のシューにとっては朝飯前。
「おいしい……初めて食べるものばかり……」
 輝く瞳は、今は料理に夢中だ。
「俺にとっちゃあ普段着だが……アロハシャツ、なら、たまには本来の居場所に来んのも悪かねえだろう」
 海の家でテーブルに陣取って紫煙を吐き出したウタゲは酒と食事を楽しんでいた。海の家のメニューは中々に豪華だ。
 海をぼんやりと眺めたウタゲは楽し気に遊ぶ『同業者』を見遣って小さく笑った。
「異世界だろうと、海ってそれほど変わんねえんだな」
 その目の前で、困り顔のアリアが「あ、あの」と口をぱくぱくとさせている。運悪く脱げてしまったビキニ。
 流石は、ギフト『薄幸の少女』――涙目で「か、返して」とビキニを拾った男たちに声をかけるが。
「う、うう……もう、返してくださいよお……」
 悪戯に笑った男たちにアリアの記憶には苦い記憶が植え付けるのだった……。
「フフフ……ニンゲンドモメ ノコノコト ウミニヤッテクルトハ ワガハイノ スガタニ オビエルガイイ」
 ざば、と海の中から登場したカセイ・ジン。クラゲの様な、火星人の様な独特のフォルムな彼は「ム」と顔を上げた。
「イイニオイガ スルナ。 アノ ウミノイエ トヤラカラ タダヨウ イカヤキノニオイ……」
 カセイ・ジンの目的地は決定だ。海の家を目指して進軍する侵略者。人間の侵略はとりあえず、イカ焼きの後だ。
「昼の海で男探しじゃーい!」
 海からざばっと出て来た心。『混沌とかワケ分からない場所』に来てしまった女子高生、心にとってはそんな事よりもイケメンが多い事でファンタジー的にはOKだった。
 カセイ・ジンのイカ焼きへの想いを感じ取りながら、「うん、ちがう」と周囲を見回す心。
「おひとり様なイケメン男子に声かけてキャッキャウフフを目論む! は? もうカップル!? な、なんてこった!」
 ――そうなんです。
 心の言葉に「そうなんです!」と叫んだBart。記者としてやっていくにあたって、カップル情報だって需要も高いとこの海に臨んだ彼にとっても驚きの事態だ。
「うっそ? 海ってナンパの聖地じゃないの!?」
「デートの聖地なんです! カップルに互いの何処に惹かれたかをインタビューすることで抉れていくロンリーマイハァァァァァァットォォォォォッ!」
 その言葉を聞いて居ても立っても居られないクォリエル。ロンリーハートを癒す海マスターとは彼女の事だ。
「ふっふっふ、うーみー! 海だー! 海があーしを呼んでるぜー!」
 海に北はいいけれど途方に暮れてるロンリーガールとロンリーボーイはクォリエル先生におまかせだ。
 だが、その前に一つ聞いて欲しい。孤独な心の叫びを。それでは、どうぞ。

 ――どうしてオレはモテないんだッッ!!!!

「……?」
 首を傾げるサリカ。何か、聞こえた気がする……。
 泳げないので浜辺を散策する彼女の視界に入ったのは苦しみ悶えるBartとそれを慰めつつも周囲を伺う心の姿だった。
 きょろきょろと周囲を見回すサリカに「どうかした?」と顔を上げるカイト。
「あ……貝殻ってキレイだなぁって……」
「貝殻か! オレが海の中から拾って来てやるぜ!」
 こくん、とサリカは頷いた。折角だから彼に任せよう。
「潜るのは得意だぜ!」
 海士であるカイトにとって海は得意中の得意。ざぶんと音たてて深くまで潜り――狙うは真珠の母貝に白蝶貝。
 磨けば真珠のような輝きを出せる、きれいなそれを集めるために全力でがんばると彼が海中でばっちり目が合ったのはリゼ。
 海は初めてだというリゼにとって深海は摩訶不思議。
「綺麗な貝があるぜ!」
「本当ね。何か、先生に、お土産を持って帰らないと。
 リゼにとって、森の泉よりも、研究室のプールよりもずっと雄大な景色は何物にも変わらない素晴らしいもので。
(以前、『せんせい』が仰っていたわね。『海の広さに、視野の狭さを知る』と……)
 今、こうしてカイトと会話を交わして、リゼの視野は広くなっただろうか?
「ッっしゃァ、おらァ! 泳ぎまくんぜェ!!」
 正大な音と共に静寂をぶち破った交牙。ぱちりとサリカが瞬けば「見てろよ!」と言わんばかりに泳ぎ出す。
 海種らしく鍛えぬいた泳ぎ。自慢のスピードと共に宝探しを引き受けた。
 彼に「凄いな!」と頷くカイト。無事にサリカのお土産は超絶スピードで色々届けられたのだった。

「海底に眠る……お宝……欲しい……の!」
 ルルリアの宿屋は赤字。経営の足しになるかもしれないとミアは目を見開いた。
 その言葉を聞きながらマルクは小さく笑う。いつの間にか海中へと消えていったミアを見送った後、瑞麗は拗ねた様に唇を尖らせた。
「ギフトがもどかしいっ……、でも、海楽しいよ!」
 初めての海でも世界からの贈り物は中々に容赦してくれない。ナイスバディとギフトの発動でな艶めかしいポーズを取ってしまうのは仕方がない事なのかもしれない。
 そんな様子にからから笑ったルシウスは砂浜で腰を下ろし楽し気な仲間達を見守っている。
「お宝!」と手を上げるミアに瑞麗は「凄い!」と手を叩く。その一方で、詩緒は海底に何か光ってる気がするとミアに助言を与えていた。
「泳げない人たちに注意しておくから、お宝はミアちゃんに任せるわね」
「うん……お宝……がんばる!」
 やる気十分なミアを送り出し詩緒は泳ぎが初めてだというアンナを見守っている。もしも、溺れたならばルシウスと共に助けに行くつもりなのだと最初に告げていた。
 迷彩柄のブーメランパンツのルシウスは「大丈夫か? もしだめなら泳ぎは魚にゃ負けるが、それなりに達者だから任せろよ」と冗談交じりに告げてくる。
「……私は、本当に泳げるのかしら……?」
 ルル、と不安げに呼ぶアンナにルルリアはお手本として綺麗なフォームでクロールをして見せる。そこまでは難しいかもしれないとマルクはアンナに手を差し伸べた。
「先ずは水に顔を浸けても大丈夫? よし、じゃあバタ足から練習してみようか」
 泳ぐための準備を整えて、息を吸い込みルルリアとマルクを頼りにばたばたと泳ぎ出す。
「アンナー、上手です。さあ、ルルの手に掴まって!」
「いいかんじ、よしよし、大丈夫だよ」
 二人の声に見守られながらアンナの泳ぎの練習は始まったばかりだ。

●真昼の太陽Ⅲ
「まだまだ日中は暑いのぅ……」
 妖魔の手法で血を手繰り、ビキニ姿になったカレンはぱたぱたと手で仰ぐ。まだまだ真昼の太陽はじりじりと肌を焼くようだ。
「こうして泳ぐのも久しいが楽しいのう」
 ちら、とカレンが目線を向ければ、Mashaは慌てた様にじたばたと泳いでいた。
(こ、この水着……ゴスロリちっくに改造したら重くて浮かばな……ぶくぶくぶく……)
 何てことだろうか、水着にフリルとレースを急ごしらえで取り付けたせいで水を含めば重たく沈んでいってしまう。
「くっくっく、愛い奴じゃ」
 よしよし、と手を差し伸べたカレン。その手の先は「い、いけませぬ! 拙者、今、体が、動かなッ」
(なんでわざわざ海に……喫茶店の取材の方が楽でよかった……)
 愚痴るミハルの気持ちを他所にディアーナは「だってこの世界の海がどんな感じかきになってたし」と準備万端。
 折角海に来たのだから泳ぐわよと肉体も精神も共にディアーナの状態でミハルを押し切り一気に水へとダイブした。
 楽し気なディアーナの後ろ姿を見送って、クルィーロは今、干からびていた。
「おや……大丈夫かね。そんな調子じゃ海も楽しめてないだろう?」
「やぁ、オリヴィア君元気かねぇ! ボクは見ての通り死にかけだぁ!」
 クルィーロは手をひらひらと振っているが、干からびかけている調子だ。オリヴィアに休憩を提案し、隣に座ることを提案した彼は舌を出して「はあ」と息を吐いた。
「どこかに死体とか落ちてないかねぇ……」
「案外、海の底には落ちてるかもしれないねぇ」
 そして、深海にて……――
 この世界では初めてのお宝探しのリーナたん。天然石やアクセサリーを探すべく素潜りに挑戦中だ。
(こんなこともあろうかと、水着を用意してきたゾ☆)
 ばっちりきわどい水着を着ての準備運動を熟したリーナは太極拳的な踊りを浜辺で披露したが誰にも見てもらえることはなかった。
 深海で探すは可愛いアクセサリー用の素材か、それともクルィーロの求める秘密のお宝か……。
「へぇ、宝探しか。中々面白そうじゃねえか」
 水着を買いに行って渡されたのがスクール水着だったのはテレシアにとっても屈辱の極みだが、そこは置いておこう。素潜りでお宝探しに突入だ。
 誰かの危機があったならば――例えばリーナたんがタコに襲われたりしたら――テレシアの危機察知能力が十分役立つことだろう。
 海賊船ラビアンローズのメアリは海賊が一般人に海で負けてられないよ、と海の中へと飛び込んだ。
 此処で負けては海賊の名が廃る。荒波越えて来たラビアンローズの意地を見せるときだと彼女は懸命に水を掻く。
(あ、流石に宝の横取りとかそういったことはしないよ。こんな場所で略奪行為はノンノンだからね)
 ぶくぶくと水泡が上がっていく様子を眺めながらメアリは宝さがしに興じるリーナとテレシアを両眼に捉えてにんまりと笑った。

 命を得たばかり。生まれて初めて見る本物の海ははぐるま姫にとっても興味津々。
 塩辛い海水だって、はぐるま姫にとっての『はじめて』になるのだから。足に絡みついた砂の感覚にこてんと首を傾ぐ。
 歩くヤドカリに歩調を合わせ、寝そべる様に落ちた海月を見遣って「あれはなあに」と問い掛けた。
「あれは海月なのですよ」
 金色の髪を揺らしたリザレキュアは「我も詳しくはないですが」と付け加える。はぐるま姫は「くらげ」と何度も繰り返した。
「我は泳ぎかたも知らないし、体力もないので他のスポーツも苦手なのです……。
 だから、砂浜で真っ白いのとか、桃色のとか、色んな色で色んな形の貝殻をいっぱい見つけてお土産にするため探すのですよ!」
 ぐ、と両手に力を込めて、「たのしみです!」とリザレキュアはやる気十分。
「……ふぅむ? 我が『カミ』の啓示でここまで来たが、何やら賑やかなところであるなぁ」
 しかもすぐ近くには海。リリルラはゆっくりしろという事かとうん、と一つ伸びをした。
 貝殻を探すはぐるま姫とリザレキュアに視線をやって「穏やかなことよ」と楽し気なリリルラの視界に留まったのは――……
「折角人が集まる海に来たのだから、ここは余の信仰を広めようではないか」
 水難除けのお守りを手にした天満が信者獲得のために奔走していた。売り始めたはいい物の、まずはリリルラ。そして、お守りに興味を示したダゴモンド。
 紳士のエチケットを欠かさぬ彼に僅かに嫌な予感を感じ始めたのは気のせいではないだろう。
「……本当に神様?」
 折角だからと水着に着替えた結の目に映るのは何とも面妖な三人組だった。神様らしき人、そして触手。
 見るからに怪しいけれど、折角の記念品として1つ購入するのもやぶさかではない。
「水難以外にも何かある? 例えば、」
「触手難退散とか……」
 そう言ったのは紳士。リリルラと結が二人揃って「え、」と声漏らす。彼の探究心は底なしだ。
「ちょ、ちょっと――――!?」
 何処からか聞こえる少女の叫び。そんな事はどうだっていい、海なのだ。海に来たからには泳ぐしかないと九十九は熱い太陽を見上げた。
「くっくっく、暑い太陽が私に波を越えろと告げています! 触手なんかいなかったのだと!」
 陸地では狂気(さいなん)が振る舞われていることだろう。溺れない程度に『健康的』に『楽しく』遊びましょうな、と口にした九十九はくるりと振り返り、見なかったことにした。

「アァーーーいい陽射しだ。海もきれいだ。こういう陽気・こういう環境だとアレがしたくなる。
 そう、アレ! 『泳ぎ込み』だーーーー!! とにかく体力が続くまで泳ぎ込む、こういう日ならガンガン泳げるから捗るんだよなあ!」
 ハイテンションのリッキーがばしゃばしゃと泳いでいく傍らで、水に浮いたままぐったりとしていた悠が波に揺れている。
 まさに溶け掛けといったテンションでぐったりした悠は突然の飛沫にびく、と起き上がる。
「!?」
「どりゃーーー!」
 テンション高く泳いでいくリッキーの姿を目に留めて、ぱちくりと瞬いたあと悠は浜辺に視線を向け、キョトンとした。
「わぅぅぅうっ!? レヴェリー、何これ早い早い目が回っちゃうよぉおっ!?」
 謎の洗車にぐるんぐるんと振り回されながらメイは唸る。
 誘われるがまま同乗することとなったリィズは砂浜で戦車って暑いのでは? と冷静に考えていた。
 とりあえずは支給されたスクール水着を着用してみたが、テンションの差は歴然。
「ィィイイイッヤァッフォオオオオオオ!」
 超テンションのレヴェリーは全力で砂浜を駆けてゆく。その様子に目を回し「きゃううううう」と叫ぶメイはもはや答えない。
「これぞ砂浜を駆ける聖女! この私を誰だと思ってやがる!」
「わぅぅぅぅ!?」
 ぐるんぐるん、超速のレヴェリーにしがみつくメイもそろそろ限界だ。
 不思議と酔わないなあ、なんて。真顔のリィズにレヴェリーはハイテンションでもう一度叫んだ。
「行くぜメイ、新顔のリィズ! ゴーストドリフトだぜヒャッハー!!」
「きゃっ――きゅぅぅぅん……」
 ――結果として砂浜に突き刺さることになったのだが。
 その様子を眺めていたクレイスは「おお……」と肩を竦める。ビーチチェアに腰かけ夏の海を楽しんでいる彼は「面白イでスね」とカクテルグラスを揺らした。
 海の青、空の青。
「青は藍よリ出でて藍ヨり青シ。そレでは藍はドこから出たのでショう?」
 からん、とグラスの中で氷の解ける音がする。
「……」
 海に来たけれど人形を抱え、一人きりで日陰で遊んでいた未雨はぼんやりと佇んでいた。癒しのオーラを纏う彼女は子供達の誘いにぱちりと瞬き小さく頷いた。
 手を差し出しゆっくりと立ち上がる。あそぼう、と無邪気な声に未雨はいいよ、と瞬いた。


●夕日の宝石
「うふふ。待~て~。であります」
 何時もの通りの真顔。シャンゼリゼは楽しそう――しかし、無表情だ――にノアルカイムを追い掛ける。
 水着にパレオ姿でいざ、海へ、と力むノアルカイムに『追いつかない程度』のスピードでスカート捲りの為に追い掛けるシャンゼリゼにノアルカイムは『?』マークを浮かべている。
「ま、待って、口笛くん、ボク今スカートじゃないよ!?」
 息も上がり、ひゅうと肩で息するノアルカイムに追いつかない様に走るシャンゼリゼは策士だ。
 そんな調子にも気づかず、パレオを捲られまいと懸命に走るノアルカイムの運命は如何に――!?
 尻尾に釣り糸を付けたメルティスは二人の追いかけっこを欠伸を一つしながら見守っていた。
 釣れた魚で焼き魚をいっぱい作るニャンとやる気満々のメルティスの釣り糸に何かがかかる。
「む……餌がやってきたのにゃん!」

「うむ! 楽しい美味しい! コンは機嫌がいいのじゃ!」
 手当たり次第に大食い勝負じゃーと意気込む紺にキツネは「意外と食べれる所見せてあげようかしら?」とにんまりと笑う。
 意気込む紺はキツネに「バーベキューで大食い勝負なのじゃ!」と尻尾をぶん、と振って見せる。
「さあ、誰から行く?」
 ラッシュガードとショート丈のサーフパンツを身に着けたみつきは皿の上に焼けたての肉を並べてゆく。たら、と涎の垂れかけた紺は「しょ、勝負まで食事はお預けなのじゃ」と首を振った。
「折角の焼き立てだぜ! ほら、肉も美味いけど野菜もな!」
「本当に美味しそう。それじゃ、ここで大食い勝負――やっちゃいましょうか!」
 焼き係のみつきにキツネが手を打ち合わせる。「お肉!」と飛び付くミカエラは紺と共に皿に盛られていく肉へと齧り付いた。
「ワシに肉を寄越すのじゃー!」
「くーっ、うめーっ! 朝も昼も抜いた甲斐があったぜ! おい、そっち、野菜も食えよー野菜も!」
 トングを手にしたみつきの言葉に「むっ」とミカエラが顔を上げる。海は開放的でいい、ついつい肉への興味を丸出しにしてしまったかとミカエラは頭を振った。
 海と言えばバーベキュー。食材の調達を担当する葵は「どんどん焼いていくから好きなように持っていくッスよ」と机の上に並べた具材を編みの上へと並べていく。
「肉を食うと、無性に血が飲みたくなるっス……あーダメ我慢我慢、ッス……」
「大変ね。あ、焼く係変わろうか?」
 こんなの初めて、と楽し気にバーベキューの様子を眺めていたヴァイスは葵へと提案する。
 食べるときには交代しようと提案するヴァイスに誘いがかかったのは大食い対決。紺とミカエラ、キツネは机の上に具材を並べてお待ちかねだ。
「肉と野菜もしっかりと食べるッスよ?」
「これは沢山焼いてたくさん食べるしかありませんね。夏です、海です、バーベキューですから」
 美味しい美味しいと頬を緩ませる春鳴湖。美味しいものを食べて笑顔になるのは良い事だと楽し気に焼けた肉を頬張っている。
 美味しいの天国にそわそわとする大食い組。そろそろエントリーは〆切か……というところで、びしりと手が上がった。
「あ、じゃあ、参加希望だよ。これでも大食いだよ?」
 びし、と手を上げて大食い対決にエントリーしたシキは元の世界では食べれるときに食べなければいけなかったから、と興味深々だ。
「折角の大食い対決。負ける気はないよ?」
「お、やる気満々だな」
 みつきの声にシキはにぃと笑って、席に着いた。それでは、いただきます!
「皆さんとバーベキュー、楽しみですね」
 魚介類と飲み物を手にしたシーザは焼かれる具材を皿に取りながらちょっぴりだけ渋い顔。折角だからお酒も飲みたかったな――なんて気持ちになってしまう。
 一方で、編みの上に並んだ肉を見ていた唯織はギフトを使用し炎の調節をしっかりと担っていた。
「俺のギフト? まぁ、見てなって!」
 血を見るとぴく、と葵が顔を上げる。その様子にぎくりとした唯織が「俺の血は飲むなよ」と忠告した。
「駄目っすか?」
「あはは、駄目駄目。ほら、肉」
 シーズが差し出す更に葵は「うっす」と頷き箸を伸ばす。鉄板奉行と化した唯織は「日向、野菜を食べろ、野菜を!」と声を荒げた。
「あ、野菜……」
 こっそりレイチェルやゼフィの前に優しを置こうとトングで肉を引き寄せながらじりじりとジュアは野菜をレイチェルとゼフィの前へと押しやった。
「ふん。ジュアとゼフィは痩せ過ぎだ……健康的に肥えさせねば。肉、肉と言えば血の滴るレアが――何故、野菜ばかり……!?」
 苦々しく吐き出したレイチェルはこっそりと野菜が寄せられてきていることには気づかない。
「……こっちの世界の平均は知らないが、二人とも随分軽いんじゃないか? しっかり食べないと大きくなれんぞ?」
「まだまだ育ちざかりなんです」
 ぱくり、と肉を食べるジュアの言葉にゼフィラは小さく笑う。野菜を寄せてきているのは気付いているが、嫌いではないのであえて何も言わない。
 その調子で肉を全力で食べ続けるジュアに苦悶しながらピーマンを食べたレイチェルは「むぅ……肉が消えていく……」と小さくぼやいたのだった。

 手を繋ぎゆっくりと歩むナイト――クランはふ、と狐独の手を離し海の方へと向いた。
「夕日と海ってきれいだね……♪」
 くるりと振り返ったクランの長い髪が夕日に照らされてきらりと輝いている。その光に溶けていきそうな彼女を見て眩いと目を細めた狐独は柔らかに口許を緩めた。
「せやな」
 楽し気に彼女が笑うものだから、狐独もつい、つられて笑った。

 デートって良く分からないけれど、とセフィルアに祥慧は良く分からないと頭を掻いた。
「転びそうなら手を貸そうか」
「ああ、」
 よろしく、と差し伸べる。祥慧はセフィルアにとって初めて出会った旅人だ。仲良くなりたいと願うのは間違いではないはずだ。
 その思いが掌から伝わる気がして、セフィルアは僅かに目元を緩めた。
「あ、貝殻」
 キレイだからと一つ拾い上げる。帰りに食事を共にした際に渡してみよう。どのような反応をするのか――違った顔が見えるかもしれないと今から楽しみだと口元を緩めて。

 夕方の海で宝探し――もとい、ゴミ拾いにご執心のスクアーロは「海は綺麗にしねぇとな……」と冒険者たちの賑わいよりも、この美しい景色を尊重すると決意を固くする。
「で、お前さんはなんだ? マリア、だったか。何か用か?」
 雄大な夕日に照らされる美しい海原に歩き出た清華はスクアーロの言葉にぱちりと瞬いた。
 眩い光の中で、特異な行動をする彼に声をかけたのは己の心の奥底に沸いた好奇心なのかもしれない。
「共に過ごしても?」
「ハッ、オレと? 奇特な奴もいたもんだねぇ。いいよ、ゴミ拾いも一段落したところだ」
 どしり、と腰を下ろした彼の隣で清華は小さく息を吸う。清々しい海風が二人の傍を抜けていった。

「なんだかふしぎな気持ちね。知り合ったばかりなのに……」
 昔から、知っていたかのような感覚がするとカレンは目を細める。彼女を見つめミリィは何時かどこかで見た筈の顔が靄掛かっていて見えない事がもどかしくて。
(きっと、奇跡なのでしょうね)
 そう唇から出かけた言葉を否定して曖昧に笑った。胸を締め付ける彼女は誰なのだろうか。
「風、とっても気持ちいいのね。……ミリィさん、手、繋いでもいいかしら? ふふ、カレン、て呼んでね」
 差し伸べられた手をゆっくりととって。隠された瞳を覗き込むカレンの名をミリィは幸福を噛み締める様に確りと呼んだ。

 水面に少しだけ出た岩肌に腰かけたココロはぼんやりと遠くを眺めた。
 夕刻になれど、楽し気な特異運命座標たちの声が聞こえてくる。ココロは小さく息を吐き出し、膝を己の胴に引き寄せた。
(わたしは淋しさを感じない――他人とはそれなりに上手に接することはできるけど……)
 神殿で今までになく多くの人を見た。あの、大規模召喚の動乱はココロにとっても驚きの連続であった。
 あの時の様に楽しそうにしている彼らと『楽しいという気持ち』を共有できるだろうか。
 拾った小石を投げ入れる。それは波紋を広げゆっくりと沈んでいった。

●晩夏の月
 お月様も、星も、海面に映っていてとてもきれい。
 浜辺にちょこりと座ったルーシャは銀の髪を揺らして、こてんと首を傾げた。
「こういうのも、たまには良いのです」
 でも、やっぱり海では泳ぎたくなってしまう。それが海種としての本能なのだろうか。
 ゆったりと夜の海を泳ぐ。レテの上には眩い星々が煌めいていた。
「んー……久しぶりに泳いだなぁ」
 うん、と一つ伸びをする。美しい星を海の中で眺めるのは何処か新鮮で。海種と言えど陸地で暮らしていたレテにとっては物珍しい物だった。
 偶には海にこうして戻るのだって悪くはない。楽しいことは沢山る。
「……着いた、寝よう」
『確かに夜だが同胞はもう帰ってるぞ?』
 今から帰るなんて無理だと砂浜に転がったオルクスは夢の中。好きにするといいと告げた『本体』の視界は少女の瞼に隠された。
『良い夢を』
 誰かが訪れたら宿主が睡眠中である事と、一つ礼を告げようと本体はぼんやりと考えていた。
「今夜は暑いけれど月がきれいだわ」
 髪を靡かせたアイナは小さく息を吐く。それとは対照的な程に昏く沈んだ顔をしてアインスは岩陰に隠れていた。
 此処に来てからのアインスは変だった。目にする皆が恋しく思ってしまう様な、おそろしくて逃げたくなるような、そんな気持ちになっていく。
 彼女の姿を見つけたアイナは様子がおかしいと彼女を伺った。けれど、それも少しの事。
 見つめあったらそれだけで、魅惑の魔法がぐずぐずに溶けていく。唇を合わせたそのまま――……

「ここが異界であるという事を、忘れてしまいそうになるね」
 澄んだ空気に美しい夜の水平線。隣に座ったまいちは「なんだかこっちに来て不安ばかりでしたが」とぽつりと溢す。
「こんな景色があるなら、いいかなって思っちゃいます!」
 フェルディンの隣に腰かけ、「花火ですよ」と指さした。彼の知らない事を教えられることがまいちは少しだけ嬉しくて。
 影落とす髪を耳に掛け、「花火、綺麗ですね」と柔らかに問い掛ける。
(――……今のキミ程ではないさ)
 思わず浮かんだ気持ちは口にできず、ぱちりと瞬くまいちが「フェルディンさんがきれいです」とつなげた言葉にぎこちなく微笑みを返した。

 ちりちりと音を立てる線香花火を眺めながらひまりはもう少し、もう少しと火の玉が落ちないようにと願っていた。
 向き合っての三本勝負。おぼろげに燃える線香花火を見つめつつ、リオはひまりから受ける視線に気づき視線を揺れ動かす。
(……緊張する)
 思わず、胸が高鳴りちら、とひまりを見つめる。
 ちりちりと音を立て、落ちそうになる其れよりも、互いに互いを気にしていて――三本目の火の玉はどちらが先に落ちたのは、今もうわからなかった。

 今まで、人工知能としてデータとしてしか知らなかった花火を初体験することとなったアルメルは楽しいと目元を緩める。
 線香花火を眺めれば、何処か不思議な気持ちが湧きあがったと顔を上げた。
「楽しいけど物淋しい。これが人の風情、というものでありますね」
「そうなのかも。これが花火……色とりどりで綺麗」
 じじじ、と音を立てる花火を見つめながら密使は小さく息を吐く。花火というものは初めてだから、見ているだけだった密使も次第に手に取りたいという気持ちが大きくなったのだろう。
「さあてみなさま、手持ちの花火には、ろうそくの火が一番です。
 ちいさなバケツに砂を入れて倒れぬようにしましたら。おおきなバケツに水入れて火事の備えをしましたら」
 そこまで口にしてチャンドラははっ、と顔を上げる。チャンドラの視線の先にはリオ。
 花火を用意し、楽しげな様子にふわりと微笑んだリオも折角だからと仲間入りだ。
「それは新しい花火でありますな」
「やってみよう」
 ぱちりと瞬くアルメルにリオは大きく頷いた。チャンドラはその様子に口許を緩め、さあさあと手招きして見せる。
「ボクも良い?」
 昼間より冷たい風を受けながらサヤはぱちりと瞬いた。気分よく鼻歌交じりに散歩していたサヤは花火の様子に不思議そうに瞬いている。
「ご教授、お願いするよ」
 サヤの言葉にチャンドラは大きく頷いた。準備万端、花火大会は盛大な様子で催そう。
「さあ、ちいさなバケツのろうそくに、ゆっくり炎を燈しましょう。……順番ですよ?」

「はっはっは、たーまやーですぜー」
 花火を見上げる修一郎の許へと歩み寄っていく麗。ロケット花火を携えて、もう一つ上げて見せようとした麗の足元にあったのは。
「ふみぃ!」
 思わず躓いた麗を慌てて修一郎は抱き留める。
「麗」
 慌てた様に名を呼んだ彼を見上げて麗はへへ、と小さく照れ笑いを見せた。
「怪我はねぇか? あんま心配させんなよ」
「うん、大丈夫♪」
 炎の様に揺らめく霊体の素足で波打ち際を歩くウィリアは「大きい……」と漣立てる海を眺めた。
(大きくて、広くて……星のキレイな、海……)
 記憶に重なる景色はないけれど、潮騒を聞きながら過ごすのは悪くない。
「こんばんは……驚かせちゃったらごめんなさい。素敵な夜……ですね」
 海を彷徨う鬼火のようにみえるかもしれない――不安げに瞳を揺らすウィリアに「たまげたね」とオリヴィアは呟いた。
「海賊になって初の海の幽霊だよ」
「陸の幽霊化もしれねぇぜ? かかっ、海賊ってのァ、不思議なもんだ。海の上じゃ殺し合っても、陸で会えば1人のダチ公。
 俺ァ、それが海賊の生き方の1つだと考えてるが……オメェはどうだ?」
「勿論アタシもそうさね。海賊ってのは、海の上じゃどんちゃか大騒ぎするが、陸の上じゃァ仲良しこよし。良い子なもんよ」
 酒を煽るオクトにオリヴィアはにんまり笑う。今夜は飲み続けよう、どちらが『多く』飲めるかを試すに丁度いい。
「そりゃァいい」と笑ったオクトにオリヴィアは杯を一つ掲げた。さァ、勝負は再開だ。
 ピラニアの海種――ジャイロは夜にこっそりと砂浜に訪れていた。
(ヨルデモ、オイシソウナヒトタチガ、チラホライル……カミツキタイガ、オリヴィアニシカラレルカモ……ガマン)
 月の光が差し込む海底よりも尚、明るいのは花火の所為。眩しいと顔を水面に埋めたジャイロはぶくぶくと息を吐いた。
 この花火を海の中で彷徨える魂たちは見ているだろうか?
 大型の狙撃銃を手に、崖に腰かけた幽邏はゆっくりと夜空を眺める。
「……あたしは……静かなほうがいい……」
 ざあ、と吹く風は彼女の髪を煽り、星空へと吸い込まれていった。
 


(writing:夏あかね ※代筆)

PAGETOPPAGEBOTTOM