PandoraPartyProject

特設イベント

優雅な世界への招待

●絢爛なるコレクション
 バルツァーレク領の外れにその施設はあった。
 アルテナの案内でガブリエル所有の娯楽施設を訪れた特異運命座標一行は、その施設の大きさに期待と興奮がわき上がる。
 アルテナからの誘いを受けてユウは顔を緩めていた。
(異世界も案外悪くないのかも?)
 ユウは恐る恐る付いてきたといったところだが、もし年頃の近い奴がいたら話しかけて見ようかな、と考えていた。
「あれが、この世界の支配階級の方のお屋敷でございますか。わたくしも、こういった方々に所有される予定でしたので、興味がありますわね」
 そう言うとエリザベスは巨大なしゃもじをどこからか取り出すと元気に声を上げた。
「それでは御宅拝☆見」
 誰に言うわけでもなく断ると中へ入っていく。
 中に入ると、その煌びやか装いの室内に目が眩む。
 赤い絨毯が床を染め上げ、その上に美術品が所狭しと立ち並んでいた。
「……ふ、ふふ。ここはまるでパラダイスのようですね。美しい美術品に、それを楽しむアルテナさんはとても絵になりますね……! ふふ……!」
 珠輝はその紫の瞳でアルテナの姿を追うと、ウットリと彼女を眺め満足げだ。
「ふん、ワシの目はごまかせんぞ! ここにある全ての価値を調べ尽くしてくれるわ!」
 大二は鼻息荒く、美術品を鑑賞、もとい鑑定していった。
 忍者装束に身を包む影丸は、熱心に美術品を鑑賞していた。
「ふむ……中々、十八歳以下の女性の裸体を描いた作品はないでござるな!」
 熱心な眼差しに下心。彼は重度のロリコンなのであった。
「流石、素晴らしいですね」
『このことを話しても家具やインテリアの購入許可は下りないと思うが……』
「……見るだけで我慢というのはつらいのですが」
『前科があるのだ、あきらめることだ』
 アーラはその背の儀式呪具となにやら相談中だ。
 傍を通るアルテナに気づいた呪具がアルテナに礼をする。
 アルテナは驚きながらも、熱心に鑑賞を続けるアーラの姿を見て笑顔を振りまく。
「これなんかどうだい?」
 レイヴンはフィナスターにコレクションの一つを指さす。
 レイヴンは一人絵画を鑑賞していたところ、フィナスターに声をかけられ二人で鑑賞することになった。
 楽しそうに説明を聞くフィナスターにレイヴンの説明に熱がはいる。
「あれと似た絵をみたことがあるな。旅人のものだろ」
 レイヴンが頷く。作者は最近謎の失踪をしたと噂になっていたことを話した。
 その言葉にフィナスターは一瞬顔を曇らせる。が、すぐに次のコレクションへと目を向けるとレイヴンに解説を頼むのだった。
 貴族の娯楽施設と聞いて、恐る恐る参加した文だったが、飾られた目を奪うほど豊かな色合いを見せる風景画に心奪われご機嫌である。
「そういえば、アルテナちゃんは前にもここに来たことがあるの?」
 アルテナに訊ねると「一度だけね」と返事が返る。なるほど、彼女もこの場所が忘れられないようだ。
「これは良いものばかり、だね」
 いくつかの絵画を鑑賞しながら歩くアガルは人知れず苦笑する。
 自分の記憶は失ったというのに、美術品の価値はわかるらしい。まったく不思議なものだ。
 いつか記憶を取り戻したいものだとアガルは思いながら鑑賞を続けることにした。
「ほう、この世界の貴族とは斯様な生活をしているのか」
 ――否、この世界のこの国の、かもしれない、とシエロは頭で言葉を正す。
 目の前に広がる、数多の美術品や建築様式に様々な叡智を感じるシエロはその欠片の蒐集に忙しいようだ。
 二体の人形をもつレオンは、立ち並ぶ美術品に興味津々のようだ。
「おや、彼女の目を引く絵はコレか」
『あら、このツボも良いわよ』
 二体の人形がレオンの代わりに声を上げる。
「どういった物なのか、アルテナ。ガイドしてもらえるかい?」
『ええ、彼もそれを期待しているわ』
 アルテナに声が掛かり、「わかる範囲でなら」とアルテナが承諾すると、二人と二体で美術鑑賞を楽しんだ。
 最後にアルテナにお礼をすると、レオンはまた次の興味へと足を向け駆けていく。
 レオンと別れたアルテナに声が掛かる。
「……アルテナ、幻想の美術品が何処にあるか教えてくれないかしら?」
 着物の袖を口元に持って行き仄かに微笑むのは都子だ。
 自身も「美術品」であったことから、こと幻想の美術品達にはどんな心が宿るのか。都子は大変な興味をもっていた。
 期待と興味をその心に宿し、しばしアルテナと共に、幻想の文化に触れていく。
 美しいものを好むヴォルペは心の赴くままに美術品を堪能している。
 その横には銀の前髪で目を隠した性別不詳の旅人――武器商人がいた。
「美しい絵画に彫刻、そして隣に麗しの銀の君。なんて幸せな空間だろうか」
「キミね。せっかく中々見れないコ達が居るんだからそっちに集中おしよ、赤狐の君」
 呆れながら言う武器商人は、しかしその美しい銀の髪をすくように撫でられていても嫌がる気配はなさそうだ。
 貧乏貴族であるエンヤスと、そのメイドとして付き従うのはイコだ。
「これは夭折した天才陶芸家の三部作の一つで……」と、エンヤスが見当違いの解説を始めるとイコは遮るように声を上げた。
「ふわぁー……ぴっかぴかのきらきらです、綺麗ですね御父様……あっ、イコまた間違えて……ごめんなさい……」
「何、間違いを恥じる事はないぞ! これも学びの一歩である」
 イコの主人に配慮した名演に、エンヤスが自身の間違いに気づいて大きく頷いた。
「おや、これは……珍しいものに出会ったな」
 イシュトカが目を向けたのは地球に存在する所謂高級ヘッドフォンだ。
 どういった経緯でここに飾られるに至ったのかは甚だ疑問だが、注目を浴びるソレについてイシュトカは楽しげに蘊蓄を披露する。
「何処の世界の貴族も同じようなもんだな。まぁ、この世界の文化とか知れてありがたいがな」
 大柄な身体でポリポリと頬を掻きながら眺めるのはオーカーだ。
 興味深そうに、大きな彫刻を眺めているようだ。
「んあ? これが宝物け? 
貴族のコレクションだって聞いたからよ。おらはドデカイ宝石金塊を期待してたんだがなあ」
 そう不満を口にするのはゴブリンの老婆マブーだ。
 しかし、その不満も奥へと進むと満足に変わっていく。燭台や、台座、額縁に金を使ったものが多く見られるようになったからだ。
「おお、豪儀じゃん! 上等の金ぴかだよ!
 良いもん見せてくれた。おら満足だべ。わかってる、くすねたりはしねえよ」
 誰に言うでもなく、そう声をあげると、楽しげに施設の奥へと向かっていった。
 難しい顔をしながら美術品を眺めているのは隆賢だ。
 些か面倒ではあったが、アルテナの招待に応じることでこの世界の貴族文化を間近に知ることが出来た。
 隆賢にとっては、趣味趣向の美術鑑賞ではなく、あくまでこの世界の歴史や文化を紐解くための知識の糧としての美術鑑賞である。
 同様の思いを持っているのは、ヨシュアだ。
 機械生命体の星で生まれ育ったヨシュアもまた、芸術から文明の歴史を見るという着眼点を持っていた。
 通りがかるアルテナに「解説をお願いしても……?」と訊ねると「あんまり詳しくはないけど」と目に入る絵画の解説を始める。
 そうして、美術品から歴史の糸を辿っていく。
「いいですよね美術鑑賞。そこに込められた作者の物語を読み解くのはとても楽しいです」
 切れ長の目を細めながら呟くのは四音だ。楽しげに様々な美術品に目を向けていく。
「詳しい方に教えてもらいながらだと、より楽しいと思うのですけど」と、辺りを見回すと、ヨシュアに説明を終えたばかりのアルテナを見つける。アルテナは人気者だ。
「アルテナさん、一緒に見て回りませんか?」
「ええ、いいわよ」
 芸術に明るくないアルテナが解説することはなかったが、それはそれ。
 二人はしばし美術品鑑賞を楽しみ、最後は互いに手を振り場所を変えるのだった。
「これはルビーの彫刻だろうか……実に素晴らしい。
吾輩の敬愛する前国王が好まれていた石なのだ。
これほどまでに繊細な美術品に仕上げるとは」
 アルファルドの感嘆を聞き横から顔だすのは白支だ。
「これは確かに丁寧な仕事だね」
「おお、わかるかね?」
「ええ、もちろんです」と紅茶を啜りながらルビーの彫刻をみる白支は、魔除けになるかもしれないね、と模造品を作って売る算段を頭に浮かべていた。
「彼方での同族は人の貴族達の生活を華だなんだと称えていましたが……此方の生活はどうなのでしょうね」
 美術品と共に建物の作りを見て回るのは晴人だ。
 その道中、慌てていた使用人とぶつかり転んでしまう。しかも転んだ衝撃で立て付けの悪かった美術品のツボが落ちるおまけ付きだ。
 咄嗟にツボを庇った晴人のおかげで大事には至らなかったが、思わぬ事態にため息一つ。
「少なくとも毒(ギフト)が有る限り良いかどうかは分からないことはわかりました」
 晴人はこれ以上のトラブルがないことを祈りつつ、鑑賞へと戻っていく。
「そこのそなた、この世界の美術品が鑑賞できると聞いたのじゃが、どこに行けば見られるのか余に教えるがいいぞ!」
 ゼンがいつものように裸体のままアルテナに声を掛けると、アルテナは真っ赤な顔を覆って「あ、あっち!」と指さし逃げていく。
 指し示した方へ向かえば、そこには裸婦像がいくつも並ぶ。
「ふむなかなかの物じゃな、余の美しさにはかなわぬがの!」
 ゼンが裸婦像に負けないようにポーズを取る。
 謎の光線が差し込むその光景に、立ち寄る者達は足を早めるのだった。
 立ち並ぶ美術品の前で小気味良い音がリズムを刻む。シャッターを切る音だ。
(貴族様に招かれるなんて、本当にイレギュラー様々だわ!
 またとないチャンス、しっかり取材して帰るわよ!)
 カタリヤは余すところなく、美術品の数々をカメラに収めていく。
「これだけの美術品……出所はこの幻想かしら、それとも他国? 何か『繋がり』が見えたら面白いわね」
 カタリヤの興味はまだまだ尽きることはなさそうだ。
 ジュディスは美術品を眺めながら、調度品や床に敷かれる絨毯に目を向ける。
 貴族の暮らし、それを知っておくのはよい勉強になると思っていた。
(いつか妹がこの世界に召喚される、その日を信じて……)
 固く誓った思いを胸に、ジュディスは貴族の世界に目を配るのだった。
 美意識の高いカモメは、立ち並ぶコレクションの数々にその美意識を刺激されていた。
 思わず出る感嘆の溜息。
 同じように立ち止まる者に「これはいいものだよな」と何度も同意を求め、深く頷いていく。
「ふむ、これはこれは」
 除夜は何度となく頷くと満足げだ。
 この世界の文化を知ろうとする一人だが、やはり美しいものは良いものだと、声を漏らす。
(美的感覚の相違は決裂の原因だからね)
 そんなことを心に思いつつ、除夜はのんびりと歩いて行った。
「……そうだわ、折角の場だし従者としての能力のチェックをしましょう。不合格ならお仕置きね」
 暇つぶしでアルテナの誘いに乗ったルルクリィだったが、初めは楽しんでいた美術品鑑賞もすぐに飽きがきたようだ。
 従者であるローリエにそう提案するものの、ローリエは絵画に夢中の様子。
「わっ、見てくださいお嬢様! その、この絵画とても……」
 ローリエの態度に、嗜虐的な笑みを浮かべるルルクリィが言う。
「とても? ねぇ、どうしてお前は主人を差し置いてはしゃいでいるのかしら?」
「……あっ、その……ごめんなさいっ」
 どうやら能力テストは不合格の様子。どんなお仕置きが待っているかは、愉快そうに目を細めるルルクリィだけが知っているのだろう。
「いやはや! 元の世界のパトロンどももそうだったが、どの世界もお貴族様は芸術品が大好きだねえ! 
オレサマも美しいものは嫌いじゃねえがな!」
 桔梗の肩に乗る小鳥が羽ばたきながら、蘊蓄を語り聞かせる。
「しっかし、この後は風呂ってことだが、オマエは大丈夫なのかね、桔梗。ゾンビだからって追い出されたりよ。
誰かに聞いてみっかね!」
 そう言うと、一人と一羽は揃って浴場の方へ向かうのだった。
「うへへ……貴族のコレクションともなれば未知がいっぱい……いっぱい……」
 未知なる美術品の数々を前に、アルーシャはその知識欲を隠せずにいた。
 マナーは守っているようだが、時折聞こえる「うへへ」や「ぐへへ」といった奇妙な笑い声に一歩後ずさるものもいるようだ。
「すまないが車椅子を押してもらえないかな?」
 アルルの願いをアルテナは快く引き受ける。
 二人は心静かに美術コレクションを鑑賞する。
「ふむ、実に興味深い……これらがどういったものなのか詳しく知りたいね」
「私もあまり詳しくないの。だれか詳しい人連れてくればよかったわね」
 アルルとアルテナは美術品の感想を言い合いながら、別の者がアルテナを呼びにくるまでゆったりとした時を過ごすのだった。
 カメリアとウィスタリアは二人仲良く美術品を鑑賞していた。
「この世界の貴族って皆こんな感じなのかしら?」
「なーんかパパの家で見たことあるような感じのが多いわね、幾らくらいって言ってたっけ? リア」
「パパの話は面白くないから聞き流しちゃっていたわ」
 クスクスと笑いながら二人の鑑賞は続く。
 せっかくだから目いっぱい楽しもうと考えているのは恋だ。
(はぁとは現代日本からきたから、目は肥えていると思うけど、貴族なんていなかったし、本物の美術品を実際に見る機会なんてそんなになかったものね)
 美術品に目を奪われる特異運命座標達。きっと今はとても幸せな瞬間なのだ。
「みんなにも、はぁとにも、もっと、とってもハッピーな一日でありますように!」
 少女の願いはきっと届いたのだろう。
 絢爛、豪奢な美術品を前に、幸せの吐息が漏れていく。
 美しきコレクションの数々が、特異運命座標の心を確かに豊かに実らせた――。

●大浴場
 美術品鑑賞を終えた面々は大浴場に足を運ぶ。
 すでに入浴しているものも多いようだ。
「うむ……バスは良い……、
ゴッドもゴッドワールドでは信徒達と共に背中をウォッシュしあったものだ!」
 大浴場を前に豪斗は元の世界のことを思い出し感慨に耽る。
「エンジェル・アルテナよ。ユーもゴッドと共に汗を流してはいかがかな! なに、遠慮する事はない! ゴッドは常にフランク……身分の差という奴を作らない!」
 水着のアルテナを誘うも丁重に断られてしまう。が、豪斗は気にした様子はなさそうだ。
 身分の差を作る貴族というものが実に興味深いと、湯に浸かりながら豪斗は思うのだった。
「実に良い香りだ……」
 姿勢よく湯に浸かり汗を流すのはラダだ。
 ラダは基礎知識がなければ美術品の価値はよく分からない、ということでのんびり温泉を楽しみに来たようだ。
 香りに誘われ、色とりどりの花が浮かぶ湯に浸かると、実に気分が良くなった。
(貴族の趣味関心など分からないが、風呂に関しては良い趣味だ)
 目を細めゆったりと手足を伸ばす姿は、誰の目から見ても満喫できた証拠だろう。
 フリルのついた黒いワンピースの水着を纏うのはオーラティオだ。
(ふふふ、さてさて可愛い女の子はどこだろうね)
 オッドアイの瞳を忙しなく動かし、女の子を探すオーラティオ。
「ほほう、この浴場もすばらしい未知にあふれていますね」
 と浴場の作りを観察するアルーシャの水着が自身のギフトによってはらりと落ちる。
 途端あがる男の歓声と女の悲鳴。浴場の一端が大騒ぎとなった。
「ええい、男共は見るな! これはボクのだ!」
「えぇ!? 誰ですか!?」
 オーラティオはこれ幸いにとアルーシャにお触りし、アルーシャが悲鳴をあげるのだった。
「……なんか不満そうね?」
 薫がそう言うと周太郎は「そんなことないって」と掌を振る。
「温泉で露出を多くする意味なんてないでしょ、どうせスケベなこと期待してるんじゃない?」
 図星である。
 周太郎は薫がビキニを着ていたら背中を流すときにその紐を外せないかなぁなどと考えていたわけだが、露出の少ないワンピースだったために断念。
「さ、お湯に浸かりましょ……きゃぁっ!」
 湯船に浸かろうとして、足を滑らせる薫。周太郎を巻き込んで二人揃って湯の中へ。
「ぷはっ、ごめんなさい、だいじょう……ぶってどこに顔当ててるのよ!」
 何をどうしたらそうなるのか、周太郎は薫の股ぐらに顔を押し当てたまま、沈んでいる。
 ラッキースケベとはよく言ったものだが、慌てた薫が周太郎の頭から退くまで、今しばらくの時間を要する。
(死ぬ! 死んじゃう!)
 その間、溺れ死にそうな周太郎が、薫の身体のあちこちを掴み続け、更に薫が慌てふためいたのは言うまでもない。
 水卯は浴場で見知った顔を見つけたと思ったが、どうやら人違いだったようだ。
(一人よりはものすごい場違い感もマシになると思ったんだけどなぁ)
 と、思ったのも束の間。
 隣にいつのまにか現れたスクール水着を着用したデスレインが頬を上気させ溶けていた。
「お仲間!? っていうかあなた大丈夫?」
「我が~我が水に負けるなんて~」
「湯あたりしてるじゃない! もう! ほら、こっち!」
「我は魔王でゴザル~、水に負けたりしないのでゴザル~」
 水卯に引き摺られるようにしてデスレインは浴場をでていった。
「おや、こんなところに猫が」
 湯に浸かるみ猫を見てノールが驚きの声をあげる。
「うちが猫やからって、風呂が嫌いちゅうわけやにゃいにゃあ」
「なるほど、これは失礼」
 ノールとみ猫はしばし湯に浸かりながら雑談。
「絵画も綺麗だったが、この浴場も凄い豪華な造りだね」
「ほんまにゃあ。こない立派な風呂、うちら市井のモンにはなかなかおめにかかれまへんにゃあ」
 高い天井から雫が落ちる。ゆったりとした時間に心身ともにリラックスする。
「ディナーは何が出るんだろう。歌と演奏も楽しみだよねえ」
 ノールの言葉にみ猫は頷くと、夜に待っているステージとディナーに思いを馳せるのだった。

●夜天のステージ
 満天の星が幻想的に夜空を包む。
 魔法によって生み出された色とりどりの光源が中空を漂い、集まった者達をうっすらと照らしていく。
 ステージ上では静かな歌と演奏が、これから始まる晩餐への期待を高めていた。
 ニアとSolum、そしてバクルドはテーブルを囲み席に着いた。
 過去への想いが去来する。一人一人が、辛苦と後悔を味わいここにいる。
 けれど今はその想いに蓋をしよう。
 三人は同時にグラスを取ると、頷き合う。
 未来の苦難はとりあえず先送り。いまはただ――。

 ――新たな世界に。

 ――新たなる出会いに。

「一先ずの平穏と去りゆく今日に乾杯だな」
「「乾杯!」」
「……乾杯」
 響くグラスの音が、銀の晩餐の開始を告げた。

「ふえぇ……何だかキラキラしてますぅ」
 アルテナと席を共にするラヴは美しく光る野外のテーブルの前で落ちつきなく辺りを見回していた。
「アルテナ姉様はテーブルマナーはお得意ですか? 
わたし、習い始めたばっかりで……ナイフは……外側から?」
 アルテナに教えられながら、食事を楽しむ。この上ない至福の時だ。
(おいし……それにアルテナ姉様、ほわほわお姫様みたいで憧れちゃいます……♪)
 アルテナが他の者に呼ばれ席を立つまで、ラブはアルテナとの食事と歓談を楽しむのだった。
(アルテナの様な可愛い女子が僕を誘うなんてきっと僕に気があるに違いない)
 そんな事を考えながらコルマはステージに上がる。
 披露する歌は容姿と共に素晴らしいものであったが、肝心のアルテナは忙しく皆と会話してばかりで耳に入っていないようだ。
 歌と酒で酔わせて夜伽を狙ったコルマの完璧な計画は、あっけなく崩れ去ったのであった。
 コルマがステージから去ると、ステージ上は次の準備の為使用人達が忙しく動き回っていたというのに、華麗な歌は止まらない。
 よくよく見れば、ステージ上部にぶら下がるミミが、模倣音波で歌と演奏を真似ているようだ。
 素晴らしき模倣に、皆も満足げだ。
 少しの空白を埋めるように、ミミの音波が優雅に奏でられていた。
「素敵……光が反射して、星のように輝いてるわ」
 彩音は感嘆の溜息を漏らしながら、ステージの光景を目に焼き付ける。
 この世界の楽器、歌唱、正装やステージ衣装を余すことなくチェックする。
 スタイリストを目指す彩音にとって、最高の学習材料だった。
「アルテナおねーちゃーん! クーの事覚えてるメェ?」
 そう言いながらクロッシュは空中庭園でのお礼をアルテナに言い、共にテーブルを囲む。
「えへへ、おねーちゃん、一日お疲れ様メェ!」と、クロッシュが自慢の触手を動かし、アルテナをマッサージする。
 ある種不純な光景だが、健全に肩を揉んでいるだけなのだから大丈夫なのである。
 皆を案内し一日歩き回ったアルテナの疲れを癒やすように、クロッシュのマッサージはしばらく続くのだった。
 玖累とユエナはテーブルを囲み食事に舌鼓を打っていた。
「フンフン貴族たちってこんな生活をしているんだね」
 ステージ上の歌を聴きながら口にした玖累の一言に、ユエナが答える。
「玖累お兄ちゃんと食べるごはん、ユエナ、好きだよ。……おうた覚える、ね」
 ユエナの言葉に一瞬面食らう玖累。でもすぐに優しく微笑みかける。
「ユエナちゃんは本当に、愛らしいなぁ」
 伸ばした玖累の手が、恥ずかしがるユエナの頭を優しく撫でていた。
「素敵なお誘いに心から感謝するのです」
 そうアルテナにお礼をするのはエリノアだ。
 アルテナは「こちらこそ招待に応じてくれてありがとう」と言うと乾杯して次の席へと向かっていた。
 優雅な暮らしとは無縁だったエリノアは、緊張のうちに夜会を迎えていた。
(美術品もお風呂も素敵だったけれど……)
 空を見上げると満天の星空。魔法で作られた色とりどりの光の球が茫と中空に浮かぶ。
 幻想的な光景に、一人夜空を揺蕩うよう。
 食事をするのを忘れて、エリノアはしばらく空を眺めていた。
「少しよろしいかしら?」
 落ち着いたイブニングドレスに身を包み、目元を覆うオペラマスクでアルテナに話しかける瑠璃篭。
 ガブリエル派に対して思うところがある瑠璃篭は、昨今のローレットで見聞きした話を織り交ぜ、動向を探っていた。
 あまり良い情報は引き出せなかったが、仕方が無い。今は静かに潜み溶け込むことにしよう。
 アムネカは人知れず夜景を楽しんでいた。
 咥えた煙草から紫煙をくゆらせると一人呟く。
「教会の窓も、こんな高そうな場所からでも、見えるものは変わらないなあ」
 変わらない世界に思いを馳せながら、アムネカは一人静かにこの時を楽しむのだった。
 食事をしながらクー、ヨキ、ユールの三人はその距離を縮めていく。
 主に中心になるのはクーだ。「ヨキはん、もっと雅にふるまわな!」とか「ユールはんは天然さんやね」などと、友達をよく見ているクーが口を出し、それに二人が乗っかる形だ。
 ふと、ユールが星空へと視線を這わせる。追うようにヨキが空を仰いだ。
「ユールは、星、好き?」
「うん、好きだよ」
 ユールの頷きに、ヨキは考える。星は旅の目印であり、それだけのもののはずだった。
「……でも、皆で見る星は、少し、特別かも」
 晩夏の星原が、微笑む三人を見下ろしていた。

 晩餐は続く。
 特異運命座標達が、杯を交わし、歌を唄い、笑い合う。
 その光景にアルテナは「誘ってよかった」と呟いた。
 世界の命運だとか、この先の運命には少しだけ目を瞑ってもらおう。
 今はただ、この仲間達と声を上げてこの優雅な世界を目一杯楽しむのだ。
 雄大なる幻想の星空に杯を捧げて――乾杯!


writing:澤見夜行

PAGETOPPAGEBOTTOM