PandoraPartyProject

特設イベント

先行者パートⅦ


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 アリスは坂を転げ落ち、赤ずきんは狼の腹の中。
 塔の上でラプンツェルは歌謡い、眠り姫が起きる頃。
 世界は流転し、絶えず激動を与え踊り続ける。
 故に『混沌』。全てを飲み込み、自身の一部にせんとする暴食家。そして、これから終わりゆく世界の名前だ。神の観測を運命と呼ぶならば、物語の終わりはとうの昔に決まっているのだが――
「決まってねー方が面白いに決まってますよ。決まってたら困りますし」
 否、だと。少女は告げた。
 在り来たりな物語を終わらせて、『可能性』を蒐集しようと云う。
「可能性(パンドラ)による、混沌(パーティー)って呼べば愉快な感じじゃねーですか?」
 カミサマがいるならば、そんな言葉を掛けたに違いないと少女は言った。
 適当だ、と詰る者がいれば、そうだと納得する者もいた事だろう。
「大規模召喚? ほぅ、面白い!」
 世界が消滅するかもしれないという途方もない御伽噺が『本当』であると位置付けるかのように大規模召喚が発生した。ディエゴにとって、同類が空中庭園に現れることは愉快この上ない。
「高笑いすら出来るかもしれんな?」
 何所か高揚した意識の儘に告げるディエゴと同じく、大規模召喚を愉快な出来事と蓮火は受け取っていた。
 クスクスと笑みを浮かべ、「面白いことになりましたね?」とこてりと首を傾げて見せる。
「ですが――……これから大変でもあるでしょうね。大勢が呼ばれれば、その分あらゆる思惑が動いて、世界は『混沌』としますから」
 まさに、混沌世界。
 見透かすように笑み浮かべた蓮火は楽し気に只、笑う。
「――大規模召喚、ね」
 世界がそうなるならば、それが世界の『自然』なのだろうとスクアーロは嗤う。
 願うのはただ一つ、自然を汚さずに生きてくれりゃ文句はない。只、それだけだ。
 愛用の銛を片手に呟くスクアーロの胸には確かな予感がある。大海原へと漕ぎ出したかのような――途轍もない航海の気配が。
(ついに、大規模召喚……)
 一斉に現れる人々を見つめながらシュゼットは息を飲んだ。普段と変わらない日のようで、でもいつもと違うそんな一日。
 強く吹く風と、胸に沸き立つ予感がシュゼットに『今日』を違うものだと感じさせるから。
(他人事だったけど、いよいよ始まるのね……)
 使命の重さから溜息が漏れ出したのも致し方ない。世界に、救ってくださいと求められているのだ。
 新たな英雄譚を語り伝えるのはそう遠くない未来かもしれないー―悲観ばかりしてられないとシュゼットは首を振った。
「色んな世界(とこ)から色んな連中が……なんだ?」
 どんな世界も壊れてしまう時は壊れてしまうと夏子は知っていた。
 世界の終焉――それを信じるも信じまいも、現に今、目の前で起こった事を『信じない』わけには行かないと夏子は神殿へと向き直る。
「そいじゃ……親父、おふくろ。世界救いに行ってくらぁ」



 この物語には今この瞬間に召喚された者は出てこない。
 混沌世界が連綿と続けてきた召喚なる出来事に巻き込まれつつも、それが『今』ではない――大規模召喚なる世界のトピックスをその外側から眺める『主人公達』の時間を描いたものである。
 大いなる大召喚がやがて来るという神託の破滅の日の前触れか、はたまた混沌世界の与えたもうた福音なのかはこの世界に先住し、運命の根を張った彼等にも分からない不明だが、少なくとも彼等はこの世界を知っている。
 言ってしまえば、この世界に住んでいる、この世界の一員たるのだから――見える風景も多かれ少なかれ違うのだ。

「おっ邪魔しましたーっ」
 明るい挨拶と共に扉の外へと飛び出したブリダインは貴族の屋敷から幾つかの物品を盗み出そうと考えていた。
 その刹那の事だ。吹く風に煽られ、思わず目を伏せる――「召喚?」
 顔を上げたブリダインは普段と違った様子に首を傾げるが、何が起ころうと誰が来ようと自分は自由だと一つ伸びをした。
 旅人を狙った野盗の金品を強奪すると狛は街角で息を潜める。
 今か、と得物を見据えた小柄な彼女は殺意を滾らせ虎視眈々と得物を見据えていた。
(獲物は極力逃がさない事にしてるっす。生かしておくと『復讐』とか考えかねないっすからね……)
 じりじりと獲物を見据え、彼女は地面を踏み締めた。

 大通りで玉乗りとジャグリングをしているレーゲンは「キュッ」と声を上げる。
 上手くいけば明日のご飯を贅沢に。失敗すれば訓練を。
 海種の人々と似た外見のレーゲンの芸は懸命で街行く人たちは感嘆の声を上げる。
「キュ?」
 首を傾げたレーゲンは大規模召喚の気配にぱちりと瞬いた。
 飯代か、それともギルドの依頼に備えて戦闘訓練を取るか……悩ましい選択だ。

「大規模召喚か……私達の他にも異世界から大勢が来るんだな」
 アリアをちらりと見遣った稟は肩を竦める。歴史が多く変わりそうな予感にアリアは「不安だね」と小さく呟いた。
「稟ちゃんと出会えて本当によかったよ」
「その、アリア……これからも何があってもアリアの事は私が守ってやるからな?」
 共に過ごす稟の言葉にアリアは喜びを溢れさせ目を細め大きく頷いた。

 自身が経営する小さな菓子店の中で過ごしていたユアは雲行きが変わり始めた事に気づく。
 ぱちりと瞬けど、溜息が漏れ出したのは仕方がないことで。
「……私に限った話ではないだろうが。いざ、差し迫ってくると思う所も多くなるな」
 世界の終焉――差し迫ったそれを思えど、何もせず回避することは出来ないのだから。
「ならば、死ぬまで足掻いて見せようか」
 がちゃりと落とした錠前。ゆっくりと歩み出せばその足取りは軽い。

「成敗完了! である。これで近隣の村々が脅かされる事はあるまい」
 血の海の中、誇らしげに笑ったリリルラは村人たちの厚意を受け、夕食を頂こうと民家へ向かうが――「『時は来た。新たな戦士と轡を並べよ。猶予は短く長い。奮え』?」
 その言葉は予感として浮かび上がる。リリルラは同輩が増えたのだと奮起した。
「吾輩も更に奮起せねばなるまいて。呵々!」

 大規模召喚の力の流れを感じ空を仰いだキーシィは傍らのユーリィへと視線を送る。
「……なるほど、今回の流れはとても大きいもののようだ」
 その言葉に、右も左も分らぬ儘に混沌世界へ放り出されたユーリィは不安げに俯いた。
 昔のことはあまり覚えていない。それでも、召喚された時のことは鮮明で――その日に似ているような気がした。
 助けてくれた兄の平穏を護らねばと願う弟に微笑みかけてキーシィは「心配いらないよ」と手を差し伸べた。
「我らの――君の仲間が、増えただけだ。……今のところは、ね」

 古今東西、眼鏡が本体とよくいうもので。
 代わりに話してくれるのはタダのイケメンなので悪しからずと眼鏡は言う。
「いや、知りませんので」
 ダンデライオンは背に向けた。『彼』は曖昧に笑いながら「茶を頂きたいですが」と海水をちびちびと飲んでいる異様な光景がダンデライオンの後ろには広がっている。
「おや……これは――未来の眼鏡美男美女が一堂に会している予感ですね、と彼が言ってます」
「いや、俺の客、もいるかもしれませんけれど。眼鏡は関係ないですね」
 悪徳金融の流儀に則って最初の手助けは自分だとダンデライオンは大きく頷いた。
 一方で眼鏡は「彼のターゲットですよ」と変わらぬ爽やかさで伝えてくるのだった……。

 何時も通り雑貨屋《IceCrystal》で働いていたリッカは大規模召喚の事を客から聞き、ぱちくりと瞬いた。
「ふーん……ボクのお店にもお客さん増えるかな?」
 首を傾いだリッカに客は大きく頷く。きっと、沢山の人が増える事だろう。
「どんな人たちが来たんだろう……?」
 仰ぎ見れば空中庭園――今まさに、大規模召喚が行われているであろうその場所。
「千客万来ってか? まぁ、賑やかになる分には悪いこたねーわな」
 カルマは人が増えれば仕事も増えると一つ大きく伸びをする。
 割の良い仕事が見つかるまでは、英気を養うとするか、と街に降り立ったばかりのイレギュラーズに手を振った。
「というわけで、そこの新顔。飯でも食わねーか? 奢りはしないけど話位は付き合ってやるぜ」

 エメルは困っていた。
 森に迷い込んだ旅人の話で己を期待上げ、数々の獣の中から選ばれたうちの一匹になった。
 しかし、森から一歩踏み出せば未知の連続だった。これから衝撃が訪れる事を知りエメルが行ったのは日課に水浴びの項目を追加することだけだった。



 召喚されてから今に至るまで、時間をかけて整備し続けた拠点。蒸気機関(じぶんのぎじゅつ)で何かを作り上げんとするのは旅人たちの夢だ。
 ベリーにとって、己の知識の結晶は宝と呼ぶに相応しかった。
 先ずは拠点を整え、己が持つ知識全てを形と成す……その最中であったのだろう。
 大規模召喚の気配を感じ僅かに顔を上げたベリーはゆっくりと己の知識を見下ろした。
『大規模召喚』と聞けども、マオはそれが世界平和に繋がるなどと考えることはなかった。
 純種として生を受け、貧民と誹りを受け続けた。彼女にとって異邦人(ちがうもの)が増えようとも我関せずの姿勢でしかない。
 右も左も分らぬ誰かよりも食物連鎖のピラミッドを登る方が大事だ。だからこそ、彼女は餌と呼ぶに相応しいと爪を磨ぐ。
「また召喚か。やれやれ、世界の意思は相も変わらず酔狂だな」
 随分と規模がでかいと野営地から見上げるギャシャは『大規模召喚』が行われているであろう空中庭園を思い浮かべ肩を竦めた。
 世界の猶予が無いという事だろうか――それでも、日常にはさして変動はない。
 今日一日を大切に生きて明日につなげることが大事なのだと。
 焔が爆ぜることを見下ろしてスランは天啓を得たときのことを思い出す。
 焚火を起こし、風と雲の導きの儘、迷走を行っていたスランの心に芽生えたのは『滅びと戦え』という誰かの聲――それが誰であったのか、何であったのかを知る由もない。
 唯、それでも誇り高き部族の戦士として名誉ある戦いは望むところだ。
 スランはゆっくりと剣を取り出し高々と星へと剣を掲げた。滅びと戦うことを天の星々に誓ったのだ。

「にんじんはいらんかね~」
 周囲をきょろりと見回したフィアナは広い世界を視るために深緑から幻想へと辿り着き行商のアルバイトに精を出していた。
 だが、大規模召喚の気配は彼女の運命を変える。
 今こそ運命を紡ぐ時だとニンジンを手にしフィアナは「本当の冒険へ旅立つ」と両足に力を込めた。
 そう、今始まったのだ。 ヴィクトワールは愛剣を手に「ふっふっふ」と笑みを漏らす。
「ついに来ましたわね、この時がっ!!」
 ヴィクトワールの心は踊っていた。召喚された数多の勇者と共に破滅に立ち向かう――これはどれ程に最高の展開であるか。
「この日の為に訓練は積んでますし、わたくしの華麗なる剣技を一刻も早く披露しなければ!」

 それは虫の知らせと呼べばいいのかもしれない。始まりの予感に耳をぴくりと揺らしたビビッドはロロットと顔を見合わせる。
 力を得たとして、二人は何も変わらない。薬草を採って売って、二人で食事をして――その日が不幸でなければ、それで幸福だった。
(おれは難しいことはよくわかんねーし、考えるのはロロの仕事)
 お腹をぐるると鳴らしたビビットにロロットは「な、ビビ」と手を伸ばす。
「俺たち兄弟、二人なら何でもできるからさ!」
「おれたち二人でやってやろうな! でもまずは美味いもん食おーぜ」

「……」
 大きな嘆息を漏らしたエリシアナはまた新しい人々が来るのかと僅かな煩わしさと僅かな期待を抱く。
「……馬鹿ね。期待など、無意味だというのに」
 自嘲の笑みを浮かべエリシアナは石ころを蹴り飛ばす。期待は誰にもしていない――けれど、「楽しみでは、あるわね」と呟いた本心は。
「ほら、カルラ。彼女はあちらに行きたいと言っているよ」
『本当ね、レオン。彼はアレが食べたいみたい』
 男の子の人形と女の子の人形は楽し気に笑う。ぐいぐいと腕を引っ張られる様に動いた『子供』はレオン・カルラの会話を見つめている。
「知らない場所に来たときはどうしようかと思ったね」
『本当ね。でも、コチラはこちらで楽しそうで嬉しいわ』
「ああ、彼女も……ふむ。ふむふむ」
『あら、何か感じてるみたいね。何か……あら、あらあら』
 ピリピリと何か感じたと子供の表情が僅かに変わる。
「俺、大きい街来るの初めて。しばらくは、ここにいる予定、だから、ここを見て回る」
 きょろきょろと周囲を見回したフランキスカは楽し気に「美味しい、飯屋あれば、うれしい」と高台へと駆けていく。
 良い所ならうれしいと、周囲を見回すフランキスカは探索を目当てに人波を掻き分けた。
 自分の縄張りをぐるぐると歩き回りながらチュンは周囲を見回す。
 胡散臭いツボを売りさばこうとして見事にフられた時にチュンは微かな気配に気付き、ぱ、と顔を上げた。
「アイヤー、また失敗だたアル。しかし、ボロ儲けの好機が廻ってきそうねー」
 ツボをつん、と突いたチュンはにぃ、と歯を見せ笑う。
「好好、楽しみヨー」
 街を足早に抜けながらJackは周囲を見回す。悪人退治というの幻想の街でも良くある『依頼』の一つだ。
「大規模召喚ねぇ……別にどうだって良いが……いや、違うな」
 Jackの足元に転がった悪人は怯えを孕んだ表情で見上げている。端には悪人の得物で会っただろうナイフが転がっていた。
「お前らみたいなクソ野郎が居ないことを願うとするか」
 ゆっくりと振り下ろされた槍の穂先は――
 どこかで何か、聞こえた気がしたとゼグルドは顔を上げる。
 きょろりと周囲を見回すが……何かを見つけるわけでもなく。緩々と流されるまま生きるゼグルドにとって『何か』を見つける事は中々に難しい。
「祭りがぁ始まんのかなぁ」
 きょとりと首を傾げ、「何ンかぁ、あんのかなぁ」とゼグルドは小さく伸びをした。
 大規模召喚の気配を感じながらゴラディスはゆっくりと顔を上げる。
 気配は感じるが――強者たち、何れは戦う事となる仲間や敵対することになるだろう相手への立ち消えぬ闘争心だけがゴラディスの胸を占めていた。
(……来たか、運命を託し託される強敵(とも)よ)
 思い馳せるゴラディスはゆっくりと座に腰を下ろした儘、虎視眈々とその時を待つ。
「大規模召喚か……いいじゃねぇか。どんな強いやつが来るんだろうなぁ」
 折り畳み式の金属櫛でリーゼントを整えながら、ニヤリと笑った行路は未だ見ぬ強者と来るべき終局を見据え、空を仰ぐ。
 自分の力が何所まで通用するか――嗚呼、それを試したくてたまらない。
 眠たげな表情をしていたランドウェラは周囲をきょろりと見回す。大規模召喚の気配を察知した人々が多いのだろうか――街は僅かに賑わいを見せている。
「今の何だい?」
 首を傾げば、大規模召喚だよ、と街の人々は楽し気に伝えてくる。
「ははっ賑やかになりそう、だ」
 ティルティルシアは考えた。新たな同胞たちの来訪を盛大に盛り上げるべきではないか――と。
「……歓迎の祭りを行う、現地へ集合……」
 内容は告げず、街の特異運命座標達へと声をかけ続ける。ギターで情熱的な律動を演奏しようと心を弾ませたティルティルシアはギルド『ローレット』へと向かうのだった。



 いつもと変わらない日々。領土の様々な問題を解決していく何もない日常を過ごしながらルミは天上を見上げる。
(ついに、この日が来てしまった)
 己の住まう地もいつの日か争いに巻き込まれるのかもしれない――いや、巻き込まれるのだろうか。
 世界が己に渡した『呪い(ぎふと)』。それが民を護ることが適わないとしても、気持ちは常に民と共にあって。
「特異運命座標か……俺と同じように心に闇を抱える人が増えないといいが」
 ローレットの様子を眺めたフィンスターは肩を竦める。特異運命座標として世界の平和の為に、と立ち上がった彼はある程度の活躍は見込めた事だろう。
 しかし、それは『ある程度』までだったのだろう。世界が大きく動く訳でもなく、仲間たちと共闘う中での苦悩も多かった。
 人々とのかかわりを避けていくフィンスター。その心の雪解けは……。
「……これは私が選ばれたときとはまるで違いますね。いよいよ終焉とやらも現実味を帯びてきたという事でしょうか」
 ローレットの様子を眺めながらオフェリアは息を吐く。いずれにせよ、いよいよ『始まった』ということだ。
 様々な人々が訪れるローレットで、オフェリアを求める声が出てくるかもしれないと決意を秘めながら。
「成程……終わりが近づいていると言う訳ですか」
 一か月前に特異運命座標になったばかりのベルジュは成程、と小さく頷く。
 騎士として鍛えた頃と比べれば、出来ることも減り、頗る弱くなったと実感している。
「まずは仲間を作り、鍛えなおすべきですね」
 独り言ちる彼にユリーカは「なのです」と大きく頷く。
 新米イレギュラーズに向けた説明に事象にふむふむと頷きながら――スウェンの表情は一気に紅潮した。
「……え? 大規模召喚? え? 一から鍛え直し……?」
 楽し気に顔を上げたスウェンは「面白いじゃねえの!」と拳を固める。
「これなら競い甲斐もあるッスね!」
 鉄帝で頑張るだけではない――特異運命座標達と競い合うのもこれからの目標になるはずだ。
「はぁ……。それなりに長く生きているけど、まさか俺がなぁ……。
 全く、神様かどうかは分からないけど、なんでこうなったのやら……」
 深い溜息を吐いたローベルグは肩を竦める。こうなってしまった以上は仕様がない。
 特異運命座標としての使命やレベル1といった制限などに慣れるには少しの時間がかかるだろうか。
「……ま、なったものは仕方ないか。多少、面白おかしく過ごさせてもらうか」
 ローベルグはうん、と背伸びして騒がしくなりつつあるローレットを見回した。
 ただ、召喚されてから無為に過ごしていたと悠は頬杖をついた儘、ぼんやりと周囲を見回した。
 そこにある風景は見慣れたものではない。変わり果てた世界で、自身が『悠』であった証左が得られないことが不安で堪らない。
(……答えはあそこにあるのかもしれない)
 縋るような想いで悠は歩き出す。特異運命座標として召喚された以上、縋られる側であったのだけれど。
 ざわざわと騒がしい声を聞きながらアンタレスは「愉しくなりそうだな」と機械のボディを震わせた。
 今日という日を祝う声も聞こえる。それに乗じてアンタレスは乾杯だと酒を片手に飛び込んだ。
「がっはっは、この渾沌に乾杯!」
 喧騒の中で過ごすセンカは大規模召喚が起こった事で歴史が大きく動きそうだと首を傾ぐ。
 思う事がいくつもあれど、真っ先に思い浮かんだのは未知の知識や常識を知ることが出来るかもしれないという知的探求心――もっともっと、『視た事のない景色』を見ることが出来るかもしれないという好奇心は大いに刺激される。
 まずは、誰かと友人になろうと席を立ち、人々の中へと彼女は飛び込んだ。

「大規模召喚があったようですね」
 科学が発展した世界からの旅人や、魔法の世界の旅人だっている。
 アルプスにとって不在証明をうけても『ウツロギ配達屋』で配達業が出来るのは生活基盤を作る上で最も安堵した事だった。アルプスの事を見た旅人は『鉄の馬だ』と『彼』の事を褒めた事だろう。
 それぞれの異邦人たちの生活基盤が安定すると楽しくなるかもしれないとアルプスは一つ、意気込んだ。
「あら、大規模召喚がおきたのですね」
 フィオレンツィアは騒がしさを増すローレットで周囲をきょろりと見回した。
 動揺や混乱が起こるのは当たり前のことだとフィオレンツィアは頷いている。
 どうか、安らげる場所を準備して――花々と共に過ごすのがいいだろう。
「ふふふ、これから咲く花の様子も楽しみになってきましたね」
 見聞を深めるために街とローレットを見て回っていたラクタは書物を漁り、吟遊詩人の唄を聞いてきたと目を輝かした。
「塵芥のような星上に生きる小さきものが、かくも複雑怪奇な文化を作り上げていたとは!」
 人として、自身がこれから誰かと共にある為に――
「あわわ、この感じは……だいぶ大きな召喚であります、か?」
 刻が近いのかと晴富は震えを感じる。この先の事を思えば怖気づいて居てはいけないのだと一念発起する如く掌に力を込めた。
「運命を負った者として立ち向かわねばであります!」
 自分に与えられた役目を果たすためにも――自分達の未来を護る為にも!
 のんびりとしていたシーフィルは「この世界に来て少し経つのかな」と大規模召喚の起こっている空中庭園を見上げる。
(んー……うちができることはなんだろうなー……?)
 のんびりと歩きながらのんびりと出来ることがあればうれしいとシーフィルは一つ伸びをした。
 街をぼんやりと見下ろしながら空を眺めていた幽邏は狙撃銃を片手に首を傾げる。
 大規模召喚が始まった事は予感として伝わってくる。不思議な感覚に、「……何か大きなことが……始まる……?」と首を傾いで。

 はるべるととフニクリは楽し気に談笑を行っている。
 何気ない日常、何気ない会話、そう、これは『壮大に何も始まらない合わせプレイング』なのである。
「来たか」
 何かを察知したようにフニクリは顔を上げる。
「始まったか……ついにあれが」
「あぁ……」
 ――始まったのだ、ついに『アレ』が……。

『史上最大の大規模召喚』は当事者以外にも――全ての者にも影響を与える一大トピックスになる。
 彼等は誰かを救い、誰かを打倒するかも知れない。国に影響を与えるかも知れない。世界を動かすかも知れない。
 今、神殿に呼び出された者と同じく――既に運命を背負っていた彼等『先行者』の未来さえも動かす事になるのだろう。
 特異運命座標(イレギュラーズ)の物語、Pandora Party Projectはこれより始まろうとしている。
 外界から見上げた神殿で、あの厳かな空中庭園で、オーナーが不敵に勇者が出迎えるローレットで。
 もうすぐ、間もなく。全ての運命が動き出す。

 ――敢えて言おう。ようこそ、混沌へ。


 リプレイ:夏あかね
 監修:YAMIDEITEI

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