PandoraPartyProject

特設イベント

先行者パートⅢ


 ――クリック? クラック!

 アリスは坂を転げ落ち、赤ずきんは狼の腹の中。
 塔の上でラプンツェルは歌謡い、眠り姫が起きる頃。
 世界は流転し、絶えず激動を与え踊り続ける。
 故に『混沌』。全てを飲み込み、自身の一部にせんとする暴食家。そして、これから終わりゆく世界の名前だ。神の観測を運命と呼ぶならば、物語の終わりはとうの昔に決まっているのだが――
 ……ぼんやりとする。何も聞こえないまま、暁蕾はゆっくりと手を伸ばす。
 痛みと慟哭に包まれる。誰かの声がする、少女の――堂々たる言葉が耳朶を滑る。
 伸ばされた手を掴もうとして目の前に広がった抜けるような青空の中で暁蕾は口をあんぐりと開いた。
(『しゃお・り』……)
 その言葉と一つの眼鏡だけ――世界を視るためにゆっくりと体を起こした。
  召喚に良い思い出があるのかと聞かれればカザンはYesと答えることは出来なかっただろう。
 酷い一族がひどい死に方をしただけ。家に火をつけ戻る場所を失っただけだ。
(僕が死ぬ明日のことを考えて生きるとしよう……)
 何が起こったのか、と。
 この世界に来たのは三日前。偶然、空中神殿に来ただけだった。
 旅人たちが『次々と現れる』瞬間――「まさか、これを記録されたくてオレは先に呼ばれたのか……?」
 ノートに記録しながら彼は呆然と空を見遣る。
 神殿に立つ『神託の少女』は常と変わらぬ調子を崩していない。
 その場に降り立った人々の姿は様々だった。その中でゲンリーが『己と同じ』だと認識する『存在』が居たのかは定かではない。
 鋼鉄の谷の王国を失い巨竜に敗れ失ったはずの命――この世界のどこかにあるかもしれないと信じ続ける己の王国を探し、彼は問い掛けた。
「お主、ドワーフという種族を知っておるか?」
 召喚されて続ける旅人たちを見てレイランの視界に移るのは驚愕する者や運命を嘆く者。
「じゃあ、僕が抱きしめてあげよう」
 落ち着いて、冷静に、この先の未来を見つめよう。レイランは柔らかに笑みを溢す。
「大丈夫、この世界は優しいから。ね?」
 凄い、とはしゃぐイヴァシーは旅人たちへと話しかける。
 皆かっこいいな、強そうだな――なんて。そんなことを考えながらイヴァシーが話しかけた相手は……。
「え……あなたの世界では、魚を食べるの……?」
 イヴァシーによく似た魚を食すという言葉に見る見るうちに涙が浮かぶ。
「た、たべないでえええええっ!?」



 この物語には今この瞬間に召喚された者は出てこない。
 混沌世界が連綿と続けてきた召喚なる出来事に巻き込まれつつも、それが『今』ではない――大規模召喚なる世界のトピックスをその外側から眺める『主人公達』の時間を描いたものである。
 大いなる大召喚がやがて来るという神託の破滅の日の前触れか、はたまた混沌世界の与えたもうた福音なのかはこの世界に先住し、運命の根を張った彼等にも分からない不明だが、少なくとも彼等はこの世界を知っている。
 言ってしまえば、この世界に住んでいる、この世界の一員たるのだから――見える風景も多かれ少なかれ違うのだ。

「ありゃ、一体何が起きようとしてるんだい?」
 呟くムラサメは驚いたように遠く空を見上げる。大規模召喚を感じ取り、何事かの異変を練達の地で確かに感じ取ったムラサメに振ったのはDr.マッドハッターの「大規模召喚さ」と言う軽い声音だった。
「大規模召喚……」
 伊月はマッドハッターの言葉を繰り返す。偶然だね、と笑う彼にムラサメと伊月は首を振った。偶然に出会う事など出来すぎている。大方、大規模召喚という『楽し気な情報』を聞き、街の様子を見に来たのだろう。
「何か大きなことが起こりそうですね。僕の知的好奇心を満たす様な面白いものが見つかりそうです」
 さて、善は急げ。瞳を輝かす伊月に周囲を見回すムラサメは如何したものかと肩を竦める。
「君も幻想へ行ってくると良いさ。きっと楽しいことが見つけるよ。特異運命座標(アリス)」
 練達にひっそりと存在する居城でアルカは空中庭園で何かが行われていたと察知する。
「ざんげもよくやったものよな――ともあれ、世界の破滅は本当に来ると、妾の力を取り戻す手がかりも有ると信ずるに足る出来事じゃった」
 大規模召喚を思い、アルカは喉を鳴らして笑う。遥か幻想の地に『可能性』が降りて来たのだ。
 だが、絶望を感じる者もいた。アルファルドは己の世界への帰還の為に研究を進めていた――その最中での出来事だ。
(恐ろしい、何かの前兆としか思えぬ……)
 空仰ぎアルファルドは恋しい故郷を想う。嗚呼、平和な故郷へ帰りたい――

 時刻は遡り、星々が輝くころ、ウィリアムは何かの予感を感じていた。
 練達の空は美しいドームに覆われているが、澄んだドームからは『空』を見ることが出来る。無機質な町並みで唯一自然を感じられるならば空だとウィリアムは感じていた。
「……珍しいことが有るんだな」
 ぼんやりと呟く彼は輝く星に手を伸ばす。それが、大規模召喚の予兆であるかのように感じ、彼は思いを馳せた。

 ――賑わう練達の事を予測しながらクロクトは考え込む。
 新たな旅人たちが持ち込む技術は練達の人々によって『有効活用』される事だろう。聞いたことない地名、見た事のない道具、この世界ではありえない事象――それが世界の法則で『なかったことにされても』彼らは追い求めるはずだ。
 情報収集には打ってつけの事象に『あの場所』を追い求めるには一番だと彼は一歩踏み出した。

 傭兵として隣席した存在が獣種の傭兵集団という事をアランは理解していた。やれ、雇い主がどうだ、美味しい仕事か否かを口々に話し合う獣種たちの中でアランはゆっくりと顔を上げる。
「どうした」と問う者がいたが彼は身支度を整える。
「時が来た……気にするな、仕事をしてくるだけだ」
 向かう先はローレット。美しい都を後にして、彼は砂嵐を行く。
「かぜ、かわった……?」
 切り立った崖の上、白銀の狼を連れたユズはゆっくりと空を仰ぎ見る。
 遠く、獣の遠吠えが聞こえ彼女はすう、と息を吸い込んだ。
「わかっている、たくさん、きぼう、が、やってくるね」
 その場所に、遠吠えが響く――
 広い混沌世界のどこかの街で、降り注ぐ雨の中、ソフィーヤは銃を手に目を伏せる。
 いつもの様に、何も変わらない筈だった。
 それでも、その日、何か感じた。気のせいではなく、何かは確かにそこにあった。
 ソフィーヤは銃の引き金を引く。宙へ、響き渡る1発が何を示したのかは分からない儘。

 深緑の木々の中、草原を見下ろしながらリリは息をつく。大樹フォルカウから感じるのは木々のざわめきか。
「森がざわめいているのだ……。きっと、何かが起ころうとしているのだよ」
 大樹の梢に立ちながら空中庭園を見つめるリリは木々のざわめきが『大規模召喚』によるものだと知る。
「う~、ゾワゾワする……」
 リュミエが言っていた『特異運命座標』というものが増える感覚はこんなものかとリィンは首を振った。
 世迷い言だと笑っていたが、現実味が増してくると彼は唇を尖らせる。
「まだ探ってない遺跡も沢山あるし、かわいい女の子と遊びたいなあ……」
 ――ざんげちゃんとこに『カワイイ子』来てないかなあ、なんて。

 海洋の風は海のかおりを運ぶ。
 縁は縁側でぼんやりと海を眺め乍ら、煙管を吹かせ「はあ」と長めに息を吐き出した。
 何の因果か、何の運命か、果たして何が交じり合っての事象であるかは分からない――自身が『特異運命座標』に選ばれた実感も危機感もまだ得ることは出来なかった、が。
「同じ奴は大勢いる」
 任せたっていいんだろ、と煙と共に浮かぶのは虚無か。風に運ばれる煙と共に心の迷いは空へと浮かぶ。
 かつり、と石を蹴り飛ばせば桟橋から海へと沈んでいくのが見えた。
 ピスクレアは「大規模召喚か」と空を呆然と見上げる。レオンの言う『猶予』はあまり残されていない事かと思案すれど『海洋』の穏やかな気性は普段と何も変わりない。
「……やることも変わりなし、か」
 ギルドへ向かおうかとゆっくりと立ち上がる。波は静かに寄せては返し、穏やかな午後を感じさせるのだった。
 波の動くがまま、只、ぷかりと水上の浮きながらアーチェは太陽を浴びる。
 感じる気配は確かにあって、何かをしなければならないことだって理解しているけれど――けれど、心は『大規模召喚によって始まる何か』に夢中になっていて。
「さてさて、これから面白くなりそうっすねぇ」
 切り立つ崖の上で守は「時が来たのであれば」と潮風を浴びる。
 巨躯の儘、ゆっくりと海へと告げたのは彼の信念。
「俺は『守る』だけだ」
 呟きと共に海の中へと飛び込んでゆく――動乱へ飛び込むが如く。
 大規模召喚が起こったのだと口々に言う人々の話を聞きながら新聞紙を片手にダゴモンドはミックスジュースに刺さったストローを指(触手)先で弄る。
(磨き上げた触手道……今こそ振るう時なのだ……!)
 海賊船ラビアンローズ。一族で久方ぶりの特異運命座標となったメアリへの期待は深海の如く深く、重苦しい空気を感じさせた。
 それもその筈だ。『大規模召喚』によって特異運命座標『となった存在』が増え続けているのだ。
 この世界と海で、自身は『偉大なるドレイク』に手が届くだろうか――?
 新たな出会いと試練は、きっとメアリにこう言ってのける筈だ。
「さぁ、海賊の時間よ!」



「また人外が増えるのかよ……」
 酒を煽った辰則が、大規模召喚に対して漏らした感想はそれだけだった。
『ギルド条約』がある為か、衣食住に不自由していない事は辰則に立っては良かったのだが、彼の目線から『異形』と映るものは未だ変わりなく――それに違和を感じずにはいられなかった。
 イヤダイヤダと首を振ったハイデマリーは純種として、混沌世界で生き抜いてきた。
 だからであろうか――旅人(ちがうせかいのひとびと)を是とする事が出来ぬのは。
 だからであろうか――否定(いやだいやだ)と首を振っていることは。
 大規模召喚が国を滅ぼすとハイデマリーの信条はそう告げていた。カミサマがいるならば、彼女は言ってのけるだろう。『ここは我々のモノ』なのだと。
 そう、神託よって訪れるのは何も全てが奇跡の産物でないことをメテオラはよく知っていた。
 貴族主義や宗教国家、混沌は『混沌』としている――その世界を固いと願っているメテオラにとって、これは好機だった。
「彼らと共に、この混沌を変える時が来たな……」
 毛むくじゃらの髭と髪。ぐいと安酒を煽るグドルフは大規模召喚とローレットのうわさを聞きつけて「面白え」と笑った。
「先輩として、ちいっと教えてやるとするか。この世界の厳しさってヤツをよぉ」
 べろりと舌なめずり一つ。グドルフの言葉にはどこか熱意が籠っている。
 大規模召喚と共に世界に訪れる終焉の噂――レーヴはミルクをちびちびと飲みながら稼いだ金では『どうしようもない』かと夢想し首を振った。
(どうせ『あいつ』のためにつかってしまうか……)
 世界の為に金を使う余裕はないけれど――いや、『あいつ』がいる世界だからどうにか救って見せると言えるのだろうか?
「嗚呼、おやじさん。おやじさんの酒場の蒸留酒が恋しくなりましてね」
 実際に恋う相手がいないか問い掛けられてリュグナートは肩を竦める。
 遂に訪れた大規模召喚。きな臭くなってきたと笑った彼は蒸留酒を煽る。
「……世界の命運なんて早々動かない方が有難いんですが、ね」
 リュグナートの言葉を神妙な表情で聞いていたアルシェルはこれからが楽しみで仕方がないと「大規模召喚……ですか」と呟いた。
 己は別の世界から訪れた異邦人だ。果たして、己と同じ世界から訪れる人間は居るだろうか?
 例えば――『彼』とか。
「召喚さレた旅人さン。ビックリするかナ? 不思議なギフト」
 クレイスはパンドラと言えばパンドラの箱――ギフトも箱と関係あります。
 そう告げて、混沌世界が与えたもうた『プレゼント』を楽しみだとグラスを掲げる。
「さァ、お祝いシましョ。乾杯デす! 箱の中身は何デしょウね~?」
 カップの中で珈琲の波紋が揺れている。クロックは大規模召喚による喧噪を眺め乍ら「ticktock」と呟いた。
「ticktock,ticktock……僕が召喚されてから、×日×時間××分××秒……大規模召喚実施。
 さて、この誤差に意味はあるのかな?」
 はてさて、とクロックは珈琲に口をつける。
 注ぐミルクがコーヒーに混ざる様に、運命が交錯し合う。

(俺が『混沌』に生まれ落ちてから26年……異世界のものを継接ぎしていく世界か)
 ラデリは世界が混ざり合うその瞬間を何時もの通りの日常と共に過ごしていた。
 手にしたスコップが乾いた音たて地面に落ちる。特別な運命の波が勢いよく押し寄せる感覚で胸に沸き立つものを感じ取る。
「うむ? 今日は賑やかじゃなあ……」
 竹の入った籠を背負った竹取之翁は庭園を眺め見る。大規模召喚の発生は竹取之翁にとっても楽しみの他ならない。
「ほっほっほ」
 楽しくなりそうじゃ、と軽やかな足取りで歩む竹取之翁。
 一方で――
「にーさま? ねーさま? どこにいるのですか? また二人とも迷子になってしまったんですかー?」
 きょろきょろと周囲を見回すナコは手芸屋から通りに顔を出したが兄と姉と探すため、もう一度手芸屋へと入っていく。
「にーさま?」
「ナコさーんどこー?」
『ナコ殿~どこにおるんじゃ~』
 少女のような軽やかな声音と老人の様に嗄れ声を交えながらナコを探すニコは店内のざわめき意を感じ取る。
 それが大規模召喚であることに真っ先に気づいたのはココだった。ナコとニコを探しながら、『弟と妹』に危機が迫る事が無きようにと手芸屋の仲を進んでゆく。
(先に二人が気付いたら不安になっちゃうかもしれない……)
 遠く――力を確信したときに似た感じ。その感覚が邪魔するようにココの思考に食い込むことを払いながら店を進めば、「何が起きたんですか」と不安げに問い掛けるナコがいる。
「だいじょーぶ、ナカマが増えたみたい。楽しみだね!」
 とびきりの笑顔で安心させるように微笑んだココはニコを探そう、とナコへと手を差し伸べた。



 カジノ飛行船【JOKER】の甲板を這いずり回るサヴァは「ああ!」と声上げる。
「混沌の呼び声! 堕ちる空! 枷を嵌められた魔王! やがて生まれ出ずる勇者!」
 両の腕を上げたサヴァの様子にクヴァレは表情を変えぬまま頬杖ついて空を見遣る。
「ああ、頭目。とてもあんた好みの事態になりそうじゃあないか」
 頭目――オセロはその言葉にちらと、クヴァレを見遣ってから空中庭園を俯瞰する。
「『今回も』なかなかクールな事になりそォじゃん?」
 オセロの言葉に刃左は大きく頷く。「無論でございます」と頭を下げた彼の視線は狂声を上げるサヴァと表情揺らがせぬクヴァレへ向けられていて。
「貴様らはその技を持って頭目のお役に立つことのみ考えよ」
「筋肉と物狂いはせいぜい頭目いと私の弾除けを務めるがいい」
「跋扈せし崩壊の予兆はかくも無慈悲に可能性を簒奪し略取し解体し埋葬しイヒィィ!」
 ――個性的なメンバーの揃った【JOKER】だが、彼の一声ですぐに纏まる。
「オゥケィ、行くぜ性懲りもなくくっ付いてきやがった野郎共。『この世界でも』好き勝手見て回るとしよォぜ!」

 ナハトラーベは嘆息した。
 眼帯で塞がれた瞳にも、空移す瞳にも彼女の真意は伝わらない――『彼ら』の死期が知りたいという真意など。
 黒い翼を広げて空へと羽搏き向かうが先は只一つ――
「これより現れる英雄たちにこの世界に住む我々が遅れを取らぬよう、より苛烈に切磋琢磨せなばなるまい」
 甲冑を身に纏った釼は焦りと同時にこれを好機と見做していた。
「絶えず鍛え続けた我さえ、その英雄殿と同じ程度の力を得るまでに今日までかかったのだから……」
 焦りとチャンス――それを釼は胸に抱きながら。
 ――ガン。

 鈍い音と共にモンスターを倒したミーティアはエディを振り仰ぐ。
「大規模召喚?」
「ああ、ローレットに戻ろう」
 地面を踏み締め、モンスターを倒し続けるクローバーに背を向けてミーティアは大きく頷く。
「不安だろう人たちの力になってやらないと」
 柔らかに笑うミーティアにエディは大きく頷いた。
 依頼帰りにエリクが背に感じた気配は不思議なもので。どこまでも続く草原以外には何もないはずだ――遥か空に存在する空中庭園以外には、何も。
(これから楽しくなりそうだ)
 卵から雛が孵る様に。高揚感を感じ、一人笑みを溢せば向かうはギルド『ローレット』だ。
 遺跡で発掘した『商品』を手にしながらヴィヴィは賑わう混沌世界の様子に耳をそばだてた。
 大規模召喚――それが意味するところは一つだ。ヴィヴィは冴えているなと感じる。
(金の足しが増えたか……)
 海に向かい釣りをしていたトガは反応しない釣り糸を見下ろして、全く違う世界の予兆を感じ取る。
(魚が怯えている……?)
 大規模召喚の気配は自然のものにも伝わったのだろうか――魚たちは静寂を保ったままその姿を現すことはない。
「これから世界は、大きく動き出しそうだ……」
 緋陽色鉄は魂鋼と共にその時を迎えていた。
 本格的に世界を救う戦いが始まる――自身が共に戦場を駆る事になるやもしれない特異運命座標達が現れることになるのだ。
「共に戦うのが楽しみね」
 その言葉と共に魂鋼は剣を掲げる事となる。それは同意。
 緋陽色鉄は魂鋼もそう言っていると僅かに微笑んで見せた。
 二丁の銃を手にしたラルドは吹く風に僅かに照準がずれた事を感じる。
 しかし、その風が己の照準をずらすだけの強い勢いだったことに気づき彼はゆっくり目を伏せる。
「……あぁ……始まるのか」
 見上げた空には空中庭園。何事かの気配は強く吹く風に運ばれていく。
「……私、同じ、増えた」
 森のざわめきの中でカレンテはゆっくりと手を伸ばす。「会える、かな」とカレンテは触れた花の様子を眺めて嘆息した。
「……花、枯れる、何故か……知ってる、人」
 か細い声で呟き、ゆっくりと歩み出す。その視線の先には遥か空中庭園が存在していて。
 花を巻き上げた風にリナリアは「わあ」と瞬いた。
「なにかが起きようとしているのですね……」
 花々は彼女に何が起きたか伝える様に揺れ続けた。ぱちりと瞬き幸せそうに笑うリナリアは立ち上がる。
「それでは新人さんにあいにいくのです!」
 ぶわ、と吹き荒れる風を受けて髪を抑えた樹里は祈る様に手を組み合わせる。
「……賽は投げられた、というやつでしょうか」
 小岩の上での食事ももう終わり。樹里はゆっくりと目を伏せる。
 祈りましょう――すべての人々の為に。
 祈りましょう――新しき旅人への祝福を。
 祈りましょう――私にギフトを捧げてくれた主に。感謝を。

 夜になれど街は未だ祭りの余韻が残っているかのようで。
 血を採取する如く、ふらりと歩き回ったクローフィは「面白くなりそうじゃん」と唇に笑み乗せた。
 只、己の欲が為に。ふらりと路地裏へと入り込めば其処から響くのは男の悲鳴が一つ。
 クスクスと女の笑い声が響く。メルトアイにとって、興味があるのは己の快楽だけだった。
 素知らぬ男と、只の通りすがりに肩をぶつけ合ったかの関係で。蹂躙し合う『恋人ごっこ』
(大規模召喚……)
 ――そんなものより、只、自分の楽しいままに。
 寂れた社に一人。赤禮は立っている。
「幕、斬り落つ。か……さて、どれ程の強者が招かれたのか……クク、実に興味深い」
 月の照らした嬉々とした笑顔。その拳に力を込めて彼はゆっくりと顔上げる。
「愉しゅうなって来おったわ」
 穏やかに降り注ぐ星々。鮮やかな空、静かな森でユタはゆっくりと目を伏せる。
 水を薄く張った銀の盆には天蓋が映しこまれユタは息を吐き出した。
「そう。遂に始まるのね。この森にも、迷い込んでくるかもしれないわ」
 ――何も変わらないかもしれないけれど。
 花を愛で、星の煌めきに心を寄り添わせながらリナラクシアは木々のざわめきに顔上げる。
「喚ぶというならば、そろそろ行かなきゃね」
 定められた未来がどのようなものか――面白そう、だから。
「其処に未来があるというならば」





 リプレイ:夏あかね
 監修:YAMIDEITEI

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