特設イベント
みんなで楽しく? 果実狩り!
●果実狩りをはじめましょう
「これで全員か。……皆、よく集まってくれた」
イレギュラーズの前に、農園の管理を担っている貴族が挨拶をする。
「見ての通り、今年も収穫に恵まれた。これだけの広さだ、我々だけでは手が足りない。
故に皆の力を借りたい、よろしく頼む。分からないことがあれば作業に従事している者に聞いてくれ」
そう告げた貴族に見送られる形で、イレギュラーズが果実狩りを始める――。
●みんなで楽しく? 果実狩り
「うーん、どれも美味しそうな果実だけど……せっかくの機会だし、あまり見ないものを食べてみたいわね」
そんな紫彪 澄音の目に止まったのは、見た目は桃色で表面に微かな穴の開いた、そしてとても誘われるような香りを放つ果実だった。
「……ん、美味しい♪ ……あれ? なんだかふわふわしていい感じに……それに身体の奥からこう、熱くなるような……」
身体の異変に気付いた時、手に持っていた果実の内部から触手のような突起物が伸びると、手を滑り胸元から中へ入ってしまう。
「ひゃう!? ちょ、そんなとこダメだって……っ」
抵抗しようとするが、うまく力が入らない。――この果実は自分を食べたものを酩酊状態にさせ、伸ばした触手で弄ぶというなんだかとってもいやらしい果実なのであった。
『……ふむ。やはりこの果実は普通の人であれば酩酊状態にさせる効果があるようだな』
「そうなの? でも、私には影響ないから大丈夫ね。……うん、美味しい」
自分の内から聞こえてくる声に応えて、ストマクス・グラが採取した果実を頬張り、笑顔を見せる。
『まあ、そうだがな。……しかしよく見つけてきたな、こんな依頼』
「とても楽しそうでしたし。いい依頼でしょう?」
『いいように使われている気もするがな』
「ものは考えようよ。さ、採取を楽しみましょう」
(こうして果実を採っていると、駆け出しの頃を思い出すなぁ……。あっ、故郷も今頃はこんな風に実りの季節かな)
セドリア・ファーイーストの脳裏に、懐かしい光景が蘇る。みんなで収穫を頑張った時のことや、名も知らぬ果実を試しに食べてひどい目にあった時のことが思い出される。
(あれから数多くの経験をした。……でもまだ世界には知らないことがたくさんある。たとえば目の前の果実がどんな味がするのか、とかね)
手に取った果実を頬張ってみれば、見た目の可愛さに反してとても辛かった。顔をしかめながら、この経験こそが楽しかったりするんだよね、と改めて思う。
「……ハッ!? な、なななんと幼女がたくさん! 此処はパラダイスでござったか!?」
なにやらあやしい果実を食べ、気を失っていた忍々 影丸が目を覚ますと、周りじゅうがようじょだらけだった。立派なロリコンである影丸はその状況に天にも昇る心地で、しかし『イエスロリコン、ノータッチ』の精神で木の陰から見守り続ける――。
なお後日、「不覚でござる! 拙者が見守り続けていた幼女は確実に19歳以上でござった!」と頭を抱えて嘆く姿が確認されたとか。
「ヒャッハー! 果物食い放題、最高じゃねぇか!」
まさに『狩り』をするかの如く、リチャード・チェンが手当たり次第に果実をもぎ取っては頬張っていく。
「俺は酒に強い、何より腹が減っている! 幻覚くらいどうってこたぁ無いぜ!」
「ふむ……果実狩りと聞いて何事かと思うたが、なるほど……これは確かに狩りとも言えるかの」
あちこちで猛威を振るう果実を見つめ、ヴェッラ・シルネスタ・ルネライトが納得するように頷く。
「果物狩りなの! 色んな果物たくさんでおいしそうなのーっ!」
焔宮 鳴が楽しそうに果物が実っている樹の下へ行き、懸命に手を伸ばすも少しだけ背が届かない。
「届かないの……」
「ほれ、そんな顔をするでない。……こうすれば届くじゃろ?」
しょんぼりとする鳴の頭を撫でて、ヴェッラが肩車する。
「わぁっ、凄く高いの! これならいっぱい取れるの! ヴェッラさん、一緒に食べよっ!」
「ふむ、そうするかの。果物の皮むきなら任せるのじゃ」
手にした果実にヴェッラがナイフを入れると、スルスルと皮が剥けていく。
「いただきまーす! ……うん、とってもおいしいの!」
満面の笑みを見せる鳴に、ヴェッラも自然と頬が綻ぶのであった。
「ふぅん……確かにあやしい感じだけど、毒じゃあ無いんだねぇ……はぁ……」
採った果実をざっと観察して、ロザリー・ダミアン・ローズが嘆息する。毒の研究になるかと思って来てみたのだが、少々当てが外れた格好だった。
「ま、せっかくだし、採れるものは採って調べていこうかね。これだけ人が居るんだ、被験者には困らないね、ヒッヒッヒッ……」
「山のことはお任せください! アタシが皆さんをご案内してみせましょう!」
普段の経験を活かし、ナ・ユリマンがグループを案内してみせると意気込む。……しかし、確かに案内はできているのだが何故かなんでもない所で転んだり穴に落ちたりと、本人は災難な感じであった。
「あっ、あの果実は美味しそうですね! 採ってみましょう!」
それでも懸命に案内を続け、見かけた柿に似た果実を採り、口に入れる。
「~~~!!」
だが物凄く渋かったらしく、顔が歪む。
「ううぅ……めげませんよ!」
目に涙を浮かべ、次の場所へと一行を案内する。
「あれは、桃……かしら?」
持ってきた図鑑と、視界の向こうに実っている果実を見比べ、ノリア・ソーリアが泳ぐようにその果実へと近付く。
「……取れましたの。陸の食べ物……なんだか不思議な気持ちがしますの」
丸いような四角いような何とも形容しがたい形の果実を、ノリアがそっと口にする。
「……あら? あらら? なんだか目の前がくらくらして……あぁ、目が回りますの……」
どうやら酩酊を引き起こす果実だったようで、その場にぱたり、と倒れてしまう。
「なあ知ってるか? 果物の種を飲み込むと、ヘソから芽が出るらしいぜ」
「ないない。種食べたら芽が出るとか、そんなの迷信やろー」
収穫した果実を頬張りながら、シレーナ・イルマーレの言葉に美面・水城が応える。
「ん? ヘソとはなんだ? ……なに? 生まれつき腹に穴が空いているだと!? ホラーか!?」
二人の会話を横で聞いていたバラード=バランシェが自分のお腹を見つめ、怯えるように身体を震わせる。
「……わ、ヘソから芽が……これはこれで自給自足できそうでいいかも……」
するとMenda・Flap・Octopusのお腹から確かに、小さな芽がぴょこん、と生えていた。
「ほら見ろ、出てきたじゃねぇか」
「大丈夫なのか!? 痛いとかないか!?」
「……えー、本当かいな……」
シレーナがどうだ、と言わんばかりに胸を張り、バラードが心配するような声をあげ、美面がウソやろと言いたげな顔をする。
「これ、いい香りがする。……うん、しゃりっとして、みずみずしい」
アシュが見つけた果実を試しに頬張ってみる。見た目には凄いものでも食べてみれば甘く、どれも美味しいのだが、アシュとしては少し物足りない感があった。
「はずれも、一つは食べてみたいかも。あるかな……」
きょろきょろと辺りを見回して、そして見つけた果実はとても可愛らしい姿をしていた。
「こういうのに毒があったりする……うぐ」
アシュの言う通り、その果実は実に辛かった。でもそれが世界だよね、とアシュは納得の表情を浮かべる。
「見たことない果実、ばかり……シュー、楽しい」
シュー・レウ・ラルトスが器用に樹を登り、実っていた果実をもぎ取り、口に入れる。しかし運がいいのか悪いのか、口にした果実は人に酔いに似た状態を引き起こすものだった。
「うー……? なんだかふらふらするー……」
まだ酔いというものを理解していないシューは、不思議な顔をしながらそれでも果実狩りを遂行するべく、次の樹へと向かっていく。
「きゃー、果物いっぱいメェ! 食べ放題とか最高メェ……」
嬉々とした表情で、黒イ 子㟄 クロッシュが近くの果実から頬張っていく。これがあくまで収穫の手伝いであることなぞいざ知らず、さらには見た目がトンデモな果実であろうと気にもせず、むしろそういうのを狙って食べているようであった。
「んんー、美味しいメェ♪ ……ハッ! リリーの悲鳴が聞こえるメェ! リリー! どこメェ!?」
声の聞こえた方角を振り向くと、うっかり見逃してしまいそうな大きさのリトル・リリーが懸命に駆けていた。そして彼女を追いかける、果実にしてはやたらとでかい球体。
「たーすーけーてー!!」
「リリー、いま助けるメェ!」
球体が押し潰す直前、クロッシュが触手を伸ばしてすくい上げ、頭上に掲げる。
「って、こっち来るメェ!?」
「クロッシュさん、逃げないと!」
「走るのは得意じゃないメェ!」
そう言いつつも器用に触手を動かして、掲げたままクロッシュは果実らしき球体から逃げる。
「こーなーいーでー!! ……ダメだ、聞いてくれないや。もっと大きな声で……せーの、あっちいけー!!」
懸命に叫ぶと、球体が急にくるり、と向きを変えて二人から遠ざかっていった。
「……はい、ツバメさん。どうぞ」
「ありがとう!」
イミル・ヨトゥン・ギンヌンガから果実を受け取った暁・ツバメが早速口に入れ、んん! と目を輝かせてメモにペンを走らせる。
「これあたり!」「らっきー」
「よかった……ツバメさんが喜んでくれるのが嬉しいよ。……じゃあ、これはどうかな」
大きな身体にしては意外なほど繊細な手つきで果実を収穫したイミルが、ツバメの口にそのうちのひと粒を入れてやる。
「これもあたり!」「イミルさんえらぶのじょうず!」
「はは、そうか。……うん、確かに美味しい。ツバメさんと食べるから……かな」
その後も二人仲睦まじく、果実を収穫しては一緒に摘んでいく。
「ここはとても素敵ですねー。どこからでも、とっても美味しそうな香りがするのですよ」
ふわふわ、と農園を散歩するかのようなフルル・リ・ロワだが、しっかりと持ったカゴの中には収穫した果実が入っており、今また手を伸ばして赤く色付いた果実をもぎ取ると、口の中に運ぶ。
「んー、美味しいのです。食べきれない分はお菓子作り用に持ち帰りたいのですよ」
「うーん、これなんてとてもいい香り。ねぇトーヤ、アンタはどう思う――ってあら?」
収穫した果実の香りにジルーシャ・グレイが微笑み、一緒に来ていた十夜 縁に感想を求めようと振り返ると、縁は少し離れた樹の影に腰を落として一服していた。
「何よ、つれないわねぇ」
ちょっと不機嫌そうな顔をして、ジルーシャが他の果実を見にいく。
「……ふぅ。こういう体力仕事は、俺みてぇなおっさんにはキツいんだがなぁ……」
煙を上らせながら、縁がやれやれ、と呟いて休憩していると、果実を前に日本刀を抜こうとしているシキが映った。
「果実狩り……なるほど……」
「っておい嬢ちゃん、その物騒な得物はしまえ。取るのは果実だ、お前さんは何を狩る気だ」
「? 狩りとはこういうものじゃないんですか?」
実に不思議、と言いたげなシキに頭を抱え、縁がジルーシャの方を示して言う。
「とにかく何も斬るんじゃない。ほら、ジルが忙しくしてるから、そっちを手伝ってやれ」
「……はい、分かりました、オーナー」
少し残念そうな顔をしつつ、シキが縁の言葉に従いジルーシャを追う。
「ジルさん、手伝いましょうか」
「あら、手伝ってくれるの? ふふ、アリガト♪ アタシの好みだけだと不安だったから嬉しいわ。ねえ、これなんてどうかしら?
そうして暫くの間、あれこれと果実を選別していた二人だが、徐々に顔がほんのり紅に染まっていく。
「……おかしいですね、なんだか意識が――え、ジルさんが二人?」
「何言ってるの、そんなわけないじゃない――あら、シキが二人に見えるわ。もしかしてこの果実が……」
ジルーシャが手に持っていた果実から、人を惑わす不思議な香りが放たれる。その香りをかいだ二人がふらふらとし始め、やがてぱたり、と地面に倒れる。
「あぁもう、何やってんだ二人とも」
嘆きつつも縁がしっかりと二人を抱え、休める場所まで連れて行った。
「なんか連れとかグループばっかりだな……ちぇ。つまんないの」
周りを見渡して、チェルニが面白く無さそうに呟く。採った果実は確かに美味しいが、どうせならひとりじゃなくて誰かと楽しみたい。
「うちも他のお人と一緒に、美味しいの食べたいわ~……」
別の場所では山神・媛丑が農園を彷徨うようにあっちへとことこ、こっちへとことこ。
「お? オイラと同じ独りのヒトはっけーん♪ なぁなぁ、オマエもヒトリか? 一緒にクダモノガリやろうぜ!」
「一緒に? 嬉しいわぁ。ぜひ!」
そんな二人の願いが一致したようで、チェルニと山神は一緒に果実狩りを楽しむこととなった。
「……え、なにこれ、羊毛?」
秋宮・史之が見つけてしまった果実。それは白くもこもことしており、触るとふわふわ、そしてほんのり温かい。
「温かい……い、生きてたりしないよね?」
呟いた秋宮の手の中で、採った果実が「メエェ」と鳴いた。
「……聞かなかったことにしよう。でも面白そうだから採っていくか」
改めてここが異世界なのだということを認識させられた秋宮であった。
「ああっ、何と愛らしいネコミミ……! 皆様がより一層輝いています!」
呼気荒く、明智 珠輝が共にやって来た者たちへ熱い視線を送る。黙っていれば自分が熱い視線を送られるようなイケメンであるのに、中身は『男女年齢問わず、全生物がストライクゾーン』という残念クオリティな彼が、果実の影響で幻覚が見えてさらに残念になっていた。
「この果実はいいですね、お土産に持って帰りましょう、ふ、ふふ……!」
仲間にもこの幸せをおすそ分けしてもらいたい一心で、珠輝が先程見つけた果実を収穫していく。
「この果実は……どうなんでしょう……わたし、覚えていた気がするのですけど……」
フェリシア=ベルトゥーロがうーん、と頭を抱えるも、何も思い出せない。周りを見て普通に食べているのを確認して、覚悟を決めてえい、と齧ってみると、視界がふらり、とし始める。
「あら? あらら……」
どうやら運悪く、酔い状態を引き起こす果実にあたってしまったようだ。フェリシアが立っていられずその場にへたり込む。
「よし、これは胸が大きくなる果実で、こっちは身長が縮む果実。この目で見たから間違いない」
エルド・リンドブロムが、効果を目で見て確認した果実を今日は来ていない仲間へのお土産として持ち帰るためカゴに入れる。
「ふふ、待っていろよ皆! お土産には期待していいぞ!」
別に悪戯をしたいわけではなく、喜ばれるはずという確信を持ちながらどんどんと果実を収穫していく。
「……いやいや、なんかアブない果実もあるみたいだけど、アタシは採らないからね? ちゃんと普通のやつ採っていくからね?」
仲間たちが見た目にも中身的にも危険な果実を収穫している様に、高鷺 侑が嘆息しつつごく普通に見える果実を手に取る。
「これ、食べていいんだっけ? ……って確認するまでもなくみんな食べてるか……えい」
齧ると豊満な果汁が口の中に溢れる。
「うん、美味しい。やっぱり普通が一番だよ」
「皆さんの分も、一杯採ってきましたよー」
猫崎・桜が皆の前に置いたカゴの中には、色とりどりの果実が溢れんばかりに詰められていた。
「じゃあボクはこれを……あっ、向こうにお風呂が見えるよ!」
果実の影響でお風呂の幻覚を見たらしい猫崎が、いきなり服をぽーん、と脱いでしまう。
「何やら危険な香りがするな。……ふっ、だが軍で鍛えられた私にかかれば、この程度」
自信に満ちた表情で、収穫された果実を齧るオクト=S=ゾディアックス。
「……ふむ。美味いな。やはり私には効果を発揮しないか――」
「あ、オクトおねえちゃんのおむねにも、おいしそーなくだものがあるぅ♪ いただきまーす♪」
その時、うっとりとした顔のメルトアイ・ザ・ベルベットムーンがオクトへ飛び込んできた。果実の影響で思考が幼児化してしまったのに加え、幻覚も見えているようでオクトの胸を果実と誤認しているようだった。……とはいえその豊満さは共通点もあるといえばあるが。
「な、何をする、やめないか――あっ、だ、ダメ、そこは……!」
瞬く間に組み敷かれたオクトが胸をまさぐられ、甘く噛みつかれ喘ぎ声をあげる。
「ボクも一緒に失礼しまーす」
さらにそこへ猫崎が乱入する形になり、オクトは完全に抜け出せない格好になってしまった。
「くっ! 私がこんなことで……ああっ、ダメぇ……」
「ああぁ、オクトさんがまた……いえ、これはオクトさんのせいなのでしょうか?」
グループの中で一人果実の影響から免れる形となったヨハン=レームが、収穫された果実を観察する。
「……どうやらこの果実が原因のようですね。興味深くもありますが、今は……」
ちら、と激しいことになっているオクトたちを見て、静かに首を振る。
「……目が覚めるのを待つしかないようですね」
「酔っ払う果物とかあるのか……まあ幾つか摘んでくかな。お姉様にも食べさせてやりたいし」
尾形 アヤメが収穫作業に勤しんでいると、自分の背後から迫る存在の気配に気付く。アヤメが振り返ると果実が動いて、アヤメに襲いかかろうとしていた。
「おっ、噂の動く果実ってやつか! いいぜ、喧嘩なら受けて立つ!」
怯えるでもなく喜々として相対するアヤメ、だが果実が動き出す前に真ん中からパックリと割れ、噴き出した果汁がアヤメを濡らしてしまう。
「流石、俺様の斬れ味は果実相手でも変わらないぜ」
斬った果実の向こうから、村裂 まきりが得物の刀を肩にかついで満足そうな顔を見せる。
「おいいきなり何すんだよ、濡れちまったじゃねーか!」
「あぁすまねぇ、それが俺様の力なんだわ。そういうわけでそこんとこシクヨロ!」
ははは、と笑って背を向けるまきりに、アヤメがぐぬぬ、と顔をしかめる。
「秋といえば果物狩りよね! 食欲の秋、運動の秋! 美味しいものが食べられて運動にもなるってサイコー!」
ギギエッタ・ゴールドムーンがご満悦といった様子で果実を収穫し、頬張る。
「うーん、美味し♪ 色んな種類のフルーツが味わえるなんてお得よね! こんな依頼ばっかりだったらイレギュラーズ万々歳だわ♪」
これが人手不足のお仕事であることを忘れたかのように、ギギエッタが秋の味覚を堪能していく。
(……柑橘系のすっぱい果実は、お寿司のネタによく似合う。特にレモンやかぼすはサーモンのために確保しておきたいのであります!)
並々ならぬ意気込みでもって、大草=T=リーンハルトが果実収穫に勤しむ。
「この収穫任務、失敗は許されません。いざ、美味しい寿司のために……推して参る!」
他の仲間に迷惑をかけず、かつ果実のなる樹を傷めないように。その心を忘れることなく、果実をもぎ取っていく。
「ふぅん、これで菓子ってのが作れるのか……。そのままでも美味いけど、菓子の味にも興味があるな……」
採った果実を手に、シェンシー・ディファイスが菓子への興味を示す。しかし興味はあっても、実際にそれを作るとなると致命的に知識が足りないのを自覚していた。
「おい農民、これで甘い菓子というのは作れたりしないのか? おれは食べてみたいんだけど料理ができないんだ。……ダメか?」
というわけで収穫作業に勤しんでいた農民に頼んでみると、作業後に作ってくれるとの回答を得た。
「そうか。……感謝する」
言葉はぶっきらぼうながら、その声色には感謝の気持ちが篭っていた。
「ふんふんふーん♪ 果物狩りってなんだかウキウキしちゃう」
星玲奈の足取りは軽く、まるでスキップしているようだった。それでいて目についた美味しそうな果実は動きの中でゲットしているという器用な面を見せる。
「美味しいわね。やっぱり美味しいものはいいわ」
たん、たん、と軽やかにステップを踏みつつ、果物を味わいながら収穫作業を行う。
「……? ……動いた」
食糧確保のためにやって来ていたオズウェル・ル・ルーの視界を、果実が横切る。一度だけでは勘違いかもしれないとしばらく目をこらしていると、やはり二度三度、果実が横切っていく。
「…………」
この世界の果実は動くらしい、そんな勘違いを――あながち間違いでもないが――抱きながら四度目に横切った果実を掴んでカゴに入れる。
「……どうやって食べよう」
今度はそれが問題であった。
「むぅ、届かない……こうなったらこれで!」
手を伸ばしても届かない果実を前に、リコリス・シンが自分の影を足場に利用してその手に掴む。
「ふふん、どうだぁ♪ うーん美味しい。こんなに食べたら眠くなっちゃうなぁ」
その後、満足したのか木陰にもたれてスヤァ、と寝息を立てるリコリスの姿があった。
「あっ、これ知ってる! ……わっ、なにこの紙!? ……これ、果実を使ったお菓子のレシピだわ!」
エリカ・ド・キュイジーヌが果実を手にすると、自分の中からその果実を使ったレシピが出現した。
「ふふっ、これって結構便利かも♪ ……あら、これはエリカの知らない果実だわ」
しかし、今度見つけた果実はエリカが触れても何も出てこなかった。エリカ自身が知らないものは出てこないようだ。
「……それじゃあ、知ってる人に教えてもらいましょう。美味しいお菓子も食べられるし一石二鳥ね!」
ここに勤めている農民であれば、お菓子の作り方を知っているかもしれない。そんな期待を胸にエリカが歩き出す。
「さて、ボクも果実狩りしようかな。個人的には可愛らしい女の子をお持ち帰りしたいところだけど……おっと」
ついつい欲望を呟いてしまったオーラティオ・アストライアが首を振って、近くにあった果実を手に取る。
「ところでこの果実はなんだろうね?」
首を傾げながらしばらく見つめ、分からなければ食べてみるしかないと決めて口にする。すると周りにオーラティア好みの可愛らしい女の子が現れ、しかも好意を持って接してきた。
「え、これはホントにお持ち帰りしちゃっていいやつ?」
突然のパラダイスにオーラティアは天にも昇る心地で状況を楽しんでいた。……なお傍から見たオーラティアは呆然としてその場に立ち尽くしていた。
「吾輩が採った果実はこれである!」
「僕の採った果実はこれだよ!」
ボルカノ=マルゴットとムスティスラーフ・バイルシュタインがそれぞれ、相手のために採ってきた果実を見せ合う。ボルガノの前にはハート型、色は目に痛いくらいのピンクで危険な香りのする果実が、そしてムスティスラーフの前にはこちらも鮮やか過ぎるほどの紅色の奇妙な形をした果実が置かれる。
「うわー、これはヤバイね! よくこんなの見つけてきたね!」
「むっちゃん殿のも凄いのである! ではせーの、でいくのである!」
二人が頷き合い、それぞれ果実を手に、せーの、で口にする。
「「うわーーー!!」」
「やりましたミアさん、金ぴかの果実です! 本当に金色に光っていてすごいです!」
マルク・シリングに肩車してもらって手にした果実に目をキラキラさせながら、ルルリア・ルルフェルルークがミア・レイフィールドに果実を預け、ミアがバッグに仕舞う。
「根こそぎ持って帰る……ジャムにして売れば大儲け……宿の赤字もなくなるの……」
「よくもまあこんなイロモノ農園を……ある意味貴族らしいけど、ね」
向こうで盛り上がっている一行を横目に、アンナ・シャルロット・ミルフィールが一人無難に安全そうな果実を選んでカゴに入れていく。
「……このくらいかしら。一旦ミアさんに預けて――?」
その時、視界を果実が横切った。何事かと振り向けばルルリアとミアがその場に倒れ、収穫した果実が散らばってしまっていた。
「何が起きたの?」
「あ、アンナさん……すみません、ルルリアさんが採った果実を頂いたところ酔いの症状が……」
多少ふらつきながらもマルクが立ち上がり、状況を説明する。ルルリアとミアはきゅう、とその場から起き上がる気配がない。
「無闇に食べるから……。二人はおぶっていくとして、果実は……どうしようもないわね」
「そうだね……持ち帰れるだけになってしまうね」
「うふふ、この子なんて見た目がとてもステキ。これならきっと味の方も……」
釈迦堂・花蓮が実に奇妙な形の果実をもぎ取り、口に入れる。
「……あら、意外と物足りない味ね。もっとパンチを効かせてくれても良いのよ?」
残念そうな顔を見せる、だが実際は十分顔がひん曲がるほどの酸っぱさである。それでも平然としているのは美少女道の嗜みであった。
「高いところに手が届くのは便利やねーっと。……おぉ? 金色に光る果実はっけーん」
自身の羽を活かして高所の果実収穫をしていた朱・夕陽の視界に、珍しい果実が入った。
「……よっと。高い所にも手が届くって便利だな。……お、あんな所に金色の果実。面白そうだな、採ってみるか」
ジューダス・セイが上空の果実に狙いを定め、肘から先を発射する。
「わぁ、腕が飛んできた? 絡まって取れないよ、誰か助けてー!」
「ああ絡まった!? おいマズイなこれは」
そうして二人の思惑が一致した結果、ジューダスの飛ばした腕が朱に絡まる事態となった。
「あらあら、これは大変。ちょっと待っててなー」
そこへたまたまやって来たうどんを加え、三人が試行錯誤しつつもなんとか絡まった腕を解いてもとに戻る。
「はぁ~助かった。助けてくれてありがとな! お礼にこれあげるで」
朱の手には、先程見つけた金色の果実があった。
「ん、これくれるん? わぁ……ありがとさまなぁ。それじゃあ、うどんからはこれ、あげるなぁ。さっき取ってな、美味しかったんよ。だからいっぱい食べてなぁ」
「おっ、すまねぇな。んじゃ早速……うん、確かにうめぇな」
ちょっとした出来事から交流を得た三人が、仲良く果実を口にする。
「うわっ美味そ……これ全部取り放題? いーじゃん!」
色とりどりの果実に目をキラキラさせ、マリネが次から次へと果実を採取していく。
「ねー見てリヴ、めっちゃ採れた! アンタは採んないの?」
「ん、いい。……リネ、楽しそうだし。見てるだけで」
振り返って尋ねてきたマリネへ、オリヴァーが微笑を浮かべて応える。
「そー? ……あっ、これも素敵……っととと、わぁ!」
高所に手を伸ばしてバランスを崩したマリネが地面に倒れる。すかさずオリヴァーが駆け寄ってマリネを起こし、マリネが狙っていた果実を手に戻ってきた。
「……採りたかったの、これ?」
「うん、ありがとー! ……どう、ちょっと楽しくなってきた?」
えへへ、と笑いながら聞いてくるマリネへ、オリヴァーは「……そうだね」と答えるのであった。
「よっしゃーまだまだ食うぜ……うぅ……」
「……はぁ、すっかり酔ってるにゃ。そのまま寝ているといいにゃ」
果実を全部食い尽くすつもりでいたものの、一つ目に食べたのが運悪く酔いを誘発する果実だったため、散々ハイテンションで暴れ回った後グロッキーになってしまった飯喰 幸奈を、マキリが欠伸をしつつ介抱する。自分たちの周りでは幸奈のように気分良くふらついている者や、またある者はあまりの苦さにのたうち回っていたりと、さながらロシアンルーレットの体だ。
「ま、自分には関係ないにゃ……」
阿鼻叫喚の中、マキリは欠伸をもう一度すると、睡眠を決め込む。
「まあ、このくらいか。……しかしよく食べたな、お腹痛くなったりしないのか?」
「馬は大食いなものでな。さて二人は……おや、眠ってしまっているな」
少し経ってから、果実を詰めたカゴをいくつも背負ったエイルーン・デューク・コールブラントと、彼女の背に乗って移動してきたAmonet・Boutellaが戻ってきた。エイルーンが足場になり、Amonetが濃厚な果実を見極めて収穫するコンビの良さで、美味しい果実を沢山収穫することができた。
「起きそうにないな。すまないが二人を私に乗せてくれないか」
「力に自信は無いのだがな……」
「シキさん聞きました? ここには動く果実が居るみたいなんです。会ってみたいと思いません?」
「うんうん、みたいみたい! ……あっ瑠璃、早速向こうに居たよ!」
シキ・ナイトアッシュの示す先を羽瀬川 瑠璃が見れば、確かにパタパタ、と走る果実の姿。
「瑠璃、行こう! あれも収穫して食べちゃおう!」
「はい、どんな味がするか楽しみですね、シキさん!」
二人頷いて、走る果実を追って飛び出していった。
「それじゃ、せーのっ」
「んーっ! 甘くてシャリシャリして、とってもおいしいですっ!」
二人で収穫した梨に似た果実を両側から頬張り、篠峰 ひまりとリオ・ムーンリバーがそれぞれ満面の笑みを見せる。
「……あれ、なんだかふわふわってしてきちゃった」
「ひまりさんもですか? 私もそうなんですぅ~」
どうやら酔いを誘発する果実だったらしく、二人してへなへなとなってしまう。
「あうぅ……ひまりひゃん……ごめんらふぁい~……」
「大丈夫だよ~、このまま寝ちゃおうか」
木陰に倒れ込んだ二人が、そのまま互いを抱いてスヤスヤと夢の中へと潜り込む。
『スタイルのよくなる果物とか、ミハルにぴったりだと思うわよ?』
「……そんな果実、ないと思いますけど……でもこの果実、なんでしょう。メロンみたいなスイカみたいな……」
脳内に響く声に応えつつ、ミハル=ディアーナが採った果実を口に入れ、咀嚼する。
「……わ」
するとそれまで平坦だった胸に、確かな膨らみができた。他の箇所もなんだか肉付きが良くなった気がする。
『あったじゃない。今のミハルも素敵だと思うわ」
「……本当にあったんですね……」
効果に驚きつつ、持ち帰るかを真剣に検討し始めるミハルであった。
「この果実は発酵させることで酒にすることができるぞ」
「ほう、そうなのか。……じゃあこれはどうだ?」
ガルズが農民から、収穫した果実の中でもオススメなものを教えられていた。
「もっと硬いものはあるか? または爆発するものとか」
「……流石にそれはないと思うぞ」
「これはなんていう果実なの? ……なるほど、そんな特徴があるんだ……」
農民から農園の果実について教えてもらっていたチャロロ・コレシピ・アシタが、書き記していたノートから顔を上げて周囲を見渡し、目についた果実を採って持ってくる。
「これはどういう果実なの?」
「あっ、それは……」
農民がマズイ、という顔をするが、時既に遅し。
「……あれ、何だか急に眠気が……」
どうやら収穫された際に眠気を催すガスを吐き出す果実だったようで、農民はサッと離れ無事だったがチャロロはもろにガスを浴びてその場にへたり込んでしまった。
「ふぅ。これで一通り、収穫できました」
ミーチェ=クリエルトがカゴを地面に置き、一息つく。そしてそれまでのおっとりとした態度から、獣の顔になって目をつけていた果実を採ると、あっという間に食べ尽くしてしまう。
「食べたくてたまりませんでしたわぁ。……はっ、あちらに見えるのは巨大な果実!? 行きませんと!」
新たな目標を定めたミーチェが豊満になった胸と尻を震わせ、向かっていった。
「やっぱり果物は甘くて美味しいですね。……あ、これも美味しそうです」
アイリス・アニェラ・クラリッサが見つけた果実をもぎ取る。しかし口に運ばず握ったままでいると、いつの間にか果実は無くなっていた。
「ごちそうさまです。次はあれを食べてみましょう」
手のひらから種がコロリ、と落ちた。彼女は両の手のひらにも口があり、ものを食べるのは主にそちらで行っていたのだ。手のひらで食べる光景はヒトから見れば奇妙に映るが、ここは多種多様な人種が集まる世界、アイリスもそのうちの一つというだけのことに過ぎないのでそう変に思われることはなかった。
「柿に似た果実を焼くと風味と甘さが増し、皮はパリッと中はトロッと美味しくなる……ですか! 分かりました、早速試してみます!」
ご神託を受けたピュティア・デルポイ・オリュンポスが半ば取りつかれたように、柿に似た果実を探し始める――。
「あははは~~……なんだか……ふわふわとせかいがまわってます!」
そして食べたところ、確かに美味しかったのだが同時に盛大に酔っ払ってしまった。どうやら熱すると酔いの効果が強まるらしい。「なんか暑くなってきちゃったな~~……ぐぅ」
そして衣服に手をかけた所で、しかし力尽きたようにこてん、と地面に寝転がって寝息を立て始めた。
「はぁ……どの果実もとても素敵。まるで宝石のようにキラキラ輝いて……」
嶺渡・蘇芳の視界に映る果実たちは、彼女の言うようにまさに宝石だった。そして彼女はすぐに、それらを調理したら、という仮定が生まれる。煮た場合は? 焼いた場合は? 生の場合は? ……それらがとめどなく頭の中を流れる。
「あぁ、早く料理したいわー」
収穫が終わったらおすそ分けをもらって早速料理を、と思うのであった。
「うぅん、こっちの果実酒もなかなか、悪くないねぇ」
試しにと提供された果実酒を飲み干し、シルヴィア・テスタメントが上機嫌で収穫作業を手伝う。
「果物を食い歩きながら酒も飲める、実に贅沢だねぇ、アッハッハ」
酒の酔いに加え果実の酔いも相まってすっかり出来上がったシルヴィアだが、肝心の収穫作業自体はそれなりにこなしていたりするのであった。
「っしゃァ! どうせなら一番多く収穫してやんぜぇ!」
そんな気合十分といった様子で収穫作業に取り組み始めた金居・交牙だが、たまたまなのか意図的なのか、手にした果実がどれもこれも動き始める。
「っと、この! 果実如きが調子に乗るんじゃねぇ!」
そうなるとつい力んでしまい、手の中で果実が粉々に砕けてしまう。そんなわけで遅々として収穫作業が進まないのだが、これはこれで本人も楽しんでいるようであった。
「よっ、と。逃げようったってそうはいかないよ」
通り過ぎようとした果実をその手に掴み、ヨルムンガンドが口に放り入れふぅ、と息を吐く。
「向こうからやって来てくれるなんて都合がいいなぁ。それに果物ってこんなに美味しかったんだ」
酔いの効果でうっとりとしながら、果物の美味しさを改めて理解したのであった。
「好きなだけ食べていいなんて、ふとっぱら☆ よーし、全制覇目指しちゃおー!」
喜々として、クルリが手当たり次第に果実を採っては食べていく。それが動いていようがお構いなし、尻尾を使ってぷす、と突き刺し捕まえる。
「随分活きがいいね、もしかしたらお肉の味がするかも? いただきまーす☆」
そのいたいけな少女の外見からは驚くべき食べっぷりに、見た目に騙されてはいけないということを強く感じさせるのであった。
「うぅむ、どれが桃か分からんのぅ……とりあえずそれっぽいのを採ってはみたが……」
金糸・ももの前には桃に似た果実がいくつか置かれていた。その内の一つを手に取り、齧ってみると確かに甘いが、桃とは違うような気がした。
「うぐ、これは非常に辛いのぅ。これは……うむ、味はそうじゃが見た目がのぅ」
なかなかお目当ての桃が見つからず、嘆きの息を吐く。
「……いや、諦めんぞももは。あまり変な桃ばかりではイメージに関わるからの」
気を取り直し、理想の桃を探して農園内を探し回る。
周りの様子を見て、葛西・城士は果たして大丈夫なのだろうか、と不安な気持ちになる。
(幻覚症状や酔い……いや、毒ではないがそれは大丈夫なのか? 中毒症状とかあったらシャレにならないぞ)
この世界に詳しくない彼はそこまで分からないが、大事になってからでは遅い。
(……危ない状況であれば助けに入ろう)
そう決め、何があってもいいように備えながら収穫作業に勤しむ。
「これは俺の見たことない果物だな。幻覚作用があると聞くが、育てるのに資格などが必要なのか?」
「そういうのはないねぇ。ただどこの農園も上の監視の目があるから、個人ならともかくちょっと大掛かりにやればすぐに目をつけられると思うよ」
「なるほど、そういうものか」
農園の農民から果実についての説明を受けたオーカー・C・ウォーカーが納得したように頷いた。
「……これ、収穫しちゃっていいのかなぁ……うーん、農園にあったんだし、大丈夫かな?」
手にした果実――さっきまでちょこまか動き回っていた――を見やって、アルバート・サン・ダームスが判断を丸投げし、水の入った桶に入れ、そこに自分の手を差し入れる。
「こうしておけば冷えるよね。あ、他の人もよかったらどうぞ。混ざっても責任は取れないけど」
「……え? 今これ、動かなかった?」
自分の手の中の果実がもぞもぞ、と動いたような気がして、サリカがじっと果実を見つめるもぴたりと動かない。
「……味には関係ない、はず。うん」
自分に言い聞かせるように呟いて、果実を口にする。ちょっとあったかいのが不思議だったが、味はとてもよかった。
「ちょっとお酒の香りがするのが欲しいですね……あっ、これちょうどピッタリです」
フルーツタルトに使う果実を探していた飯塚 瑞希が手頃なのを見つけ、いくつか試食を行う。
「あれれ~、気持ちよくなってきちゃいました。食べ過ぎちゃいましたかね~」
ふにゃんとした表情になりながら、見つけた果実を持ち帰るべくカゴに入れる。
「ほう、これほど美味な果実があったとは。持ち帰って家の者に菓子でも作らせよう」
採った果実を試食し、珀 芙遥が満足気に微笑む。
「ここにも実があるな、それ――おぉ?」
目にした果実を採ろうと手を伸ばせば、果実が突然動き出し手を逃れる。
「この、このっ! 果実の分際で、私を愚弄するか……!」
ムキになって採ろうとするも、なかなか捕まえられない。ようやく捕まえた頃には息も絶え絶えになってしまった。
「おぉ……見たことあるのもないのも沢山っス。折角だから数より種類重視、で採っていくっスか」
日向 葵が目についた果実を少量ずつ収穫していく。
「やることないよりはマシ、って思ってたっスけど、やってみると案外面白いっスね」
こっちの食事情を知る機会にもなって、参加してよかったかな、と思うのであった。
●果実狩りは無事終了……?
そして日が沈み、果実狩りの終了を告げる合図が農園に響き渡る。
「……予想したより収穫量が少ないようだが……まぁいい。後はこちらで調整しよう」
貴族が訝しげな視線をイレギュラーズへ向けるが、すぐに表情を改める。
「ご苦労だった。また機会があれば、よろしく頼む」
労いの言葉を合図に、解散となったのであった――。
writing:猫宮烈