PandoraPartyProject

特設イベント

スクランブルハロウィン!

●ベリィストレインジストリィト
 花で飾られたアーチを門として、その一道に顔を覗かせれば、雑踏と評して過分のない景色が出迎えてくれるだろう。
 所狭しと並ぶ大小の祭屋台に国や風土、世界といった偏りはまるで見られず、故郷のファーストフードを販売しているその横で、見たこともない色の仮面が並べられている。その正面ではクジを外した男性が、もう一度引くか否かと財布の中を睨みつけていた。
 内部に穴の空いた筺体(後で聞いたが、ラッキーボールと言うらしい。ビンゴというゲームの亜種だそうだ)で遊ぶべく、獣人の少年が店主に小銭を差し出している。
 あの白くふわふわした雲のような菓子はなんだろう。鳥羽の耳をした女性が美味そうに口にしているが、その隣の牛頭の男はまだ警戒しているのだろう。手にしたそれを回してあらゆる角度からねめつけていた。
 懐かしさと目新しさが織り交ぜられた混沌の空間。未知の世界に踏み込んでもいいし、少しだけホームシックに悩まされてもいい。
 活気という目に見えない圧が、どこか心地よさを伴って胸を押さえつける。期待、高揚、わくわく感。思わず走りそうになる脚を押さえつけて、まずはどれからと、ゆっくりあたりを見渡した。
「ハンマーコングやりたいです~!」
 機械腕を差し出すルトラカルテに木槌が手渡された。
「私、力にはちょっと自信あります」
 胸を張り、大上段に振りかぶる。一転、集中。野次馬から拍手が飛んだ。
 スギの装いたる、小柄なオークはとても目につく。
 屋台を練り歩けば、会場はあちらですよと促されたものだが、どこ吹く風。
 臭気を漂うわせた緑の風体は、これも花より男子というのだろうか。いやに毒々しいが。
 これが何の料理かと客に問われれば、タコ焼きというのだと忍は答えた。
 訝しげな顔をされる。名前そのままからは想像できないのだろう。だが、鰹節の踊るそれをおっかなびっくり口にした彼らの顔は、とても満足げだった。
 怪しい店も山とあるが、中でも未確地図屋は狛の興味を引いた。
 どの街も、どの山も、どの海も、まるで聞いたことが無い。なんとも眉唾で、鼻で笑うべきかと思えば作りだけは確かなのだ。
 構わない。買って辿れば分かることだ。
 エルフ耳の鳥頭というカイトの出で立ちは、なんだかミスマッチでとても今日の祭りらしい。
 鏃のないそれが飛び、何度目かには景品を撃ち落とす。手持ちベルが打ち鳴らされ、店主が笑顔でぬいぐるみを差し出していた。
 「いやー、こっちの世界でもハロウィンのお祭りが出来るなんて思って無かったわ。お菓子も美味し♪」
 いかにもコスチューム然とした猫人の手足を身に着けた白紅。
 近くでベルの音。
「お、あの屋台は……射的だ!」
 思わぬ仮装を見つけ、モモカは一瞬、ぎょっと立ち止まる。
 しかし、こんなのもあるのだろうと思い直し、飴の入った袋を差し出した。
「まぁ、アンタもトリックオアトリートだ!」
 目を輝かせながら、互いに決まり文句を交わすのだ。
 風土、の一言では受け入れがたい品々を、シャルロットは喜々として買い付けていた。
「んー。此れは良い小麦粉なの」
 相場よりも遥かに高額を手渡しながら。それが本当に、言葉通りであるかは知りたくもあるまい。
 想像としてポピュラーな、山羊の悪魔を模した被り物をしたマカライトが、屋台で小銭を支払い受け取ったホットドッグにかぶりついていた。
 こういったイベントで仲の良い者同士が待ち合わせることは珍しくないが、これだけ集まれば少々手狭ではある。
 そのせいか、ふらりとココの足にぶつかった少年がいた。見上げられ、緊張の面持ちが露わになる。
 それを微笑ましく思い、「はいどうぞ、お姉ちゃんに悪戯しないでにゃ?」と菓子袋を手渡した。
 少年は礼を言い、立ち去ろうとしたところで固まった。吸血鬼の格好をしたリゲルがいたからだ。
 だが、手渡された飴玉に表情が変わる。それは彼の力により、真昼に見た星かと、輝いていた。
 走り去る少年を見守る彼の横からぬっと、白いものが現れた。見やれば、ポテトが一口かじったそれを差し出している。
「わたあめって初めて食べるけど、面白い触感だねー」
 雲のようだと思う視界の隅を、彼の鎧を着た修一郎が通り過ぎた。
「では参りましょうか、私だけのお姫様?」
 仲間達とは少し離れて、格好が格好だと少し気障に振る舞ってみる。
 差し出された手を、白衣装の麗が顔を赤くしながら繋いだのだから、成功ということなのだろう。
 仲間達の前では到底できたものではないが。
 微笑ましい彼らから目を離すと、逆に何も見えないものが目についた。リュスラスが何かを擦り切っていることは理解できるのだが、それが何であるのかがわからない。
 笑顔で手を振られたが、振り返すだけで詮索などできなかった。
 大柄なクリスがシーツにくるまると、まるでお化けの親玉のようだった。
 子供らにお菓子を渡し、こういうのも楽しいものだと振り返るが、そこに見知った仲間はいなかった。
「あれ、迷子になった……?」
 途方に暮れる。しかし、仲間は見回すより遠く、泣かせた子供をあやしているところだった。
「ニクセ、そんな顔で見んなよ! 最後は笑ってたろ!」
 どうにか機嫌を取り、ボルツがバツの悪そうにニクセへとぼやいた。
 当のニクセは、どこか落ち着かないと奇妙な祭の風景をぐるりと―――そこで気づいた。
「……ねえボルツ、クリスは何処?」
 頭一つ分目立つはずの白い塊は、一体どこへ行ったのか。

●スティンキングアンドヒュウジ
 コンテスト、というからには何かの優劣を決めるわけだ。
 美男、美女、衣装の細かさ、仕込まれたギミック、芸事の匠。
 それらの中でも異彩を放つと言えばこれだろう。
『誰が一番汚いオークコンテスト』なんぞと書かれた貧相な看板。
 むしろオーク系統の種族から苦情は来なかったのだろうか。
 疑問を他所に、それでも祭の空気がそうさせるのか、場内は異様な盛り上がりを見せていた。
 たぶん、きっと。
「……んなっ、なんじゃと!?」
 樹人種に仮装した参加者が失格扱いを受けた事実に、世界樹は崩れ落ちた。
 オーク違いである。
「まさか樹木の生物は参加出来んとは………ぐぬぬっ」
 中身は、ええんやで?
 臭いとか。目に入れたくないとか。いや、ちょっとイケメンじゃねとか。木だよね彼とか。
 審査員から飛んでくる評価は普段なら受け入れがたいものだったが、ことここに及んでは逆であり、クレイスもそれに倣っていた。
 その横で、「信じらんねえ!」とか。「無理!」とか。カモメがオーバーリアクションで拒否反応を起こしている。コンテストそのものが、彼の美意識の真逆であるのだろう。
 誰かが音量を測定し始めた。大きいほど、審査は高得点。
 モノマネ大会に本人が出場した場合、それはありだろうか。
 審査員からゴリョウへの評価は概ねそういうものだった。
 見事な豚鼻。なんと突き出たお腹。完璧だ。これぞオーク。
 本物だもんよ。

●フロムウィンドウザデイタイム
 太陽が落ちていく。
 それは夜を迎えるという合図だ。
 だが、明るい内はまだまだ昼の顔をしていよう。
 まだまだ祭は終わらない。
 シーツを被ったノアルカイムが、どんどんお菓子を配っていく。
 トリック・オア・トリート。トリック・オア・トリート。
「どんどんきなさーい、どんどん……あれ、お菓子が足りない。この場合どうなるの!」
 セルウスもまた、人群に混ざり菓子を配っていた。
「ほーら、トリックオアトリートにゃん。飴ちゃんやるからお菓子くれなきゃ色んな意味で悪戯するわん。何なら現ナマでもいいゾウ」
 混ざってる混ざってる。
 ずどんと、シーツに包まった何かが落ちてきた。
 自分の痛みはなんのその、シーツお化けのリィンがチョコの包みを差し出してくる。どうやら、まだ貰っていない人を探していたようで。
「異国のお祭りも良いよね。お菓子貰えるし」
 白い箱になったブラックボックス。なんだこの違和感。
 使役する霧を纏い、目新しいのか、金魚すくいの前で足を止めた。
「初めて聞くけど、これを上から叩きつければ……とれないな」
 やめろ、仕留めようとするんじゃない。
「ふふふ……この世界をどう征服してやろうと思ったが。ほぅ……いるではないか余の配下にふさわしい魔物共が。こいつらを使って―――」
 仮装集団を勘違いした龍丹悪。普段着なので係員に仮装グッズを渡されている。
「ここで他の特異運命座標を探って来いと言われたけれど……」
 ティラミスの肩が叩かれ、振り向くとお菓子を手渡された。
「は……? ト、トリックオア、トリート……」
 ぽかんとしながら、交換。
「なんだったの……?」
「不肖エリザベス、参加させて頂きます。仮装は―――」
 やめろ、版権を口にするんじゃない。
「皆様のご様子を拝見してデータを収集しておりますが、ルールとの事ですので持参致しました。銘菓「ずんだ餅」でございます」
「ったく夏の次は秋ですかい? 英雄様方はお忙しいこって……」
 ぶつぶつと文句を垂れながら石畳に絵を描いていくイリシア。どうやら、祭が始るまでに間に合わなかったようで。
「いつもよりこき使ってきやがるし、うぅ……」
 小型屋台に自作の胡麻団子を大量に詰め込んだ風蘭と、それに乗り、祭で配るべくであろうにぱくついている紫乃。
「ハロウィンイベントで配布するのが団子ってどこのソシャゲか、とか思ってしまうのは紫乃だけではないはずなの」
「配布ってか、交換用アル。紫乃ちゃんもそればっか食べてたら飽きるだろうから、交換してくるヨロシ」
 仮装をしたナイトが、引き連れたひとりに向かい、
「トリック・オア・トリート。お菓子くれないと悪戯するよ……?」
 と言うと。
 それを言われた狐独は、
「いやー、手持ちにお菓子ないし、悪戯されてまうわー。どないしよなー」
 と、ややわざとらしげに返してみせた。
「トリック・オア・トリート!!」
 二人同時に聞こえる声。優姫と優華の両名が、返事を聞く前に抱きついていた。

●ストロングドリンクオンザリップス
 提灯で、ランプで、蛍光灯で。
 夜を照らすものすら統一性はなく。
 人数は変わらない、そこに居る誰かが入れ替わったわけでもない。
 それでも、この不可思議な格好に、ごちゃまぜのお祭に、その時間は確かに別の彩りを付加してく。
「『ラジオは』『売ってない?』」
 多分無いのだろうなと、ズットッド。
 あるにはあるかもしれないが、自分の見知ったものと同じ形状とは限らない。
 だから代わりに酒を手に取った。
 紫の煮立ったカクテルを。
 ブラキウムから聞こえてくるのは、ふたつの声だ。
「『買う側になると生き生きとするな……』」
「そりゃぁな、零よりも壱がいいだろう?」
「『予算内で行動するように』」
「まぁ、見てるだけでもそれなりにゃ満たされるか」
 屋台で購入した軽食を済ませると、シトキは画材を取り出し始めた。
 視線は行列の方へ。ごった煮な仮装の群を。
「あの人の仮装は素敵ですね。何の仮装なんでしょう?」
 興味は尽きず、筆が踊る。
「楽しい雰囲気にお酒は付き物だよねー!」
 まだ見たことのない酒はないものかと、屋台を物色する藤。
 ついには手に取った杯に、粘質の酒をなみなみと注がれ、
「……怖いもの見たさって、あるよね!」
 海賊焼きラビアンローズ。
 メアリの経営するその屋台で、アルコールが並べられているのは、従業員に成人が混ざっているためだろう。
 無論、彼女自身は口にしていない。
 客から小銭を受取り、注文を繰り返した。
「いらっしゃいませー! ビールとおともにおつまみはいかがですかー!」
 曲水の屋台には黄色肌の人種が多いように見られた。そう言った売り屋に何か思い入れがあるのだろう。
 金色の酒を、ジョッキになみなみ。
「トリック・オア・トリート!! なぁ~んてな! ほれ、お菓子。歯磨けよ!」」
 脅かした子供に菓子を渡し、ユウヒは言う。
「これ、普段となんもかわってねぇんじゃねぇのかね?」
 騒ぎたい口実、そういうのでもいいのだろう。
「祭りの死神とは、オレの事だ! 近くで見るがいいショコラ、オレの祭り技を!」
 金魚すくいの水槽を前にしゃがみ、クロバは肩にくっついたショコラに言った。
 死神だと、台無しにしそうな異名だがいいのだろうか。
「クロバ、わたしもやってみたい!」
 返すものの、自分のサイズでは難しいだろうと考えていた。
 店主が合わせたサイズのポイと、極小種の水槽を出すまでは。

●エクストラオンパレイド
 嗚呼、百鬼が如く。
 彼らは練り歩く。
 各々の格好で、それぞれの衣装で。
 嗚呼、百鬼が如く。
 どこまでではなく、どこまででもなく。
 紅下自身よりも、彼女のまわりの骨腕らが、彼女をより百鬼たらしめていた。
「『と』『ォ』『りヤ』『ン』『セ』『きィ』」
 ふらふらと歩いているだけではあるが、それがより、不可解さを呼び込んで恐ろしい。
 名が体を表すというのならば、フェスタほど祭の場に相応しいそれはないだろう。
「別にお祭りの申し子なんて事はないけれど、楽しい事は大好きだよ♪」
 継ぎ接ぎだらけのボロ生地をかぶり、いざ夜行の列へ。
 行列に混ざりながら、縁はやれ白い発泡酒を見つけては一杯、やれ黒い蜂蜜酒を見つけては一杯と、相当な量を飲んでいた。
 アルコールに強いのか、妙な行動を取りはしないが、その体躯での飲酒は、少し目立つようだ。
「もしかしたら、ほんとうのおばけのかたとも友達になれるかも知れせんネ」
 リュカシスは並んだ一行を振り返る。
 天使の羽の獅子人。鉄仮面の水種。マントを羽織った妖精。
 もしかしたと思う。そうであれば楽しいと。
「わたくしそちらの催しは初めてですわ!」
 自立したぬいぐるみを引き連れて、魔女の格好をしたウィーラが行列に混じっている。
 それが子供らにはウケたようで、近づいてくる彼らに星型のチョコレートを手渡していた。
「はは、成程、混沌だな。ああ、其れは良い、とても面白い」
 シエロの前を、仮装の行列が通り過ぎる。混ざりあったまま溶けない珈琲のような混沌。
 加わることはせず、それをただ愉快と眺めている。
 クルィーロの配るお菓子は少し悪趣味だ。
 虫の形をしていたり、人のどこかを模していたり。
 明かりがあるとは言え、本物のように見えてしまうこともあるだろう。
「さぁ、キミも一ついかがかなぁ!?」
 トリック・オア・トリート。トリック・オア・トリート。
 目と口に穴を開けたシーツをかぶり、アクセルは誰かれ構わずその決まった掛け声を投げていた。
 お菓子は減らない。あげたぶんだけ、もらうのだから。
「……お、なんだアンタが最後尾かい? しっかし随分賑やかだねぇ」
 ネグロは一番後ろにたどり着くと、行列に加わった。
 どこへ行くともなく、どこまをと言うでもなく。
 ふと振り返る。
 この後ろに。誰かが。
 魔女の衣装に身を包んだアルーシャの興奮はやまない。
 あらゆる世界のごちゃ混ぜは、どこに行ったって見られないものなのだから。
「未知! 未知! 未知! 見たことない姿がたくさん!」
 べろんべろんにできあがったアウローラが綾歌にしなだれかかる。酒気臭さに思わず顔をしかめた。
「綾歌さまぁ~、魔法をかけてさしあげますわぁ~」
「えろーなさんはなんでそんなに酔っぱらってるですか、飲みすぎなの」
「そうですわぁ、綾歌さまにも衣装を用意しましたのぉ。気に入って頂けると嬉しいのですけどぉ……」
 取り出されたバニースーツに、一瞬そんな自分を想像し、
「……着ないのです」
 とりあえず酔っ払いの首を絞めた。
「トリック……オア、トリート。お菓子をくれなきゃ、仲間にするぞ……」
 吸血鬼然としたノアが出した声に、振り向いた某が小袋を取り出した。
 同じく、トリック・オア・トリートと返しながら差し出される。
 その後ろから、
「こけこっこー……とりっくあんどとりーと。お菓子くれても悪戯するよ……zzz」
 脅かせたいのか、眠気が勝ったのか。
 そのまま船を漕ぎ始めたシオンの懐にもまたそっと、菓子の入った袋が渡された。
「さて、お菓子はあげますので、良ければ血を吸わせて頂けませんか? なんて、冗談ですよ、ええ」
 からかい混じり、アデレードのそれでややたじろいだ通行人にくすりとしつつ、仲間を振り返った。
「さあ、トリックオアトリート!」
 魔女の格好をした除夜が寄ってきた子供たちに籠いっぱいのお菓子を振舞っている。祭の趣旨を聞いて、あれだけを集めたのだろう。
「サウィン、サウィンかあ。此処に来てもう2か月になるんだ……」
 その横で、アムネカが青い顔をしていた。
「人助けだと思ってもらってくれない? 煙草より重いものはもたないんだよ」
 震える手を伸ばしてそう言われれば、受け取る以外の選択肢はない。
「衣装に菓子? 桔梗に作らせたぜ! よくできてるだろ!」
 と、桔梗の方で血塗れメイクのブラックキャップが嘯いた。仲間の方に首を向け、
「お嬢様も少年もよくお似合いじゃねえか! ケケケ!」
 それに対し、そうでしょうと返すルルクリィ。
 ふと、目についた祭の参加客を呼び止めた。
「さて……トリックオアトリート。私のオススメは前者だけれど、あなたはどちらを望むのかしら?」
 その横に、ローリエも続く。格好は、カボチャをくり抜いた被り物にマント。いわゆるジャコランタン。持参した手作りクッキーを振舞っていた。
「喜んでもらえると良いのですが……」
 シルエットで女性と分かる、ボロボロの袋。
 拷問されているヒトにしか見えない命にも、まあそういう仮装なのだろうとおっかなびっくり声がかけられる。
「お菓子の交換……どうしよ、この食べかけのパンでもいいかしら。ダメ?」
 しかし、珍妙と呼ぶにはそればかりではなく、木に括り付けられ、人形に運ばれるクラカにしてもそうだった。
 本人は異界の物語に登場する生きたカカシのつもりかもしれないが、何かの生贄に見える。
「いや、何もしてねぇのにお菓子貰うんだが……」
 ぼやくヘルマンだったが、スケルトン種にしか見えない外観をしているのだから、無理もない。
「……いや、ヘルマンの旦那だけはわかりやすいな。つか何やってんだあいつ」
 誰が誰やらと見渡していたパーセルだったが、全身骨というこの上ない個性は嫌でも目につくのだろう。
 がおーとポーズを取った人狼風のヴァルディアにお菓子をあげて、後に声をかけた。
「オデット、取り残されてはぐれんなよ」
「ふふん、私がはぐれたりするわけないでしょ? クラカが目立つし」
 オデットの言うように、確かに生贄台、ノー、カカシは目印にしやすいが、それでもあれこれと目移りしていれば、
「……あれ? みんなは? ちょっと待って置いていかないでぇ!!!」
 まあ、こうもなる。
「私は今までこういった行事には出たことが無かったけれども、皆となら楽しそうだね」
 とんがり帽子をかぶって、エクリアが言う。
「この世界じゃ魔女だなんて珍しいものではないだろうけど、普段しない恰好っていうのは中々に新鮮だよね」
「トリックオアトリート!! お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうのです!」
 翼の腕、鳥の足。サーシャの格好はハーピィ系統のものだろう。残念ながらその格好では自分の手が使えない為、仲間の手で菓子を食べさせてもらっていた。
「ひゃーはーいたずらするぜー!」
 黒い包帯姿で若い女性に迫るスティーブン。事案だろうか。案件だろうか。
 シスターの格好をしたベアトリクスが、演出なのだろう、一行の周囲に宙空に南瓜や火の玉を浮かべている。
 触れても熱くはないだろうか、不思議そうに見上げる子供を見つけ、クッキー入りの小袋を手渡していた。
 南瓜男に扮した零が、菓子への返礼にフランスパンを差し出している。
 不思議そうな顔をされるが、切実な返答を受ければ納得せざるを得ない。
「すまんな、菓子代が無かった……!」
「怨めしや……ふふふ、面白い祭り、ですね。百物語の登場人物になったような気分です」
 白装束を、どこか重たげに陰鬱に揺らしながら歩く成練は、どこかリアル感がある。声をかけるのが、やや躊躇われるほどには。
 なんというか、ちょっと趣旨が違う二人組がいた。
 片方はデスレイン。スク水で猫耳である。
 もう片方はレイン。白いスク水で白い猫耳である。
 仮装でいいのだろうか。
「でいあ・で・むえるとす、つまり死者の日。先代の王たちもここに来てるでゴザルかね」
「勇者たちよ、魔王達のお通りだー!! 今宵はこの魔王の姿を見て楽しむがいい!」
「って、レイン殿その服装!? はしたないでゴザルよ!!」
 一緒だよ。
 どこかアンバランスな格好のジルが、ウェアウルフを真似て吠えた。
 これでも精一杯強く見えるようにしているが、どうやら、
「ほほほ本物が交じってるっすギャーっす!」
 リアル志向には耐性がないようで。
「いくぞものども! はんげきのときである!」
 大きめの毛玉をまとってボリュームを増やし、王冠をかぶったもこが行く。
 何に。
 あ、子供の悪戯で転がされた。
「あ、あ、この恰好動けない。誰かたしけてー」
『もこもこ!』
 慌ててシルシィが駆け寄り、もうちょっと転がしてまっすぐにさせようとする。
 毛玉かぶったからね。跳ねられないんだね。
「狼、の、仮装……では、駄目なのか」
 リボンを付けられたことにヨキが不平を漏らした。
「そんな手抜きあかん、それやったらうちも人魚のままでええやん」
 背上のクーに窘められる。
「でも。怖がられるかも、とか、考えなくて良い、のは、いい」
 そう言って、自身の接触を恐れぬヨキにやや膨れつつも、揺れて進む狼の上は何だか楽しくて。
 その背に少しだけ、身を沈ませた。
「わー、レンジーくんかっこいい仮装凄いねー」
 マウにそう言われると、
「マウもとっても可愛いよ!」
 と返すレンジーだったが、マウの仮装はカモメである。
 両手に翼をつけ、くちばしも装着しているため、お菓子を受け取れず、食べることも出来ないのだ。
 ペリカンではダメだったのだろうか。
「じゃあ、リゼシェの所に行こうか」と、へたれこんだマウを連れてレンジーは移動する。
「レンジーはともかくマウの仮装は変わっとるのう~」
 合流したリザジェが率直な感想を述べた。
 しかし、その本人も麻袋を被ったもので、
「え~と~これはな~……おばけ。そう、粉袋のおばけの仮装なのじゃ~」
 輸送豆の恨みでも詰まっているのだろうか。
「くくく……どうだ! 我の完璧なる仮装は!」
 そう言い、白い布に目の穴を開けただけのそれを見せびらかすホロウ。この会場でもう何人見たことだろうか。
「祭りというのは派手にやらんといかん! どうだ! これを見るがいい!」
「ホロウさんは……随分とお菓子を用意しましたね」
 仲間のメドが呆れる程に積み上げられた山のようなお菓子。
 夜ももう遅やとなろうに、配りきれていないということはそういうことなのだろう。
 しばらくの三食は固定されそうだ。
 その後を、魔女帽子をかぶったすらりーぬが追いかける。
 咥えた杖を振り回し、魔法を唱えるのだ。
「すら~♪(『私の今の魔法は極大火炎球ではない、ただの火球だ。』ですわ)」

●フロムウィンドウザファイナルカーテン
 さあ、明日が来る。
 正しく言えば、夜闇の内に明日は迎えているのだが。
 それでも、この光を持って明日と呼ぼう。
「はっろういいいいん!! お祭り大好き!! 思いっきり楽しんじゃうよ!」
 風詩美の声が響き渡る。まだまだ祭は盛況で、終わらすには勿体無いとばかりに。
「とりっくおあとりーと! お菓子ちょーだいっ!」
 ぬいぐるみのような少女と、正真正銘のぬいぐるみが連れたって歩いていた。
「仮装はフランケンシュタインにしてみたんらよっ! こわいこわいな感じでてるかなん?」
 そう言って胸を張るプティに、ラズが柏手を叩く。
「わ、ププくん本格的でカッコいい……!」
 血糊に思わずどきどきしてしまう。
「さっそく、ププくんにトリックオアトリートです♪」
「トリックオアトリート! ラヴしゃんにあげるのらっ!」
 その微笑ましい光景の後で恐縮だが。
 子供にクッキーを与え、共に歩く聖職者。といえば聞こえは良いものの、ムドニスカとなれば話は別だろう。
 純粋に怖い。攫うつもりじゃなかろうか。そんな視線が刺さるが、本人はどこ吹く風よ。

 さあ、朝日が登る。
 馬鹿騒ぎも終いよとばかりに、女神が顔を出す。
 光に照らされ、闇が失われ、あるいは浮き彫りになって。
 去年は楽しかったといえるように。
 来年も楽しみだといえるように。
 だから明日はやってくる。

 了。



 writing:yakigote

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