PandoraPartyProject

特設イベント

ギルドワンデイズ

●みんな海の子、『Aquarium』
「よろしくー、よろしくぅー! Aquariumをよろしくねー!」
 長い黒髪を靡かせて、ディープシーの燕黒 姫喬が歩いて行く。チラシを一枚一枚配りのようだ。
「あっと、記録係の人? 話はきいてるよ、入って入って。それと……珍しいものがあったら、あとで教えてね」
 通された先は、ディープシーだらけの渚だった。
 ギルドオーナーのノリア・ソーリアがふわふわと空中を泳いでやってくる。
「いらっしゃいませ。ここは陸になれないディープシーの皆様を応援したくて作ったギルドですの。施設はほとんど水の中ですので、呼吸が必要な方にはお見せしにくいのが残念ですけれど……」
 綺麗な貝殻が沢山落ちた砂浜ではトドもとい北斗が転がっていた。
「おいらは泳ぐのが好きなんですよぅ。こんなナリだし、部屋はプールになってるんですよぅ。折角ですから、ギルドを案内しますよぅ」
 広い海の中にはaquariumギルドの施設が並んでる。
 なかにはアシカ人魚ナ・ユリマンの姿があった。
「いらっしゃい。ここの内装はギルドの一人一人が変えていいルールなんです。私が飾ったのはこれなんです!」
 玄関のはしに飾られたアヌビス・ナナを指さして笑うナ・ユリマン。
 その先では、Menda・Flap・Octopusが優雅にくつろいでいた。
「ここは皆でお話する所なのです。海の中ですから、ディープシーやそれに似たウォーカーだけの場所なのですよ」
 Mendaは海中用カメラで撮影すると、小さく手を振った。
「今度皆でバーベキューをするんです。ディープシーの皆さんも、興味があったら寄ってみてくださいね」

●ギルドいろいろ
 この世界には数々のギルドが存在する。その目的や形状、雰囲気や顔ぶれまで多種多様だ。
 ローレットに集まったギルドオーナーたちの話を聞いてみよう。
 こちらは『武器庫【SERENA】』のオーナー、シルフィア・カレード。
「アタシは倉庫を借りて武器を揃えてる。魔術師として戦場に赴くにも、あの頃の力は無いからね」
「それならうちも是非ご利用ください」
 ナーザ・アーガテラム。冒険者の店『笑う人形亭』のオーナーだ。
「食事や宿泊はもちろん、仕事の斡旋や道具の取り扱いをしております」
「ちなみさんが通ってるお店なの☆」
 ぱっと手を上げる因 千波。
「とっても優しいところよ。ナーザちゃんがとっても優しいから。来た人それぞれに優しくて、居心地のいい所よ♪」
「お店と言えば、うちもそうかな」
 レーグラ・ルクセリアとブラキウム・アワリティア。ギルド『七曜堂』のメンバーだ。
「いつもお客さん、来ないんだけどねぇ……」
「やる気の無い道具屋だからな。売りもん、ろくにないし」
 二人はちらりと儀式呪具を見ると、なにやら会話しているようだ。
「それじゃあ、お店に戻るね。店番も必要だから……」
 二人が店に戻った所で、『香屋《ファム・ファタル》』のジルーシャ・グレイがやってきた。
「お店の話ね? アタシの店はポプリやアロマオイル、香水に入浴剤、香りにまつわるいろんなものを置いてるの。誰だってそんな悩みを抱えるじゃない? ぴったりの香りを作って、勇気を出すお手伝いをしてるの」
「なら、『移動雑貨屋メアリ』もひいきにして貰えるかな」
 腕組みするメアリ。
「大型馬車をテンポにした移動雑貨店だ。行商やら運送業もやっているがね、品揃えには自信がある」
「おっとメアリ店長サン。お仕事の依頼デス」
 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガーがやってきて書面を見せた。
 ギルドからの贈り物を届ける仕事……のついでに各ギルドで取材をして欲しいというものだ。
「ふむ」
 メアリは眉を上げて、書面にサインをした。

 さて、広い大陸を渡り歩き、無数のギルドを旅しよう。
 全て余すところなく伝えたいのは山々だが、長い長い旅になる。足が疲れてしまわないように、取材の内容をダイジェストでお送りしよう。

 まずはギルド『異世界掲示板』のナビ子だ。
「こんにちはー! 早速紹介? うちのギルドは地球とその平行世界出身者を集めて、ネット掲示板方式で情報交換をするギルドなのです。ナビ子はオーナーじゃないけど、掲示板の管理を任されているのです!」

「どうも、今は仕事が一通り終わって、休憩していたところですよ」
 ギルド『シャトー・ド・シュエット』。オーナーのシュライファ・クネニ・ベトゥラグロッサはカモミールのカップを手に微笑んだ。
「仕事というのは、染物仕立屋です。色んな方からオーダーを受けるんですよ」

「わぁっと、そこを退いてくれ!」
 ランベール=D=ノーチェの『即席事務所と喫煙所』ではネコ探しの真っ最中だ。
「うちのは小さい事務所だよ。困ってる人を助けてるんだ。ま、ほとんど猫探しだけどね」

「『アルフォード離宮』は私が納める領地……そこで管理している屋敷を開放したものです」
 ルミ・アルフォードが案内した屋敷の中では、仲間たちがお茶やお喋りを楽しむサロンの空気ができていた。
「広い領地ですから、歩くだけでも楽しいものですよ」

 ここはギルド『黒夢の影』。
 オーナーのランドウェラ=ロード=ロウスは読書中にふと、瑪瑙 葉月へ声をかけた。
「ここには慣れたかい?」
「もちろんなの。だってここは落ち着くし、私の帰ってきたい場所になったから」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
 ランドウェラは頬を緩め、もう一つだけ質問を加えた。
「楽しんでるかい?」
「ギルドの皆のおかげでね!」

 ギルド『みつばち屋敷』。
 オーナーのレンゲ・アベイユと、かたわらに立つ屈強な原田・戟。
 レンゲはうつくしきドヤ顔を見せつけた。
「ここは道場。門下生を募集中よ! 武道はよく分からないけど、ゲキが教えるのよ! さあゲキ何か言ってやりな――みゃぐん!?」
 腹パンを入れる戟。どうやら性癖のようである。
「い、痛いじゃないのよ!」
 ニヤァと笑う戟。

 『診療所「エイドス」』のエイド星人 ジュネッサ。
「エイド星の住人は医療に秀でている。たとえどこで、誰であろうと治せるようにだ」
 癒やしのオーラを放ってみせるジュネッサ。
「僕にとって医療とは必要なものだ。今までも、これからも」

 ギルド『大いなる暗夜』の神殿にて。
「暗夜を愛するのデス。闇は安らぎデス。素晴らしいものデス。ワタクシと共に食みに沈みマショウ」
 触手でとらえて道行く人を勧誘しているようだ。
 そっとしておこう。

 ここはギルド『灰色教会』。
 登録されているのはオーナーのレンツォ・フェイスと、メンバーのメリンダ・ビーチャムだけだ。
 『灰色教会と呼ばれているこの教会は、私が信仰する×××××教の教会の一つです。主を唯一神とし、その教義は厳しい物ですが、教えに忠実な信徒は主の寵愛を授かる事ができるのです……貴方も共に主を信仰しませんか?』
 記事に勧誘めいたものを書き付けているレンツォ。
 彼をよそにメリンダはギルドを紹介した。
「王都の裏通りを抜けた先にある教会。ここが灰色教会よ。私はここでお手伝いをさせてもらっているの。とっても素敵な神様を信仰しているのよ。詳しくは、あの神父様に聞いてみて」

●キャリー喫茶店とオミセな人々
 お店に道場に宗教施設。ギルドはなんでもありだ。
 その中でも相当なメンバー数を誇るのがここ、『キャリー喫茶店』だ。
 オーナーはパーセル・ポストマン。
「ここは見ての通り喫茶店だ。といっても変わった客が多いからな。相手の文化やらを尊重しながら柔軟に動くことを心掛けてるぜ。お勧めはラテアートだ」
「ああ、アートはへたくそだがコーヒーは美味いぜ」
 カップを手にするフアン・バウティスタ・オエステ。
「要はバルと似たようなもんだろう。面倒な客がいたら俺に任せろ」
「バウンサーは募集してねえ。皿でも洗ってろ」
「支払いはしたぞ」
「銅貨は使えないって何度も言ってんだろ! おい、クラカの旦那! 棚じゃなくて椅子に座ってくれ」
「………………」
 地球でいうとこのオモチャロボットみたいなクラカ・ベルククが、棚に腰掛けてインテリアと同化していた。ミルクをストローでちゅるちゅるしてるあたり、楽しんではいるようだ。
「ありがとう。それじゃあ、他の皆にも聞いてみるわね」
 紙にペンを走らせながら、ベアトリクス=エッセル=グーデリアがテーブルの客たちに取材を始めた。
 まずはエクリア=メティオウラから。
「あなたが思うお店の魅力は何かしら」
「個性的な人たちが集まってる所かな。あとラテアート、いいよね!」
「まぁ飯は美味いし、常連共におもしれ―奴がゴロゴロいるし飽きない場所だな」
 むくりと身体を起こした白骨の男ヘルマン。
「何気なく通ってたが、今じゃお気に入りの場所だ」
「それは私も同じなのです!」
 チャッと手を掲げるサーシャ・O・エンフィールド。
「沢山の旅人さん達が訪れてとても賑やかで色んなお話が聞けてとても楽しいところなのです。カフェラテは美味しいし、アートもへんてこでおもしろいのです!」
「えっ」
「私のお勧めメニューはココアかしらね」
 カップに口をつけるオデット・ソレーユ・クリスタリア。
 ふと視線が集まってオデットは手で顔を隠した。
「そ、そんな顔で見ないでっ!?」
「他の店の奴も来てるみたいだ。そっちの取材も頼めるかな」
 さらっとオデットのフォローをしつつ、別のテーブルにベアトリクスを向かわせるパーセルである。

 集まっているのはそれぞれショップ系ギルドのオーナーたちだ。
 陽だまりの宿『しおから亭』。
 貸本喫茶『ひつじ雲』。
 ガラクタ屋『ジャンクハウス』。
「集まってくれてありがとう。まずはお店のことを聞かせて」
「お、オレか? よしわかった」
 パン・♂・ケーキが美味しそうなボディをぽんと叩いた。
「しおから亭って宿を経営してたんだけど、森の奥に作ったからかお客さんが尋ねてこないんだ。今は新作メニューを試しつつ、ダンススペースを作ってるんだ。居候と一緒にね」
 居候こと奥州 一悟が腕組みをした。
「マジで人がこなくて、潰れねえのが不思議だぜ。けどいいところなんだぜ。空気はいいし温泉もある。部屋は綺麗で料理はうまい。ま、いちばん美味そうなのはオーナーなんだけどな!」
「次はうちかな」
 ひつじ雲のオーナー、灰塚 冥利が手を上げた。
「元々本が好きで色々と集めてたんだけど……もっとこの本を色んな人に読んで欲しいなって思って貸本喫茶を始めたんだ。もしかしたら、この中に君の人生を帰る一冊が眠っているかもしれないね。お客さんはみんな良い人ばかりだし、気に入ってるよ」
 ジョゼ・マルドゥが腕組みをして顎を上げた。
「オイラの店はジャンクハウス。旅人ウェーブにのって、異世界のおもしろいモノとかいっぱいかき集めてるんだ。売買も交換もオッケーだぜ!」
「元々は彼のねぐらだがな」
 メンバーのラデリ・マグノリアが頬をわずかにゆるめた。
「彼はガラクタ集めに夢中だが、俺はいつも通り、草花の世話ばかりだ。今は西瓜が美味いかな。店をやるなら、農作物も売れそうだ」
 なるほどね、と言いながら話をまとめていく。
 なかなかいい記事が書けそうだ。

●西へ東へ
 クロジンデ・エーベルヴァインはカメラという機械を渡されて、大陸各地を回っていた。
「いくつか回ったけど、どこも個性的なとこだったねー」
 カメラの記録をたぐりながら、クロジンデはこれまで回ったギルドを回想した……。

 ギルド【様々な色の花畑】は南 幽だけの花畑だ。
 彼は人がほとんどこないこの場所で、いつものんびり過ごしているそうだ。
 昔は色々あったようだが、今はこれが楽しいらしい。
 人と話すのは苦手なようで、けれどうまく話せるようにはなりたいらしい。

 クラリーチェ・カヴァッツァは『路地裏のねこだまり』というギルドで教会に勤めている。名前の通りネコもたくさんだ。
「ようこそお越しくださいました。みなおとなしい子ばかりなので、よかったら撫でてあげてくださいね。お腹が空いていらっしゃるのでしたら何かお出しいたしますよ」
 彼女はこんな日常を、幸福に過ごしていた。

 艮・狼姫のギルド『Midnight Wolf』は様々なガラクタを集めたスクラップ場だ。
「あたしはこの、相棒たる『自動車』ってぇのを直して動かしたいと思ってる。まぁ手段はさっぱりだがねー」
 そう、彼女はくわえ煙草で笑った。無数のギルドの力を合わせれば、きっとその自動車も動く日が来るだろう。

 ギルド『独善の砦』のオーナー、アート・パンクアシャシュ。
「看板に違わぬ変わり者達のギルドだ。スラムのあばら家だがね。どんな国にも、どんな世界にもスラムはあるらしい」
 そう語るアートは、炊き出しをして人々に配ったり、子供に読み書きを教えたりしているようだ。

「私の運営しております「潮騒の従者斡旋所」についてご紹介しましょうか」
 そう語ったのはオーナーのRemora=Lockhart。
「従者を求める方に優秀な従者をご紹介する場所です。斡旋に際し必要なものは資力と人格、それと更に資力。波の音を搔き消すよう、幾つもの世迷言を呟きながら私は貴方を待ちましょう」

 人外魔境~すぐ隣にいる人外~。
 サブタイつきのこのギルドは人外魔境は人型御禁制のギルドだ。
 オーナーのアスミー・アレグローネ・アミスフィアもまた蜘蛛型獣人である。
 彼は混沌によって様々な人種が溢れた今ならこの姿がおかしくないのではないかと、はんば勢いでギルドを作ったらしい。

 そういえば不思議な所もあった。獅子吼 かるらの『風雲忍者城』ギルドである。
「ただの張りぼてじゃないかって? そーなの、今はまだ改装中!」
 そう語るかるらは、シノビロジカルなアトラクションを沢山詰め込んだ……テーマパーク? にする予定らしい。
「完成したら、遊びに来てよね!」

 不思議なギルドといえば『野獣王国ビーストキングダム』というものもある。
「ここは広大でな、ここは、わしら、動物の姿をした者たちを集めるギルドであるのじゃっ!」
 思い切りライオンなアレクサンダー・A・ライオンハート。
 彼がオーナーをつとめる野獣王国は平原や森、川や湖で構成された広大な土地だ。
 川ではワーブ・シートンが魚を捕まえて食っていた。
「おいらは、毎日果物や蜂蜜、魚を食べている生活ですよぅ。まぁ、おいしいのは大好きですよぅ」
「オレもそうっちゃそうだが、魚で我慢すんのもなあ」
 その隣ではロビ・シートンが『肉食いてえ』と言いながら同じく魚にありついている。そこへBernhard=Alternが飛んできた。
「ここは優しい方ばかりで落ち着ける場所っす。日々の不安も、皆のお陰で何とかなってるっす! 最近おいら、森林地帯によく行くっす。日光が程良くて散歩に丁度いいっすし、洞窟があるかも…なんて期待もしてるっす!」

「おい、そろそろ港につくぜ」
 エイリーク=トールズに呼びかけられ、クロジンデははたと回想から帰ってきた。
 ここはギルド『トールズ商会』の商業船の上。取材のついでに乗せて貰った次第である。
 それじゃあ港に着く前に、取材を済ませちゃおうとばかりに、カメラを上に向けた。
 カメラに映り込むように、華麗なポーズをとった女性が現われた
「永久名誉顧問、ヴィクトワール・アルレット・モンタニエですわッ! 通常業務以外でも、秘宝を探し求める冒険の旅を個人的に画策していますのよ! さあ、共に熱い冒険へと漕ぎ出しましょう!」
「美人さんでしょう? しかもとっても偉い人なのよ」
 フォローするように語ったのは縹 あんず。
「わたしはここで事務員をしてるの。そして強面だけど優しい船長さん。それじゃあ、トールズ商会のアピールをお願いします!」
 エイリークは舵を取りながら、あんずに向けられた架空のマイクに苦笑した。
「うちは幻想近辺の海で物資輸送とか交易で食ってる商会だ。まぁ、この先もっとでかい仕事が出来たらとは思うが。船の上じゃ種族も経歴も無い。全員仲間で家族だ。いつでも人手不足だからよ、どんなにやつでも来てくれたら嬉しいぜ」

●酒場に集まる兄弟たちよ
「うちのことを知りたい? 物好きなヒトも居るわねぇ」
 そう語るのはリノ・ガルシア。ギルド『惑いの花酒亭』のオーナーだ。
「じゃあ、うちの愉快な客たちを紹介するわ。みんな仕事の売り込みをして。はい、渋メンヤクザのヨシヒロ」
「ん」
 亘理 義弘は口の端を上げた。
「ふらりと寄った酒場だったが、居心地が良くてついつい長居しちまったな。桂花酒は旨いし、なにより、興味深い奴らばかりいやがるぜ。おやじや昔の仲間と同じくらいによ。俺ができる仕事っていやぁ荒事くらいだがよ、それが仲間を守る役に立つなら、十分だろう?」
「次に、熱血ボーイのギリアス」
「だーれがボーイだ。オトナだよ!」
 ギリアス=ドルフィンは豪快にカップを掲げた。
「売り込みなんざ必要ねぇ。俺は自分の受けたい仕事を受けるし、行きたいところに行く、それだけだ。それよりここに来るならリノに気をつけな。今は猫を被っちゃいるが本性はそんな可愛いもんじゃねぇ。噛みつかれるぞ、ガブリとな!」
「でもって、ミステリアスロンリーなクリーズ」
「そうだな……」
 クリーズ・ミル・ブローは腕組みをした。
「俺は普段傭兵の仕事を請け負ってる。ある程度力を使う系の仕事や護衛等も、喜んで受けよう。大きい声で言えない様な仕事も、秘密裏に取引しても構わないぜ。……ふふ、冗談だ」

 惑いの花酒亭にかわった奴らが集まるように、酒場ギルド『燃える石』にもおかしな奴らが目白押しである。
 常連客(?)のキドーが取材に応えてくれた。
「酒場のことなら店主に聞くのが一番だが……うん、店主は人前に出やがらねえ。まあいいさ、酒さえあれば充分だ。そうだろお前ら!」
 ギドーがカップを掲げると、何人かの酒飲みが威勢良くカップを掲げた。
 その中のひとり、ゲンリー。
「儂はドワーフのゲンリーという。ここは客の氏素性を問わん店じゃ。一癖二癖ある連中がよう集まる。ま、酒の味は問題無いから安心せい。料理は……そこのエマを見ればわかる」
「ぐえぇー! このグラタン塩ッ気が強すぎますよ、塩食べてるみたいなんですけど!?」
 噂のエマだ。
「あぁ、この酒場お酒は美味しいらしいんですけど、料理がすっごい下手なんですよ。私もお酒飲みたいんですけど、2年早いって飲ませてくれないんです。ケチですよねぇ」
 その様子に、スティーブン・スロウが笑った。
「でっかくなれば飲み比べができる。さて、今夜は誰のおごりになるかねぇ」
「いいだろう、付き合ってやる」
 フージ・ロゥはスティーブンの並べたグラスに酒を注がせ、席についた。
「料理はまずいが酒は進む。この酒場にいると、この世界に来る前の事を思い出すな。ほら、ガンスキも飲め」
 言われて、ガンスキ・シット・ワンはグラスを持たされた。
「俺ぁ空気だけで酔えちゃうほうなンで……あ、ハイ。それじゃあいただきま――きゅう!?」
 ひっくりかえるガンスキ。それをスタートの合図にして、スティーブンとフージはがぶがぶと酒を飲み始めた。勝負がつくのは、ずっと先になりそうだ。

●人知れぬギルド
 ギルドは千差万別。それは形や顔ぶれに留まらない。積極的に自らを公開しないギルドや、むしろ秘密にしているギルドだってある。

 ギルド『滅んだ村の集会所』。
 ここではオーナーのR.R.がかつて滅んだ村の廃墟に生活環境を整えていた。
 彼は道具を手に取り、自分の行動の不思議さを思っていた。
 破滅を滅ぼす存在である彼が、滅んだ村を再生しようという。
 だがそれはある意味では、破滅を滅ぼすことにもなるのではないか。
 そのためなら……。
「水や土はまだ健康そうね」
 エミリア・リステル・ロホは村の散策をして、水場や植生を調べていた。
 民兵の軽々を活かし、荒れ地を進んで使えそうな資材を見つけるのだ。
 同じくアイリス・ジギタリス・アストランティアもダウジングの要領で水場を探していた。
「私はギフトの力で飲食睡眠を摂らずとも生きられますが、生命が命を繋ぐのに水は必要不可欠ですからね」
 彼らはこうして人里から離れつつも、おのおのの生き方で廃村に根を張ってゆくのだ。

 『ベルナールド家』はギルドとして登録されている、5人の家だ。
「わーい! ケーキだー!」
 ニコ・マリオネッタ・ベルナールドはばんざいをして、ココ・コヨト・ベルナールドの持ってきたレアチーズケーキを出迎えた。
「ケーキ、美味しそうです……!」
 切り分けたケーキにうっとりするナコ・ユミール・ベルナールド。
 キコ・デトロイト・ベルナールドも少しだけ嬉しそうにケーキにフォークを立てている。
 一見楽しげな彼女たちだが、しかし心配ごともある。
 ココの様子が優れないのだ。
 この家にとって大事な存在。両親。
 ずっと探し続けているが、いまだに手がかりがないのだ。
 情報を探し、家族を見つけて、家族を守る。
 そのために。
「それじゃあ皆」
「いただきます!」
 今は、日常を生きるのだ。

 秘密結社オリュンポス。
 地球でいうところのパルテノン神殿みたいな建物を拠点に活動している、ひみつけっしゃである。
 その恐るべき活動内容とは……。
「ふっふっふー、我が組織の更なる結束を固める為には、各々が好きなモノを鍋に入れてつつき合うのがイチバンだと神様が言ってました!」
 ピュティア・デルポイ・オリュンポスは神託ですよーと言って、鍋をどすんと用意した。
 鍋を囲むはマイキー・ウォーリー。モルタ・ウルカヌス。マック・D・ナルド。
「オゥッ! ボクらの団結に必要なモノは何か?そう…それは、愛・ラヴ・ユー! つまり、鍋に足りないものは刺々しくも絡み合う様なボクらオリュンポスの愛を体現するに相応しい物だね!」
「本当に好きなものを入れてよいのでありますな?」
「マックの好きなものは、コレ!」
 そう言ってマックがぶち込んだのはおつきみハンバーガー。
「ポォウ!」
 といってマイキーが放り込んだのはバラの花束。
「破ッ!」
 といってモルタが叩き込んだのはメイド服。
 三人の好きなものが叩き込まれ鍋は謎の輝きを放ち……。
「こ、これは!」
 謎の大爆発を起こした。
 吹き飛んでいくパルテノン柱。

 ここは魔王城……じゃなく『魔王城予定地』。
 ボロッボロの家である。魔王っていうかオーナーのホロウは、今日もお仕事にいそしむのだ。
「フハハハハ! やはりできる魔王とは下の者に任せるだけでなく自らも仕事ができなくてはな!」
「やめて、ホロウが働くと大抵……!」
 メド・ロウワンが慌てて駆け寄るが、棚やらテーブルやらがしっちゃかめっちゃかになっていた。
「ああ、だからやめてっていったのに……」
「ヒャッハー! 掃除は任せな! 汚物は消毒だー!」
 飛び出してきたロースト・チキンがしっちゃかめっちゃかになった場所をキレイにしていく。彼はお掃除のエキスパートである。
「すらっ」
 ぬらりと現われるすらりーぬ。っていうかスライム。
「おっと待ちな! 此処を通りたくば……ぶべらぼぁぁ!?」
「すら~」
 自分で磨いた床で滑ってころぶローストをスルーして、すらりーぬは建築資材をはき出していく。
 それを使ってとんかん小屋を建て直していくエリオット。
「他に資材あったら持ってきてくれ。ん、ロザリーはどうした?」
 一方小屋の外。
「みんなが頑張ってくれているし、アタシは周辺の雑草でも抜こうかね。ヒヒヒッ、この辺りは毒草が多くて最高だよ……ヒッヒッヒ」
 ロザリー・ダミアン・ローズはめっちゃサボっていた。

●武闘派無銘堂
 数あるギルドの中で、武闘派として有名なのがここ、『武闘派無銘堂』である。
 ユタ・ニヌファブシ・ハイムルブシは今回の記者として、借りたカメラを構えていた。
「今はオーナーとノワが模擬戦をしてるところよ」
 カメラを向けると、雷霆とノワ・リェーヴルが激しくぶつかり合っていた。
 爪や腕力でおす雷霆と、蹴り技主体のアクロバティックなノワである。
「実に善い! 簡単に終わってくれるなよ、ノワ!」
「やはり戦いの高揚感も良いものだね。さぁ雷霆君。僕ともっと踊ろうか!!」
 激戦は高揚を呼び、高揚はさらなる激戦を呼ぶ。
 それを見物しているのは、同じギルドのメンバーたちだ。
「いやぁ、こいつは凄まじいなぁ。ワハハハハ!」
 ユリウス=デア=ハイデンは世界を超えた非常識な戦いに胸を躍らせ、しかし目は武人らしく彼らの強さを見極めんとしている。
 別の所では、ボルカノ=マルゴットと陽陰・比が模擬戦をこなしている。
 比のパンチやキックをボルカノが的確にガードして、クロスするように拳を繰り出す。二人の腕がぶつかり合い、ばしんと音をたてる。
「付き合ってくれてありがとー。体動かすのは楽しいよね!」
「ああ、これくらいなら楽しく出来るであるな!」
 一方テーブルではヴィノ・ユーノクラインたちがティータイムに入っていた。
「蜂蜜につけたリンゴとカップケーキだ。口に合うかな」
「じゃあ俺はフランスパン!」
 どこからともなくフランスパンを取り出す上谷・零。
「わーいカリカリモチモチー」
 プティ エ ミニョンは貰ったフランスパンを贅沢に端っこから食べながらほっぺを膨らませていた。そこへやってくるユタ。
「今インタビューをしているの。ギルドにきたきっかけを教えてくれない?」
 質問に最初に応えたのはルアナ・ベイクウェルだった。
「私は家の再興の為に金と名声が必要で、その為に戦う力が必要で。だから、力求める人が集まるここの門を叩いたの。アンタはどうなのよ」
「私は、見ていて楽しいから、とだけ言っておこうかしら」
「私は強い装備が欲しいからかな!」
 プティは皆から貰ったご飯をもりもり食べて、ぐっと拳を突き上げた。
「私も、強くなるぞー!」

 異質なる世界『無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)』。
 ここでは今も、多種多様なギルドが次々と生まれている。
 彼らは世界を救うため、時に好き勝手に暮らすため、それぞれの日常を過ごしている。
 今日も、明日も、ずっとずっと先まで。


writing:黒筆墨汁

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