PandoraPartyProject

特設イベント

空中庭園パートⅣ

●Initialize Z
「……お? なんだ、これ?」
 神殿内。奇妙なオブジェクトに触れた一悟は頭の中で『彼』にその正体を尋ねてみた。

 ――他ならぬ小生に尋ねる程度の事かね?

『彼』の返答はにべも素っ気も無かったが、一悟は「そっか」とだけ納得した。

 ――身体が痛い。
 なぜか自分はずぶ濡れで、身に纏う服はボロボロで。
 周囲を見渡しても、自分の様な格好の人間は見当たらない。
 こんな異常事態に誰が――誰が冷静を保てると言うのだろうか……?

 全てを失った白紙の男――ヴィルヘルムは、多くの者は今神殿に居た。
 必ずしも能動的な行動では無い。混乱したまま、流れに身を任せた結果、ここに来た者も居る。広い聖堂には彼と似たような境遇の者も沢山居た。ヴィルヘルムは未だ明瞭な思考を得られない状態のままだったが――一同の注目を集めているのが、彼等に先んじて一人この神殿に佇んでいた一人の少女だった。
「家の庭でお昼寝していたはずなのだけど……
 いったいここはどこなのかしら? そこのあなた、なにかご存知ではありませんこと?」
 背中のバッグから顔を出したマフレナが困惑しているのは彼女が『知らない間に召喚され、ついでに知らない間に(ミスティカの親切で)神殿まで運ばれてきたから』だ。
「……ああ、そういう事なのね」
 運んできた当人が何となく色々理解したのはさて置いて。
「ようこそ。『混沌』へ」
 神殿の主らしき――長い黒髪の少女は、カソックを思わせる衣装に身を包んでいた。純粋なカソックよりは少女らしい華やかさを思わせる節もあるから、ドレスとの間の子と言った方が正しいのかも知れないが。
「何分、千客万来の――人手が足んねーもんで。ご挨拶が遅れて失礼をば」
「状況説明よりまず! 可愛らしいお嬢さんのお名前をお聞きしてもよろしいかな?
 失礼、俺の名は新納竜也。超銀河コズミック宇宙帝国の第101010皇子だ」
「私は、ざんげっていいます」
「ざんげちゃん? なるほど、結婚しよう!」
「実効性を伴う恋が一秒で始まるかどうかの検証は後回しにするとしまして」
「……ざんげ、さん、変わった名前なのです」
「あい! ヨワリデス。ざんげちゃんさんデスカ? ざんげって、どんな意味なのデス?」
「ええ。生まれてこの方、変わった名前でごぜーます。
 ざんげは、辞書的意味合いで言うなら『自らの悪を神仏その類に告白する事』でしょーか?
 まぁ、何故ざんげなのかは私は知りません。私はただ、ざんげなので、ざんげとでもざんげちゃんとでもイニシャルゼットとでも好きに呼んで下さいです」
 ぺこりと頭を下げた少女――『ざんげ』は居並ぶ事情説明待ちの面々にも、そして何より色んな意味で凄まじい竜也の挙動にも動じる様子は無く、淡々と冷静にヨワリの問い、綾歌の言葉に答え、『招かれる予定も無かった客』を出迎えていた。
「一連の出来事はキミの仕業かな? ざんげちゃん。
 役者は揃ったようだね――嗚呼、開幕を告げるベルが鳴る!
 私は演者か? 観客か? いいや違う、シェイクスピアは舞台を創り自らも舞台に立った! つまり、全ては≪共に≫だ――!」
 大仰に芝居掛かったイフが、
「…………で、ざんげちゃんは何の用だっけ。時間かかる?  此処トイレある?」
 御丁寧にも一人で完結して落ちまでつけてくれる。ありがとう。
「取り敢えずここを目指して正解だったな」
 マレーネは少し安堵した気持ちだった。ネメシスの連中に追い回されるのも大概だが、風光明媚な庭園で野垂れ死ぬのも真っ平である。来訪者達がこの空中庭園における中心地――神殿を目指した事は確かな正解だったのだろう。
「君はここの責任者――でいい?」
「そーなりますね。他に誰もいねーですから」
 ざんげの肯定通り、見るからに特別な場所は、見たイメージの通り特別な場所だった。彼等はこの空中庭園に来て、初めて『事情を全て知る者』と出会う事に成功したのである。
「ありがとー? 救われたよ、正直正真正銘死ぬ直前だった!」
「えーと、ご無事で何よりでごぜーます?」
 元勇者なのだが、成り行き上魔王にされて討伐されかかっていた――非常に特殊な成り行きと、勇者やら魔王やらという職務経歴(?)柄、事態の把握が早かったレインは関係者と見越したざんげにまず速攻で謝礼をしたが、彼女は当然ながら『不思議そう』である。
「困るぞ……こちらは仕事中だったんだがな?」
「成る程、ざんげか。性悪そうな別嬪さんだな」
「……性悪、でごぜーますか。加害者意識がゼロとは言いませんですが。
 お仕事についても……まぁ、その辺りはレオンが何とかしてくれるかも知れねーですが」
 ギークの言葉に小首を傾げ、ブラストに応じたざんげは何とも考えている事の読み難い雰囲気である。彼女の言った『加害者意識』なる単語に少し周りがざわめいた。状況をポジティブに捉えている者も居ない訳ではないが、多くの異邦者(たびびと)にとってこの状況は迷惑だ。「レオン?」と口の中で呟いたブラストは傭兵である。特に荒事を得意とするオールドワンの傭兵は、一人だけその名前の著名人の知識を持ち合わせていた。
「ここ来てからこっち、魅力的な連中に沢山会えて嬉しいよ。
 お嬢ちゃんは……んー。綺麗なんだが、ちと胸が足りないのがなぁ」
 言葉から察するに案外異世界行を楽しんでいたらしいソラネルが余計な一言を挟んだ寸評を述べると、ざんげは真顔のまま自分の胸元を見下ろして両手で軽く触れてみせた。
「ここには『神さま』がいるの? それとも、あなたが神さまなの?」
「おい、そこのシスターみたいな格好の女、質問するぜ。
 細かい事は後回しだ。この世界に酒はあるか? それから、血は、見られるか?」
「えっと、ざんげちゃん? 質問いいかい? この星では夜空は見れるのかい?
 まぁ、他所に運命を握られるのは気に入らないけど……まずはそれが重要だからね」
 ざんげはOneの言葉には首を振り、鈴忌とアリーシャには短く「はい」と応えた。
「私……自分のこと、覚えてなくて。どこか……ずっと……彷徨ってた、気がするんです……」
「名前を思い出せない」と告げたウィリアに、ざんげは「まるで彷徨たる鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)みてーですね」と呟いた。
「……はぁ。なんて事だろう、『選ばれてしまう』とは」
(ここが “そう” で、ボク達が “そう” ならきっと大丈夫……
 今はまずしっかりと彼女に話を聞きましょう)
 そんなやり取りを横目に反故にした森との契約を想い溜息を吐くトゥリレンティカ、一方で「そう思う事に決めた」リュカシスはすっかり落ち着きを取り戻していた。
「突然で不安なの。不安なの。ざんげちゃんはお疲れ?
 それならあたしを抱きしめて。はぐはぐしてして。これから何があってもだいじょうぶなように、お祈りもして」
「それでは遠慮なく」とハグミールが真顔のざんげにむぎゅーっとされている。抱きしめた者も、抱きしめられた者もストレスを軽減する彼女の能力(ギフト)は、成る程状況にうってつけである。表情の余り変わらないざんげのストレスは知れないが、少なくともハグミール側には大いに効果的だろう。
「いまいち状況がわかんないけど、ジタバタしても仕方ないですよね。
 こういうときはお茶を飲んでリラックスするのが一番♪
 ハーブティーとかがいいんじゃないかしら」
「あら、名案。一度ここでお茶してみたかったのよ~」
 Suviaの提案にシーヴァが賛同した。
「アタシの名はシーヴァ。
 この場にいる事は『面倒な贈り物』なのかも知れないけれど。
 ざんげちゃん、宜しければお茶をご一緒してくださらない?」
 個人的質問から苦情まで。訳知り顔も、そうでない者も。口にするかしないかまで別にして、まさに要望は玉石混交様々で、言いたい事は山とある……という状態である。
 話題は絶えていないが、強引に話を戻しておく。
「――と言う訳で、そこな人、説明よろっす!」
「……何が起きた。教えろ」
「聞きたい事が沢山あるわ。それこそ、山程ね」
 取り敢えず考えるより効率的だと結論付けた冴弓と、努めて冷静を保つよう努力を重ね、押し殺した調子で尋ねたリシア、これまでの事態を冷静に受け止め、凛とざんげを見据えて問うたプティピエの言葉は奇しくもと言うべきか、当然と言うべきか――殆ど同じものになった。
「なー、オレ、清水洸汰! オレさ、友達の家に行く途中だったんだけどさ、なんか光が眩しいって思ったらここにいたの!
 んで……ぶっちゃけて聞くけど。ここさあ、どこなんだ?」
「そう、それです。私もそれが気になっていまして……周りは……空で。突然で。
 ここがどういう場所なのか、是非伺えればと――」
 やたらにフレンドリーだが、洸汰の質問は非常に正鵠を射抜いていた。洸汰の言葉に、まさに『水を得た海種』のようにイーリスが続けた。少なからぬ不安を隠せない彼女は父から貰ったナイフを胸に抱いたままだ。
「まず、ここが何処かと申し上げますと。
 ここは『混沌』でごぜーます。正確には『無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)。
 純種の方には説明は不要かもですが、旅人の方に分かり易く言うなら所謂一つの皆さんの世界とは全く別物の、異世界ってヤツでしょうか」
 ざんげは相変わらず不安定な口調で少し無機質に言う。
「次にこの私が何者かと言いますと、私は皆さんの水先案内人(ガイド)です。
 この世界に皆さんを呼んだのは私じゃねーですが、全く関わりがないと言えば嘘になります。ですので、皆さんには非常に申し訳なく。ごめんなさい」
「……」
 ようやく知るべき情報が現れそうな気配を察したエンアートが視線だけをやる。召喚直後「次はこの世界ですか……」と嘆息したエンアートにとって召喚は食傷気味の出来事でもある。
「わたしはフェリシア、です。
 あの、わたしは……わたしたちは、これからどうすれば、いいですか?」
「ああ。聞こうじゃないか、なぜおれたちが喚ばれたか。力か、或いは何を求められたかを」
 困り顔を浮かべて、自身にすがるように問うたフェリシア、頷いて強い視線を向けたシェンシーに先程に比べてざんげは深々と頭を下げ、
「まずは事情を知るレディ――ざんげ様に事情を詳しく聞いてみる事といたしましょう」
 タイミング的に上手い具合のフォローになったスパーダに水を向けられると、頭を上げると事これに到る事情の説明を始めた。

 曰く、この世界は全ての世界、全ての奇跡を飲み込んだ外郭である事。
 曰く、この世界には破滅の神託が降りている。
 曰く、この世界の破滅は全ての世界の破滅と等しい
 曰く、破滅の神託を回避出来るのは『皆さん』こと『特異運命座標』だけである事――

「素晴らしい!」
 説明を聞くなりジェームズは歓喜の声を上げていた。
「嗚呼! 此処は! 神秘が存在する世界! 私が待ち望んだ神秘の世界!」
 若い頃とは違い、ある意味で『枯れていた』彼の強烈な反応は、まさに彼がたった今受けたインスピレーションの大きさを物語っている。
「要するにゲームとかアニメとか漫画でよくあるアレだよね。
 エアコンとか水洗トイレはあるのかなー。ガチなファンタジーだと現代っ子には厳しいよね。
 でもまぁ、別にいいよ。元の世界に帰りたいとか別に思ってないし」
「――とりあえず、何からぶった切ればいいですか?」
 ジェームズやこのリント、衝動のままに色々すっ飛ばしたシキの反応は特殊な例である。
「えーっと……マジですか」
 当然ながら全体の平均としては絶句した舞衣の方が正しい。
(超絶美少女は目の保養だけど、良く分かんないにも程がある!)
「……えーと、俺コイツらと同枠なの……?」
 人間種のサンディは明らかに自分と違う連中を眺めて乾いた笑いを浮かべていた。
(にわかには信じられない。ここが異世界だって……『特異運命座標』だって?
 しかし、イニシャルZのあの瞳――冗談を言っているそれじゃないな)
 ある意味律儀にイニシャルZとか呼んでみたアルヴィスが考えた通り、ざんげの語った内容は何れも旅人(いほうしゃ)からすれば荒唐無稽極まる内容に違いなかったが、実際にこれだけ多種多様な種族、存在、異世界人が理不尽に一同に介している事実が存在すれば、その荒唐無稽も必然的に裏返るのは確かであった。 
「なんで……世界……なんかの、ために……? 滅びるの……ダメ?………痛いの、なくなる、のに。
 ……お手伝い、するなら、する、けれど……実感、ない……」
 実感無く手をにぎにぎとする仕草をしたのはユエナ。
「英雄譚の一節を目にした気分だぜ。俺のような輩は何十と転生しようと機会が無いと思っていたが……」
 頬を掻いたロアンから思わず本音が漏れた。
「可能性(パンドラ)ねェ。
 なあに、折角の機会だ。凡人なりに“英雄ごっこ”でもしてみるとしますかね」
「今どきのラノベじゃあるまいし……信じるしかないけど。
 ま、戻りたいような世界じゃないし。ネット無いのは残念だけど……」
「ありますよ。ある所にはですけど」
「……は!? マジで!?」
 瑠璃とざんげのやり取りを見るまでも無く。
 呆然としたままのナーデルは働かない頭の隅だけでぼんやりと考えた。
 単に話が荒唐無稽なのではなく、荒唐無稽な話だから荒唐無稽な状況なのだ、と。
「元の世界の様な事にする訳にはいかない。ざんげに寄り添いこの世界に貢献してみせる」
「ありがとうごぜーます」と感謝を示したざんげにWorld Orderは告げる。
「ついては、今後の活動に際し、当機はざんげに当機に対してのマスター登録を求む」
「まぁ待て。まだ出来の良い夢の可能性もある。
 ちょっと確かめるから手伝ってくれないかざんげちゃん」
「登録ってどーするでごぜーます?」と首を傾げていたざんげが灰人の声に振り向いた。
「ハイざんげバストタッチー」
「……」
「……………」
「……………………」
 結論から言えば柔らかく、あまり無い。
「マスターざんげ。当機に攻撃許可を求む」
「戦争反対!」
「古来より異世界に召喚されし主人公は魅力的な異性に囲まれてイチャラブしたりラッキースケベに遭ったりすると申しますが、早速そんな状況なのでございましょうか」
 悲惨な有様を眺めてエリザベスがのんびりとした感想を述べている。
「ざんげ様は個性的な方でございますね。
『ギャップ萌え』というものでございましょうか? 勉強になります」
「……そうだ。人は拳で語り合えると、誰かが言っていた。一思いに宜しく頼む」
「はぁ……ブン殴ればおっけーな感じでごぜーますか?」
 更にはヴィスの提案に剣呑な事態になりかけているが、閑話休題。
「は、はぁ。私が特異運命座標……ですか。
 さ、流石に聞いたことくらいはありますけれども………いまいちピンと来ませんねぇ」
「私がマスターというのも不思議でごぜーますが」と小首を傾げたざんげを眺めながら、思わず漏らしたエマは「しかし、しかしですよ。もし本当にそうだというなら、家も無いご飯もない立場も何もあったもんじゃない薄汚いコソ泥生活が少しはましになるのでは……」と即座のメリット、つまり生活の向上に思い当たり、慌てて口を噤んだ。
「まさか僕がねぇ。いや、ここに居る皆がそう思ってるに違いないかな」
「はぁ? 全くだ。面倒くせぇ事に勝手に巻き込んでんじゃねぇよ」
 意図的にのんびり間延びした調子で言うジョージにあずきが吐き捨てた。彼女に言わせれば自分の行動を勝手に決めるような状況には文句しか無い。ざんげが呼んだ訳ではないと言うが、信じるかどうかもこっちの勝手。第一、他に犯人が居るのだとしても彼女に言わせれば、関係者ならば責任を取るのは当たり前である。和気藹々とされてたまるか。
「煙草位はあるんだろうな? え?」
「――くそったれ……!!!」
 そして不快を隠さないあづき以上に――慟哭にも似た調子でそう吐き捨てたのは貴道だった。大事なボクシングの試合に向けたロードワークの途中、ここに迷い込んだ彼の中には強烈な喪失感以外の何者も無かった。試合はどうなるのか――保証が無い事は明白だった。
「……」
 故郷に帰れない可能性にも決して涙は流さず、表情も歪めず。エクスマリアは、ただ静かに悲しみに暮れていた。
「ちょっと! 元の場所に戻しなさいよ!」
「……………」
「……って言うか無視すんなーっ!」
 エクスマリアの表情や、悲鳴めいた声を上げて抗議めいたヒイラにざんげは何とも言えない顔をした。貧弱な表情筋は然程大きく仕事をしていなかったが、恐らくは本人なりに申し訳無さそうな顔をした彼女は、貴道やエクスマリア、ヒイラの反応にかける言葉を見つけられないようだった。
 実際の所、「どうしてくれる」は正論と言えば正論だが、救いは無い。勿論、本当の所は彼女以外の誰にも分からない。仮に召喚者がざんげなのだとしたら――女優にでもなれば良い、酷い犯人なのは間違いが無かろうが――
「おひとつ、いかが?」
「……チッ……」
 煙草とキャンディは口寂しさを紛らわせる意味で似ている。
 あづきは断じて人当たりのいい人物では無かったが、憮然とした顔のままクランの飴をつい受け取ってしまったのは――愛飲の煙草が切れていたからなのだった。
 他方で事情さえ分かれば、状況を受け入れ、順応した者がいたのも事実だった。
「吾が銘は天に枷たる女。総てを喰らい荒涼たる宙(そら)に漂っていたが……
 砂の一粒よりも卑小となった吾が力でも必要ならば貸そう。暇つぶしである」
 それならそれで仕方ない、といったこの有紀や、
「善悪に関わらず、儂の行動で破滅を回避出来る、か。
 善かろう。ならば再び海の支配者となるべく欲望のままに突き進むのみよ」
「ふむ、嬢よ。何をしても良い、と言うたな? 此方等が行動することに意味はあると。
 なれば、この地に覇を唱える事も是であると――?」
「……俺が『特異運命座標』だと?
 そんな、馬鹿な。俺はそんなものをする気は……いや、あるか。
 世界が終われば、それはつまり姫もいなくなるという事……それは困る」
「う、ううん……いまいち状況は掴めないんだけどさー。
 ここなら私も主人公になれるかなー?」
「特異運命座標……! 僕が、ですか? そんな馬鹿な……
 もっと相応しい人物が僕の周りにもいたはずです、兄や父……
 ……いや、科されているものがない僕だからこそ選ばれたんですね……」
 自身の覇道(もくてき)の『ついで』にオーダーが叶うならばと考えたヴィネやアリエスティル、途中でそう思い直したシエル、主人公というものに並々ならぬ憧れを抱いていたレクス、自虐的に、自嘲的に。自己評価低く至極後ろ向きに選抜の理由を推察したロビン等、反応は様々だ。
「あらあら、わたくしがこのおかしな世界に召喚されたということは……
 運命の人がここにいるということでいいのですね?」
 些か状況を都合良く解釈した恋に恋するお嬢様――こいしや、

 ――きっと、老いらくの身に最も未熟だった頃の肉体を与えられたのは、主を護れなかった罪に対する、罰なのでしょうな――

「……この老骨で好ければ、可能性の一端を務めましょうぞ」
「十分な力を振るえる状態とは言えないが……それでも世界の助けになるべく奮戦しよう」
 内心の自嘲を表には見せぬ『童子姿の老騎士』ファルナンド、純粋な使命感から誓いを立てるアイナのような者も居た。皆が皆、様々な気質や事情を抱えている。こんな事態に臆面無く世界の救世主だ、とはしゃげるタイプばかりでは無かったが、やはり、何かを救う力を得たならばそれは素晴らしい事だと考える者も少なくはなかった。
「いいだろう、何かの縁だ。元神様として、私は、いや僕はこの世界を救わねばならないな」
「召還に応じ、参上しました。
 この身、この技。この想い――救世の為に振るうこと、ここに誓いましょう。
 それこそが、この魂と、この力に課せられた役目故に」
 除夜が神様らしく鷹揚に頷き、ジョンが水晶や瑪瑙といった美しき鉱石を思わせる中性的な声でそう言えば、
「ほう、へぇ……そいつは面白い、面白いじゃないか」
「消えゆく種族の手も借りたい、だなんてよほど切羽詰まっているんですね、この世界は」
 煙草の調達は課題だが、冒険は悪くない――そう思ったマッドは不敵に言った。黒のセーラー服に身を包んだ女学生――にしか見えない――夜宵はくすりと笑う。
「私が役に立つなら、どうぞ自由に使ってください。
 私も……泡沫の夢を楽しませてもらいますから。役割は果たします。大丈夫です」
「フム、なにやら小難しい言葉選びをしていたが要は我が筋肉(ちから)が必要だということだな? 安心するがいい、うぬの懸念は我が筋肉(うつくしさ)の前に払拭されるであろう!」
 無暗やたらに自信たっぷりなリリーが格別の自負を見せれば、
「わが信徒にも斯様なノヴェルが流行ってはいたが……
 ゴッドそのものをサモンするとはなかなかやってくれる!
 まあそう気にするな。エンジェルゼット!」
 豪斗は豪斗でこれ以上無い位に自信たっぷりに「わはははは」と呵呵大笑をする。
「助けを求める者あらばそのウィッシュの為にゴッドパゥワーを振るう事も吝かではない。
 諸君、ビッグシップに乗ったつもりで行こうではないか!」
「む……人選は間違ってるとしか思えないが……
 聞いてしまった以上は仕方あるまい、せいぜい足掻かせてもらうのだよ」
 豪斗の言葉にはパワーがある。兎に角ゴッドな訳の分からん説得力に満ちていた。ゴッドパワーの所為かどうかは定かではないが、取り敢えずマヌカも納得はした。
「俺として悪いヤツを倒せーみたいなわかりやすい方が得意なんだがな。
 ……ま、適当にがんばりますか」
「世界を救うかぁ。ふふっ。町の平和を守るのから一気にスケールアップしちゃった」
 蜻蛉は肩を竦める。軽やかに笑ったセララはあくまでポジティブだ。
「ボクは正義の魔法少女だからね。異世界であってもそれは変わらない――世界まるごと、救ってみせるよ!」
 彼女の『みらこみ!』――情景を切り取り漫画にするギフトが唸って光る。
 この衝撃的シーンが少年漫画なのか少女漫画なのか劇画調なのか、それは兎も角。
「でも、今までのままだったら、森を出ることもほとんどなかったわけだしぃ……
 イケメンもマッチョもおじさまもより取り見取りってこと!?
 いいわ。森の男にもいい加減飽きてきたところだからあんたの話に乗ってあげる!」
「いいぜ、今更世界の一つや二つ。この際、追加で一丁救ってやるぜ!」
「うん。良いよ、私は乗った。片手間でこの世界、助けてあげようじゃないか!」
 気を取り直して前向きに考えたセシル、愛機・コンボルターVの行方は気になるが、軽く請け負った奥慶に続き、「ざんげちゃんにローレットに渡りをつけて貰えるならメリットもありそうだしね」と言ったエリーザベトは降って湧いた『ピンチはチャンス』に満面の笑顔を浮かべている。
「ローレットは、あの幻想の『特異運命座標支援ギルド』でいいんですよね?」
「はいな。皆さんの実際の色々は今、エリーザベトさんや晴人さんが言った『ローレット』のオーナー……レオンが何とかしてくれると思いますです」
「成る程」と頷いた晴人は敢えて周りに聞かせる為に情報を再確認したのだ。
 ローレットとは、神託に選ばれた特異運命座標を支援する特別な場所で、混沌が一国・幻想(レガト・イルシオン)に存在している冒険者ギルドである。そのオーナーは彼女曰く『めんどーですが信頼出来る人物』であるらしい。
「今後のことを考えるためにも、まずは元居た場所に帰りたいんだけど」
「そうそう。とりあえず、家に帰りたいぞ。お腹空いたしな」
 純種の月隠コンビ――新月と三日月の場合、帰るべき家があるのは幸いだ。『特異運命座標』が何らかの活動をしなければいけないものでは無い以上、拘束する理由も無いのだろう。ざんげは「地上の各地へは私が飛ばす事が出来るので、ご案内しますです」と返した。
「ローレットっていうのは……住家の確保とか、色々したいけど……それも?」
「あ、そうだ、ざんげさん、ざんげさん。どこかいいお店、知ってないです?」
 ヨゾラや奏の言葉に「私は空中庭園の外の事はあまり知らねーですが、生活から仕事までそこそこ全般に面倒見てくれると思います」とざんげが応じた。
「何も知らない世界でも、頑張っていかないと……でも、でも。
 分かった事と言えばまず――ぼっちだ私ッ!」
 力強く悲しい事を言い放った奏にざんげは真顔で言った。
「何を仰るでごぜーますか。このクソ広い庭園で毎日毎日来るかどーかも知れねー召喚者(ゲスト)を待ってる私の方が遥かにぼっちです。年季も深刻度も違うですよ」
「あ、何かごめん」と思わず返した奏にざんげはやはり真顔で言う。
「でも、奏さんとかが顔見せてくれたら、私も案外ぼっちじゃねーかも知れません。
 多分、奏さんもぼっちじゃねーです。まぁ、そんなもんですよ。結構」
 あくまで軽いざんげの言葉は奏への慰めだったのかも知れないが――冗談ばかりには聞こえなかった。

●Welcome To Chaos&New Game!
 ――グゥオオオオオオオウ!!!

 怒りか、悲しみか――アルペストゥスの慟哭が青空に吸い込まれていく。
 轟く雷鳴が如しその声は、彼が力を失っているか否かに関わらずまるで神威さえ思わせた。
「新しいぼーけんだぁ!」
 飛び上がる程嬉しい――実際に飛んでしまったのはご愛嬌だが、アメリアの心境はワクワク所では無い位に漲っていた。

 ――どうして俺だったのだろう。

 一方で城士はどうしようもない程に、自問自答を禁じ得なかった。
(あの世界に絶望していたのは俺だけではない筈だ。
 他にも沢山いただろう。こんな、生きる価値を見出せずただ怖くて死ねないだけの俺よりも、役に立てる人は居たはずだ。それなのに……ああ、本当に……吐き気がする)
 神殿でのざんげによる説明は、素直に信じるか、納得が行くかどうかは別にして『不明』だった被召喚者達の状況を『明瞭』にはした。今日ここに集められた存在はどんなに不適合でであっても神意が選んだ救世主であり、存在しているだけで終局的破滅に抗う事が出来る或る意味の能力者という事だ。
「今迄も色んな世界に召喚された事はあれど、力まで奪うのは酷いんじゃないかなぁ。私を召喚したってのに生贄のひとつもないってのも待遇悪いよね」
 更には「まあいいや。その内また力も溜まるだろうし、まだ見ぬ食材を私の食卓に並べる好機だと思えば悪いことでもないね」と一人ごちたマルベートの言は非常に剣呑だが、彼だけではなく一部、元の世界の力を持ち込む事さえ出来れば劇的に事態が加速しそうな者も多かった為、世の中は上手くいかないものではあるのだが。
 ともあれ、神殿の外はコンサート後のように多数の被召喚者達で溢れていた。
「――ここまでの高さは初めてだな」
 全ての話を聞いた後、神殿の外に出たキョウはまず己が翼で空を飛んでみた。
 空中庭園から飛び上がり、世界を俯瞰した彼は今まで見た事も無い高度に見下ろす混沌の風景に少なからぬ今日という日の実感を覚えていた。
(一族の中で……たった一人生き残ってしまった俺にまだ存在意義があると言うなら、最後まで生きてやるさ)
 キョウとて全ての事象に意味があると自惚れてはいない。自身の存在がこの世界――ひいては全ての内包世界の運命を決め得るパーツであるとは到底自覚しようもない。
 しかし、そんな彼もこの日の風景を忘れる事は無いだろう。
 これまでと違う高度から見た世界は美しく、又――より一層特別に見えていた。
「終わりを前に、何から始めましょうか」

 世界が終わるのは構わない――しかし最後は須らく幸福であるべきだ。

 恐らくはフィンの考えは特別に値するものだろう。或る意味自身を良く表現したギフト『終極のユーサネイジア』を持ち合わせる彼女の独特な感性と、彼女一流の行動理念は『世界の最期を看取る、ないしは抗う事を許された自身』を何より肯定していた。
「……もう、ここで生きていくしかないのか。参ったな……
 でも、戦いのタネに困ることはなさそうだね」
「まあ、思い切って宗旨替えもあり……かなあ。禁煙推奨の宗教じゃないみたいだし」
 取り敢えず事情は理解した雄哉がくすりと笑い、一先ず安心したアムネカは心置き無く紫煙を燻らせる。余談だが、『行儀悪く歩き煙草をする割に、携帯灰皿を持ち歩いている』辺り、彼女の流儀は中々面白い所がある。
(――主のお心が曇る事無く、健やかに過ごせます様に)
 己が神がざんげの語った『神託とやら』に気分を害さないだろうか――それだけがレンツォの関心事だった。混沌の出身ながらレンツォは一般的に――特に聖教国が絶対視する――信仰されている『神』とは別の主を戴いている。ともすれば彼等を邪教と謗る異教徒は多いが、彼に言わせれば彼等こそが愚かで邪悪な俗物に過ぎない。
(とは言え――恐らくは邪なものとはいえ、これ程の奇跡を起こしたのだ。
 この上、何らかの事態が起きれば、主の健やかなる時が侵され得る可能性は否めない)
 レンツォは沈思黙考をする。彼にとって重要なのは、主が何を望むかである。
(元より終り、消えるだけであった俺に。今更何を。何を為せと)
 燃え滓の心に、空虚感を抱えた侭――凱は何度も自問する。
「なんや可愛い(男の)子でも居いひんかな?
 可愛い子が居たら世界守る言うんも力入るなぁて。ここならウチの夢、可愛らしい弟分を作る。言うんも叶いそうやし、選んでくれた神様には感謝やなぁ? ほんま」
(……生きているなら何をしよう
 わからない。命令が欲しい。目的が見つかるまで、この世界で生きていくしか無いのか)
 何処まで本気か口元を隠し、余裕の強キャラ臭を漂わせる牧乃の向こうでは実験機・丙は混乱していた。己が存在は常に誰かに使われる事で満たされてきた。たとえそれが使い捨てを前提にした『実験用』であったとしても。ざんげのお願い(オーダー)を命令と捉える事は出来なくは無かったが、その強制力の薄さが丙にとっては却って釈然としない部分を感じさせていた。
「どこであろうと、吾輩のやる事は違わぬな」
 自身曰く『醜悪な一つ目の化け物』、ダーク=アイは静かに言った。彼の旅は今までもこれからも――救う為のものだ。贖罪の為のものに違いない。なれば、昨日までの自分と今日からの自分に何の違いがあろうものか。
「これはチャンスなのかもしれない」
 呟いたラズワルドはこれまでの事を思い出してみた。人にもつかず、虫にも寄り切れない――自身のような生物を、この世界が許容してくれるのだとすれば。そんな生き物がいることを許してくれるなら――この世界は十分に守るに足るものだと思ったのだ。
「そうだ」
 守りたい世界ならば、力を得た事は何よりの僥倖になる。
『ほラね紅』『紅』『云つた通りダ』『紅』『紅下』
 無表情で彼方の地上を見下ろす紅下の周りには“骨の腕”達がきィきィと愉しげに嗤っている。そんな怪しい少女も含めた面々を見たズルドは満足そうに頷いていた。
『同胞(じんがい)』の存在は彼にとっては非常に嬉しく心強いものだった。醜悪な――少なくとも自身はそう思っている――小鬼の風貌も、強大な存在へのコンプレックスもこの場所では関係ない。偉そうな魔王も、美しい天使もLV1。彼にとっては楽園だ。
「――伸し上がってやルゾ!」
「まつりは今、異世界にいるー!
『LV1』……! まつりでも、戦えたりしちゃうんだ。よーぅし!
 折角異世界に来れたんだし、まずは名前を、変えちゃおうかな♪」
「特異運命座標(イレギュラーズ)……面白いかも知れませんね。
 私の翼では辿り着けないと思っていた広すぎる世界も、ここからなら届くかもしれないのですから」
 非常に前向きに気合を入れ直したまつり――今日からここではフェスタ・カーニバル――や、Lumiliaも理由こそ違えど、目の前に広がる冒険の地平に興奮を隠せない様子だ。
(イレギュラーズ。わたしを探せるいい機会かも。
 海種のわたしが初めて見る空からの眺めのように――知らなかった事がきっと見つかる!)
(――新しい旅に出たい。僕は確かにそう思っていた)
 そしてそれはココロも、行人も。
(……これは、夢? いつも思い描いてた、夢。
 夢でもいい、今この時を楽しまなければ後悔する――)
 いつの間にか肩に止まっていた小鳥と共に歩き出したレイも同じ。
「ああ、日に晒され海に落ちて……眼を開けたら空だった。
『こうしていられる』事自体が――新しい生活なのかも知れませんね」
 愛用の日傘をくるくると回したエリザベートの足取りは何処か軽かった。彼女は彼女の世界において最強の種族ともされた吸血鬼。日光に弱く、流水を嫌い、白木の杭(ホワイト・アッシュ)を大層嫌う――そんな普通の吸血鬼だった。しかし、この世界では吸血鬼の能力と共に彼女を戒め続けた弱点の方も影を潜めている。良し悪しだが、悪くはない。
「……大層な事情は分かったけれど、自分の世界に私を召喚した神か何かの度胸には感心するばかりだわ」
 そう呟いたロザリエルは寛容かつ寛大にも、優雅なディナーの途中で呼び出されたという無作法の方は忘れてやる事にした。唇を僅かに舐めた彼女は先程のざんげとのやり取りを思い出している。

 ――ところでここは、人間を狩って食べても良い感じの世界かしら。
 駄目だと日々の楽しみの一つを失う事になるのだけれど

 ――状況が許すならそれも可能性の一つじゃねーですか?
 別に推奨はしませんけど。そういう種族も居ますし、仕事や事情次第かと。

 勿論、実際にどうなるかは状況次第だろう。
 些か面倒臭くも空気を読む必要もあるのかも知れない。だが、これは聞くからに楽しそうではないか。

 ――《閉架書庫》は光を好まない。書が焼けるし、熱で頭が散漫となる。
 けれどその不興を越えて、この未知への高揚が。この無知への落胆が。私の足を進ませる――

 風を嗅ぐ。土を食む。人に問う。この地平を新たな既知にする為にユザが外の一歩を踏み出した。
「……お姉ちゃん」
 見ず知らずの土地、一抹以上の寂しさ。
 エリーゼはぎゅっと自分の腕を掴み、不安と恐怖を押し隠して、未知の一歩を踏み出した。
「さて、イイ気分にさせてくれるような未来が待ち受けてくれているかしら」
 力を失おうと魔王は魔王。その威厳と威風堂々たる有り様はそのままに――パルスィディアは愉悦を一歩踏み出した。
 暗夜が如く、一歩先の未来さえ想像つかない――くつくつと笑った彼女は厭わない。
「ここに居場所があるとしたら、そこがわたしの第二の人生になるのかしらぁ……
 そうだとしたら、ここに呼ばれた理由も分かる気がするのぉ。
 だから、わたしは歩んでいくわぁ。第二の人生になる、この土地で……」
 夫、そして子供を亡くしたアウローラは未来を一歩踏み出した。
(見知らぬ場所、見知らぬもの。それらを見て思ったんだ)
 茫洋とこれまでとこれからを考えたシキの表情は晴れていた。
(あぁ、処刑人の家系に生まれて、嫌われて、蔑まれて生きて、死ぬんだと思ってた。
 ……でも、こんなあり得ないことが起こるならきっと、これから先もなんだって起こる。
 生まれ育った荒野で、最後まで蔑まれて生きて……そんな人生では終らないんだから)

 ――特異運命座標になった(おわらなかった)んだから!

「……やれるだけやらしてもらうよ?」
 誰に言うともなしにそう言ったシキも又、夢(やぼう)を一歩踏み出した。
(母さま達がこの事を知ったら「メイイェル家の名を上げる為に力を使え」と仰るはず。
 確かに、ぼくはその通りに動くのでしょう――)
 でも。
 この日、アティス・メイイェルが見た世界は確かに今までとは違う色彩に満ちていた。
 彼は思ったのだ。思ってしまったのだ。
(でも、ぼくは、ぼくとして――メイイェル家の為だけではなく。
 ただの『アティス』として、この力で可能性を切り拓きたい――)
 アティスは、生まれて初めて。他者の侵せざる強い決意を踏み出した。
「これから、どんな事があるでしょう」
 籠の中の鳥の様な窮屈な生活に耐えかねていたリリルは自由という一歩を踏み出したのだ。
「どんな出会いがあるでしょう。どんな冒険が、ピンチがあるのでしょう――」
 ――この世界はきっと。余りに広く、余りに理不尽で、余りにも美しく、どうしようもない位の混沌に満ちている。
「――どんなピンチも乗り越える!
 空前絶後! 絶対無敵! 勝利はわたしの為にある!」
 そして――今まさに『リーナたん伝説』を一歩踏み出すエスタ=リーナが眼窩に見下ろた無辜なる混沌のスープの味は、どんなものになるだろう?

『史上最大の大規模召喚』は当事者以外にも――全ての者にも影響を与える一大トピックスになる。
 彼等は誰かを救い、誰かを打倒するかも知れない。国に影響を与えるかも知れない。世界を動かすかも知れない。
 今、神殿に呼び出された者と同じく――既に運命を背負っていた彼等『先行者』の未来さえも動かす事になるのだろう。
 特異運命座標(イレギュラーズ)の物語、Pandora Party Projectはこれより始まろうとしている。
 外界から見上げた神殿で、あの厳かな空中庭園で、オーナーが不敵に勇者が出迎えるローレットで。
 もうすぐ、間もなく。全ての運命が動き出す。

 ……高いところにいたんだ。『そら』に一番近いところ。
 雲ひとつ無い、澄み渡る一面の青。
 きっと始まったのは――あの空を泳ぐ鳥になりたいそう願った時。
 この手を、いっぱいに伸ばした時だったんだろう。
 視界が青一面に埋め尽くされて、ふっと身体が浮かんだ気がして。
 僕は文字通り、『そら』とひとつになったんだ。

 今一度、Sentirが見上げたソラは圧倒的に高く――同時に澄き通っていた。
「僕が、――世界を救うだって?」
 蒼穹に吸い込まれた声に応える者は無いけれど。

 ――敢えて言おう。ようこそ、混沌へ。
 全ての特異運命座標(イレギュラーズ)に祝福を!



 リプレイ:YAMIDEITEI

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