PandoraPartyProject

SS詳細

九尾の狐と一人の少女

登場人物一覧

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
妖樹(p3p004184)
彷徨う銀狐

●尊き温かさ
 ローレットには様々な依頼が流れて来る。簡単なモノからチームであっても難しいモノまでだ。皆がよく知る依頼としては大体が八人編成、多くて十人――と言った数で動く依頼だろう、が。
 この日アンナ・シャルロット・ミルフィール (p3p001701)が受けた依頼は単独での依頼だった。内容自体は実に簡潔で、ある荷物を早急に運んでほしいというモノだ。問題なのはその距離。
 遠い。ひたすら遠いのだ。いやソレだけならまだマシだが時折。
「ガアアアアッ!」
 道中で出てくる出てくる動物の数も合わさると厄介だ。
 狼型。鳥型。蛇の様な奴から一見すると可愛らしいが狂暴な性質を持った熊まで――成程、こんなにも野生動物が出るのだからローレットにわざわざ依頼が来たのだと納得する。幸いにしてそこまで手強い者達ではなく充分に対処は出来るのだが……
 あまり無益な殺生も気が引ける。軽く打ちのめし、あるいは戦い事態を避けて事を進めたが。
「……さて、今日中に帰ろうとしたのまでは間違いだったかしらね」
 行きはまだ体力に余裕があった。故にまだ帰りの分の体力もあるだろうと踏んだのだが……どうも日が暮れる方が早そうだ。行きよりも動物達に足止めされてしまったか。今はまだ夕暮れ時と言った段階で明るいが、あと数時間もしたら暗くなってしまうだろう。
 長距離の行軍と重なる戦闘で疲れも溜まってきた……なんとか振り絞ってあともう少し頑張ってみるべきか。それとも野営でも選択すべきだろうか――思考を始めた、丁度その時。
「あ、ら?」
 視界の端、見えたのはテントだ。それも不思議と『見覚え』のある気がして。
 もしかして――? そう思った時には既に歩を進めていた。
 一歩、二歩。進み続けて中を覗けば。
「おや? 誰かと思えばこれはこれは……久しぶりだね、アンナ」
 そこにいたのは妖樹 (p3p004184)だ。己が知古。銀色の毛並みを有した大きめの狐である、外なる旅人。ここ暫くは顔を合わす機会が無かったが……よもやこんな所で遭遇しようとは。互いに意図した訳でもないのだが巡り合わせが良かったのだろうか。
 『旅人の館』と称す、移動式のテントに遭遇できるとは。
「ええ久しぶりね……今日はこんな所に? もしかして貴方も依頼の帰りだったりするのかしら」
「いやはやそうでは無くてね。なんというべきか……そう。
 純粋に、自然が中々溢れていて空気も澄んでいて――偶々留まってたのさ」
「結構な数の動物、出てくるけど?」
 妖樹の返答に薄く笑みを見せるアンナ。とても腰を据えて落ち着けるような場所ではないように感じるが……『そう』出来ているのは妖樹のギフトの賜物でもあるのだろう。妖樹には己が気配を、いや正確には他人からの感知能力を和らげる『蜃気楼』なる能力を持っている。単独で潜伏する事にかけてはうってつけと言える力だ。
「ハハハまぁギフトというか、それだけじゃないんだけどね。ところでアンナはどうしたんだい? さっきの言葉からするとどうも依頼が終わった所みたいだけれども……日も暮れ始めて悩んでいた所かな?」
「えぇ正にその通りで、ね……突然で悪いけれど、少し休ませてもらえるかしら」
 勿論君ならば、と妖樹は容易く了承する。
 見た所お疲れの様子。そんな知人の頼みを無下にするつもりなどなく、テントの広さにも余裕がある。どうぞ、とばかりに彼女を快く迎え入れて。
「ゆっくり休んでいっていいよ。あぁ外の動物達は特に心配ない。
 この辺りの連中はね、あんまり忙しなく動かなければ割と見落とすのさ」
 先の『それだけじゃない』とはその事だった。急いで動いてしまう事が刺激してしまうのだと。目よりも耳で得物や敵を捉える性質が強い、と言う事だろうかと妖樹は推察していて。
 アンナは依頼の性質上どうしても急がなければならず、結果として動物達の耳か目についてしまった訳だが――テントの中に入り休む分には危険はないのだと妖樹は紡ぐ。されば。
「ふ、ぁ」
 知り合いがいるという事。外よりも安心できる空間という認識から緊張がほぐれたのだろう。ふと、アンナの口から吐息が漏れて。
「おっと、眠そうだね?」
「ええここに来るまでちょっと体を動かしすぎて、ね……流石に疲労が溜まったみたい」
 擦る目元。如何にイレギュラーズとはいえ一日中動いていれば疲れも出る。故に。
「成程それなら――僕の尻尾を枕にするかい?」
 妖樹は複数の尾を持つ狐だ。その日その時の精神――というか気分で尾の数は変化する。
 最大九つ。今の数も九つ。貸そうかい? とばかりに尻尾を揺らめかせれば。
「ぜ……いえ、妖樹さんの尻尾を布団代わりには……流石に悪いわ」
 是非、とアンナはつい言いかけるが踏み止まった。嫌な訳ではないのだ。むしろ可能であるならばもふりたい。顔をうずめたい所だが、駄目だ。相手はぬいぐるみやペットの類ではない。生きている、自らの知古である……!
 流石に礼を失する訳にはいかないと、凛とした表情で申し出を丁寧に断る。疲労の身には実にありがたい申し出だが個人的な欲に負ける訳には――
「なぁに疲れているなら遠慮しないでいいよ。僕とアンナの仲だし、ほら。ほら」
 ああぁ揺らめく尾が二本に増えた。もう駄目だ。
「……まあ……妖樹さんがそこまで言うなら少しだけ」
 せめぎ合うアクセルとブレーキ。囁く悪魔と天使が伸ばす手を恐る恐るとさせる。この段階に至りても最後の一歩を踏み出すべきか悩んでいるのだ。躊躇うは日々前面に押し出している己が『大人』がそうさせて。
 それでもその指先に妖樹の柔らかな毛先が触れれば。
「――」
 後は落ちるのみ、だ。
「ん、この尻尾……ふわふわして、心地良い……」
 包まれる。妖樹の銀色の尾に。今までに感じた事が無いほどの極上の天国に。
 自らの部屋に取り寄せたぬいぐるみ達の比ではない。いや、ぬいぐるみ達の質が決して悪い訳ではない。ないのだが、生物としての熱を伴う妖樹の尾は無機物とは全く別の柔らかさと温かさをアンナに感じさせるのだ。まぁそれを差し置いても妖樹の尾の感触は別格であると感じているが……!
 少しばかり動く感触は生きている者故の特徴でもある。ああぁこれはいけない。絆されてしまう。このままでは己が心を駄目にしてしまいそうだ……! すぐにでも離れなければ危険だ――というのに。
「ふふ、自慢の尻尾だからね。存分にくつろぐと良いよ、時間の許す限り」
 そんな事を言われてしまったら傾倒してしまう。この依存性が高い尻尾に……!
 もっふもふでふっわふわ。そうとしか形容出来ない程のもっふもふでふっわふわ。
 妖樹自身『自慢の』と言う程の事がある感触である。存分にアンナは堪能していれば。
「ええありがとう……っと? そういえば今日は九つなのね」
 その時、アンナは妖樹の尾の数に気付いた。
 いや数だけではない。全ての尾がいつもよりどことなく長く、大きい気もする。何か良い事でもあったのだろうか? 妖樹の尾が精神状態によって変動する事は知っているが……
「ふふ――さて何かあったかな。ああ、ともすればきっと」
 尾で頬を撫ぜる。くすぐる様な、そんな感覚に包まれながら。

「君に会えたからじゃないかな、アンナ」

 妖樹の優し気な声を聞いた。視線を横に、目を合わせて。
「……口が上手いわね。最初から九つだったでしょうに」
「それはそれ、これはこれ。嘘でも方便でもないさ」
 来る前からそうであったのと、来た後もそうであった事。それは意味が同じではないのだと。
 全ては移ろいゆくものだ。人も、年月も、世界も。
 多くの時を経て。永き時を渡り歩いた妖樹はその意味をしかと知っている。
 それでも一時一時に同じ重なりは無く、須らくが一期一会。
 今日というこの日。今というこの瞬間に知古に会えた奇跡は愛おしく。
「さぁゆっくり休むといいよ――アンナ」
 おやすみ、と紡ぐ言葉と共に。瞼を閉じさせるかのように上から下へと。そのまま頭も撫でて。
 包み込む。九つの尾で、疲れ切ったアンナを優しく愛しむ様に。
「……ぅ……ん……」
 ゆっくりと意識が落ちていく。そこに苦痛は無く、ただ心地よさだけがあって。
 いつぶりだろうかこんな感覚は。そう、これは遠い昔。
 今はもう亡き『誰か』にこのように――撫ぜてもらった様な気がするが。
「……」
 刹那。瞼の裏に一瞬通り過ぎたはかつての日々。皆が揃っていたあの日々。祈りを捧げた過去。
 今はもう取り戻せぬ『かつて』は――懐かしく。
 それでも、その景色を確かなモノとして思い起こす前に眠りに落ちた。

 穏やかな寝顔を妖樹は見る。起こさぬ様に、尾を絡めながらアンナを潜めて。
 自身もまたゆったりと時を過ごすべく――身を伏せる。
 外から聞こえる小鳥の鳴き声。段々と暗くなる気配を感じながら。

 今はただ揺蕩おう。

 確かな温もりが、ここにあるのだから。

  • 九尾の狐と一人の少女完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2019年06月30日
  • ・アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701
    ・妖樹(p3p004184

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