PandoraPartyProject

SS詳細

闃ク陦灘ョカと赤

登場人物一覧

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王

●闃ク陦灘ョカ
「せんせー、色でない。明日絵の具買ってくるから、今日はもう帰らせてよ」
「否。其れは貴様の不手際であり準備をしていなかった貴様が悪い。私の臓物を貸そう」
「なにそれ、せんせー頭おかしいでしょ……この機会に言っちゃうけど、先生って黒くて、見えないしさ。
 みんなせんせーのこと無理って言ってんだよ。臓物がなにかはよくわかんないけど、そんなに絵を描かせたいならお手本見せてよ。ほら」
 クラスでは一軍だとかそういったよくわからない言葉が流れている。その女子生徒は一軍とやらに所属しているようであったが。
 たっぷりと色を含みくらんでいるはずの絵の具チューブを空だと言い張るその目は飾りだろうか。足を組む生徒。
「嗚呼、手本が欲しいといったではないか。ならば見せてやろう。私は闃ク陦灘ョカである。嗚呼、此れは別世界での『芸術家』を指す言葉であり貴様らに聴き取れなくとも私の興味の範疇などではないがな。Nyahahahahahaha!!」
「……??? わけわかんない、ノイズがするんだけど。ちょっと、せんせ、」
「臓物というのは内に潜んでいてな。手本を見せようにも私が不足してはいけぬので貴様のを拝借するとしよう。何このくらい『人間』だと云うのならば些細で陳腐で、只の『物の貸し借り』に過ぎまい」
 こぷ、こぷ、こぷ。
 嗚呼、先生も女の子なのだから傷ついてしまう。人間なのだから悲しくなってしまう。
 せっかくの『化粧』を馬鹿にされてしまうのは!
 人間の内とはやけに単調でsimpleでくだらない。明度彩度を変化させただけのつまらない単調な赤と白にまみれているのだから。
 命短し恋せよ乙女とは誰が言ったか、乙女の命が短いというのならば人間の命とは此れ以下に。乙女と人間とは同じであって違うのだろうか。解らない。
 理解できぬことは先生に聞けばよいと言っていたのを思い出す。ああそうだ。この身は先生の皮を被って人間として暮らしているではないか!
「ま、こぷ、が、あ、あ、あ、あ、」
「貴様の臓物はやけに彩度が高いな。素晴らしい臓物だ。これから手本をやるから見ていなさいと言えばよいのだろうか、わからぬ。嗚呼そうだ、彫刻に色を塗ろうか」
 力の入らぬ死にかけのパレットを試行錯誤して座らせ、借りた臓物を返却しようと元の位置に押し戻して封をして。
「見えるか?」
「ぁ……ひゅ……」
「ならば始めようか。色彩とは無秩序。空間とは美徳。特別授業だ。貴様の為だけのな。Nyahahahahahaha!!」
 いつのまにやら用意してあったのは生徒と似た木造。笑う姿はそっくりそのまま生き写し。嗚呼可愛い。此れはいつもの私ではないか。現状理解に遠く及ばず、無慈悲に滴るカーマイン、ルビー、ガーネット、赤き雫。
 それらを余すことなく拾い上げ、あるいは筆に塗りたくり、そうして木造は赤を吸う。孕む。満ちる。
「この赤は有限でな、美しいだろう。貴様の色を塗りたくるのだ。貴様にとって貴様は個であろうか、無であろうか、しかし私にはその個を必要とする感覚が理解できないのだ」
「……」
 嗚呼ひどいノイズだこと。雑音だこと。先生のれくちゃあ、つまりは特別授業は続く。いつになく真剣な筆。握られた数はひいふうみいいつむうななやあここのつとお。あれ、おかしい、手の数と合わないような。まあいいか。
 ぴちゃぴちゃぐちゅぐちゅごりごりざくざくにゅぷにゅぷずるずるごとり。
 聞き取れる音は彫刻だというにはあまりにも水分を含んだBGM。先ほどまでは私の一部だったはずなのに、今となっては美しき臓物パレット絵の具どれにも当てはまる!
 闃ク陦灘ョカ(私には理解できない音と周波数とその他もろもろの口の動きで構成されている音!)の彼女が作るものは芸術。芸術とは爆発だと誰かが言ったらしいけれど、あいにくその芸術を実行する前に私は死んでしまうのかもしれない。
 理解不能。理解不要。
 言葉など存在しない。その芸術はあるがままに存在する。
 私の為に作られたというその芸術はすなわち冒涜。私の為に作られたという彫刻は即ち暴虐。赤と白で生まれたその芸術に私は涙し、魂を握られ、そして意識を暗転に沈めた。

●げいじゅつか
「……ぇ」
「寝るな」
「あ、ごめんなさい」
 時計の針は巻き戻され先ほどの時刻を指し示す。よだれをたらし寝ていたようだ。
 真っ白だったはずの紙の上にはいくつか赤の絵の具が落ちていて、私は寝たせいか身体が軽くなっていて、案外芸術を理解したような気になって、あまり使っていなかった絵の具をパレットにこれでもかと広げ美術を、芸術を追求したような気持になっていた。
 私はいつから赤が好きになったのだろう。
 嗚呼でも赤を塗りたくるのは楽しくてこれこそが闃ク陦灘ョカへの第一歩なのかもしれない。
 あれ。
 闃ク陦灘ョカ……?
「せんせー、闃ク陦灘ョカって……私も、なれますか?」
「何? 己が芸術をぶちまけ形作るもの皆が闃ク陦灘ョカなのだ。貴様の芸術を見せてみろ」
「! はい!」
 マンつーマンで居残りをして、芸術を生み出して、赤を彩って、壊して、無垢を描いて、泥濘を求めて。
 そうして作り出した私だけの芸術を、先生は頭を撫でてほめてくれたと思う。
 よく思えば先生は前々から化粧がとっても上手で、ホイップクリームが大好きなところなんかとってもかわいくて、大好きな人がいるのだとほほを染めて語っていたようなときもあったと思うし、そんなところを見たときはとってもキュンキュンしたような気がする。私は美術が大好きなのに、なんで嫌いだとか言っていたんだっけ。こんなにも芸術を表現するのは楽しいのに!
「せんせー、明日も私、ここに来てもいいですか?」
「構わんがもう一日に二度も特別授業をするつもりなど微塵もないわ。貴様の心構え一つ準備してこい」
「え、特別授業なんてしてもらったっけ? 嘘、ええ、レアじゃん、あんまり覚えてないのなんでだろ……また特別授業ってしてもらえますか?」
「貴様次第だな、Nyahahahahahaha!!」
「にゃはは! うーんうーん、わかりました、良い子にしてるんで絶対やってくださいね!」
「話を聞いていたか?」
「え、はい!」
 パレットに水分をたらさず塗りたくられた原色純色の数々は混ざり合って溶け合って黒に堕ちて。けれどその黒ですら不完全だというのならば、私たちの瞳が写しているこの世界は一体何色だというのだろうか。
 先生のきれいな化粧の下に、純粋な黒が見えたような気がして、私は思わず目をこすった。

 キーンコーンカーンコーン……。

「あ、最終下校の時間だ! せんせーさよーなら!」
 美術室を飛び出た私。嗚呼、何か忘れているような気がする。
 何か。
 からだが。
 かるい。

「貴様、臓物を忘れるとは鳥頭にも程がある」

  • 闃ク陦灘ョカと赤完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年10月03日
  • ・ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569

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