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それは何の変哲もない日常
登場人物一覧
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それは数いる
中でも『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)の出身世界はその『現代日本』の基準から大分未来を辿る世界だと言う。
世界は主に酸性雨等の異常気象により治安が悪くなり、ねねこが住む日本は現在鎖国を行っている。
して、この国は何故か酸性雨も比較的少なく政府が管理しており異常なほど治安がよい。しかし国民の行動が緩めに監視されている国でもあった。
その事に不満を漏らす人間は極一部で、ねねこは他愛のない事だと……この悪情勢を『何の変哲もない日常』だと思っていた。
「ふあ〜」
そんなねねこは自然と目が覚めた。
大きく欠伸をし伸びをして目を擦る。ベッドから立ち上がる前に確認した目覚まし時計の短針はまだ六時にも指してなかった。
「私……早く、起きてたんですね……」
でも今日はどうして早く起きれたのかわかっていた。
「それぐらい今日の放課後が楽しみだったんでしょうか……」
今日は昨日テストでいい成績を納められた為、ねねこは自分へのご褒美として寄り道の申請を予定していた。
酸性雨の事もあり彼女は滅多な事では外出が出来ないようで、今回はとても頑張った様子なだけに、ねねこは自分も心做しか結構楽しみにしているのだと知る。
「もう放課後が待ち遠しい……」
であれば、ねねこはベッドから立ち上がり学校へ行く身支度を進める。昨日のうちに用意していた、今日の時間割通りの教科書とそのノートを確認して、忘れ物は無さそうだとその鞄を持ち自室を出て階段を下った。
「今日は……雨ですか」
朝食を食べ終え登校時間となったねねこは玄関を出た。降っていた雨に大きめの傘を広げる。両親が濡れてはいけないよと言っていたから、大きな傘を買った。
ねねこにとって『雨』は
嘗て長靴でパシャリと音を立てながら水溜まりで遊んだり、突然の雨に濡れてしまったと言った事は、ねねこにとって遠い昔話のようで、現実味のない話に思えた。
教科書では習ったもののねねこと同世代の子供達にとっては想像ができない世界で、この世界のこの時代では雨はすっかり
それでもそれがねねこ達にとっての
「カフェに行けたら何を食べよう……パンケーキでしょうか……それともパフェもいけちゃいますかね……!」
ねねこは余程放課後が楽しみなようで、学校へ行く足取りも早くなる。ああ、これから放課後だったら良いのにと言う考えが何度も巡ってしまう。
「おじさん! 今日の朝刊を下さい!」
「おう、ねねこちゃん! 朝刊ね、毎日毎日偉いこって」
「うちの親が新聞はいい教科書だって言ってたので……」
「それでもねねこちゃんぐらいの年代の子が新聞を読むなんて、滅多にいないって事さ。はい、朝刊」
「ありがとうございます!」
学校に着いて一番最初にねねこが訪れたのは、今日のシャッターを上げたばかりの学校の購買所だった。
今よりも充分にインターネットが発達した世の中で、新聞を読む若者なんてそう居ない。しかしねねこは新聞の事を『手軽で優秀な情報誌』として、毎日読み続けている。
「これが習慣になってるから……」
そう、彼女の習慣の一つでもある。だがそれも含めて密かに日々の楽しみでもあった。新聞には沢山の知識、情勢がある……その他に四コマや詩など人のアイデアが垣間見得るページもある。ねねこにとってはどれも新鮮で面白いものばかりなのだ。
(カフェに行けたらそこでゆっくり読もう)
カフェでの時間だって充実したものにできる。新聞とはねねこにとって、そういうものなのだ。
「……はい、はい。物部・ねねこさんね……確かに先日のテストの成績が良かったようです、寄り道を許可しましょう。ですがなるべく早く帰るように心がけて下さいね」
「ありがとうございます! はい、暗くならないうちには」
ねねこはその後職員室へ向かい寄り道の申請をし、ちゃんと通す事が出来たようだった。
(ああ、これでカフェに行ける! 勉強頑、張った甲斐がありました……!)
ねねこはここが職員室だから……と、溢れ出しそうな喜びを密かにしつつ心の中で大きくガッツポーズを決める。
カフェに行くと言うちょっとした楽しみが、ねねこにとって勉強への一つのモチベーションとして確立されている様子だった。
放課後になっても雨は止んでいなかった。
ねねこは少し残念に思いながらも、けれど今日は特別だから……彼女の気持ちは晴れやかだ。
「まだ悩んでる……パンケーキとパフェ……ううーん……カフェについてから決めた方がいいですかね……!」
カフェへの道のりですら楽しい。酸性雨が降り続いていても、その雨が他の生き物たちを痛めつけていても、ねねこにとってはこれが
その雨が植物を枯らし、その雨が溜まった溜池で魚が水面に浮かんでいても、その雨による人間への被害が増え続けていたとしても……。
「さて着きました!」
そのカフェは良い感じにオシャレな外観で。内装はアンティークなもので揃えられていて古めかしい雰囲気ではあるものの、綺麗に整えられていた。ねねこのテンションはますます上がっていく。
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
「はい!」
「ではご案内します」
従業員の制服もシンプルながらもオシャレなもの、このカフェの雰囲気に損なわないものだ。ねねこは思わず笑みが零れる。ここにはどんなメニューがあるだろう? 逸る気持ちを落ち着かせながらも、案内してくれる従業員について行き……その席へ辿り着いた。
「こちらになります。ご注文がお決まりになりましたら、このベルを鳴らして下さい」
「わかりました、ありがとうございます!」
従業員が去って、ねねこは待ってましたと言うかのようにそのメニューを開いた。
「わぁ……このパンケーキ美味しそうです……あ! パフェの飾り付け豪華!! これは……迷ってしまいますね……」
うんうん悩んで……悩んで悩んで……五分ぐらい悩んだねねこは漸くパンケーキ決めたようだ。また次来れた時に頼めればいいよね、と思っていたところでふと思い出す。
「そう言えば……次のテストの成績が良かった時は茜さんと廃墟に行く約束をしてましたね」
パフェを食べるのはまた先になりそうだなと思いつつも
「友達との探索ですし……今回よりも気合を入れていきましょう! 行けなくなったら……悲しいですから、ね……」
よし! と気合を入れたねねこはパンケーキを注文し、待ってる間新聞を開いた。
その探索がどんな事になるかも知らずに……。
世界の歯車は密やかに回る。それが澱んで狂った錆び付いた歯車であってもだ。
染み込んだ