PandoraPartyProject

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忌まわしき夜の夢

登場人物一覧

エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
エルス・ティーネの関係者
→ イラスト



 ──Erstine・Winstein。
 それがこの世界で記憶を失った後の『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の名前だ。





 ──これは夜の世界の話。
 無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスとは別の世界の話だ。
 この世界は一切明ける事等ない闇空が広がる。地上では洋風の建物が所狭しと建ち並び、中でも一際目立つのは……この世界の王が住まう城を守る城壁。無機質な壁はまるで王と平民を分かつように建てられ、外から王の姿を確認する事など到底出来なかった。
「Lillistine様は今日もお綺麗ね……」
「俺達の税金……あの姫さんのドレスに使われてるってホントか?」
「シッ! 騎士共に聞こえちまうよ! 侮辱罪で殺されちまう!」
 国民達は王に対し沸々と不満を募らせていた。それも当然の事で、Erstineの義妹であるLillistineは贅沢三昧な生活を送っていたからである。
 その姿に王は何の言葉もかけない。こんな状況に国民は何故支持出来るだろう。
「だがあの始祖種を殺っちまったんだ、絶対的な王には違いねぇ」
「だな……あの始祖種を殺しちまった奴だ……力で敵うはずねぇよな」
 それでも王として君臨し続けている理由ワケは、だからなのである。
 現王……Erstineの義父にあたる男は、彼女の実父である始祖種の王を討ち、その王冠を奪い取ったのだ。
 それは純血種にとってとして称えられ、王として君臨する事を許す事になってしまった。

 だが彼の予想外はErstineを殺せなかった事。

 彼女を殺せば罰が下る──彼女の幸せな記憶と引き換えに、始祖種の王は我が子に守りのお呪いを付与していたのだ。
「こののろいを解く方法を早く探さんと……Lillistineを王に出来ないッ」
 義父は執務室での仕事の傍ら、からおまじないを解くべく本を読み漁っていた。

 ──その、一方で。

「Lillistine様、どうかお許し下さッ」
「ふふ、もう、遅くってよ」
 瞬間、銀の剣を無遠慮に振るい落とされた相手は崩れるように灰と化した。
「貴族如きが……リリを叱りつけようだなんて……立場がわかっていないお馬鹿さんですね! アハハハハッ!」
 狂ったように笑う桃色の髪を靡かせ桃色の煌びやかなドレスに身を包む桃瞳を持つ少女が、その銀の剣を持っていた。
 銀はこの世界の一般的な吸血鬼にとっては弱点。着飾る事は出来るものの、刺される等して体内へ侵入した際その銀毒はその身体を灰へと変えるのだ。
「ねぇ、それ、片付けておいて下さいましね。リリはこれから三時のおやつとしますので」
「は、はい! 直ちに!」
 怯える使用人に目もくれず、その少女Lillistineはその部屋を出た。
「ガイヤ様を殺してしまうなんて……」
「貴族側でも力のある勢力のご子息を……」
「これがバレてしまったら、貴族側からお怒りが……!」
 どうやら重大な貴族の子息が殺されたらしい。使用人達は焦りながらも半分諦めたように項垂れていると
「またLillistineなの?」
「Erstine様!!」
 そこへ現れたのはErstineだった。シンプルな青いドレスに宵の髪、Lillistineとは打って変わった青の瞳が煌めく……まるで……いや、紛う事なきこの国の姫その人。
「仕方の無い子……ガイヤ様は確かラナルーダ家の子息だったわね。あそこは確か土地を欲しがっていたはず……ああ、もしかしたら三男であるガイヤ様は生贄の可能性も……罠の可能性もある、慎重に調査した上で対応してみて」
「Erstine様!」
「この知恵を感謝致します……!」
 急いで動く使用人達を後目に、Erstineは床に広がる灰を見て哀れみを浮かべた。
「はぁ、あなたももし生贄だったのなら哀れな生だったわね……どうか安らかに」
 しゃがみ込み灰をひと掬いしたErstineのその姿は慈悲深い姫そのもので、その掬った灰をまた元の場所へそっと落とす。
「……シャウラ」
「はい、Erstine様」
 Erstineがこの部屋の扉の方へその名を呼べば、瞬時に姿を現したのは女性の使用人。
「そろそろ部屋へ戻って勉強に入るわ、紅茶をお願い出来る? ミルクをつけて」
「……Erstine様。Erstine様は表舞台へ出られないのですか?」
 そこで指示を受けた使用人は質問を投げかけた。
「……何度も言わせないで、お父様の命令だと言っているでしょう? 私は王になるまで勤勉に励めと言われているの、だから今日もそれに励もうとしているのよ、邪魔しないでね?」

 お父様は言ったのだ。
 ──知性のない者は王に相応しくない、と。

 だから彼女Lillistine。Erstineは何故か盲目的にそう強く確信していたからこそ、この王からのも甘んじて受けていたのだ。



 ──また別の日
「城が騒がしいわね……今日、何かあったの?」
「あ……その、Lillistine様がパーティーを開かれていて……」
「……そうなの」
 自室で勉学に籠っていたErstineはと言った様子で、その後興味がなさそうに参考書へ視線を戻した。
「パーティーも民の税金が使われております、王はLillistine様に何も言いませんし……Erstine様から何か言う事は出来ませんか?」
「……ごめんなさいね、リナ。私もそれは重々問題だと思ってる。けれどLillistineはきっと私に耳を貸さないと思うの」
「ですがっ!」
 使用人は声を荒らげる。Erstineは物心ついた時からパーティーを開いた事も、参加した事も無かった。一度たりともだ。
 対してLillistineは週に何度やるのだろうと思わせられる程に開いており。
 財源も湧き水のように湧いてくるわけではない、いつかは枯れ果ててしまうだろうに……Erstineは深くため息をつく。
「……あの子もまだ千歳に満たない……結局はまだ子供なのだと思うの。お父様もきっと頭を抱えているはずだわ、もしもお父様から何か指示があった時は瞬時に対応してあげてちょうだい」
「Erstine様……」
 納得のいかない表情を浮かべる使用人を後目に、Erstineは紅茶を一口啜る。
「今日の茶葉は香りが良くてまろやかね……ナルダ領の茶葉かしら?」
「え、わかるのですか?」
「わかるわ、あそこは確か土が良くて……新種の茶葉の研究にも力を入れてる茶葉業界では有名な領地でしょ? それにこのミルクはミルーカ領のものね、あそこは餌に拘ってて……」
(Erstine様……他の領地の事まで把握されて……?)
 千年と満たない期間を姫と言うには小さなこの自室でずっと過ごしているErstineを思えば、使用人はその姿に目を見開く程に驚いた。
「……その知識量ならば、姫でなくとも貴族の夫人としてもやっていけるのでは……縁談をお持ちしましょうか?」
「……ふふ、だめよ。私は王を諦めない。だって……たった一人生き残った始祖種なの、ちゃんと民を導くべく勉強しなきゃ!」
「Erstine様……」
 真面目で健気なErstineに使用人はもう言葉をかける事が出来なかった。
 窓の外から見えるLillistineを見てまたため息を着く。この国を変えられるのは……もう私だけなんだと強く強く決意を改めて。



 後に酷い裏切りがあるとも知らずに。

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