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SS詳細

たった一寸の襤褸命運

登場人物一覧

ギルオス・ホリス(p3n000016)
ショゴス・カレン・グラトニー(p3p001886)
暴食

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 お腹が空いたよお腹が空いた。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 食べたいよ。食べたいよ。とてもお腹が空いたんだ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 ねぇ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 聞こえているでしょう――そこの貴様。
 愚生を見ているそこの貴様。





 ――夜。
 天を見上げれば星屑が隠れている。雲という帳に塞がれて、恥ずかしがり屋の月は顔も見せない。
 それでも地上では人の営みの光に溢れるものだ。
 彼らは眠らない。己らの欲がそこに在る限り。
 彼らは眠らない。眠るべき時が来るまで。
「うぅ……皆して酷いんだ……何がチャレンジだ……突然ビンタされる僕の気持ちにだね……」
 その光から逃れる様に。顔を赤らめ不確かな足取りで進むのは――ギルオス・ホリスだ。
 頬の色はアルコールの類であろう。千鳥足、と言う程ではないが些か力無き歩き方をしていることからも『そう』である事が見て取れる。何かストレスでも溜まっているのだろうか……チャレンジとは一体……? まぁ些細な事なのでその辺りは良しとしよう。
 ともあれ彼は歩いている。ほろ酔いを少し超えた辺りの顔色で。
 酒の匂いが薄れる所へと。
 ああ夜風が涼しい――このままもう少し歩く事だろうか。それとももう家にでも帰ってしまおうか――
「ん……あれ、ええとここは」
 と、ふと。気付いた時には少しばかり道を逸れていた。
 いやなんとなく自分がいるおおよその位置は分かるが――この辺りはあまり来ない場所だ。見慣れている道でも外れればいきなり別世界の様に感じる事もある。見た事がない景色がその網膜に映るが故に。
 眼前には光が無い。薄暗い、どこぞの路地裏だ。
 『ぐるり』と回る頭の感覚を掻いて抑えながら、思考する。『どうしたものか』と。
「ええとええと……うーん、確かここは、えーあの辺りだから確か真っすぐ進めば」
 また知った道に出られるはずだ。
 思い浮かべる空から見たこの辺りの地図。うろ覚えだが、方角さえ分かれば最終的に望んだ位置に着くぐらいの事は出来るだろう。なぁに世の中上手く出来ているのだ。適当に進んだってなんとかなるさ――

 ――だめだよ。そんな事をして、より深く迷ったらどうするんだい?

 瞬間。左の耳に聞こえてきたのは己が良心、天使ギルオスの声。
 彼は『良き道』を勧めてくる。そもそもこの先に正しい道があるかなど、酔いが回った頭の頼りない勘でしかないのだ。そんな不確かなモノに頼らず、元来た知った道へと戻れと。

 ――何を言っているんだい。この辺りは住んでいる場所だよ? 遠回りしなくてもなんとでもなるさ。

 同時。右の耳に聞こえてきたのは己が悪心、悪魔ギル♂の声。
 勘が正しければこの先が家に帰る最短ルートだ。わざわざ来た道を戻るだなんてそんなお利口さんの思考をしてどうする? 何の得がある? いいじゃないか行ってしまおう――偶には外れた道を進むのも一興さ。
 巡る思考。左と右から相反する意見が鼓膜を揺すって脳内へと響かせる。
 瞼が重い。ああ、酔いの力が睡眠欲を掻き立てるか。
 どうしたものか、面倒くさいな。逡巡する体が一拍、二拍。
 身体を留めて足を淀ません――

 ――Tekeli-li.

「んっ?」
 刹那。鼓膜に届いた何かがあった。
 天使の声でも悪魔の声でもない『何か』
 そう、例えるなら――異物。
 静寂の闇の先から聞こえてきた、何か、とても異質な音で……
 耳障り。
 だというのに耳に粘り付いて脳から離れない様な。
 いや耳ではなくその『音』を捉えたのは。

 魂である様な。

「…………」
 その時思い出した事がある。ここ最近――この辺りでは盗人が出るそうだ。
 ひったくりの様な程度なのだが、先日抵抗した人物がナイフに腹を刺されて重傷を負ったという事件があった。それ故にローレットに事態解決の為の依頼も来ていたような……
「……まぁ万一の事があるし、ね」
 金目の物なんて一切持ってはいないが。余計なリスクは背負わないのが吉だ。
 ――普通の道を歩いて帰ろう。幸い、後ろを見れば灯りがぼんやりと示されていた。
 戻れる。ほんの数歩後ろに歩くだけで、光は大きくなる。
 掴める。元々歩んできていた場所へと。
 だから。

「戻るかぁ~」

 あくびを一つ。再び頭を掻いて足音響かせ。
 光在る場所へと戻っていく。
 ――靴の接触音が壁に反響。静寂の中に吸い込まれて、ただただ闇だけが受け入れる。
 闇は、ただそこに在るのだから。
 どんなモノでもどんなモノでもその懐に在るのを許す。

 ――Tekeli-li.

 例えば異物であろうとも。
 例えば異質であろうとも。
 例えば■■であろうとも。

 ――闇の奥底に『紅』がある。二つの紅が、光を覗いている。
 それは眼だ。双眸。呪われし、見てはならぬ。決して合わせてはならぬ違和の権化。
 声が聞こえたならば、聞こえぬフリをせよ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 見てはならぬ。気付いてはならぬ。気付かれてはならぬ。見られてはならぬ。
 其は知能の欠如せし者。其は精神と性別を欠落させし者。在りし食欲が唾液を垂らす――
 其れはショゴス・カレン・グラトニー。
 逸れは正しき場所には在らぬモノ。
 剃れは魂魄すら削り喰らわんとする存在。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 闇が蠢く。闇が鳴動する。
 日の元へ去っていく男の背を目で追いながら、しかし『合わなかった』のであれば追いはせぬ。
 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗くものであるが。
 逆説的に言えば『覗かねば覗かれぬ』のだ。
 認識。知ったという事、知られたという事。その境界は容易に跨れるモノであるが、しかしそれでも踏み越えねば永遠に交わらぬ『壁』とも成ろう。たった一歩の踏み込みの違いであっても、越えなかったのであれば『あちら』と『こちら』は交わらず、故に会う事はなかったのだ。
 今日この日、今宵という日の縁は紡がれなかった。

 ――恥ずかしがり屋の月が帳を除ける。

 月下。街を照らす月明かりが闇を斬り裂き『ソレ』を映す。
 その手に在るは、麻袋。
 赤き色で満たされた『何か』が詰まった麻袋。引き摺る音が重量を想わせ、なんぞやであると想像をさせてしまいそうだが。
 切れ。
 思考を切れ。
 ――知ってはならぬ。知ってはならぬ。
 認識を欠如させよ。知らねば良いという事の幸福を知れ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 その音がどこから出ているなどと言う事を知るな。
 喉を震わせていないのに周囲に聞こえる、壁すら突き抜け揺らすは何か。
 知るな。
 耳を塞げ、目を閉じろ。
 ただただ幸福を甘受せよ。『こんなモノ』は隣にはいないのだと信じるがいい。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 その声は空腹の証。ああ。
 お腹が空いたよお腹が空いた。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 食べたいよ。食べたいよ。とてもお腹が空いたんだ。
 一つでは足りない。二つでも不足。三つでもきっとあぁあぁあぁ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 ねぇ。

 Tekeli-li.
 Tekeli-li.

 聞こえているでしょう――そこの貴様。
 愚生を見ているそこの貴様。
 愚生を見た。

 Tekeli-li.

 『そこ』の貴様。

  • たった一寸の襤褸命運完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2020年09月27日
  • ・ショゴス・カレン・グラトニー(p3p001886
    ・ギルオス・ホリス(p3n000016

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